ソウルズ

 
その獣のような悲痛な咆哮と共に…影人の精神と自我のダムは無残にも決壊していくのであった。
 
 
怒りと悲しみの感情が止めどなく溢れだしていき、激情はソウルズの力を狂わせる…影蔵が忠告したように制御しきれない力が結果として朱雀を暴走させてしまうのだった。
 
 
漆黒の闇…負の力、その濁流に影人は驚くほど簡単に呆気なく飲み込まれていくのであった。
 
 
今の激情に支配された影人にヘドロみたいにまとわりつく心の闇へ抗う術など何も無いのであった。
 


……………………………………………………………………


 
 
「ウォオオオオオオッ!!」 
 
 


烈火の如く…閃光が走る! 
 


 
ゴォォォォ………………………オオッッ!!
 
 
 
爆風は千々になっていた屋敷の瓦礫を吹き飛ばしていき、屋敷の庭や辺りは野ざらしの空き地みたいに剥き出しのゴツゴツとした地面が顔を覗かせるのであった。
 
 

 
ズドォォォ…オオォ………………ンッ!! 
 
 

 
影人を中心にして…およそ半径1メートル程度の円を描き……
 
電信柱のように…まっすぐと一直線に空を突き破り、一体…どこまで伸びているのかが分からないくらいの計り知れない激しく燃え盛る灼熱の火柱の中に彼はいたのだった。
 

 
闇夜の空を真昼の太陽のような眩しい閃光が照らし出す。
 
 
雲や月…そして破壊された屋敷、その周辺の街並みの輪郭をより鮮明に浮かび上がらせていくのであった。
 
 
それは太陽柱と呼ばれている自然現象のような荘厳さと圧倒的な何かを瞬時に人の脳裏に焼きつける光景であった。
 


 
「…な、なんだ!
 
一体全体…ヤツに何が起きたんだ!?」
 
 
ほんの少し近づいただけで瞬時に消し炭になりそうなくらいのマグマの如く凄まじい熱波に眉毛をチリチリとさせながら…目の前で起きている光景に唖然としている羅刹であった。
 
 
 
…ドクン!!ドクン!!!!ドクンッ…!!!!!!
 
 
 
 
早鐘のように駆け足な心臓を波打つ鼓動に真っ白で空虚な頭で考えを巡らせる影人は……
 
 

 
「………わからない、
 
今は……何も考えられないッ!!
 
俺は!!…俺は!!……俺はァァ!!」
 
 
 
次第に灼熱の火柱はシュルシュルと細く勢いを失って収束していくのであった。 
 
 
舞い上がる土煙と粉塵の中に揺らめく影人のシルエットが浮かび上がるのだった。
 
 
そこには今までと変わらぬ影人の姿があった………
 
 
否…ただ、一つだけ決定的に違う所があった。

 

 
あの影人の背中に揺らめく美麗で大きな炎の翼は…
 
 
入れ墨の朱雀を連想させる優美かつ神秘的でさえあった。
 
 
炎の翼は…折り畳めば影人を悠々と包み込めるくらいの大きさがあり…広げればゆうに4〜5メートル程度はありそうであった。
 
 
 
………………………はひ!?
 
 
 
もう何が起きても吃驚仰天する事なんて無いだろうと思っていたハズだったのだが………
 
 
松っつん…梅ちゃん…竹りんの三人組もポカ~ンッ…あ~んぐりと口を開いて目を皿のように真ん丸くしていたのだった。
 
 
その中でも…ただ、ひとり…竹りんが。
 
 
「あぁ…私の知っている影人お坊っちゃまは…いずこへ…」
 
 
…とひとりごちるのであった。
 


………………………………………………………………………………………………………?
 
 
 
誰かの…声が………する…
 
 
 
 
『…あ…………な……た…は……………闇に……魅入ら………れ……………て…は……い……けま………せ…ん……』
 

 
それは…微かに囁くように途切れ…途切れ…頭の遠く後ろから透き通った綺麗な女性の美声が影人の荒らぶる脳をくすぐっていくのである。
 

 
それは何故だろうか…決して嫌な感覚では無かったのだった。
 
 
 
むしろ酷く懐かしい気持ちにさせてくれるのである。
 
 
あぁ…そうだ、まるでうたたねをしている赤ん坊を優しく撫でながら愛情に満ち溢れた子守歌を聞かされているような感覚にも似ている。
 

 
 
 
…………………どこで…!?

 
 
 
………………………なぜ!? 
 
 

 
 
「俺に…こんな記憶があったのか。
 
母さん…なのか………!?」
 
 
影人は激情に委ねるままに熱く燃えたぎった血潮を冷ますかのように安らかな声に葛藤し始めていたのであった。
 


 
 
「俺は…俺には……ッ!  
………ッァァァ…アイツを許すわけには…いかないんだァァァァッ!!
 
絶対にィィィィ~ッ…!!」 
 
 
 
影人の右手に明々と燃えさかる閃光が収束していくのだった。
 

とてつもなく凄まじい力を感じる。
 
 
それを例えるのならば…ルビーよりも遥かに美しい色合い…炎の輝きをそのまま宝石にしたかのような謎に満ちた物質で出来ていると思われる神々しい聖剣となっていたのであった。
 
 

 
「な、な、な~んだ…驚かせやがって大した事は無いじゃないか、
 
チッ…ふざけやがってェェッ………
 
真っ二つに斬り刻んでやるわぁぁぁッ!!」
 
 
羅刹は…そう叫ぶと影蔵に放った驚異的な威力を誇る必殺技を影人へと向けて繰り出したのであった。
 

 
「くらえぇェェェ~ッッ!! 翡翠風刄波ァァァッ!!!!」
 


 
緑色に輝く閃光の巨大な真空の刄が轟々と風を裂き…音を立てながら影人へ向けて飛んでいく!!
 
 
「ヌォォォぉぉぉ~ッッ!! 
終わりだぁぁァァァッ…終わりだぜェェェェェッ!!
 
ハハハハハ、真っぷたつになりやがれぇぇぇぇェェェッ!!」
 
 
先程の影蔵のように運良く回避することなどは出来ないであろう距離……
 
 
眼前に差し迫った光の刄…その状況、呆然と立ち尽くす影人を見て勝利を確信する羅刹であった。
 
 

 
しかし、影人の目と鼻の先で翡翠風刄波は意図も簡単に斬り裂かれると…左右に別れて飛んでいくのだった。 
 
影人は顔色一つ変えてはいなかった。
 
 
ただ…あまりにも冷静沈着な為に羅刹には呆然と立ち尽くすかに見えたのであろう。
 
 
 
「な、な、な、な、ぬわ、ぬわぁにィィィぃ~ッ!!」 
 
確信しきった勝利に酔いしれていた羅刹は…大誤算とばかりに顔をぐしゃぐしゃに歪ませて驚くのであった。
 

 
あの僅かな瞬間に影人は手にした剣を目にも止まらぬ速さで素早く振り下ろすと…翡翠風刄波をいとも簡単にいなしてみせるのであった。
 
 
「…フッ、フフフ、なぁ…オイ!!
 
アハハハハハハハハハハハハハ、それで終わりか!?
 
もしかして…それがテメェの全力なのか!?
 
…だとしたら期待外れだぜ、アハハ…
 
案外…弱いな愚図めッ!!」
 
 
失笑とともに影人が吐き捨てたのである。
 
 
その言葉に羅刹は茹でダコみたいに顔を真っ赤に沸騰させ怒り狂いだした!!
 
 
 
「ぬぅゥゥゥゥ~ッッ!!!! 
お…オレ様が…このオレ様をォォォ…………………………………ぉぉぉぉ~ッッ!! 
チッ…畜生ぉぉぉぉぉぉ、コケにしやがってェェェェェ~ッッ!!!!!!!!!!!!!!」
 

…………………………………‼︎
 

「コケじゃなきゃ愚図だ!! オマエは殺すぞッ!!!!
 
…確実にな
 
さぁ、来な、消し炭にしてやるッ!!」 

 
影人は…さらに羅刹を挑発するのであった。
 

 
「ち…チィィッ、あんな、一度の紛れ風情でェェ~ッ、調子に乗るなよ!! 
クソガキがァァァァァッ!! 
そら、そら、そらァァァァァ~ッ!!!!
 
乱れ打つぜ…乱れ打つぜェェッ!!
 
くらえェェ~ッ、烈風ゥゥッ&風刄ッッ!!」
 
 
数えきれない程の真空の刄が乱れ飛び、猛烈な勢いの風は影人の動きを封じ込めていく…
 
 
涼しげな瞳で羅刹を見据え余裕たっぷりな様子の影人は炎の翼を素早く折り畳み、真空の刄が衝突するスレスレで…全ての攻撃を翼を使い、無傷で受けとめてみせるのであった。
 


 
「そ、そんな…ヴァ……バカなぁぁァ~ッ!?
 
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だぁぁァァァァ~~~~ッッ!! 
オレ様は…このオレ様は無敵なんだよォォォォ~ッ!! 
……ッァァァァァ!!!!!!」 
 
すでに…この時点で羅刹の敗北は確定していたのであった。
 

 
「フ……哀れだなッ!!
 
もう十分だろ…終わりにしてやるよッ!!」
 
 
影人は炎の翼をバサバサッと…はためかせて紅い月夜の虚空へと上昇していくのだった。
 
 
「さぁ…次は俺の番だ!
 
…だが、楽に死ねると思うなよッ!!
 
覚悟しなッ!!」
 
 
 
ギュオオォォォォ~ッッ!! 
 
 
風を切り裂き…影人は羅刹に向かって急降下していくのだった。