「…まじかよ 聞いてねぇぞ、こんなゲリラ豪雨」
放課後の昇降口、俺は外の景色を見て心の中で激しい悪口をぶちまけていた
さっきまで晴れていたはずの空はどんよりと黒い雲に覆われ、バケツをひっくり返したような大雨が地面を叩きつけている
(チッ、せっかくの俺の高級ローファーが台無しじゃねぇか まぁ、俺は常に完璧な男だからカバンの中に折りたたみ傘を常備してるけどな 細工どもが雨に濡れて髪型を崩すなか、俺だけは一ミリの乱れもなく優雅に帰路につくわけだ フハハ!)
心の中で高笑いしながらカバンから高級ブランドの黒い折りたたみ傘を取り出す
美しく傘を開いて帰るか――そう思った、その時だった
「…あ、やっぱり降ってきちゃったか」
すぐ隣から聞き慣れた、少し困ったような低音ボイスが聞こえた
ハッとして振り向くとそこにはカバンを抱えた蓮野が立っていた
相変わらずもっさりした前髪の隙間から雨で少し曇った黒ぶち眼鏡が覗いている
蓮野はカバンの中をガサゴソと探っていたがやがて諦めたように小さな溜息をついた
「困ったな…傘、忘れちゃった 天気予報、見てなかったよぉ…」
(ハッ! ざまぁみろモブめ! 自己管理能力が足りないからそうなるんだよ 今から俺様が優雅に雨を避けて帰る姿を指をくわえて見てるがいい__)
いつもならそうやって心の中で毒を吐いて終わりのはずだった
だが次の瞬間、蓮野が「しょうがない、走るか」とジャージのフードを深く被り、雨の中へ飛び出そうとした
その瞬間、俺の身体はまたしても脳の命令を無視して動いていた
ガシッ
「…え?」
蓮野が驚いたように足を止める
俺は無意識のうちに蓮野のジャージの袖を強く掴んでいた
「先輩…?」
「…走るな、バカ」
俺は自分でも驚くほどぶっきらぼうな声を出していた
「お前、そんなド近眼のくせにこの土砂降りのなか走ったら速攻で車に撥ねられるぞ …ほら」
バサッと大きな音を立てて俺は自分の傘を開いた
そして戸惑う蓮野の頭上にその黒い傘を差し出す
「…入れよ」
「えっ、でも、これ先輩の傘じゃ…」
「いいから入れって言ってんだろ! 俺の言うことに口答えすんな!」
完全に王子様の仮面が剥がれた、地でいくドツンデレな口調
普通に考えればただのヤンキー口調だし格好悪い
だけど蓮野は怯えるどころか、メガネの奥の瞳をパッと輝かせた
「ありがとうございます、御子柴先輩」
ふにゃりと嬉しそうに笑う蓮野
その無防備な笑顔に俺の心臓がトクンと跳ねる
こうして俺たちは一つの傘に入って雨の通学路を歩き始めた
バチバチバチ、と傘の布地を激しく叩く雨の音
折りたたみ傘だから男二人で入るにはどうしても狭い
一歩歩くたびに蓮野の肩と俺の肩が衣服越しに擦れ合う
いつもなら「おい、狭い、離れろ不細工」と心の中で毒を吐くはずなのに今はその触れ合う部分が信じられないくらい熱い
(近い、近い近い近い!!! 距離感がバグるレベルじゃねぇぞこれ 蓮野の柔軟剤みたいな、なんか落ち着く匂いがめちゃくちゃ漂ってくるし…!)
緊張のあまり、俺の毒舌マシーンは完全に機能を停止していた
背筋をピンと伸ばし、不自然な歩き方になってしまう
ふと隣を見ると蓮野は傘からはみ出さないように少し縮こまるようにして歩いていた
そのせいで彼の左肩が雨でみるみるうちに濡れていく
「…おい、蓮野」
「はい?」
「もっとこっち寄れ お前、肩濡れてんじゃねぇか」
俺は強引に蓮野の身体を自分の方へと引き寄せた
「わっ…」
よろけた蓮野の身体が俺の胸元にしっかりとぶつかる
ほぼ抱き合うような形になり、お互いの体温が雨の冷気を消し飛ばすようにダイレクトに伝わってきた
「…先輩、狭くないですか? 僕のせいで先輩が濡れちゃいます」
蓮野がすぐ至近距離から心配そうに俺の顔を覗き込んでくる
その瞳はやっぱり驚くほど澄んでいてまっすぐに俺だけを映していた
「…濡れてねぇよ お前は余計な心配してないで俺の隣からはみ出さなきゃいいんだよ」
顔が耳の裏まで真っ熱い
雨の音にかき消されているはずなのに自分の鼓動がうるさすぎて蓮野に聞こえてしまうんじゃないかと本気で焦る
「…はい」
蓮野は小さく頷くと今度は拒むことなく、俺の腕にぴたりと寄り添うようにして歩き始めた
(くそっ… なんなんだよ、この心臓のバタつきは…)
雨の日の静かで狭い世界
完璧な王子様だったはずの御子柴周は傘の中で隣にいるモブ男子の体温に完全に溺れかけていた
放課後の昇降口、俺は外の景色を見て心の中で激しい悪口をぶちまけていた
さっきまで晴れていたはずの空はどんよりと黒い雲に覆われ、バケツをひっくり返したような大雨が地面を叩きつけている
(チッ、せっかくの俺の高級ローファーが台無しじゃねぇか まぁ、俺は常に完璧な男だからカバンの中に折りたたみ傘を常備してるけどな 細工どもが雨に濡れて髪型を崩すなか、俺だけは一ミリの乱れもなく優雅に帰路につくわけだ フハハ!)
心の中で高笑いしながらカバンから高級ブランドの黒い折りたたみ傘を取り出す
美しく傘を開いて帰るか――そう思った、その時だった
「…あ、やっぱり降ってきちゃったか」
すぐ隣から聞き慣れた、少し困ったような低音ボイスが聞こえた
ハッとして振り向くとそこにはカバンを抱えた蓮野が立っていた
相変わらずもっさりした前髪の隙間から雨で少し曇った黒ぶち眼鏡が覗いている
蓮野はカバンの中をガサゴソと探っていたがやがて諦めたように小さな溜息をついた
「困ったな…傘、忘れちゃった 天気予報、見てなかったよぉ…」
(ハッ! ざまぁみろモブめ! 自己管理能力が足りないからそうなるんだよ 今から俺様が優雅に雨を避けて帰る姿を指をくわえて見てるがいい__)
いつもならそうやって心の中で毒を吐いて終わりのはずだった
だが次の瞬間、蓮野が「しょうがない、走るか」とジャージのフードを深く被り、雨の中へ飛び出そうとした
その瞬間、俺の身体はまたしても脳の命令を無視して動いていた
ガシッ
「…え?」
蓮野が驚いたように足を止める
俺は無意識のうちに蓮野のジャージの袖を強く掴んでいた
「先輩…?」
「…走るな、バカ」
俺は自分でも驚くほどぶっきらぼうな声を出していた
「お前、そんなド近眼のくせにこの土砂降りのなか走ったら速攻で車に撥ねられるぞ …ほら」
バサッと大きな音を立てて俺は自分の傘を開いた
そして戸惑う蓮野の頭上にその黒い傘を差し出す
「…入れよ」
「えっ、でも、これ先輩の傘じゃ…」
「いいから入れって言ってんだろ! 俺の言うことに口答えすんな!」
完全に王子様の仮面が剥がれた、地でいくドツンデレな口調
普通に考えればただのヤンキー口調だし格好悪い
だけど蓮野は怯えるどころか、メガネの奥の瞳をパッと輝かせた
「ありがとうございます、御子柴先輩」
ふにゃりと嬉しそうに笑う蓮野
その無防備な笑顔に俺の心臓がトクンと跳ねる
こうして俺たちは一つの傘に入って雨の通学路を歩き始めた
バチバチバチ、と傘の布地を激しく叩く雨の音
折りたたみ傘だから男二人で入るにはどうしても狭い
一歩歩くたびに蓮野の肩と俺の肩が衣服越しに擦れ合う
いつもなら「おい、狭い、離れろ不細工」と心の中で毒を吐くはずなのに今はその触れ合う部分が信じられないくらい熱い
(近い、近い近い近い!!! 距離感がバグるレベルじゃねぇぞこれ 蓮野の柔軟剤みたいな、なんか落ち着く匂いがめちゃくちゃ漂ってくるし…!)
緊張のあまり、俺の毒舌マシーンは完全に機能を停止していた
背筋をピンと伸ばし、不自然な歩き方になってしまう
ふと隣を見ると蓮野は傘からはみ出さないように少し縮こまるようにして歩いていた
そのせいで彼の左肩が雨でみるみるうちに濡れていく
「…おい、蓮野」
「はい?」
「もっとこっち寄れ お前、肩濡れてんじゃねぇか」
俺は強引に蓮野の身体を自分の方へと引き寄せた
「わっ…」
よろけた蓮野の身体が俺の胸元にしっかりとぶつかる
ほぼ抱き合うような形になり、お互いの体温が雨の冷気を消し飛ばすようにダイレクトに伝わってきた
「…先輩、狭くないですか? 僕のせいで先輩が濡れちゃいます」
蓮野がすぐ至近距離から心配そうに俺の顔を覗き込んでくる
その瞳はやっぱり驚くほど澄んでいてまっすぐに俺だけを映していた
「…濡れてねぇよ お前は余計な心配してないで俺の隣からはみ出さなきゃいいんだよ」
顔が耳の裏まで真っ熱い
雨の音にかき消されているはずなのに自分の鼓動がうるさすぎて蓮野に聞こえてしまうんじゃないかと本気で焦る
「…はい」
蓮野は小さく頷くと今度は拒むことなく、俺の腕にぴたりと寄り添うようにして歩き始めた
(くそっ… なんなんだよ、この心臓のバタつきは…)
雨の日の静かで狭い世界
完璧な王子様だったはずの御子柴周は傘の中で隣にいるモブ男子の体温に完全に溺れかけていた



