「顔がいいだけじゃなく家柄もいい、そんな俺にふさわしいのは三ツ星シェフの味だけだ」
翌日のお昼休み、俺はいつもの中庭のベンチで購買の数量限定「特製ローストビーフサンド(トリュフソース仕立て)」を優雅に掲げていた
図書室での敗北(というか自爆)を経て俺は自らのブランド価値を再確認していた
俺は御子柴周だ
食べるもの一つとってもそんじょそこらの庶民とは格が違う
あいつの作っているような茶色くて地味な弁当に惹かれるはずがない
(フン、男の手料理なんてどうせ塩と醤油の味しかしない大雑把なものに決まってい___)
「あ、御子柴先輩 こんにちは」
脳内で毒を吐いていたまさにその時、頭上からあの低音ボイスが降ってきた
びっくりして心臓が跳ね上がる
見上げるともっさり前髪に黒ぶち眼鏡の蓮野がお弁当箱を両手で持って立っていた
「は、蓮野くん、奇遇だね今日もその…地味な、じゃなくてエコノミーなお弁当かい?」
「はい、中庭、天気が良くて気持ちいいので 隣、座ってもいいですか?」
「あ、ああ どうぞ」
断る理由もなく、俺はベンチの端へ寄った
蓮野は「失礼します」と隣に腰掛け、プラスチックのお弁当箱の蓋を開ける
今日も相変わらず、茶色い唐揚げ、ブロッコリー、そして黄色い卵焼きという、実家のような安心感のラインナップだ
それに比べて俺の手元にはトリュフ香るローストビーフ
勝った、完全に食のヒエラルキーでも俺の圧勝だ
「先輩のご飯、すごくお洒落ですね パンからお肉がはみ出してる…」
蓮野がメガネの奥の瞳をキラキラさせて俺のサンドイッチを見つめてきた
「ふふ、まあね 俺の美意識は口にするものにも宿るから 蓮野くんのお弁当もまあ……健康的でいいんじゃないかな?」
心の中で(地味だけどな!)と付け足しながらマウントをとるように微笑む
すると蓮野は嬉しそうに微笑んでお弁当箱を俺の方へと差し出してきた
「良かったら一つ食べますか? 今日、卵焼きがすごく上手く焼けたんです」
「え? いや俺はそんな庶民的な___」
断ろうとした
だが蓮野の箸の先にある、一切れの卵焼きが目に入る
黄色くてふっくらとしていて、出汁の優しい香りがふわりと鼻腔をくすぐった
「はい、あーん」
「はっ!?」
蓮野は何の躊躇もなく、俺の口元へ卵焼きを差し出してきた
おい、待て、距離が近い しかもこれ、世間一般で言う「あーん」の形じゃないか!?
(なっ…何を考えてんだこいつ!! 男同士でしかも中庭のど真ん中で『あーん』だと!? 周りの目が___)
慌てて周囲を見回すが幸い植え込みの陰になっていて誰も見ていない
目の前にはただ純粋に「美味しいから食べてほしい」という目をした蓮野がいる
これ以上拒むのも王子らしくない
俺は観念しておずおずと口を開いた
ぱくり、と卵焼きを口に含む
(……え)
噛んだ瞬間、じゅわっと溢れ出す優しい出汁の旨味
ほんのりと甘く、驚くほどふんわりと柔らかい
口の中でとろけるような優しい味だ
毎日食べている高級専門店の小難しい味とは違う
毎日でも食べたくなるような、圧倒的な「安心する美味しさ」がそこにあった
「……美味しい」
本音がそのまま口からポロリと溢れてしまった
「本当ですか? 良かった 僕、甘めの出汁巻きが得意なんです」
蓮野は本当に嬉しそうに目を細めて笑った
前髪の隙間から見えるその笑顔がやっぱり無防備で妙に男らしくて、胸の奥がキュンと鳴る
(___って、アホか俺は!!!)
ハッと我に返る
美味しい、めちゃくちゃ美味しい
だけど認めちゃダメだ!胃袋まで掴まれかけてどうする!
「ま、まあ、及第点かな! 卵の火の通り加減は悪くないよ」
俺は必死でツンとした態度を装い、ローストビーフサンドをガブリと口に押し込んだ
なのにトリュフの芳醇な香りよりもさっきの卵焼きの優しい甘さが舌の上にいつまでも残って消えてくれない
「先輩に褒めてもらえるなんて光栄です じゃあ、明日も先輩の分、作ってきましょうか?」
「はぁっ!? い、いらないよそんなの! 毎日作ってもらう筋合いなんて___」
「毎日先輩の顔を見ながらお弁当食べられたら僕、もっと美味しく感じそうです」
蓮野はご飯をモグモグ食べながら、サラッと爆弾を投下した
ドクン!!!
(な、何言ってんだお前はぁぁぁーーー!!!)
心臓が本日最大風速で暴れ狂う
毎日先輩の顔を見ながら?もっと美味しく感じそう?プロポーズか!? それはもう実質的なプロポーズなのか!?
当の本人はただの世間話のトーンでトントンと唐揚げを口に運んでいる
完全に無自覚だ、この男、天然で人を狂わせる天才だ
「だ、誰が毎日一緒に食べるか! 勘違いすんな!」
俺は真っ赤になった顔を隠すように立ち上がるとまだ半分残っている高級サンドイッチを握りしめ、足早に中庭を後にした
(くそっ…! 卵焼き一つでこの破壊力ってどうなってんだよ! 悔しい、悔しいけど…明日もアイツの弁当が食べたいって思っちゃったじゃねぇかチクショウ!!!)
胃袋も心臓も、じわじわとモブの領域に侵食されていく
王子様・御子柴周の全面降伏の日はそう遠くないところまで迫っていた
翌日のお昼休み、俺はいつもの中庭のベンチで購買の数量限定「特製ローストビーフサンド(トリュフソース仕立て)」を優雅に掲げていた
図書室での敗北(というか自爆)を経て俺は自らのブランド価値を再確認していた
俺は御子柴周だ
食べるもの一つとってもそんじょそこらの庶民とは格が違う
あいつの作っているような茶色くて地味な弁当に惹かれるはずがない
(フン、男の手料理なんてどうせ塩と醤油の味しかしない大雑把なものに決まってい___)
「あ、御子柴先輩 こんにちは」
脳内で毒を吐いていたまさにその時、頭上からあの低音ボイスが降ってきた
びっくりして心臓が跳ね上がる
見上げるともっさり前髪に黒ぶち眼鏡の蓮野がお弁当箱を両手で持って立っていた
「は、蓮野くん、奇遇だね今日もその…地味な、じゃなくてエコノミーなお弁当かい?」
「はい、中庭、天気が良くて気持ちいいので 隣、座ってもいいですか?」
「あ、ああ どうぞ」
断る理由もなく、俺はベンチの端へ寄った
蓮野は「失礼します」と隣に腰掛け、プラスチックのお弁当箱の蓋を開ける
今日も相変わらず、茶色い唐揚げ、ブロッコリー、そして黄色い卵焼きという、実家のような安心感のラインナップだ
それに比べて俺の手元にはトリュフ香るローストビーフ
勝った、完全に食のヒエラルキーでも俺の圧勝だ
「先輩のご飯、すごくお洒落ですね パンからお肉がはみ出してる…」
蓮野がメガネの奥の瞳をキラキラさせて俺のサンドイッチを見つめてきた
「ふふ、まあね 俺の美意識は口にするものにも宿るから 蓮野くんのお弁当もまあ……健康的でいいんじゃないかな?」
心の中で(地味だけどな!)と付け足しながらマウントをとるように微笑む
すると蓮野は嬉しそうに微笑んでお弁当箱を俺の方へと差し出してきた
「良かったら一つ食べますか? 今日、卵焼きがすごく上手く焼けたんです」
「え? いや俺はそんな庶民的な___」
断ろうとした
だが蓮野の箸の先にある、一切れの卵焼きが目に入る
黄色くてふっくらとしていて、出汁の優しい香りがふわりと鼻腔をくすぐった
「はい、あーん」
「はっ!?」
蓮野は何の躊躇もなく、俺の口元へ卵焼きを差し出してきた
おい、待て、距離が近い しかもこれ、世間一般で言う「あーん」の形じゃないか!?
(なっ…何を考えてんだこいつ!! 男同士でしかも中庭のど真ん中で『あーん』だと!? 周りの目が___)
慌てて周囲を見回すが幸い植え込みの陰になっていて誰も見ていない
目の前にはただ純粋に「美味しいから食べてほしい」という目をした蓮野がいる
これ以上拒むのも王子らしくない
俺は観念しておずおずと口を開いた
ぱくり、と卵焼きを口に含む
(……え)
噛んだ瞬間、じゅわっと溢れ出す優しい出汁の旨味
ほんのりと甘く、驚くほどふんわりと柔らかい
口の中でとろけるような優しい味だ
毎日食べている高級専門店の小難しい味とは違う
毎日でも食べたくなるような、圧倒的な「安心する美味しさ」がそこにあった
「……美味しい」
本音がそのまま口からポロリと溢れてしまった
「本当ですか? 良かった 僕、甘めの出汁巻きが得意なんです」
蓮野は本当に嬉しそうに目を細めて笑った
前髪の隙間から見えるその笑顔がやっぱり無防備で妙に男らしくて、胸の奥がキュンと鳴る
(___って、アホか俺は!!!)
ハッと我に返る
美味しい、めちゃくちゃ美味しい
だけど認めちゃダメだ!胃袋まで掴まれかけてどうする!
「ま、まあ、及第点かな! 卵の火の通り加減は悪くないよ」
俺は必死でツンとした態度を装い、ローストビーフサンドをガブリと口に押し込んだ
なのにトリュフの芳醇な香りよりもさっきの卵焼きの優しい甘さが舌の上にいつまでも残って消えてくれない
「先輩に褒めてもらえるなんて光栄です じゃあ、明日も先輩の分、作ってきましょうか?」
「はぁっ!? い、いらないよそんなの! 毎日作ってもらう筋合いなんて___」
「毎日先輩の顔を見ながらお弁当食べられたら僕、もっと美味しく感じそうです」
蓮野はご飯をモグモグ食べながら、サラッと爆弾を投下した
ドクン!!!
(な、何言ってんだお前はぁぁぁーーー!!!)
心臓が本日最大風速で暴れ狂う
毎日先輩の顔を見ながら?もっと美味しく感じそう?プロポーズか!? それはもう実質的なプロポーズなのか!?
当の本人はただの世間話のトーンでトントンと唐揚げを口に運んでいる
完全に無自覚だ、この男、天然で人を狂わせる天才だ
「だ、誰が毎日一緒に食べるか! 勘違いすんな!」
俺は真っ赤になった顔を隠すように立ち上がるとまだ半分残っている高級サンドイッチを握りしめ、足早に中庭を後にした
(くそっ…! 卵焼き一つでこの破壊力ってどうなってんだよ! 悔しい、悔しいけど…明日もアイツの弁当が食べたいって思っちゃったじゃねぇかチクショウ!!!)
胃袋も心臓も、じわじわとモブの領域に侵食されていく
王子様・御子柴周の全面降伏の日はそう遠くないところまで迫っていた



