「…よし今度こそ頭脳戦だ 力押しがダメなら外堀から埋めてやる」
数日後、俺は放課後の静まり返った図書室の入り口で一度深く息を吸い込んだ
前回の『壁ドン介護事件』の屈辱から俺は徹底的に自分を猛省した
あいつは少女漫画のシチュエーションが通用しない、未開の地の天然生物なのだ
ならばあいつの日常に自然に溶け込み、じわじわと俺のいない生活を考えられなくさせてやる
幸いにも調べを進めると蓮野は図書委員であることが判明した
放課後の図書室は利用者が少なく、絶好の環境だ
(フッ、静寂に包まれた図書室、夕暮れの木漏れ日、そして本を媒介にした静かな交流… これぞ知的で完璧な王子の真骨頂よ お前の地味な日常を俺というスパイスで彩ってやるからな)
心の中で完璧な作戦を組み立て図書室の重い扉を静かに押し開けた
トントン、とローファーの音が静かに響く
カウンターの奥を見ると、いた
蓮野は大きな本の山と格闘しながら一冊一冊に透明なブックカバーを貼る作業をしていた
相変わらずもっさりした前髪の隙間から黒ぶち眼鏡が覗いている
「やぁ蓮野くん、奇遇だね」
極力、声を張らずに図書室の空気に溶け込むような優しいトーンで話しかける
蓮野は顔を上げてメガネの位置を直した
「あ…御子柴先輩、こんにちは 本、借りに来たんですか?」
「いや、ちょっと自習をしに来たんだけど…君、なんだか大変そうだね 良ければ俺もその作業、手伝わせてもらえないかい?」
これだ、押し付けるのではない、大人の余裕を持ったスマートな提案
蓮野は一瞬目を丸くしたがすぐに嬉しそうに表情を緩めた
「本当ですか? ちょうど今日、新着図書がたくさん届いて人手が足りなかったんです すごく助かります」
「ふふ、お安い御用さ」
(よっしゃ計画通り!! これで放課後の合法的な密着デート権を獲得だ!)
心の中でガッツポーズをキメながら俺は蓮野の隣のパイプ椅子に腰掛けた
机の上には真新しい小説や図鑑が並んでいる
蓮野からカバーの貼り方の説明を受け、二人で並んで作業を始めた
パサ、パサ、と紙が擦れる音とハサミの音だけが静かに響く
図書室特有の古い紙と糊の匂い
驚くほど居心地がいい
いつも黄色い声援に囲まれている俺にとってこの静寂は新鮮だった
(…いや落ち着け俺 癒されてどうする、仕掛けるんだよ、仕掛けるの!)
我に返り、チラリと隣の蓮野を見る
蓮野は驚くほど手際よく、器用にカバーを貼っていた
長い指先が本の角をきれいに折っていく
…あいつ、手、めちゃくちゃ綺麗だな
爪の形も整ってるし男らしい骨張った手のひらなのに動きがすごく丁寧だ
昨日、その手に頬や額を触れられた時の感覚が唐突に脳裏に蘇る
(___っ、アホか俺は! 何を男の手に見惚れてんだよ!)
慌てて視線を本に戻す
心臓がうるさく脈打ち始める
いかん、これではいつも通り俺が勝手に自爆しているだけだ
何か、王子らしいアプローチを…
「ねえ、蓮野くん」
「はい?」
「君は普段どんな本を読むの? ほらこういう小説とか?」
俺は話を広げようと手元にあった恋愛小説を手に取り、蓮野の方へ差し出した
蓮野も作業の手を止め、俺が持つ本を覗き込もうと顔を近づけてくる
その時、本の上部からお互いの視線が不意にカチリと交差した
本の隙間から見える蓮野の黒ぶち眼鏡の奥の瞳
夕方の西光が大きな窓から差し込んで蓮野の瞳を琥珀色に透き通らせている
前髪の隙間から覗くその瞳があまりにもまっすぐに深く、俺を見つめていた
「…僕は図鑑とか、歴史の本が多いですけど」
蓮野が静かに微笑んだ
いつもの地味なモブの笑みじゃない
図書室の光に溶けるような息を呑むほど綺麗で、優しい微笑み
「でも先輩がお勧めしてくれる本ならなんでも読んでみたいです」
低くて鼓膜を心地よく震わせる声
ドクン……!!!
(あ、ダメだ これ、まじでダメなやつだ)
頭の芯がじわっと熱くなる
本の隙間から目が合っている、ただそれだけなのに
あいつは何のテクニックも使っていない
壁ドンもキザなセリフも言っていない
なのにどうして俺の心臓は今にも肋骨を突き破りそうなほど暴れているんだ
「…そ、そう じゃあ今度、俺の面白いと思う本、選んであげるよ」
俺は本で自分の顔を半分隠すようにしてなんとかそれだけを絞り出した
顔が絶対に真っ赤になっている確信がある、情けない
「本当ですか? 楽しみにしてますね」
蓮野は嬉しそうにそう言うとまた何事もなかったかのように手元の作業に戻っていった
(おい…何が『頭脳戦で外堀を埋める』だ… 完全に俺のライフが削られてるだけじゃねぇか…!!)
心の中で限界の毒(というか悲鳴)を吐き散らかしながら俺は真っ赤な顔を本に隠し続けた
完璧な王子様・御子柴周の防壁はこの静かな図書室で、またしても無自覚なモブによって内側から粉々に溶かされようとしていた「…よし今度こそ頭脳戦だ 力押しがダメなら外堀から埋めてやる」
数日後、俺は放課後の静まり返った図書室の入り口で一度深く息を吸い込んだ
前回の『壁ドン介護事件』の屈辱から俺は徹底的に自分を猛省した
あいつは少女漫画のシチュエーションが通用しない、未開の地の天然生物なのだ
ならばあいつの日常に自然に溶け込み、じわじわと俺のいない生活を考えられなくさせてやる
幸いにも調べを進めると蓮野は図書委員であることが判明した
放課後の図書室は利用者が少なく、絶好の環境だ
(フッ、静寂に包まれた図書室、夕暮れの木漏れ日、そして本を媒介にした静かな交流… これぞ知的で完璧な王子の真骨頂よ お前の地味な日常を俺というスパイスで彩ってやるからな)
心の中で完璧な作戦を組み立て図書室の重い扉を静かに押し開けた
トントン、とローファーの音が静かに響く
カウンターの奥を見ると、いた
蓮野は大きな本の山と格闘しながら一冊一冊に透明なブックカバーを貼る作業をしていた
相変わらずもっさりした前髪の隙間から黒ぶち眼鏡が覗いている
「やぁ蓮野くん、奇遇だね」
極力、声を張らずに図書室の空気に溶け込むような優しいトーンで話しかける
蓮野は顔を上げてメガネの位置を直した
「あ…御子柴先輩、こんにちは 本、借りに来たんですか?」
「いや、ちょっと自習をしに来たんだけど…君、なんだか大変そうだね 良ければ俺もその作業、手伝わせてもらえないかい?」
これだ、押し付けるのではない、大人の余裕を持ったスマートな提案
蓮野は一瞬目を丸くしたがすぐに嬉しそうに表情を緩めた
「本当ですか? ちょうど今日、新着図書がたくさん届いて人手が足りなかったんです すごく助かります」
「ふふ、お安い御用さ」
(よっしゃ計画通り!! これで放課後の合法的な密着デート権を獲得だ!)
心の中でガッツポーズをキメながら俺は蓮野の隣のパイプ椅子に腰掛けた
机の上には真新しい小説や図鑑が並んでいる
蓮野からカバーの貼り方の説明を受け、二人で並んで作業を始めた
パサ、パサ、と紙が擦れる音とハサミの音だけが静かに響く
図書室特有の古い紙と糊の匂い
驚くほど居心地がいい
いつも黄色い声援に囲まれている俺にとってこの静寂は新鮮だった
(…いや落ち着け俺 癒されてどうする、仕掛けるんだよ、仕掛けるの!)
我に返り、チラリと隣の蓮野を見る
蓮野は驚くほど手際よく、器用にカバーを貼っていた
長い指先が本の角をきれいに折っていく
…あいつ、手、めちゃくちゃ綺麗だな
爪の形も整ってるし男らしい骨張った手のひらなのに動きがすごく丁寧だ
昨日、その手に頬や額を触れられた時の感覚が唐突に脳裏に蘇る
(___っ、アホか俺は! 何を男の手に見惚れてんだよ!)
慌てて視線を本に戻す
心臓がうるさく脈打ち始める
いかん、これではいつも通り俺が勝手に自爆しているだけだ
何か、王子らしいアプローチを…
「ねえ、蓮野くん」
「はい?」
「君は普段どんな本を読むの? ほらこういう小説とか?」
俺は話を広げようと手元にあった恋愛小説を手に取り、蓮野の方へ差し出した
蓮野も作業の手を止め、俺が持つ本を覗き込もうと顔を近づけてくる
その時、本の上部からお互いの視線が不意にカチリと交差した
本の隙間から見える蓮野の黒ぶち眼鏡の奥の瞳
夕方の西光が大きな窓から差し込んで蓮野の瞳を琥珀色に透き通らせている
前髪の隙間から覗くその瞳があまりにもまっすぐに深く、俺を見つめていた
「…僕は図鑑とか、歴史の本が多いですけど」
蓮野が静かに微笑んだ
いつもの地味なモブの笑みじゃない
図書室の光に溶けるような息を呑むほど綺麗で、優しい微笑み
「でも先輩がお勧めしてくれる本ならなんでも読んでみたいです」
低くて鼓膜を心地よく震わせる声
ドクン……!!!
(あ、ダメだ これ、まじでダメなやつだ)
頭の芯がじわっと熱くなる
本の隙間から目が合っている、ただそれだけなのに
あいつは何のテクニックも使っていない
壁ドンもキザなセリフも言っていない
なのにどうして俺の心臓は今にも肋骨を突き破りそうなほど暴れているんだ
「…そ、そう じゃあ今度、俺の面白いと思う本、選んであげるよ」
俺は本で自分の顔を半分隠すようにしてなんとかそれだけを絞り出した
顔が絶対に真っ赤になっている確信がある、情けない
「本当ですか? 楽しみにしてますね」
蓮野は嬉しそうにそう言うとまた何事もなかったかのように手元の作業に戻っていった
(おい…何が『頭脳戦で外堀を埋める』だ… 完全に俺のライフが削られてるだけじゃねぇか…!!)
心の中で限界の毒(というか悲鳴)を吐き散らかしながら俺は真っ赤な顔を本に隠し続けた
完璧な王子様・御子柴周の防壁はこの静かな図書室で、またしても無自覚なモブによって内側から粉々に溶かされようとしていた
数日後、俺は放課後の静まり返った図書室の入り口で一度深く息を吸い込んだ
前回の『壁ドン介護事件』の屈辱から俺は徹底的に自分を猛省した
あいつは少女漫画のシチュエーションが通用しない、未開の地の天然生物なのだ
ならばあいつの日常に自然に溶け込み、じわじわと俺のいない生活を考えられなくさせてやる
幸いにも調べを進めると蓮野は図書委員であることが判明した
放課後の図書室は利用者が少なく、絶好の環境だ
(フッ、静寂に包まれた図書室、夕暮れの木漏れ日、そして本を媒介にした静かな交流… これぞ知的で完璧な王子の真骨頂よ お前の地味な日常を俺というスパイスで彩ってやるからな)
心の中で完璧な作戦を組み立て図書室の重い扉を静かに押し開けた
トントン、とローファーの音が静かに響く
カウンターの奥を見ると、いた
蓮野は大きな本の山と格闘しながら一冊一冊に透明なブックカバーを貼る作業をしていた
相変わらずもっさりした前髪の隙間から黒ぶち眼鏡が覗いている
「やぁ蓮野くん、奇遇だね」
極力、声を張らずに図書室の空気に溶け込むような優しいトーンで話しかける
蓮野は顔を上げてメガネの位置を直した
「あ…御子柴先輩、こんにちは 本、借りに来たんですか?」
「いや、ちょっと自習をしに来たんだけど…君、なんだか大変そうだね 良ければ俺もその作業、手伝わせてもらえないかい?」
これだ、押し付けるのではない、大人の余裕を持ったスマートな提案
蓮野は一瞬目を丸くしたがすぐに嬉しそうに表情を緩めた
「本当ですか? ちょうど今日、新着図書がたくさん届いて人手が足りなかったんです すごく助かります」
「ふふ、お安い御用さ」
(よっしゃ計画通り!! これで放課後の合法的な密着デート権を獲得だ!)
心の中でガッツポーズをキメながら俺は蓮野の隣のパイプ椅子に腰掛けた
机の上には真新しい小説や図鑑が並んでいる
蓮野からカバーの貼り方の説明を受け、二人で並んで作業を始めた
パサ、パサ、と紙が擦れる音とハサミの音だけが静かに響く
図書室特有の古い紙と糊の匂い
驚くほど居心地がいい
いつも黄色い声援に囲まれている俺にとってこの静寂は新鮮だった
(…いや落ち着け俺 癒されてどうする、仕掛けるんだよ、仕掛けるの!)
我に返り、チラリと隣の蓮野を見る
蓮野は驚くほど手際よく、器用にカバーを貼っていた
長い指先が本の角をきれいに折っていく
…あいつ、手、めちゃくちゃ綺麗だな
爪の形も整ってるし男らしい骨張った手のひらなのに動きがすごく丁寧だ
昨日、その手に頬や額を触れられた時の感覚が唐突に脳裏に蘇る
(___っ、アホか俺は! 何を男の手に見惚れてんだよ!)
慌てて視線を本に戻す
心臓がうるさく脈打ち始める
いかん、これではいつも通り俺が勝手に自爆しているだけだ
何か、王子らしいアプローチを…
「ねえ、蓮野くん」
「はい?」
「君は普段どんな本を読むの? ほらこういう小説とか?」
俺は話を広げようと手元にあった恋愛小説を手に取り、蓮野の方へ差し出した
蓮野も作業の手を止め、俺が持つ本を覗き込もうと顔を近づけてくる
その時、本の上部からお互いの視線が不意にカチリと交差した
本の隙間から見える蓮野の黒ぶち眼鏡の奥の瞳
夕方の西光が大きな窓から差し込んで蓮野の瞳を琥珀色に透き通らせている
前髪の隙間から覗くその瞳があまりにもまっすぐに深く、俺を見つめていた
「…僕は図鑑とか、歴史の本が多いですけど」
蓮野が静かに微笑んだ
いつもの地味なモブの笑みじゃない
図書室の光に溶けるような息を呑むほど綺麗で、優しい微笑み
「でも先輩がお勧めしてくれる本ならなんでも読んでみたいです」
低くて鼓膜を心地よく震わせる声
ドクン……!!!
(あ、ダメだ これ、まじでダメなやつだ)
頭の芯がじわっと熱くなる
本の隙間から目が合っている、ただそれだけなのに
あいつは何のテクニックも使っていない
壁ドンもキザなセリフも言っていない
なのにどうして俺の心臓は今にも肋骨を突き破りそうなほど暴れているんだ
「…そ、そう じゃあ今度、俺の面白いと思う本、選んであげるよ」
俺は本で自分の顔を半分隠すようにしてなんとかそれだけを絞り出した
顔が絶対に真っ赤になっている確信がある、情けない
「本当ですか? 楽しみにしてますね」
蓮野は嬉しそうにそう言うとまた何事もなかったかのように手元の作業に戻っていった
(おい…何が『頭脳戦で外堀を埋める』だ… 完全に俺のライフが削られてるだけじゃねぇか…!!)
心の中で限界の毒(というか悲鳴)を吐き散らかしながら俺は真っ赤な顔を本に隠し続けた
完璧な王子様・御子柴周の防壁はこの静かな図書室で、またしても無自覚なモブによって内側から粉々に溶かされようとしていた「…よし今度こそ頭脳戦だ 力押しがダメなら外堀から埋めてやる」
数日後、俺は放課後の静まり返った図書室の入り口で一度深く息を吸い込んだ
前回の『壁ドン介護事件』の屈辱から俺は徹底的に自分を猛省した
あいつは少女漫画のシチュエーションが通用しない、未開の地の天然生物なのだ
ならばあいつの日常に自然に溶け込み、じわじわと俺のいない生活を考えられなくさせてやる
幸いにも調べを進めると蓮野は図書委員であることが判明した
放課後の図書室は利用者が少なく、絶好の環境だ
(フッ、静寂に包まれた図書室、夕暮れの木漏れ日、そして本を媒介にした静かな交流… これぞ知的で完璧な王子の真骨頂よ お前の地味な日常を俺というスパイスで彩ってやるからな)
心の中で完璧な作戦を組み立て図書室の重い扉を静かに押し開けた
トントン、とローファーの音が静かに響く
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蓮野は大きな本の山と格闘しながら一冊一冊に透明なブックカバーを貼る作業をしていた
相変わらずもっさりした前髪の隙間から黒ぶち眼鏡が覗いている
「やぁ蓮野くん、奇遇だね」
極力、声を張らずに図書室の空気に溶け込むような優しいトーンで話しかける
蓮野は顔を上げてメガネの位置を直した
「あ…御子柴先輩、こんにちは 本、借りに来たんですか?」
「いや、ちょっと自習をしに来たんだけど…君、なんだか大変そうだね 良ければ俺もその作業、手伝わせてもらえないかい?」
これだ、押し付けるのではない、大人の余裕を持ったスマートな提案
蓮野は一瞬目を丸くしたがすぐに嬉しそうに表情を緩めた
「本当ですか? ちょうど今日、新着図書がたくさん届いて人手が足りなかったんです すごく助かります」
「ふふ、お安い御用さ」
(よっしゃ計画通り!! これで放課後の合法的な密着デート権を獲得だ!)
心の中でガッツポーズをキメながら俺は蓮野の隣のパイプ椅子に腰掛けた
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蓮野からカバーの貼り方の説明を受け、二人で並んで作業を始めた
パサ、パサ、と紙が擦れる音とハサミの音だけが静かに響く
図書室特有の古い紙と糊の匂い
驚くほど居心地がいい
いつも黄色い声援に囲まれている俺にとってこの静寂は新鮮だった
(…いや落ち着け俺 癒されてどうする、仕掛けるんだよ、仕掛けるの!)
我に返り、チラリと隣の蓮野を見る
蓮野は驚くほど手際よく、器用にカバーを貼っていた
長い指先が本の角をきれいに折っていく
…あいつ、手、めちゃくちゃ綺麗だな
爪の形も整ってるし男らしい骨張った手のひらなのに動きがすごく丁寧だ
昨日、その手に頬や額を触れられた時の感覚が唐突に脳裏に蘇る
(___っ、アホか俺は! 何を男の手に見惚れてんだよ!)
慌てて視線を本に戻す
心臓がうるさく脈打ち始める
いかん、これではいつも通り俺が勝手に自爆しているだけだ
何か、王子らしいアプローチを…
「ねえ、蓮野くん」
「はい?」
「君は普段どんな本を読むの? ほらこういう小説とか?」
俺は話を広げようと手元にあった恋愛小説を手に取り、蓮野の方へ差し出した
蓮野も作業の手を止め、俺が持つ本を覗き込もうと顔を近づけてくる
その時、本の上部からお互いの視線が不意にカチリと交差した
本の隙間から見える蓮野の黒ぶち眼鏡の奥の瞳
夕方の西光が大きな窓から差し込んで蓮野の瞳を琥珀色に透き通らせている
前髪の隙間から覗くその瞳があまりにもまっすぐに深く、俺を見つめていた
「…僕は図鑑とか、歴史の本が多いですけど」
蓮野が静かに微笑んだ
いつもの地味なモブの笑みじゃない
図書室の光に溶けるような息を呑むほど綺麗で、優しい微笑み
「でも先輩がお勧めしてくれる本ならなんでも読んでみたいです」
低くて鼓膜を心地よく震わせる声
ドクン……!!!
(あ、ダメだ これ、まじでダメなやつだ)
頭の芯がじわっと熱くなる
本の隙間から目が合っている、ただそれだけなのに
あいつは何のテクニックも使っていない
壁ドンもキザなセリフも言っていない
なのにどうして俺の心臓は今にも肋骨を突き破りそうなほど暴れているんだ
「…そ、そう じゃあ今度、俺の面白いと思う本、選んであげるよ」
俺は本で自分の顔を半分隠すようにしてなんとかそれだけを絞り出した
顔が絶対に真っ赤になっている確信がある、情けない
「本当ですか? 楽しみにしてますね」
蓮野は嬉しそうにそう言うとまた何事もなかったかのように手元の作業に戻っていった
(おい…何が『頭脳戦で外堀を埋める』だ… 完全に俺のライフが削られてるだけじゃねぇか…!!)
心の中で限界の毒(というか悲鳴)を吐き散らかしながら俺は真っ赤な顔を本に隠し続けた
完璧な王子様・御子柴周の防壁はこの静かな図書室で、またしても無自覚なモブによって内側から粉々に溶かされようとしていた



