「__以上をもちまして卒業生総代の答辞といたします 令和×年、三月、卒業生代表・御子柴周」
ピンと張り詰めた体育館の空気のなか、俺は完璧な角度で一礼した
顔には全校生徒を魅了する国宝級の「完璧な王子様」の微笑み
パチパチパチと嵐のような拍手が体育館中に鳴り響き、女子生徒どもの「周様、最後まで美しすぎる…!」というすすり泣きが聞こえる
(ふん、泣け泣け不細工ども(※周基準)俺の美声と美貌を目に焼き付けて一生崇拝して生きろよな …まぁ、この完璧な仮面を被るのもこれが最後だけどな)
演台を降りる瞬間、俺はほんの一瞬だけ、在校生席の端っこに視線を向けた
そこには髪をもっさりと下ろし、黒ぶち眼鏡をかけた、碧が座っていた
碧は俺の答辞を聴きながらメガネの奥の瞳に涙をいっぱいに溜めて誰よりも激しく拍手を送ってくれていた
目が合った瞬間、俺の心臓はトクンと甘く跳ね上がる
みんなが俺の「仮面」を見て涙しているなか、あいつだけは俺の「本音」を見てくれている
それがどうしようもないほど誇らしかった
◇
式が終わり、ファンクラブの集団や後輩どもの「写真撮ってください!」という包囲網を抜群の運動神経とロイヤルスマイルで華麗に(強引に)すり抜けた
向かった場所は花吹雪の舞う校門ではない
学校の裏手
あの日、俺たちのすべてが始まった、あの渡り廊下へと続く道の曲がり角だ
桜の花びらがハラハラと舞い散るなか、俺はブレザーの襟を正して、その角に立った
すると前方からタタッと走ってくる足音が聞こえる
「…あ、御子柴、先輩」
角を曲がってきたのはやっぱり大きなジャージを着た碧だった
走ってきたせいで少し息を切らせて前髪をいじりながら、耳の裏まで真っ赤にして佇んでいる
俺はフッとこれまでにないほど深く、そして一ミリの嘘偽りもない本当の笑顔を碧に向けた
「遅ぇんだよ、バカ 俺を待たせるなんて本当にいい度胸じゃねぇか」
俺はいつもの作った王子様ボイスではない、少しぶっきらぼうな、素の声で言い放った
「すいません… 先輩が色んな人に捕まってたから入る隙がなくて」
碧は申し訳なさそうに眉を下げて笑った
俺は一歩、碧の目の前まで踏み込む
そしてあの日、一番最初の放課後と同じようにすっと滑らかな手つきで右手を差し出した
「ごめんね、怪我はなかった? 大丈夫かい?」
あの日と同じ、完璧な少女漫画のセリフ
碧は一瞬目を丸くし、それから本当に嬉しそうに目を細めるとおずおずと、だけど力強く、俺の手をぎゅっと握り締めた
その手のひらは思ったよりもずっと温かくて少しごつごつしていて実家の古武道の優しさが詰まっている
碧は俺の手を握ったまま、まっすぐに目線を合わせ、低くて心地いいあの声でいたずらっぽく呟いた
「…大丈夫、だよ 僕の王子様」
ドキン
心臓が耳元で鳴ったかと思うほど激しく跳ね上がる
あの日、こいつのセリフにハートを撃ち抜かれて大パニックを起こしていた俺
だけど今の俺は真っ赤になりながらも逃げ出すことなんてしなかった
「…誰が王子様だ お前に完全に落ちた、ただの男だよ、バカ」
俺は繋いだ手をグッと引っ張り、碧の身体を自分の方へと引き寄せた
舞い散る桜吹雪の中、至近距離で目が合う
「いいか緑 俺は大学に行っても毎日お前をここに迎えに来る 他の不細工にお前の一本背負いを見せるな、お前の国宝級の素顔は俺だけのものだ 分かったな?」
俺が真っ赤な顔のまま、限界突破の独占欲(猛毒)を吐き出すと碧は胸元でふにゃりと世界一無防備で、優しい笑顔を浮かべた
「はい! 毎日ここで待ってます …これからもよろしくね、先輩」
「おう、一生離してやんねぇよ」
俺はもう我慢できずに繋いだ手をさらに強く握り締め、碧の身体を強く抱きしめた
衣服が擦れ合い、お互いの狂いそうなほどの心音が春の風のなかに心地よく響き渡る
自分が世界一のイケメンだと自覚していた、性格最悪の腹黒王子
そんな俺の完璧な仮面を粉々に砕き、底なしの沼へと引きずり込んだ、地味系最強のモブ男子
王子の俺はモブに落ちました
__いや、違うな
俺は世界一のモブに世界で一番幸せな、碧だけの王子様にしてもらったんだ
青空の下、二人の不器用で賑やかで、最高にピュアな純愛ストーリーはこれからもずっと、あの曲がり角の先へと続いていく__
【終わり】
ピンと張り詰めた体育館の空気のなか、俺は完璧な角度で一礼した
顔には全校生徒を魅了する国宝級の「完璧な王子様」の微笑み
パチパチパチと嵐のような拍手が体育館中に鳴り響き、女子生徒どもの「周様、最後まで美しすぎる…!」というすすり泣きが聞こえる
(ふん、泣け泣け不細工ども(※周基準)俺の美声と美貌を目に焼き付けて一生崇拝して生きろよな …まぁ、この完璧な仮面を被るのもこれが最後だけどな)
演台を降りる瞬間、俺はほんの一瞬だけ、在校生席の端っこに視線を向けた
そこには髪をもっさりと下ろし、黒ぶち眼鏡をかけた、碧が座っていた
碧は俺の答辞を聴きながらメガネの奥の瞳に涙をいっぱいに溜めて誰よりも激しく拍手を送ってくれていた
目が合った瞬間、俺の心臓はトクンと甘く跳ね上がる
みんなが俺の「仮面」を見て涙しているなか、あいつだけは俺の「本音」を見てくれている
それがどうしようもないほど誇らしかった
◇
式が終わり、ファンクラブの集団や後輩どもの「写真撮ってください!」という包囲網を抜群の運動神経とロイヤルスマイルで華麗に(強引に)すり抜けた
向かった場所は花吹雪の舞う校門ではない
学校の裏手
あの日、俺たちのすべてが始まった、あの渡り廊下へと続く道の曲がり角だ
桜の花びらがハラハラと舞い散るなか、俺はブレザーの襟を正して、その角に立った
すると前方からタタッと走ってくる足音が聞こえる
「…あ、御子柴、先輩」
角を曲がってきたのはやっぱり大きなジャージを着た碧だった
走ってきたせいで少し息を切らせて前髪をいじりながら、耳の裏まで真っ赤にして佇んでいる
俺はフッとこれまでにないほど深く、そして一ミリの嘘偽りもない本当の笑顔を碧に向けた
「遅ぇんだよ、バカ 俺を待たせるなんて本当にいい度胸じゃねぇか」
俺はいつもの作った王子様ボイスではない、少しぶっきらぼうな、素の声で言い放った
「すいません… 先輩が色んな人に捕まってたから入る隙がなくて」
碧は申し訳なさそうに眉を下げて笑った
俺は一歩、碧の目の前まで踏み込む
そしてあの日、一番最初の放課後と同じようにすっと滑らかな手つきで右手を差し出した
「ごめんね、怪我はなかった? 大丈夫かい?」
あの日と同じ、完璧な少女漫画のセリフ
碧は一瞬目を丸くし、それから本当に嬉しそうに目を細めるとおずおずと、だけど力強く、俺の手をぎゅっと握り締めた
その手のひらは思ったよりもずっと温かくて少しごつごつしていて実家の古武道の優しさが詰まっている
碧は俺の手を握ったまま、まっすぐに目線を合わせ、低くて心地いいあの声でいたずらっぽく呟いた
「…大丈夫、だよ 僕の王子様」
ドキン
心臓が耳元で鳴ったかと思うほど激しく跳ね上がる
あの日、こいつのセリフにハートを撃ち抜かれて大パニックを起こしていた俺
だけど今の俺は真っ赤になりながらも逃げ出すことなんてしなかった
「…誰が王子様だ お前に完全に落ちた、ただの男だよ、バカ」
俺は繋いだ手をグッと引っ張り、碧の身体を自分の方へと引き寄せた
舞い散る桜吹雪の中、至近距離で目が合う
「いいか緑 俺は大学に行っても毎日お前をここに迎えに来る 他の不細工にお前の一本背負いを見せるな、お前の国宝級の素顔は俺だけのものだ 分かったな?」
俺が真っ赤な顔のまま、限界突破の独占欲(猛毒)を吐き出すと碧は胸元でふにゃりと世界一無防備で、優しい笑顔を浮かべた
「はい! 毎日ここで待ってます …これからもよろしくね、先輩」
「おう、一生離してやんねぇよ」
俺はもう我慢できずに繋いだ手をさらに強く握り締め、碧の身体を強く抱きしめた
衣服が擦れ合い、お互いの狂いそうなほどの心音が春の風のなかに心地よく響き渡る
自分が世界一のイケメンだと自覚していた、性格最悪の腹黒王子
そんな俺の完璧な仮面を粉々に砕き、底なしの沼へと引きずり込んだ、地味系最強のモブ男子
王子の俺はモブに落ちました
__いや、違うな
俺は世界一のモブに世界で一番幸せな、碧だけの王子様にしてもらったんだ
青空の下、二人の不器用で賑やかで、最高にピュアな純愛ストーリーはこれからもずっと、あの曲がり角の先へと続いていく__
【終わり】



