「いいか御子柴周、落ち着け お前は学園の王子様だ」
お昼休み
俺は中庭のベンチで購買の高級カツサンドを優雅に口に運びながら荒れ狂う心を必死に整えていた
昨日の「お前、誰?」発言の衝撃は一晩経っても俺の脳細胞をジワジワと焼き尽くしている
あんな劇的な少女漫画的シチュエーションをかましておいて忘れただと?この俺の完璧なフェイスを拝んでおいて記憶にないだと?
(ふざけるなよモブめ いくらメガネを外したら国宝級の顔面だったからって調子に乗りやがって 俺の存在を忘れるなんて全人類の歴史に対する冒涜だぞ)
カツサンドを八つ当たり気味に噛みちぎる
……いや待てよ あいつ、最後にこう言っていた
『僕、裸眼だと何も見えなくて』
(何も見えない…? まさか本当に見えていなかったのか?)
ゴクリ、カツサンドを飲み込む
もしそうなら昨日のあの俺のハートを撃ち抜いた『大丈夫、?』の時のあの至近距離でまっすぐに見つめてきた瞳は一体なんだったんだ?
確かめる方法は一つしかない
「フッ、今度こそ俺の完璧なシナリオ通りに動かしてやる」
俺は不敵な笑みを浮かべると残りのカツサンドを一口で平らげ、再び2年B組へと向かった
お昼休みの教室なら周りに人が多すぎて逃げ出すこともできないだろう
ガラッとドアを開ければ案の定「あ、御子柴先輩!」と教室が沸き立つ
それを華麗なロイヤルスマイルでスルーし、俺は迷わず窓際の一番後ろの席へと直進した
蓮野碧はメガネをかけた状態で机の上で小さなお弁当箱を開けていた
中身を見れば、茶色いおかずと卵焼き
……ふん、弁当までモブ臭いな。
「蓮野くん お昼休みにごめんね、ちょっといいかな?」
俺はあえてクラス全員に聞こえるような、鈴の音のように爽やかな声で話しかけた
周囲の視線が一斉にこちらに集まる
さぁどう来る、蓮野!
蓮野は驚いたように顔を上げ、黒ぶち眼鏡の位置をクイッと直した
「あ… えっと、昨日の、綺麗な人…?」
(き、綺麗な人…!?)
不意打ちの褒め言葉に俺の心臓がドクンと跳ねる
だが俺は王子様だ ここで赤くなってたまるか
「そう、なのかな、? 昨日、渡り廊下の曲がり角でぶつかった、3年の御子柴周…綺麗だなんて嬉しいな、」
少しはにかんだような、完璧な「可憐な王子様」の表情を作ってのぞき込む
周りの女子たちが「嘘、蓮野、御子柴先輩を照れさせた!?」「信じられない!」とヒソヒソ声を上げ始めた
すると蓮野は申し訳なさそうに眉を下げ、ぽつりと言った
「 僕、ものすごいド近眼で コンタクトも苦手だからメガネをかけてるんだけどそれでも視力は0.03とかなんだ……」
「は? れーてんれー、さん、?…?」
「うん、だから昨日の夕方もぶつかった時は視界が全部モザイクみたいにぼやけてて…」
蓮野はそこでお弁当の箸を置き、当時の状況を再現するように俺の顔にじわじわと顔を近づけてきた
おい物凄く近い、距離感がバグってる
「あの時、なんか凄くキラキラした眩しい塊が倒れてるな、と思って… ピントを合わせようとして限界まで顔を近づけてやっと人の顔だって分かったんだ」
「…」
「だから、その…君の顔がかっこいいとか、そういうのも全然見えてなくて ただなんとなく生気がないっていうか、冷たい人形みたいな顔に見えたから…体調が悪いのかなって心配になって声をかけたんだよ」
蓮野は「本当にごめん」とペコリと頭を下げた
…カランコロン
俺の脳内で王子のプライドという名のガラス細工が粉々に砕け散る音がした
(眩しい塊…? モザイク…?)
(しかも俺の渾身の聖母スマイルが…『生気がない冷たい人形』に見えただと…!?)
ショック、あまりにも大ショック
俺が一人で「落ちるもんか!」と悶絶していたあの時間は一体なんだったんだ
あいつは俺の顔に惚れたわけでも王子様のオーラに圧倒されたわけでもない
ただ画面がバグったスマホの画面を覗き込むような感覚で俺の顔を至近距離で見つめていただけだったのだ
「あ、あのさ、御子柴先輩…怒っちゃった…?」
不安そうに上目遣いで見てくる蓮野
メガネの奥の瞳はやっぱり驚くほどピュアで俺をまっすぐに捉えている
(クソが…!!!だったらなおさら許さねぇ…!!!)
俺の心の中でこれまでになかったド黒い感情がふつふつと湧き上がってきた
顔が見えていなかっただと?
ならばそのド近眼の目に俺の美貌を一生焼き付けてやる
モザイク越しでも脳裏から離れないくらい、俺の虜にしてやる!!
「ふふ、怒ってないよ むしろ理由が分かってスッキリしたな」
俺はこれまでにないほど深く、そして妖艶な(と自分では思っている)笑みを蓮野に向けた
「蓮野くん、これからよろしくね 君のその悪いお目目に俺の顔がハッキリ焼き付くまで毎日会いに来てあげるから」
「え…? あ、うん…?」
ぽかんとする蓮野を置き去りにし、俺は今度こそ、プライドの破片を掻き集めながら堂々とした足取りで(内心は泣きながら)教室を後にした
(見てろよ蓮野碧!! 絶対にお前から『好きです御子柴先輩!』って泣きつかせてやるからな……!!!)
こうして腹黒王子の「絶対に惚れさせてフる(予定)作戦」の火蓋が切って落とされた
しかし周はまだ知らない
これが自ら進んでさらなる底なし沼へ飛び込む自殺行為だということに__
お昼休み
俺は中庭のベンチで購買の高級カツサンドを優雅に口に運びながら荒れ狂う心を必死に整えていた
昨日の「お前、誰?」発言の衝撃は一晩経っても俺の脳細胞をジワジワと焼き尽くしている
あんな劇的な少女漫画的シチュエーションをかましておいて忘れただと?この俺の完璧なフェイスを拝んでおいて記憶にないだと?
(ふざけるなよモブめ いくらメガネを外したら国宝級の顔面だったからって調子に乗りやがって 俺の存在を忘れるなんて全人類の歴史に対する冒涜だぞ)
カツサンドを八つ当たり気味に噛みちぎる
……いや待てよ あいつ、最後にこう言っていた
『僕、裸眼だと何も見えなくて』
(何も見えない…? まさか本当に見えていなかったのか?)
ゴクリ、カツサンドを飲み込む
もしそうなら昨日のあの俺のハートを撃ち抜いた『大丈夫、?』の時のあの至近距離でまっすぐに見つめてきた瞳は一体なんだったんだ?
確かめる方法は一つしかない
「フッ、今度こそ俺の完璧なシナリオ通りに動かしてやる」
俺は不敵な笑みを浮かべると残りのカツサンドを一口で平らげ、再び2年B組へと向かった
お昼休みの教室なら周りに人が多すぎて逃げ出すこともできないだろう
ガラッとドアを開ければ案の定「あ、御子柴先輩!」と教室が沸き立つ
それを華麗なロイヤルスマイルでスルーし、俺は迷わず窓際の一番後ろの席へと直進した
蓮野碧はメガネをかけた状態で机の上で小さなお弁当箱を開けていた
中身を見れば、茶色いおかずと卵焼き
……ふん、弁当までモブ臭いな。
「蓮野くん お昼休みにごめんね、ちょっといいかな?」
俺はあえてクラス全員に聞こえるような、鈴の音のように爽やかな声で話しかけた
周囲の視線が一斉にこちらに集まる
さぁどう来る、蓮野!
蓮野は驚いたように顔を上げ、黒ぶち眼鏡の位置をクイッと直した
「あ… えっと、昨日の、綺麗な人…?」
(き、綺麗な人…!?)
不意打ちの褒め言葉に俺の心臓がドクンと跳ねる
だが俺は王子様だ ここで赤くなってたまるか
「そう、なのかな、? 昨日、渡り廊下の曲がり角でぶつかった、3年の御子柴周…綺麗だなんて嬉しいな、」
少しはにかんだような、完璧な「可憐な王子様」の表情を作ってのぞき込む
周りの女子たちが「嘘、蓮野、御子柴先輩を照れさせた!?」「信じられない!」とヒソヒソ声を上げ始めた
すると蓮野は申し訳なさそうに眉を下げ、ぽつりと言った
「 僕、ものすごいド近眼で コンタクトも苦手だからメガネをかけてるんだけどそれでも視力は0.03とかなんだ……」
「は? れーてんれー、さん、?…?」
「うん、だから昨日の夕方もぶつかった時は視界が全部モザイクみたいにぼやけてて…」
蓮野はそこでお弁当の箸を置き、当時の状況を再現するように俺の顔にじわじわと顔を近づけてきた
おい物凄く近い、距離感がバグってる
「あの時、なんか凄くキラキラした眩しい塊が倒れてるな、と思って… ピントを合わせようとして限界まで顔を近づけてやっと人の顔だって分かったんだ」
「…」
「だから、その…君の顔がかっこいいとか、そういうのも全然見えてなくて ただなんとなく生気がないっていうか、冷たい人形みたいな顔に見えたから…体調が悪いのかなって心配になって声をかけたんだよ」
蓮野は「本当にごめん」とペコリと頭を下げた
…カランコロン
俺の脳内で王子のプライドという名のガラス細工が粉々に砕け散る音がした
(眩しい塊…? モザイク…?)
(しかも俺の渾身の聖母スマイルが…『生気がない冷たい人形』に見えただと…!?)
ショック、あまりにも大ショック
俺が一人で「落ちるもんか!」と悶絶していたあの時間は一体なんだったんだ
あいつは俺の顔に惚れたわけでも王子様のオーラに圧倒されたわけでもない
ただ画面がバグったスマホの画面を覗き込むような感覚で俺の顔を至近距離で見つめていただけだったのだ
「あ、あのさ、御子柴先輩…怒っちゃった…?」
不安そうに上目遣いで見てくる蓮野
メガネの奥の瞳はやっぱり驚くほどピュアで俺をまっすぐに捉えている
(クソが…!!!だったらなおさら許さねぇ…!!!)
俺の心の中でこれまでになかったド黒い感情がふつふつと湧き上がってきた
顔が見えていなかっただと?
ならばそのド近眼の目に俺の美貌を一生焼き付けてやる
モザイク越しでも脳裏から離れないくらい、俺の虜にしてやる!!
「ふふ、怒ってないよ むしろ理由が分かってスッキリしたな」
俺はこれまでにないほど深く、そして妖艶な(と自分では思っている)笑みを蓮野に向けた
「蓮野くん、これからよろしくね 君のその悪いお目目に俺の顔がハッキリ焼き付くまで毎日会いに来てあげるから」
「え…? あ、うん…?」
ぽかんとする蓮野を置き去りにし、俺は今度こそ、プライドの破片を掻き集めながら堂々とした足取りで(内心は泣きながら)教室を後にした
(見てろよ蓮野碧!! 絶対にお前から『好きです御子柴先輩!』って泣きつかせてやるからな……!!!)
こうして腹黒王子の「絶対に惚れさせてフる(予定)作戦」の火蓋が切って落とされた
しかし周はまだ知らない
これが自ら進んでさらなる底なし沼へ飛び込む自殺行為だということに__



