王子様の俺はモブに落ちました。

「フッ、恋人としての初デートだ この学園の王子様たる俺がエスコートの真髄というやつを叩き込んでやる」
次の週末、俺は街一番のお洒落なカフェがある駅前の広場で完璧な角度の立ち姿(※モデル立ち)を維持しながら心の中で高笑いを決めていた
今日の俺のコーディネートはメンズ誌の表紙をそのまま飾れるレベルのハイエンドなカジュアルスタイル
すれ違う女どもが俺の国宝級の美貌に目を奪われて電柱にぶつかりそうになっているが自業自得だ
不細工は俺を見るな
(さぁ来い、碧! 今日は俺の完璧なデートプランでお前のちっぽけな世界観をロマンチックの海に溺れさせてやるからな__)
「あ、御子柴先輩! お待たせしました!」
人混みの向こうからあの低くて心地いい声が響いた
バッと振り返った俺はまたしても心臓を特大のハンマーで殴られたような衝撃を受けて硬直した
そこにいたのは約束通り髪をもっさりと下ろし、黒ぶち眼鏡をかけた「地味系モブ」の碧だった
…だったのだが
着ている私服が少しオーバーサイズの白ニットにお洒落なチェックのワイドパンツ
いつも学校で着ているヨレヨレのジャージとは違い、育ちの良さとスタイルの良さがこれでもかと強調されている
(……は????? 待て、何だその素材の暴力は 髪を下ろしてメガネをかけてるのになんでそんなにサブカル系のモデルみたいにお洒落なんだよ パーツのバランスが良すぎるから何着てもファッショニスタになるの反則だろチクショウ!)
心の中で大絶賛の猛毒を吐き散らしながら俺は真っ赤になった顔を隠すように咄嗟にマフラー(※少し肌寒い季節なので)に顔を埋めた
心臓が本日最初の爆速ビートを刻み始める
「…遅ぇんだよバカ 俺を3分も待たせるなんていい度胸じゃねぇか」
「すみません! 先輩に会うのが緊張しすぎて服を選ぶのに3時間もかかっちゃって… あの、変じゃないですか?」
碧は照れくさそうに前髪をいじりながら上目遣いで俺の顔を覗き込んできた
眼鏡の奥のその澄んだ瞳が不安そうに、だけど愛おしそうに俺だけを映している
(変なわけねぇだろ大馬鹿野郎ーーー!!! 可愛すぎて街中のやつらに見せびらかしたいけど一秒たりとも他人に見せたくねぇよ!!!)
「…変じゃねぇよ お前、普段からその格好しろ…いや、学校ではやっぱりジャージでいろ 他の奴に見せるな」
「あはは、どっちですか」
碧は嬉しそうにふにゃりと笑うと躊躇することなく、俺の右手をそっと握ってきた
男同士、街のど真ん中で手を繋ぐ
周囲の視線が一瞬こちらに集まったが俺はすぐに碧の手を指と指を絡ませる『恋人繋ぎ』で強く握り直した
「おい、行くぞ 俺の予約した特等席が待ってる」
「はい! 先輩!」
俺が連れて行ったのは見晴らしのいいテラス席がある高級カフェ
スマートに注文を済ませ、運ばれてきたお洒落なタルトを前に碧は目をキラキラ輝かせている
「わあ、美味しそう…! 先輩、一口食べますか?」
碧は何の迷いもなく、フォークで小さく切ったタルトを俺の口元へと差し出してきた
「は!? お前、ここ外だぞ!? 周りの目が__」
「あ、ダメでした…?」
シュンと犬のように眉を下げる碧
その破壊力に俺の王子的防壁は一瞬で更地になった
「…っ、食うよ! 食えばいいんだろ!」
俺は半ばヤケクソで碧の差し出したフォークからタルトをぱくりと口に含んだ
じゅわっと広がるベリーの甘酸っぱさ
だけどそれ以上に目の前で「ふふ、美味しいですか?」と満足そうに笑う碧の顔が甘すぎて脳が溶けそうになる
(クソが… エスコートするはずが完全に俺が転がされてるじゃねぇか…!)
心の中で白旗を振りながらも俺は繋いだままの左手にさらにギュッと力を込めた
「隣の奴、やっぱり世界一かっこいいわ …俺の次にな!」
俺が真っ赤な顔でフンとそっぽを向くと碧は「はい、先輩が世界一格好いいです」といつものように無自覚な極上スマイルで答えを返してくるのだった
こうしてツンデレ腹黒王子と最強モブ男子の初デートは終始周りの大自爆という形で幕を閉じた