(お前ら、ノコギリの使い方も知らねぇのかよ 造形に気を使って生きろっつったろ)
「あはは、大丈夫だよ、みんな! 代わりに俺が切るからそっちの絵の具をお願いできるかな?」
十月、学園全体が浮き足立つ「文化祭」の準備期間
俺は3年A組の教室でベニヤ板と格闘しながら表の「完璧な王子様」の笑顔を貼り付け直していた
我がクラスの出し物は『執事カフェ』
絵に描いたような王道イベントだ
衣装合わせやら装飾の買い出しやらで毎日が目まぐるしく過ぎていく
(はぁー、まじで疲れる 不細工ども(※周基準)の手際の悪さに心の中で毒を吐くのももう限界だ あいつに会いてぇ… あいつのあの低くて落ち着く声が聴きてぇよ…)
図書室でのあの雨の日以来、俺たちの距離は急激に縮まっていた
碧はというと相変わらず髪を整えていて(俺のために格好良くいたい、という健気な理由で)全校生徒からチヤホヤされているが俺と目が合うとすぐに耳の裏まで真っ赤にして俯く
それがたまらなく愛おしい
だけど俺の胸の奥には未だに一つだけ、重いトゲのような罪悪感が残っていた
(俺はあいつにまだ、本当の俺を隠してる…)
言葉遣いや態度は素に戻せた
だけど自分が「他人の顔面を心の中で見下し、毒を吐き散らかしている超絶ナルシストで性格最悪な男」だということはまだ碧にハッキリとは伝えていない
あいつは優しくてピュアだ
そんな本性を知ったらさすがの碧も幻滅して離れていってしまうのではないか
そんな不安を抱えたまま、放課後、買い出しの荷物を運ぶために誰もいない夕暮れの渡り廊下を歩いていた
「あ、御子柴先輩 それ、僕が持ちます」
前方の階段からジャージ姿の悠馬がトトッと駆け寄ってきた
彼は俺の手から大きな段ボールをひょいと奪うと相変わらずのフィジカルゴリラ(古武道仕込み)の腕力で軽々とそれを抱え上げた
「あ、ありがと… 蓮野、ちょっといいか」
「はい?」
夕日に染まる渡り廊下の窓際
俺は足を止め、碧の目をまっすぐに見つめた
心臓がいつもの胸キュンのバクバクとは違う、嫌な緊張感でドクドクと鳴り響く
「…お前さ、俺のこと『完璧で優しい王子様』だと思ってんだろ」
「え? はい 格好良くてみんなに優しくて、僕のヒーローです」
碧は前髪を上げたその綺麗な切れ長の瞳で一点の曇りもない純粋な笑顔を向けてきた
その眩しさに俺の胸がギュッと締め付けられる
俺はふいっと視線を落とし、ブレザーのポケットに手を突っ込んだまま、ぶっきらぼうに言った
「…騙されんなよバカ 俺、本当はめちゃくちゃ性格悪いんだぞ」
「え…?」
「お前が思ってるような、聖母みたいな優しい男じゃねぇ 俺、自分が世界一イケメンだって自覚してる超ナルシストだし心の中では他人の顔を見て『じゃがいもかよ』とか『パーツの配置適当かよ』とか毎日ボロクソに毒を吐き散らかして生き返ってるクズなんだよ …お前に近づいたのも最初は一目惚れしたのが悔しくて惚れさせてフってやろうと思ったからだ」
一気にすべてを吐き出した
ずっと隠していた俺のド黒い本性、化けの皮
これでもう完璧な王子様は終わりだ
沈黙が流れる
渡り廊下に夕方のチャイムの音が切なく響いていた
俺は碧の顔を見るのが怖くて拳を強く握りしめたまま、じっと床を見つめていた
幻滅される、嫌われる
そう身構えていた、次の瞬間
「__ふふっ、あはははは!」
「…え?」
耳元で碧の低くて心地いい、楽しそうな笑い声が響いた
驚いて顔を上げると碧は段ボールを抱えたまま、お腹を抱えるようにして笑っていたのだ
「な、何笑ってんだよ! 俺は本気で__」
「知ってましたよ、そんなこと」
「…は?」
俺の思考が完全に停止する
碧は笑いを含んだ瞳で優しく俺の顔を覗き込んできた
「心の中で誰かの悪口言ってるとき、御子柴先輩、すっごく悪い顔をしてますもん 口元は笑ってるのに目が『チッ、不細工』って言ってるのが僕でも雰囲気で分かりました」
「ば、バレて…!?」
「でもそれがすごく面白くて …それに最初に僕を惚れさせようとしてくれたのも結局はそれだけ僕のことで頭がいっぱいになってくれてたってことですよね?」
碧は一歩、距離を詰めてきた
夕日の光を浴びて彼の端正な顔が驚くほど男らしく、そして甘く微笑む
「僕、誰にでも優しい偽物の王子様より、僕の前だけで最悪な毒を吐いて僕のことで一喜一憂してくれる…そんな、性格の悪い『本当の先輩』のほうがずっと大好きです」
ドッゴォォォォン!!!
脳内で過去最大級の核爆弾が跡形もなく大爆発を起こした
顔が、耳が全身の皮膚が10000度くらいに沸騰する
(お、おま…っ! 知ってたのかよ!! しかも『ずっと大好きです』ってサラッと二回目の告白ぶち込んでくんじゃねぇよ大馬鹿野郎ーーー!!!)
「も、もう知らないっ!! お前なんかまじで大嫌いだ!!」
俺は真っ赤になった顔を両手で覆うと、悠馬を置き去りにして、本日何度目かも分からない全速力でその場から逃げ出したのだった。
◇
「…あいつ、何なんだよ!! まじで何なんだよぉ…っ」
夜、自室のベッドで悶絶しながら俺は嬉しさと恥ずかしさで涙目になっていた
本性を知っても嫌われるどころかそれも含めて「大好き」と言われてしまうなんて
完璧な王子様としての仮面はもう完全に必要なくなった
あいつの前では俺はただの性格の悪い、だけどあいつに首ったけな一人の男でいいんだ
こうしてお互いの「本音」をすべて受け入れ合った二人はいよいよ文化祭当日の最高の舞台へと向かっていく__
「あはは、大丈夫だよ、みんな! 代わりに俺が切るからそっちの絵の具をお願いできるかな?」
十月、学園全体が浮き足立つ「文化祭」の準備期間
俺は3年A組の教室でベニヤ板と格闘しながら表の「完璧な王子様」の笑顔を貼り付け直していた
我がクラスの出し物は『執事カフェ』
絵に描いたような王道イベントだ
衣装合わせやら装飾の買い出しやらで毎日が目まぐるしく過ぎていく
(はぁー、まじで疲れる 不細工ども(※周基準)の手際の悪さに心の中で毒を吐くのももう限界だ あいつに会いてぇ… あいつのあの低くて落ち着く声が聴きてぇよ…)
図書室でのあの雨の日以来、俺たちの距離は急激に縮まっていた
碧はというと相変わらず髪を整えていて(俺のために格好良くいたい、という健気な理由で)全校生徒からチヤホヤされているが俺と目が合うとすぐに耳の裏まで真っ赤にして俯く
それがたまらなく愛おしい
だけど俺の胸の奥には未だに一つだけ、重いトゲのような罪悪感が残っていた
(俺はあいつにまだ、本当の俺を隠してる…)
言葉遣いや態度は素に戻せた
だけど自分が「他人の顔面を心の中で見下し、毒を吐き散らかしている超絶ナルシストで性格最悪な男」だということはまだ碧にハッキリとは伝えていない
あいつは優しくてピュアだ
そんな本性を知ったらさすがの碧も幻滅して離れていってしまうのではないか
そんな不安を抱えたまま、放課後、買い出しの荷物を運ぶために誰もいない夕暮れの渡り廊下を歩いていた
「あ、御子柴先輩 それ、僕が持ちます」
前方の階段からジャージ姿の悠馬がトトッと駆け寄ってきた
彼は俺の手から大きな段ボールをひょいと奪うと相変わらずのフィジカルゴリラ(古武道仕込み)の腕力で軽々とそれを抱え上げた
「あ、ありがと… 蓮野、ちょっといいか」
「はい?」
夕日に染まる渡り廊下の窓際
俺は足を止め、碧の目をまっすぐに見つめた
心臓がいつもの胸キュンのバクバクとは違う、嫌な緊張感でドクドクと鳴り響く
「…お前さ、俺のこと『完璧で優しい王子様』だと思ってんだろ」
「え? はい 格好良くてみんなに優しくて、僕のヒーローです」
碧は前髪を上げたその綺麗な切れ長の瞳で一点の曇りもない純粋な笑顔を向けてきた
その眩しさに俺の胸がギュッと締め付けられる
俺はふいっと視線を落とし、ブレザーのポケットに手を突っ込んだまま、ぶっきらぼうに言った
「…騙されんなよバカ 俺、本当はめちゃくちゃ性格悪いんだぞ」
「え…?」
「お前が思ってるような、聖母みたいな優しい男じゃねぇ 俺、自分が世界一イケメンだって自覚してる超ナルシストだし心の中では他人の顔を見て『じゃがいもかよ』とか『パーツの配置適当かよ』とか毎日ボロクソに毒を吐き散らかして生き返ってるクズなんだよ …お前に近づいたのも最初は一目惚れしたのが悔しくて惚れさせてフってやろうと思ったからだ」
一気にすべてを吐き出した
ずっと隠していた俺のド黒い本性、化けの皮
これでもう完璧な王子様は終わりだ
沈黙が流れる
渡り廊下に夕方のチャイムの音が切なく響いていた
俺は碧の顔を見るのが怖くて拳を強く握りしめたまま、じっと床を見つめていた
幻滅される、嫌われる
そう身構えていた、次の瞬間
「__ふふっ、あはははは!」
「…え?」
耳元で碧の低くて心地いい、楽しそうな笑い声が響いた
驚いて顔を上げると碧は段ボールを抱えたまま、お腹を抱えるようにして笑っていたのだ
「な、何笑ってんだよ! 俺は本気で__」
「知ってましたよ、そんなこと」
「…は?」
俺の思考が完全に停止する
碧は笑いを含んだ瞳で優しく俺の顔を覗き込んできた
「心の中で誰かの悪口言ってるとき、御子柴先輩、すっごく悪い顔をしてますもん 口元は笑ってるのに目が『チッ、不細工』って言ってるのが僕でも雰囲気で分かりました」
「ば、バレて…!?」
「でもそれがすごく面白くて …それに最初に僕を惚れさせようとしてくれたのも結局はそれだけ僕のことで頭がいっぱいになってくれてたってことですよね?」
碧は一歩、距離を詰めてきた
夕日の光を浴びて彼の端正な顔が驚くほど男らしく、そして甘く微笑む
「僕、誰にでも優しい偽物の王子様より、僕の前だけで最悪な毒を吐いて僕のことで一喜一憂してくれる…そんな、性格の悪い『本当の先輩』のほうがずっと大好きです」
ドッゴォォォォン!!!
脳内で過去最大級の核爆弾が跡形もなく大爆発を起こした
顔が、耳が全身の皮膚が10000度くらいに沸騰する
(お、おま…っ! 知ってたのかよ!! しかも『ずっと大好きです』ってサラッと二回目の告白ぶち込んでくんじゃねぇよ大馬鹿野郎ーーー!!!)
「も、もう知らないっ!! お前なんかまじで大嫌いだ!!」
俺は真っ赤になった顔を両手で覆うと、悠馬を置き去りにして、本日何度目かも分からない全速力でその場から逃げ出したのだった。
◇
「…あいつ、何なんだよ!! まじで何なんだよぉ…っ」
夜、自室のベッドで悶絶しながら俺は嬉しさと恥ずかしさで涙目になっていた
本性を知っても嫌われるどころかそれも含めて「大好き」と言われてしまうなんて
完璧な王子様としての仮面はもう完全に必要なくなった
あいつの前では俺はただの性格の悪い、だけどあいつに首ったけな一人の男でいいんだ
こうしてお互いの「本音」をすべて受け入れ合った二人はいよいよ文化祭当日の最高の舞台へと向かっていく__



