王子様の俺はモブに落ちました。

「おい、そこ 何自然に蓮野の隣キープしてんだよ 3秒以内に離れろ不細工」
放課後の図書室
俺は新着図書の棚の影からカウンターを鬼のような形相で凝視していた
手に持った文庫本が指先の力でみしみしと悲鳴を上げている
二学期が始まって数日
俺の懸念は最悪の形で現実になっていた
前髪を上げ、コンタクトにした蓮野悠馬の破壊力は凄まじく、今や学校中が「隠れ超絶イケメン」の話題でもちきりだ
あの静かだった図書室は悠馬を一目見ようと集まった女子生徒どもで連日満員御礼
(ふざけるなよマジで 今まであいつの不細工面(※周基準)を散々背景扱いしてたくせに素材の良さに気づいた瞬間これかよ お前らが今キャーキャー言ってるその綺麗な顔面も無自覚に人を狂わせる低音ボイスも全部最初に発掘したのは俺なんだよ 後発のミーハーどもが群がってんじゃねぇ おい、そこの女子、蓮野にオススメの本聞くフリして距離詰めすぎだろ あいつド近眼だからそれ以上近づくとお前の毛穴までカウントし始めるぞ離れろ)
心の中で過去最高密度の猛毒を吐き散らしながら俺は焦燥感で狂いそうになっていた
あいつが「俺にふさわしくなりたい」と背伸びしてくれたのは死ぬほど嬉しい
思い出すだけでベッドの上で3回転半ひねりできるくらいには愛おしい
だけど地味なモブだと思って油断していたら一瞬で「みんなの王子様」のポジションに上り詰めてしまった
(変わるな… 俺だけのモブでいろよ、碧……)
そんな、とても学園の王子様とは思えないほどドロドロとした独占欲が胸の奥で渦巻いていた
「あの、御子柴先輩?」
「__っ!?」
不意に耳元で聞こえた低音ボイスに心臓が跳ね上がる
いつの間にか女子たちの相手を終えた碧が俺のすぐ目の前に立っていた
前髪を上げた切れ長の瞳がまっすぐに俺を見つめている
「先輩、さっきからずっと本を睨みつけてますけど…どうかしたんですか?」
「…別に、何でもない」
俺は咄嗟に冷たいトーンで言い放ち、ぷいっと顔を背けた
自分の心の狭さに自己嫌悪しつつもどうしても素直になれない
「そうですか…? あ、あの、僕のこの格好、やっぱり変ですかね 最近、色んな人に話しかけられてなんだか落ち着かなくて…先輩にもさっきから全然目を合わせてもらえないし…」
碧はシュンと大型犬のように眉を下げて自分の前髪をいじった
学校中を虜にしている自覚なんて一ミリもない、いつものピュアな碧だ
だけど今の俺はその健気さにすら焦りから意地悪な言葉を返してしまった
「だったら元に戻せばいいだろ そんなに他人にチヤホヤされるのが楽しいなら一生やってれば?」
「え…」
口から出た瞬間、血の気が引いた
違う、そんなことを言いたいんじゃない
他人に取られそうで怖いって、俺だけを見ててほしいって…そう言いたいだけなのに
悠馬の端正な顔が悲しそうに歪む
「…すいません 僕、勘違いしてました」
「あ、蓮野__」
「失礼します」
碧は蚊の鳴くような声でそう呟くと逃げるように図書室の奥へと走り去ってしまった
(__しまっ…た…っ!!)
静まり返った図書室の片隅で俺は自分の頭を強く抱え込んだ
完璧な王子様・御子柴周、人生最大の痛恨のミス
焦りと独り占め願望に狂った俺は一番傷つけてはいけない相手に最悪の毒を吐いてしまったのだ
この傲慢なすれ違いが雨の図書室での「初めての衝突」へと繋がっていく__