王子様の俺はモブに落ちました。

「…おい、嘘だろ 学校が学校の天井がひっくり返るぞ」
翌朝、俺は登校するなり、2年B組の前の廊下で自分の目を疑って完全に硬直していた
廊下は朝のHR前だというのに女子生徒や男子生徒で異常なほどごった返しており、全員が教室の一角を盗み見ては「嘘、まじで!?」「誰あの超絶イケメン!?」と大騒ぎしている
(は? 何なんだよ朝から 甘坂でも乗り込んできたのか? ったくこの学園の主役である俺を差し置いて騒ぐなんてどこの不細工__)
不機嫌極まりない毒を心の中で吐き散らしながら人だかりをかき分けて教室を覗き込む
その視線の先にいた人物を見た瞬間、俺の手から通学カバンが滑り落ちそうになった
窓際の一番後ろの席
いつもなら机に突っ伏して背景と同化しているはずの場所に一人の「男神」が座っていた
黒ぶち眼鏡はない
長い前髪もワックスで無造作かつお洒落に毛先を遊ばせ、すっきりとした額とあのルーブル美術館レベルの端正な顔立ちが完全に白日の下に晒されている
大きすぎた制服のジャケットはジャストサイズに着こなされ、ネクタイも少しだけ緩められていて妙に色っぽい
蓮野悠馬だった
「あ… おはようございます、御子柴先輩」
俺の姿を見つけるなり、蓮野は椅子から立ち上がり、少し照れくさそうに前髪に触れながらいつものあの低くて心地いい声で微笑みかけてきた
前髪を上げたその切れ長の瞳がダイレクトに俺を射抜く
ドッゴォォォォン!!!
心臓が鼓膜が脳細胞が、一瞬で消滅するほどの衝撃
(おま…っ! お前お前お前!!! 何してくれてんだよバカ!!!)
顔が一瞬で沸騰する
夏祭りの夜、俺だけが秘密で拝んだはずのあの国宝級の素顔がよりによって学校のしかも全校生徒の前に解禁されている
周りの女子たちが「きゃあぁぁぁ! 先輩に笑いかけた!?」「蓮野くんってあんなにかっこよかったの!?」と悲鳴のような声を上げ始めた
「蓮野…お前、その格好、何なんだよ…!」
俺は人目を気にする余裕もなく、蓮野の机に詰め寄り、声を低くして問い詰めた
蓮野は赤くなった耳の裏を隠すように俯きながらぽつりと言った
「あの…昨日、先輩の隣にいた、すごく綺麗な人(甘坂)を見て…僕、自分がすごく情けなくなっちゃって …先輩の隣にいても恥ずかしくないように少しだけ背伸び、してみたんです …変、ですか?」
遮るもののないその澄んだ瞳が不安そうに揺れながらまっすぐに俺を見つめてくる
(変なわけねぇだろ大馬鹿野郎ーーー!!! 格好良すぎて俺の心臓が爆発して死にそうなんだよ!!!)
心の中で血の涙を流しながら叫ぶ
あいつは昨日の甘坂を見て嫉妬と焦りから「周にふさわしい人間になりたい」とモブを辞める決意をしたのだ
その理由はあまりにも健気で愛おしくて、胸が張り裂けそうになる
だけど
(まずい、まじでまずい!!! あいつがモブから『みんなの王子様』になっちまったら俺だけのものじゃなくなっちまうじゃねぇか…っ!!!)
今まで誰も気づいていなかった「隠れチート美形」が世間にバレてしまった
完璧な王子様・御子柴周は予想もしなかった強烈な焦燥感と独占欲の嵐に飲み込まれようとしていた
「…変じゃ、ない …っていうか、格好良すぎるんだよバカ」
俺は真っ赤になった顔をカバンで隠しながらぶっきらぼうにそう呟くのが精一杯だった
モブの背伸びによって学園のヒエラルキーは完全に崩壊
ここから周の「碧を誰にも渡したくない」という、さらなる独占欲の暴走が始まっていく__