「…はぁ、地獄の二学期が始まっちまった」
九月、残暑が厳しい教室の窓際で俺は頰杖をつきながら、外を歩く生徒たちを冷めた目で見下ろしていた
完璧な王子様・御子柴周としての新学期
今日も朝からファンクラブの女子どもに囲まれ、愛想笑いを振りまくルーティンで早くも脳のエネルギーは空っぽだ
(どいつもこいつも夏休み明けでちょっと日焼けしたからって『先輩、ワイルドで素敵です!』じゃねぇよ 俺の国宝級の美貌は紫外線対策も万全だから一ミリも焼けてねぇよ それより俺は前髪もっさり天然タラシの成分が足りなくて死にそうなんだよ あいつ、二学期が始まってからまた元の地味系モブに戻りやがって…)
そう、夏祭りのあの夜、世界一格好良かった甚平姿の蓮野碧は新学期と同時に幻のように消え去っていた
今のあいつはまた長い前髪をこれでもかと下ろし、黒ぶち眼鏡をかけ、教室の隅で背景と同化している
(…チッ、あの素顔を見ていいのは俺だけだから周りに隠すという意味では大正解だけどよ でも挨拶しに行っても夏祭りの件を思い出して茹でダコみたいに真っ赤になって逃げるのはどうにかしろ 俺の心臓のバタつきが未だに治まらねぇだろ)
そんなことを考えながら放課後、生徒会の用事で校門付近を歩いていた、その時だった
「__周!」
背後からやけに聞き覚えのある、これまた無駄に洗練された高音ボイスが響いた
嫌な予感がして振り返るとそこには我が校の制服ではない、近隣の超お嬢様・お坊ちゃま学校の制服を着た男が立っていた
モデル並みの高身長、綺麗にセットされたプラチナブロンドに近い髪、そして自信に満ち溢れた華やかなハーフ系の顔立ち
他校の有名人であり、俺の幼馴染でもある、ガチハイスペックイケメン__甘坂 紅蓮(あまさか ぐれん)だった
「やっぱり周だ! 近くまで来たから寄ってみたんだ 夏休み中、全然連絡くれないから寂しかったよ」
一ノ瀬はそう言うと周囲の女子生徒たちが「キャー! 誰あのイケメン!?」「少女漫画から出てきたみたい!」と騒ぎ立てるなか、俺の肩を親しげにガシッと抱き寄せてきた
(げっ、甘坂…! 相変わらず香水くっせぇな てか他校の分際で俺の聖域に土足で踏み込んでくんじゃねぇよ不細工 …いや顔は不細工じゃねぇけど性格が無理 離れろ、お前のハイスペックオーラが俺の王子様の営業妨害になるだろ)
心の中では容赦なく罵詈雑言を浴びせながらも俺は自動的に「久しぶり、紅蓮 急にどうしたんだい?」と極上のロイヤルスマイルを返した
他校のイケメンと我が校の王子
誰もが見惚れるような、完璧な「絵になる二人」の空間
しかし、その光景を少し離れた下校用の通路からじっと見つめている影があった
蓮野side
「…あ」
黒ぶち眼鏡の奥の瞳
蓮野碧がカバンを両手でぎゅっと握りしめたまま、立ち尽くしていた
蓮野の視線が俺の肩に回された甘坂の手と俺たちが親しげに笑い合っている(ように見える)姿に固定される
その瞬間、蓮野の胸の奥で今まで経験したことのない、どす黒くて冷たい「モヤモヤ」が、一気に増殖し始めていた
(…誰、だろう あの、ものすごく綺麗な人)
甘坂ぼ完璧な容姿
それは自分のような「モブ」とは次元が違う、本物の主役の輝きだった
そんな人が自分の大好きな御子柴先輩と楽しそうに笑い合っている
隣に並んでいる姿が悔しいくらいにお似合いに見えてしまう
ドクン、と蓮野の胸が嫌な音を立てた
夏祭りの夜、先輩と手を繋いだ時のあの温かいバクバクとは違う
胸の奥がぎゅーっと雑巾を絞られるように痛くて息がうまくできないような感覚
(嫌だ、な… あの人に先輩を触ってほしくない…)
それはただの地味系男子だったはずの蓮野の中に初めて芽生えた、強烈な「独占欲」と「嫉妬」の炎だった
いつもなら先輩の姿を見つけると嬉しそうに目を細めるはずの蓮野がその日は、悲しそうにだけどどこか鋭い目つきのまま、そっと目を逸らしてその場から立ち去ってしまったのだった
◇
「…ん? おい、甘坂離れろ」
俺はふと遠ざかっていくもっさり前髪のジャージの後ろ姿を見つけて強引に甘坂の手を振り払った
(…今、蓮野がいたな …あれ、あいつ、なんであんなに暗い顔して帰ってったんだ?)
胸をよぎる小さな不安
完璧な王子様・御子柴周はまだ気づいていなかった
自分の幼馴染という「特大の爆弾」の出現によって今度はあのピュアなモブ男子の理性が嫉妬によってゴリゴリと狂わされようとしていることに__
九月、残暑が厳しい教室の窓際で俺は頰杖をつきながら、外を歩く生徒たちを冷めた目で見下ろしていた
完璧な王子様・御子柴周としての新学期
今日も朝からファンクラブの女子どもに囲まれ、愛想笑いを振りまくルーティンで早くも脳のエネルギーは空っぽだ
(どいつもこいつも夏休み明けでちょっと日焼けしたからって『先輩、ワイルドで素敵です!』じゃねぇよ 俺の国宝級の美貌は紫外線対策も万全だから一ミリも焼けてねぇよ それより俺は前髪もっさり天然タラシの成分が足りなくて死にそうなんだよ あいつ、二学期が始まってからまた元の地味系モブに戻りやがって…)
そう、夏祭りのあの夜、世界一格好良かった甚平姿の蓮野碧は新学期と同時に幻のように消え去っていた
今のあいつはまた長い前髪をこれでもかと下ろし、黒ぶち眼鏡をかけ、教室の隅で背景と同化している
(…チッ、あの素顔を見ていいのは俺だけだから周りに隠すという意味では大正解だけどよ でも挨拶しに行っても夏祭りの件を思い出して茹でダコみたいに真っ赤になって逃げるのはどうにかしろ 俺の心臓のバタつきが未だに治まらねぇだろ)
そんなことを考えながら放課後、生徒会の用事で校門付近を歩いていた、その時だった
「__周!」
背後からやけに聞き覚えのある、これまた無駄に洗練された高音ボイスが響いた
嫌な予感がして振り返るとそこには我が校の制服ではない、近隣の超お嬢様・お坊ちゃま学校の制服を着た男が立っていた
モデル並みの高身長、綺麗にセットされたプラチナブロンドに近い髪、そして自信に満ち溢れた華やかなハーフ系の顔立ち
他校の有名人であり、俺の幼馴染でもある、ガチハイスペックイケメン__甘坂 紅蓮(あまさか ぐれん)だった
「やっぱり周だ! 近くまで来たから寄ってみたんだ 夏休み中、全然連絡くれないから寂しかったよ」
一ノ瀬はそう言うと周囲の女子生徒たちが「キャー! 誰あのイケメン!?」「少女漫画から出てきたみたい!」と騒ぎ立てるなか、俺の肩を親しげにガシッと抱き寄せてきた
(げっ、甘坂…! 相変わらず香水くっせぇな てか他校の分際で俺の聖域に土足で踏み込んでくんじゃねぇよ不細工 …いや顔は不細工じゃねぇけど性格が無理 離れろ、お前のハイスペックオーラが俺の王子様の営業妨害になるだろ)
心の中では容赦なく罵詈雑言を浴びせながらも俺は自動的に「久しぶり、紅蓮 急にどうしたんだい?」と極上のロイヤルスマイルを返した
他校のイケメンと我が校の王子
誰もが見惚れるような、完璧な「絵になる二人」の空間
しかし、その光景を少し離れた下校用の通路からじっと見つめている影があった
蓮野side
「…あ」
黒ぶち眼鏡の奥の瞳
蓮野碧がカバンを両手でぎゅっと握りしめたまま、立ち尽くしていた
蓮野の視線が俺の肩に回された甘坂の手と俺たちが親しげに笑い合っている(ように見える)姿に固定される
その瞬間、蓮野の胸の奥で今まで経験したことのない、どす黒くて冷たい「モヤモヤ」が、一気に増殖し始めていた
(…誰、だろう あの、ものすごく綺麗な人)
甘坂ぼ完璧な容姿
それは自分のような「モブ」とは次元が違う、本物の主役の輝きだった
そんな人が自分の大好きな御子柴先輩と楽しそうに笑い合っている
隣に並んでいる姿が悔しいくらいにお似合いに見えてしまう
ドクン、と蓮野の胸が嫌な音を立てた
夏祭りの夜、先輩と手を繋いだ時のあの温かいバクバクとは違う
胸の奥がぎゅーっと雑巾を絞られるように痛くて息がうまくできないような感覚
(嫌だ、な… あの人に先輩を触ってほしくない…)
それはただの地味系男子だったはずの蓮野の中に初めて芽生えた、強烈な「独占欲」と「嫉妬」の炎だった
いつもなら先輩の姿を見つけると嬉しそうに目を細めるはずの蓮野がその日は、悲しそうにだけどどこか鋭い目つきのまま、そっと目を逸らしてその場から立ち去ってしまったのだった
◇
「…ん? おい、甘坂離れろ」
俺はふと遠ざかっていくもっさり前髪のジャージの後ろ姿を見つけて強引に甘坂の手を振り払った
(…今、蓮野がいたな …あれ、あいつ、なんであんなに暗い顔して帰ってったんだ?)
胸をよぎる小さな不安
完璧な王子様・御子柴周はまだ気づいていなかった
自分の幼馴染という「特大の爆弾」の出現によって今度はあのピュアなモブ男子の理性が嫉妬によってゴリゴリと狂わされようとしていることに__



