「おい、多すぎるだろ どいつもこいつも家に引きこもってろよな」
神社の鳥居をくぐった瞬間、俺は心の中で毒を吐き散らかしていた
境内はお札を貼ったような不細工ども(※周基準)や家族連れ、浴衣姿のカップルで足の踏み場もないほどごった返している
いつもなら「フン、俺の完璧な浴衣姿にひれ伏せ」と優雅に歩くところだが今の俺にそんな余裕は一ミリもない
(ちっ、人混みがうっとうしい …いやそれより、後ろのあいつがはぐれてないか!?)
何度も後ろを振り返る
甚平姿で前髪を上げた蓮野は初めてのコンタクトレンズのせいで視界の距離感が掴みにくいのか、周囲の人波に押されておろおどとしていた
「わっ、すみません…」
すれ違う人と肩がぶつかり、蓮野の身体がふらりとよろける
いつもの黒ぶち眼鏡という防御壁がないせいでその端正な素顔が人混みの中でやけに無防備に見えた
それを見た瞬間、俺の胸の奥で言いようのない焦燥感が跳ね上がった
(おい、そこの不細工、蓮野にぶつかってんじゃねぇよ てか周りの女子ども、さっきから蓮野の顔ばっかり見やがって あいつのその国宝級の素顔を拝んでいいのは世界で俺だけなんだよ 勝手に見てんじゃねぇ)
心の中で過去最高に傲慢な毒を吐き散らしながら俺は一歩、蓮野の方へと引き返した
「蓮野」
「あ、先輩…っ」
人波に流されそうになっていた蓮野が俺の姿を見つけて縋るように目を向けてくる
その瞬間、俺は考えるより先に自分の右手を伸ばしていた
ガシッ
「…え?」
蓮野の少し大きくてだけど思ったよりも指の細い、温かい手のひらを俺の右手がしっかりと包み込む
蓮野が驚いたように目を丸くした
「せ、先輩…?」
「…うるさい、黙ってろ はぐれたら面倒くさいだろ」
俺は真っ赤になった顔を前方に向けたまま、ぶっきらぼうに言い放った
「お前、コンタクトで足元おぼつかねぇんだからちゃんと俺に掴まってろバカ」
言い訳は完璧なはずだ
なのに握った手のひらから伝わってくる蓮野の体温がダイレクトに俺の脈拍を跳ね上げていく
男同士で手を繋ぐなんて客観的に見れば絶対にイカれてる
だけど今はその繋いだ手を一秒だって離したくなかった
人混みをかき分けるようにして俺は蓮野の手を引いて歩く
握った手に少しだけ力を込めた
(…今度は俺が離さない)
あの雨の日、裏庭で助けられた日、いつもあいつの背中を追いかけてあいつのペースに狂わされてばかりだった
だけど今この瞬間だけは俺が王子様としてあいつを引っ張ってやりたかった
境内の端、少し人が少なくなった大きな木陰まで辿り着き、ようやく足を止める
繋いでいた手を離そうとした、その時
ぎゅっ。
「…え?」
離れるはずだった俺の手を今度は蓮野の方が力強く握り返してきた
驚いて振り返ると髪を上げた蓮野の顔が街灯の光の下で信じられないくらい真っ赤に染まっていた
「…蓮野?」
「あの、先輩…」
蓮野は繋いだ手を見つめたまま、消え入りそうな声で呟いた
「…人混みはすごく怖かったです でも先輩が手を引いてくれた時、なんか…すごく安心したっていうか あの、もう少しだけ、このままじゃダメですか?」
長い前髪がないせいで彼がどれだけ本気でどれだけ恥ずかしそうにしているのかが全部丸見えだった
メガネの奥に隠されていたはずのあの澄んだ瞳がじっと潤んだように俺を見つめている
ドッゴォォォォン!!!
(おい、勘弁してくれ…っ!!!)
俺の心臓は本日何度目かも分からない限界突破の爆発を起こした
無自覚な天然タラシだと思っていた
だけど今のあいつの表情はどう見ても俺と同じ「恋をして狂わされている男」の顔だった
「…勝手にしろ、バカ」
俺はそれだけ吐き捨てるとさらに真っ赤になった顔を隠すように繋いだ手にぐっと力を込め直した
夏の夜風が二人の火照った頬を優しく撫でていく
遠くでお祭りの太鼓の音が響いていた
完璧な王子様・御子柴周はこのきらめく夏のなかでただのモブだったはずの男と完全に心を一つに重ねようとしていた
神社の鳥居をくぐった瞬間、俺は心の中で毒を吐き散らかしていた
境内はお札を貼ったような不細工ども(※周基準)や家族連れ、浴衣姿のカップルで足の踏み場もないほどごった返している
いつもなら「フン、俺の完璧な浴衣姿にひれ伏せ」と優雅に歩くところだが今の俺にそんな余裕は一ミリもない
(ちっ、人混みがうっとうしい …いやそれより、後ろのあいつがはぐれてないか!?)
何度も後ろを振り返る
甚平姿で前髪を上げた蓮野は初めてのコンタクトレンズのせいで視界の距離感が掴みにくいのか、周囲の人波に押されておろおどとしていた
「わっ、すみません…」
すれ違う人と肩がぶつかり、蓮野の身体がふらりとよろける
いつもの黒ぶち眼鏡という防御壁がないせいでその端正な素顔が人混みの中でやけに無防備に見えた
それを見た瞬間、俺の胸の奥で言いようのない焦燥感が跳ね上がった
(おい、そこの不細工、蓮野にぶつかってんじゃねぇよ てか周りの女子ども、さっきから蓮野の顔ばっかり見やがって あいつのその国宝級の素顔を拝んでいいのは世界で俺だけなんだよ 勝手に見てんじゃねぇ)
心の中で過去最高に傲慢な毒を吐き散らしながら俺は一歩、蓮野の方へと引き返した
「蓮野」
「あ、先輩…っ」
人波に流されそうになっていた蓮野が俺の姿を見つけて縋るように目を向けてくる
その瞬間、俺は考えるより先に自分の右手を伸ばしていた
ガシッ
「…え?」
蓮野の少し大きくてだけど思ったよりも指の細い、温かい手のひらを俺の右手がしっかりと包み込む
蓮野が驚いたように目を丸くした
「せ、先輩…?」
「…うるさい、黙ってろ はぐれたら面倒くさいだろ」
俺は真っ赤になった顔を前方に向けたまま、ぶっきらぼうに言い放った
「お前、コンタクトで足元おぼつかねぇんだからちゃんと俺に掴まってろバカ」
言い訳は完璧なはずだ
なのに握った手のひらから伝わってくる蓮野の体温がダイレクトに俺の脈拍を跳ね上げていく
男同士で手を繋ぐなんて客観的に見れば絶対にイカれてる
だけど今はその繋いだ手を一秒だって離したくなかった
人混みをかき分けるようにして俺は蓮野の手を引いて歩く
握った手に少しだけ力を込めた
(…今度は俺が離さない)
あの雨の日、裏庭で助けられた日、いつもあいつの背中を追いかけてあいつのペースに狂わされてばかりだった
だけど今この瞬間だけは俺が王子様としてあいつを引っ張ってやりたかった
境内の端、少し人が少なくなった大きな木陰まで辿り着き、ようやく足を止める
繋いでいた手を離そうとした、その時
ぎゅっ。
「…え?」
離れるはずだった俺の手を今度は蓮野の方が力強く握り返してきた
驚いて振り返ると髪を上げた蓮野の顔が街灯の光の下で信じられないくらい真っ赤に染まっていた
「…蓮野?」
「あの、先輩…」
蓮野は繋いだ手を見つめたまま、消え入りそうな声で呟いた
「…人混みはすごく怖かったです でも先輩が手を引いてくれた時、なんか…すごく安心したっていうか あの、もう少しだけ、このままじゃダメですか?」
長い前髪がないせいで彼がどれだけ本気でどれだけ恥ずかしそうにしているのかが全部丸見えだった
メガネの奥に隠されていたはずのあの澄んだ瞳がじっと潤んだように俺を見つめている
ドッゴォォォォン!!!
(おい、勘弁してくれ…っ!!!)
俺の心臓は本日何度目かも分からない限界突破の爆発を起こした
無自覚な天然タラシだと思っていた
だけど今のあいつの表情はどう見ても俺と同じ「恋をして狂わされている男」の顔だった
「…勝手にしろ、バカ」
俺はそれだけ吐き捨てるとさらに真っ赤になった顔を隠すように繋いだ手にぐっと力を込め直した
夏の夜風が二人の火照った頬を優しく撫でていく
遠くでお祭りの太鼓の音が響いていた
完璧な王子様・御子柴周はこのきらめく夏のなかでただのモブだったはずの男と完全に心を一つに重ねようとしていた



