「…あいつ、遅ぇ 俺を10分も待たせるなんていい度胸じゃねぇか」
土曜日の夕方18時10分
俺は夏祭りの最寄り駅の改札前で片手をポケットに突っ込んでイライラと貧乏ゆすりをしていた
今日の俺のコーディネートは完璧だ
お洒落なネイビーの浴衣に髪型も美容室帰りのクオリティでセットしてある
通りすがる女子たちが「え、あの人めっちゃイケメン…」「モデル?」とかヒソヒソ言っているがそんな不細工どもの戯言は今の俺の耳には一ミリも入らない
(あいつ、まさか道場で一本背負いの練習に夢中になって忘れてんじゃねぇだろうな もしドタキャンだったら俺のガラスのハートが粉々に砕け散って新学期から不登校になるぞ__)
そんなド黒い妄想を爆走させていた、その時だった
「あの…御子柴、先輩?」
人混みの向こうから聞き慣れた、だけど少し緊張したような低音ボイスが聞こえた
「やっと来たかモブめ!」と毒づきながらバッと振り向いた俺は次の瞬間、文字通り息を呑んで硬直した
「すいません、慣れないことしてたら遅くなっちゃって…」
そこに立っていたのは俺の知っている「地味系モブの蓮野悠馬」ではなかった
すっきりとした黒の甚平を着こなし、いつも目を覆っていたあの長い前髪がふいっとラフに上へと上げられている
おまけにトレードマークだった黒ぶち眼鏡の代わりにコンタクトレンズを入れているらしく、遮るもののないその素顔が完全に露出していた
夕暮れの街灯の下
すっきりと高い額、まっすぐに通った鼻筋、そして少し気怠げで暴力的なまでに美しい二重の切れ目の瞳
実家の古武道で鍛え上げられた、無駄のない男らしい体躯が甚平の隙間から覗く鎖骨のラインをいやらしく強調している
(…は????? 誰?????)
心の中の毒舌マシーンがあまりの衝撃にフリーズどころか消滅した
待て、おかしいだろ
モブ? 背景?
冗談言え、隣の女子たちが「え、あの甚平の人やばい…」「俳優?」とか言って俺の時よりデカい黄色い悲鳴を上げ始めてるじゃねぇか
(おい待て、全然モブじゃねぇだろ! 隠れチートにも程があるわ!! 国宝級の顔面は俺じゃなくてお前かよ!?)
心の中で大絶賛の嵐を巻き起こしながら俺は真っ赤になった顔を隠すように咄嗟に口元を片手で覆った
心臓が見たこともないほどの爆速でトクトクと暴れ狂っている
「あの先輩…? やっぱり僕、変ですかね? 姉貴に前髪上げろって強制されてコンタクトも無理やり入れられたんですけど…視界がハッキリしすぎてなんか落ち着かなくて」
蓮野は恥ずかしそうに前髪のなくなった額をさすりながら上目遣いで俺の顔を覗き込んできた
遮るもののないその澄んだ瞳がまっすぐにダイレクトに俺の目を射抜く
(無理、格好良すぎる 直視したら俺の脳細胞が消滅する)
「…へ、変じゃねぇよ お前、普段からその格好しろよバカ」
「え? あ、良かった… 先輩の浴衣姿、すごく格好いいから隣に並ぶのめちゃくちゃ緊張してたんです」
蓮野はほっとしたようにふにゃりと優しく笑った
前髪を上げたその素顔でそんな無防備な笑顔を向けられるなんて俺のライフはもう完全にゼロだ
「…行くぞ 早くしないと屋台が混む」
「あ、待ってください先輩!」
俺は真っ赤になった耳の裏を隠すようにスタスタと大股で歩き出した
背後からついてくる蓮野の気配を感じながら俺は心の中でついに血の涙を流しながら敗北を確信していた
(あーあ… 俺に惚れさせてフるどころか、これじゃ俺が一方的にあいつの沼に溺死させられるだけじゃねぇかチクショウ…!!)
きらめく夏の夜
王子様・御子柴周は髪を上げた「最強のモブ」の眩しさに完全に目を眩まされていた
土曜日の夕方18時10分
俺は夏祭りの最寄り駅の改札前で片手をポケットに突っ込んでイライラと貧乏ゆすりをしていた
今日の俺のコーディネートは完璧だ
お洒落なネイビーの浴衣に髪型も美容室帰りのクオリティでセットしてある
通りすがる女子たちが「え、あの人めっちゃイケメン…」「モデル?」とかヒソヒソ言っているがそんな不細工どもの戯言は今の俺の耳には一ミリも入らない
(あいつ、まさか道場で一本背負いの練習に夢中になって忘れてんじゃねぇだろうな もしドタキャンだったら俺のガラスのハートが粉々に砕け散って新学期から不登校になるぞ__)
そんなド黒い妄想を爆走させていた、その時だった
「あの…御子柴、先輩?」
人混みの向こうから聞き慣れた、だけど少し緊張したような低音ボイスが聞こえた
「やっと来たかモブめ!」と毒づきながらバッと振り向いた俺は次の瞬間、文字通り息を呑んで硬直した
「すいません、慣れないことしてたら遅くなっちゃって…」
そこに立っていたのは俺の知っている「地味系モブの蓮野悠馬」ではなかった
すっきりとした黒の甚平を着こなし、いつも目を覆っていたあの長い前髪がふいっとラフに上へと上げられている
おまけにトレードマークだった黒ぶち眼鏡の代わりにコンタクトレンズを入れているらしく、遮るもののないその素顔が完全に露出していた
夕暮れの街灯の下
すっきりと高い額、まっすぐに通った鼻筋、そして少し気怠げで暴力的なまでに美しい二重の切れ目の瞳
実家の古武道で鍛え上げられた、無駄のない男らしい体躯が甚平の隙間から覗く鎖骨のラインをいやらしく強調している
(…は????? 誰?????)
心の中の毒舌マシーンがあまりの衝撃にフリーズどころか消滅した
待て、おかしいだろ
モブ? 背景?
冗談言え、隣の女子たちが「え、あの甚平の人やばい…」「俳優?」とか言って俺の時よりデカい黄色い悲鳴を上げ始めてるじゃねぇか
(おい待て、全然モブじゃねぇだろ! 隠れチートにも程があるわ!! 国宝級の顔面は俺じゃなくてお前かよ!?)
心の中で大絶賛の嵐を巻き起こしながら俺は真っ赤になった顔を隠すように咄嗟に口元を片手で覆った
心臓が見たこともないほどの爆速でトクトクと暴れ狂っている
「あの先輩…? やっぱり僕、変ですかね? 姉貴に前髪上げろって強制されてコンタクトも無理やり入れられたんですけど…視界がハッキリしすぎてなんか落ち着かなくて」
蓮野は恥ずかしそうに前髪のなくなった額をさすりながら上目遣いで俺の顔を覗き込んできた
遮るもののないその澄んだ瞳がまっすぐにダイレクトに俺の目を射抜く
(無理、格好良すぎる 直視したら俺の脳細胞が消滅する)
「…へ、変じゃねぇよ お前、普段からその格好しろよバカ」
「え? あ、良かった… 先輩の浴衣姿、すごく格好いいから隣に並ぶのめちゃくちゃ緊張してたんです」
蓮野はほっとしたようにふにゃりと優しく笑った
前髪を上げたその素顔でそんな無防備な笑顔を向けられるなんて俺のライフはもう完全にゼロだ
「…行くぞ 早くしないと屋台が混む」
「あ、待ってください先輩!」
俺は真っ赤になった耳の裏を隠すようにスタスタと大股で歩き出した
背後からついてくる蓮野の気配を感じながら俺は心の中でついに血の涙を流しながら敗北を確信していた
(あーあ… 俺に惚れさせてフるどころか、これじゃ俺が一方的にあいつの沼に溺死させられるだけじゃねぇかチクショウ…!!)
きらめく夏の夜
王子様・御子柴周は髪を上げた「最強のモブ」の眩しさに完全に目を眩まされていた



