王子様の俺はモブに落ちました。

「認める 認めます 認めりゃいいんだろチクショウ!!!」
ドサァッ!! と本日何度目か分からない派手な音を立てて俺は自室のベッドにダイブした
お気に入りの高級シルククッションを顔面に全力で押し付け、思いきり絶叫する
裏庭で蓮野に助けられてからどうやって家に帰ってきたのか記憶がない
気づいた時には自分の部屋にいて鏡を見ればそこにはおよそ学園の王子様とは言えないほど茹で上がったタコみたいに真っ赤な顔をした男がいた
胸に手を当てるとドクドク、ドクドクとうるさいくらいの脈拍が手のひらを突き抜けてくる
目をつぶればあの裏庭の光景がありありと蘇るのだ
俺の前に割って入った、蓮野の広い背中
不審者を一瞬で叩きつけた、鮮やかな一本背負い
そして前髪の隙間から俺を射抜いた、あの鋭くて冷徹な、だけど暴力的に格好いい三白眼__
(思い出すだけで心臓が爆発する!!!なんだよあのモブ!!メガネ外したらルーブル美術館の彫刻レベルの美形で中身は天然タラシのくせに実は古武道の達人でフィジカルゴリラって属性盛りすぎだろ!! バグかよ!!)
心の中で限界突破の毒(というかただのオタクの叫び)を吐き散らかしながら枕に頭を何度も打ち付ける
今まで俺の周りにはたくさんの人間がいた
俺の完璧な顔面と完璧な王子様の演技に騙されて黄色い悲鳴をあげる女子たち
都合よく頼ってくる教師やクラスメイト
みんな、俺が作った「仮面」しか見ていなかったし俺もそんな奴らを見下して優越感に浸っていた
なのにあいつは違った
視力が0.03のド近眼のくせに俺が無理して笑っているのを真っ先に見抜いた
「僕の前ではそんなに頑張って笑わなくても大丈夫」なんて俺のひねくれた心を優しく溶かすような言葉をくれた
あげくの果てにはピンチの時にヒーローみたいに現れて俺を命がけ(?)で守ってくれたのだ
「…はぁ」
クッションから顔を上げ、天井を見つめる
ゆっくりと自分の胸に触れるとまだあの裏庭での蓮野の道場の畳のような、お日様のような匂いが鼻腔に残っている気がした
もう言い訳はできない
バグでも夕方の西日の錯覚でも介護の心配でもない
「…俺、あいつのこと、めちゃくちゃ好きだわ」
静かな自室に俺の小さな、だけど明確な降伏宣言が響いた
あんな前髪もっさりの地味系男子に
お世辞にも「スクールの主役」とは言えない、ただの背景のモブに
学園の頂点に君臨する王子様であるこの御子柴周が完全に完膚なきまでに恋に落ちたのだ
「あーあ…まじで落ちちゃったよ よりによってあんな底なしのモブ沼にさ…」
そう呟いた瞬間、なぜか胸の奥がすっと軽くなるのを感じた
あいつを惚れさせてフってやる、なんて傲慢なプライドはもう粉々に砕け散って跡形もない
今はただ、明日学校であいつに会った時、どんな顔をすればいいのか分からなくてそれだけで心臓が甘酸っぱく締め付けられる
「…明日、お弁当の卵焼き、残さず食ってやるからな」
真っ赤な顔のまま、布団に潜り込む
腹黒王子のプライドまみれの抵抗はここで完全終了
ここからは恋心を自覚した周が無自覚な天然タラシの蓮野にさらに狂わされていく本格的なラブストーリーの幕開けだ
まずは明日の朝、あいつの顔を直視できるかどうかが俺の当面の死活問題だった