王子様の俺はモブに落ちました。

「テストが終わったからって神様は俺に優雅な休日をくれるわけじゃないらしい」
放課後、俺は校舎の裏庭、人気のない木陰に呼び出され、心の中で限界突破の罵詈雑言をぶちまけていた
目の前には絵に描いたようなガラの悪い他クラスの不良生徒が三人
「おい、御子柴ぁ お前いっつも調子乗ってスカしてんじゃねぇぞ」
「ちょっと顔が良くて頭が良いからって女子にチヤホヤされやがってよぉ 少しは痛い目見ねぇと分かんねぇか?」
(は? 何言ってんだこのドブネズミども 調子に乗ってんのはお前らの顔面だろ 神様がパーツの配置を適当に投げ捨てたような不細工面(※周基準)して俺に話しかけんじゃねぇよ そのドブみたいな声が俺の極上の鼓膜を汚すだろ おい、そこのニキビ面、胸ぐら掴もうとすんな 制服に触るな、汚れるだろ)
心の中では容赦なく相手をゴミ呼ばわりして毒を吐き散らかしているがここは学校の敷地内だ
誰が見ているか分からない
俺は一瞬で脳のスイッチを切り替え、フッと哀れみの光を宿した完璧な「聖母の微笑み」を顔に貼り付けた
「みんな、落ち着いて 俺が何か君たちの気に障ることをしたなら謝るよ でも暴力は何も生まないんじゃないかな?」
声音も100点満点の爽やかさ
我ながら完璧な王子様対応だ
だが今日の不良どもはいつもより執拗だった
俺のその態度がさらに神経を逆撫でしたらしい
「あ? 何その余裕ぶったツラ まじムカつくんだよ!」
一人がドスの利いた声を上げ、拳を大きく振り上げた
(チッ、まじで面倒くせぇな… これ、避けて殴り返したら俺の優等生ライフが終わるし、かと言って無抵抗で殴られるのも俺の国宝級の顔面に傷がつくから絶対に嫌だぞ どうすっかな__)
俺が心の中で最善の脳内シミュレーションを高速回転させていた、その時だった
「__待ってください!」
背後から静かだけど驚くほど芯の通った低音ボイスが響いた
バッと全員の視線がそっちを向く
木陰から息を切らせて走ってきたのは大きすぎる制服のジャケットを着た、もっさり前髪の男
…蓮野碧だ
「は? 誰だお前、モブが首突っ込んでんじゃねぇよ」
不良が吐き捨てる
(蓮野!? なんでお前がここに…って、バカ、来るな! 巻き込まれるだろお前みたいなひ弱なモブが!)
俺は一瞬で王子様の仮面が引き剥がされそうになり、焦って声を張り上げた
「蓮野くん! ダメだ、君には関係ないから早く戻るんだ!」
しかし蓮野は俺の言葉を無視してまっすぐに俺たちの間に割って入った
いつもはおどおどしてお弁当箱を大事そうに抱えている地味系男子の背中
だけど今の彼の背中は不思議なほどにどっしりと大きく見えた
蓮野はゆっくりと顔を上げ、黒ぶち眼鏡の位置を指先でクイッと直した
前髪の隙間から覗くその瞳はいつもの眠そうな光を完全に失い、驚くほど鋭く、冷たい光を放っている
「…御子柴先輩から手を離してください」
低く、地を這うような蓮野の声が裏庭の不穏な空気をピシッと凍りつかせた
「あんだと、コラ!? やんのかモブが!!」
不良のリーダー格がイラついた様子で蓮野の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす
(あ、まずい__!)
俺が咄嗟に蓮野を庇おうと身体を動かした、その一瞬の出来事だった
蓮野は不良が伸ばしてきた右腕の手首を目にも留まらぬ速さでガシッと掴み取った
そのまま、流れるような動作で相手の身体を引き込み、足を一歩踏み出す
クルッ、ドサァァァンッ!!!!
「ぶふぇっ!?」
派手な衝撃音と共に不良のリーダー格が見事なまでの綺麗な一本背負いで地面に叩きつけられていた
「え…?」
「は…?」
俺も残りの不良二人もあまりの光景に開いた口が塞がらない
地面に転がった男は背中を強打して「ガハッ……」とカエルの潰れたような声を上げて悶絶している
蓮野は乱れた前髪をふいっと片手で払い、残りの不良二人を冷徹極まりない三白眼でギロリと見下ろした
「…僕の実家、古武道の道場なんです …まだ続けますか?」
その圧倒的な威圧感(本物の覇気)に残りの不良二人は完全に腰を抜かし、「ひ、ひえぇぇぇ!」と悲鳴を上げながら、悶絶するリーダーを引きずって一目散に逃げ出していった
静まり返る裏庭
残されたのは完璧な王子様(笑)の俺と地味系モブ(物理最強)の蓮野の二人だけ
(…は?????)
俺の心の中の毒舌マシーンは本日、完全にバグを起こして爆発した
待て、何だこれ
少女漫画? ラブコメ?
違う
これ、完全にジャンルが「格闘アクションモノ」だろ
しかも、俺が王子様であいつがモブのはずなのに…
(俺、今、完全に…ヒロインのポジションじゃねぇかぁぁぁーーーー!!!!)
少女漫画のシチュエーションをバグらせた、衝撃の裏庭の決闘
王子のプライドどころか生物としてのヒエラルキーすらも完全にひっくり返された御子柴周は目の前でメガネを直す「最強のモブ」を前にただ呆然と立ち尽くすしかなかった