「今年はこれで、っと」
あの日の思いつきが功を奏して、俺の作品は彼をモチーフにしたファンタジーな絵を描くことに決めた。
画材については改めて考えることにしたが、形になると分かれば、腰の重い俺も、作業の手は軽くなった。
事前準備の下絵を描きながら、ふと、ヒロトくんのことを思い出すこともあった。
しかし、今のところ、一年生の教室付近に様子を見に行くことはないだろうと思う。
「……名前言いそびれたな」
「あ、ヒロ部長もしかして彼女?」
「むしろその前にナンパしたってこと?」
恋バナと思ったのか、作業を進めながら双子は俺に話しかけてきた。
「そういうのじゃないけど、まあそんな感じ」
「これだから部長は」
「抜けてるーって言われるんだよね」
クスクス笑う彼女らに、不快感はない。
それ以上に、ヒロトくんが生み出してくれた世界への想像を膨らませる。
中学生くらいに見えた彼の未来の姿を考えてみる。
大人になって、スーツなんか着ていたら、を絵にしてはどうだろうか。いや、自分の中にそういうスーツの大人のイメージはあまりない。
入学式とか卒業式の親や先生たち、と思ったけれど、みんな四角四面の正面写真だし、なかなか想像がしにくい。
かといって、ドラマをわざわざ見て観察するのはなんか違う気がする。
一応、本人の顔は使わないと言ったけれど、妄想の姿ならアリだろうか。
似せなければいいかと思うが、リアリティを持たせるなら、ちゃんと本人に聞いてやってみたいところではある。
下絵を更紙に描きながら、俺は考える。
アクリルはほかの部員と被るからナシとして、少しばかり立体感があったほうがいい気がしてきた。
うちの学校にあるもの、と考えると油絵の具なら許される気がしてきた。
「……やってみるか」
これまで、できるだけ自然な色合いの水彩をメインにしていたが、これも最後だと割り切って、俺は油彩に向き合うことにした。
去年の授業ぶりに開く油彩ケース。その内側で固まっている絵の具をそぎ落とす作業もきっと楽しいだろう。
どうせこれだけ大きな絵を描くのも最後だ。だったらできるだけ、新しいことがしてみたい。
そのほうが、彼を描く意味があるに違いない。
そんな心持ちで、俺は毎日を過ごせるようになっていた。


