新学期、やっと新入生も部活を決め切った時期。
全員合わせても十名に満たない美術部に、新緑の風が届き始めた。
男女混合、比率も半々なうちの部活は他校に比べてゆるさがかなりあるらしく、作品も自由に作ることができるので、少しだけ何かを作ることに興味がある人にはよい場所だと思う。
一方で、体育会のように「優秀賞を目指す!」というタイプの人間には、不向きだと思う。
良くも悪くも、自由人の集まり。それがうちの良いところ、らしい。
「なんにも決めてない俺が言うのもなんだけど、高文連の課題、今週中に先生に言わなきゃならないから、みんなよろしく」
珍しく、部員がほぼ全員集まった美術室で、俺はできるだけみんなに届くように声をかけた。
正直、聞こえていない人たちは、その高文連に出す作品を作っているところだから、聞かずとも構わないと思う。
「ねえ部長は今年どうすんの」
「また自画像?」
「えーっと……」
二年の双子姉妹が、俺に声をかけてきた。彼女らは、色使いは全く違うのに、二人で一つのような作品づくりをしたことで、周囲の評価は高い。
「私たちはアクリルって決めてんだけど、被るのヤだし」
「そうそう。比較対象は少なければ少ないほどいい」
「……そう、だよね」
そして、その評価に驕ることなく、上を目指そうとするタイプだ。
正直、そこまで頑張る気力もないので、彼女らには正直頭が上がらない。
一応、被らないほうがいいかもと「モチーフは」と聞けば、二人は「もうばっちり」「部長と被らなければ」と続けて答えられてしまった。
「……うらやましいことで」
「なんか言った?」
「言い訳?」
突っ込まれたということは、懐いてはくれているのだろう。
とはいえ、プレッシャーには変わりはない。
「とりあえず、今週中には、報告するから」
「「はーい」」
後輩達のテンションに押されるまま、俺は颯爽と帰宅を選択した。
昨年、必死で作品づくりをしていたというのに、もう新しい作品のことを考える必要がある。
それがしんどくない人間が、創作という世界に没頭できるのだろう。
うらやましいこと、この上ない。
「制作しない部長とか、ひどすぎるだろ……」
焦る気持ちと、どうでもいいと考えてしまう自分とで板挟みになってしまった。
理由は簡単だ。飽きたのだ。
作ることも、評価されることも。
どうせ、進路は決まっている。近所の大学はそれなりの成績があればするっと合格できると聞く。
試験さえきちんとこなしていれば、滑り止めにしては十分だと言われているので、そこまで焦りはない。
そのせいか、刺激がない生活に慣れてしまって、新しく何かを作ろうという気概が湧かない。
去年、自分の作品をどうするのか迷っていたとき、先生からは「なにもないなら、自画像をテーマにしなさい」と言われ、ひたすら、自分が収まるようなサイズのキャンバスに向かって、自らを写すように描き上げた。
一生終わらないかと思っていたその制作も、締め切りがあるので、最後の一筆と決める瞬間は確かにあった。
正直、自分の中に生まれた気持ちは、「世界をそのまま描くのに疲れた」ということだった。
どれだけ写実的に、見たままを描いたつもりでも、どこかで自分が出てくるのが自画像なんだと思う。
公民館で展示されていたそれを見た近所の人たちには、似てるとか、上手いとか言われたけれど、俺よりすごい奴はもっといて。
「……はあ」
誰もいない廊下で、息を大きく吐き出す。
なんなら、美術部にいるみんなは俺よりすごいやつらばっかりだ。
だからこそ、「部長」なんて面倒な肩書きが、俺の元にやってきているのだ。やりたくなければやらなきゃいいのに、結局そのネームバリューに乗っかっている俺も往生際が悪い。
受験勉強も、減ってはいないが増えても居ないという絶妙なさじ加減でしているし、一生一度がどんどん迫ってきているのに、一向にやる気は芽生えない。
淡々と、粛々と。
それが俺の毎日で当たり前だった。


