何だかちょっぴり不安になってきた。
あんなに大きくて立派な体格をしている茶トラ猫が傷だらけになっていて、危険だからと教えてくれる外の世界が……。
呆けたようにそのまま座っていると、物陰から囁くような話し声が聞こえてきた。
ー おい、あいつどこのヤツだ?
ー 知らないなぁ……、いままで見たことないぞ。
ー 茶トラのやつの仲間か?
ー だとしたら、今のうちにここの上下関係を叩きこまないとな。
恐る恐る囁き声が聞こえる方に目を遣ると、そこにはメチャクチャガラの悪そうなサバトラ、キジトラ、白黒ブチの三匹が僕を睨んでいた。
素知らぬ顔で前を向いて、次に隠れる場所の見当をつける。
かなり先のほう、道路を渡ると一面ガラス張りのお店があった。軒先には大きな犬が座っている。
よし、あそこに逃げ込もう。
もし追い掛けられたりしたら、あの犬に助けを求めればいい。さすがにあの大きな犬のうしろに隠れれば、絡んでくることもないだろう。
青い空を見上げてキレイだなー。いい天気だなーと呟き、僕は無邪気です。無害な猫ですと、さり気ないアピールをしながらひょこひょこと歩きはじめた。
ー あのガキ、どこかに逃げるつもりか?
ー この地域じゃ見かけない面だから、縄張りの下見に来ているとか……。
ー おい、後を追うぞ。背後に凶暴なヤツがいないとも限らんからな。
うわ……、追って来たよ。
耳を後ろに反り返し、足音と気配を探る。
約十メートル離れた距離を取って追ってきている。
どうしよう……。
よし、あの道路を全速力で渡って、犬のいるお店まで走るんだ。
覚悟を決めた僕は周りを見ることも忘れ、慌てて駆け出した。
「あっ、猫が飛び出した」
「きゃっ、轢かれちゃう」
「危ない!!」
人の悲鳴が飛び交った。
途端、耳をつんざくようなタイヤの泣き叫ぶ音とクラクションが辺りに響いた。それは右から聞こえたと思うと、次は左側から同じようにクラクションとキキキッとタイヤの音が響く。
右からくる車は避けられたが、左側の車を見て足がすくんだ。
目の前にとても大きな車が僕に向かって襲い掛かってきていたからだ。
恐怖で動くことも鳴くことも出来ず、ただ車が覆いかぶさるようにしてくるのを見ていることしか出来なかった……。
ー おいおい、あのガキ轢かれちまったよ……。
ー しかもトラックだぜ……。きっと跡形もないくらいにペシャンコだ。
ー ありゃ、どこかの飼い猫だな。世間も道路の渡り方も知らない、箱入り猫だ。なんまんだぶと……。
ー よぉし。皆、行こうぜ。夜になったら縄張りのパトロールだ。
ー ああ、それまで何処か涼しいところを探して寝ていようぜ。
うっすらと目を開けてみた。
僕は大きな車のタイヤの脇、ギリギリのところで蹲っていた。
車の運転手が下を覗き込んで、大きな溜息を吐いたあとに叫んだ。
「良かった!! 仔猫は無事だぞー!!」
周りから安堵のような溜息と歓声が上がった。
何人かの人が代わる代わる下を覗き込んでいる。
すると柔らかな手がそっと差し伸べられ「仔猫ちゃん、こっちに出ておいで」と、喉元を撫でてくれた。
声にならないような小さな鳴き声を上げて、僕はその手に擦り寄った。
その手は優しく僕の首元を掴んで車の下から引き上げてくれた。
拍手が聞こえ、車の運転手や周りにいた人たちは口々に無事で良かったね。どこの飼い猫だろうと話しながらその場を離れて行った。
僕は見知らぬ女性の腕に抱かれたまま動けなかった。
ケガをしたわけじゃない。ただ、あまりにも外の世界が怖くて、これからどうしていいのか分からなかったから……。
あんなに大きくて立派な体格をしている茶トラ猫が傷だらけになっていて、危険だからと教えてくれる外の世界が……。
呆けたようにそのまま座っていると、物陰から囁くような話し声が聞こえてきた。
ー おい、あいつどこのヤツだ?
ー 知らないなぁ……、いままで見たことないぞ。
ー 茶トラのやつの仲間か?
ー だとしたら、今のうちにここの上下関係を叩きこまないとな。
恐る恐る囁き声が聞こえる方に目を遣ると、そこにはメチャクチャガラの悪そうなサバトラ、キジトラ、白黒ブチの三匹が僕を睨んでいた。
素知らぬ顔で前を向いて、次に隠れる場所の見当をつける。
かなり先のほう、道路を渡ると一面ガラス張りのお店があった。軒先には大きな犬が座っている。
よし、あそこに逃げ込もう。
もし追い掛けられたりしたら、あの犬に助けを求めればいい。さすがにあの大きな犬のうしろに隠れれば、絡んでくることもないだろう。
青い空を見上げてキレイだなー。いい天気だなーと呟き、僕は無邪気です。無害な猫ですと、さり気ないアピールをしながらひょこひょこと歩きはじめた。
ー あのガキ、どこかに逃げるつもりか?
ー この地域じゃ見かけない面だから、縄張りの下見に来ているとか……。
ー おい、後を追うぞ。背後に凶暴なヤツがいないとも限らんからな。
うわ……、追って来たよ。
耳を後ろに反り返し、足音と気配を探る。
約十メートル離れた距離を取って追ってきている。
どうしよう……。
よし、あの道路を全速力で渡って、犬のいるお店まで走るんだ。
覚悟を決めた僕は周りを見ることも忘れ、慌てて駆け出した。
「あっ、猫が飛び出した」
「きゃっ、轢かれちゃう」
「危ない!!」
人の悲鳴が飛び交った。
途端、耳をつんざくようなタイヤの泣き叫ぶ音とクラクションが辺りに響いた。それは右から聞こえたと思うと、次は左側から同じようにクラクションとキキキッとタイヤの音が響く。
右からくる車は避けられたが、左側の車を見て足がすくんだ。
目の前にとても大きな車が僕に向かって襲い掛かってきていたからだ。
恐怖で動くことも鳴くことも出来ず、ただ車が覆いかぶさるようにしてくるのを見ていることしか出来なかった……。
ー おいおい、あのガキ轢かれちまったよ……。
ー しかもトラックだぜ……。きっと跡形もないくらいにペシャンコだ。
ー ありゃ、どこかの飼い猫だな。世間も道路の渡り方も知らない、箱入り猫だ。なんまんだぶと……。
ー よぉし。皆、行こうぜ。夜になったら縄張りのパトロールだ。
ー ああ、それまで何処か涼しいところを探して寝ていようぜ。
うっすらと目を開けてみた。
僕は大きな車のタイヤの脇、ギリギリのところで蹲っていた。
車の運転手が下を覗き込んで、大きな溜息を吐いたあとに叫んだ。
「良かった!! 仔猫は無事だぞー!!」
周りから安堵のような溜息と歓声が上がった。
何人かの人が代わる代わる下を覗き込んでいる。
すると柔らかな手がそっと差し伸べられ「仔猫ちゃん、こっちに出ておいで」と、喉元を撫でてくれた。
声にならないような小さな鳴き声を上げて、僕はその手に擦り寄った。
その手は優しく僕の首元を掴んで車の下から引き上げてくれた。
拍手が聞こえ、車の運転手や周りにいた人たちは口々に無事で良かったね。どこの飼い猫だろうと話しながらその場を離れて行った。
僕は見知らぬ女性の腕に抱かれたまま動けなかった。
ケガをしたわけじゃない。ただ、あまりにも外の世界が怖くて、これからどうしていいのか分からなかったから……。
