女を奪われた男装書生は、黒の妖王の執愛に花開く【マンガシナリオ】

6話 「決別」

○葛葉家・本館・廊下~真白の寝室の前(夜)
お盆に小さな土鍋に入ったお粥を乗せて真白の寝室へ運ぶ律。

○葛葉家・本館・真白の寝室(夜)
真白の部屋に入ってきた律。
ベッドの上では真白が上体を起こしていた。微笑む律。
律「起きていらっしゃったのですね。具合はいかがですか」
真白「大丈夫。熱っぽくはあるけどね」
枕を背もたれにして体を預け、白くゆったりとした寝衣を着ている真白。
いつもは隠れている狐耳と九本の尻尾が出てきている。
笑みを浮かべているが、熱で顔が赤い。
律M(旦那様は普通の妖怪と比べて膨大な妖力を持つが、時折それが暴走し体調を崩す)
律は真白の側へ移動する。
律M(数週間前に体を壊したときは、井伊さんが世話していたが)(今回は僕でいいのだろうか)
ベッド脇の椅子に座る律。
側にある物置台にお粥を置こうとするが、そこには見合いの釣書や手紙が山積みに。
真白「井伊の仕業。早く結婚しろって」
真白はため息をついて手紙や釣書を手に取り、律から遠い側の枕元に置く。
律M(妖怪の妖力は人間との婚姻で安定するらしい)(だが求められているはずなのに、旦那様が見合いをしている様子はない)
律、空いた物置台にお粥のお盆を置きながら、
律M(誰か心に決めた相手でもいるのだろうか)
と思い、ずきんと心が痛くなる。
だが律は、すぐに真剣な顔で真白のベッドの向こうに視線を向ける。
(※その向こうにある金庫に意識を向けている)
律M(…動くなら今日が好機だ)
そんな律を、真白は冷めた瞳で見つめている。
(※熱が出た時点で律が行動を起こそうとしているのを、真白は予測しており、実際に律が行動にでるかどうか様子をうかがっている。読者に違和感を与えられるくらいの表現で問題ありません)
律、真白に笑みを向けながら、
律「お粥を持ってきました。食べられますか?」
真白はすぐに表情をゆるめ、
真白「うーん…無理かも。だるくて腕が上がらなーい」
と、わざとらしく苦しそうな顔をする。
律、真白の嘘に気付いて白い目をしながら、
律「…嘘ですよね?」
真白、顔を手で覆って泣き真似をしながら、
真白「だるいなぁ、苦しいなぁ、律に食べさせてほしいなぁー」
と言って、チラと律の方を見る。
律M(腕、上がっているじゃないか…)
律、根負けしてため息をつき、匙を手に取り粥を掬う。
律「ほら、口を開けてください」
真白は満足げに口を開くと、律に粥を食べさせてもらう。
真白「おいしいねぇ。律が作ったの?」
律「半分は…。使用人の方々を手伝ったんです」
律M(旦那様が喜ぶと、みんなに言われて…)
律の回想。
猫又や狸の女性使用人たちが、お粥を作る律をあたたかく見守っている絵。
回想が終わり、笑顔の真白。
真白「そうなんだ。ありがとう、今まで食べたどのお粥よりもおいしいよ」
真白が幸せそうに笑うので、律は恥ずかしくなり顔を赤らめる。
律「も、もういいでしょう。続きはご自分で」
真白「え…最後まで食べさせてくれないの?」
真白の頭の狐耳と、九本の尻尾が悲しそうにしゅんと倒れている。
動物的なかわいらしさにキュンとしてしまう律。
律「…今日だけですからね」
しぶしぶ匙を再び手に取り、真白に「あーん」をする律。
真白は嬉しそうに微笑むと、再び口を開ける。

   ×××

空になった土鍋を描く。
真白はあくびをしながら布団に横たわり、上目遣いで律を見上げる。
真白「ねぇ、子守歌でも歌ってよ」
片付けをしようとしていた律、一瞬目を見開き、すぐに目をそらす。
律「…すみません。あまり知らないんです」
真白、目を瞬かせ、
真白「小さい頃…歌ってもらったりしなかったの?」
律「記憶もないので、恐らくは」
真白「…ごめん、辛いことを言わせてしまったね」
律「かまいません。もう、なんとも思っていませんから」
悲しげな顔をする真白に、律は微笑む。
真白はしばし沈黙した後、口を開く。
真白「…律は、どんな家で育ったの?」「言いたくないならいいんだけど」
律、少し躊躇う。
律M(本当のことは話せない)(でも…これが、最後になるだろうから)
椅子から立ち上がり、真白の頭の横、ベッドの端に座り直す律。
真白に背を向けており、彼の顔は律から見えない位置にある。
律、正面を見ながら語り始める。
律「厳しい、家でしたね」「親の言うことが絶対で、自由はほとんどありませんでした」
律、自分の体を見下ろしながら、
律「期待に応えられるよう、僕なりに頑張ってきたんです」「…本当の自分を偽ってでも」
真白「…辛かったね」
律「慣れましたから」
律、俯いたまま自嘲するように笑った後、顔をあげる。
律「でも今は…真白様によくしていただいているので、とても楽しいですよ」
律M(任務さえなければ、それは紛れもない事実)
律の回想。
政府要人を探る律の姿や、諜報員とばれて追われる律の姿をダイジェスト的に描く。
律M(探り、疑うばかりだった日々)
真白の側付きとして、朝の手伝いをしたり、一緒に買い物をしていた律をダイジェスト的に描く。
律M(葛葉家での旦那様との日常は――初めて手に入れた普通の生活と呼べるものだった)(捨てるのが、惜しくなるほどに)
回想終わって、現在の律。
ベッドの端に座ったまま、悲しげに笑う律。
律M(異能で自分の縁は見えない)(けれど見ることができたなら…赤い良縁だったのだろうと思ってしまう)
律の想像。
真白が律に手を差し伸べ、律はその手を取ろうとするところを描く。
二人の左手の薬指には赤い糸が巻き付き、互いに繋がっている。
想像が終わり。
涙が溢れそうになるのをこらえ、肩をふるわせている律を描く。
その腰に、後ろから真白の手が回る。
真白「大丈夫だよ、律」
真白が目を閉じ、律を背中からそっと抱きしめている。
律は大きく目を見開く。
真白の瞳には、律に対する執着が滲んでいるが、彼女は背を向けているので気付かない。
真白「この先もしもなにかあったら、僕のところにおいで。絶対に助けてあげるから」
真白の腕の力が緩む。
律が振り返ると、寝息を立てている真白の姿が。
律、そっと真白の腕から抜けて、明かりを消し、ベッド脇に立つ。
律「ごめんなさい、旦那様――真白様」
眠っている真白を見下ろしながら、ぽろぽろと涙を流す。
月明かりに涙が光っている。
律M(優しいこの人を裏切りたくない)
ベッド脇にある金庫の絵を描きつつ、
律M(けれど帝都の平和を守るためには、やるしかない)
律は涙を拭い、月明かりの中で精一杯微笑む。
律「あなたがくれた優しさは忘れません。一生恨んでもかまいませんから」
律、ベッド脇から離れ、部屋にある箪笥の最下部を開ける。
小さな鍵を取りだし、金庫を開け、中に入っていた封筒を手にする。
その後、金庫を閉めて鍵を元に戻し、部屋を後にする。

   ×××

暗い部屋の中、真白はゆっくりと起き上がる。
俯いたまま悲しげに自嘲し、
真白「…やっぱり、行っちゃったか」
と呟いた後、しばらく痛みを我慢するように胸を押さえる。
その後、真白は一転して鋭い表情で顔をあげる。
真白「井伊」
どこからともなく真白の目線の先に井伊が現れる。
彼は軽く礼をし、
井伊「金森律が先ほど屋敷を出ました」「ですが向かっているのは八咫機関の拠点とは逆方向。恐らく影守家の屋敷かと」
真白「ならあの子は影守の子か」
井伊「ええ。可能性は高いかと」
真白「…ふふ、やっと正体がわかった」
真白は執着の滲む笑みで微笑んだ後、
真白「確かあそこは最近、子が生まれたはず…」
と呟き、真白をまっすぐ見る。
真白「『命令』だ、井伊。律を追い、彼女を守れ。ただし絶対に気付かれるな」
井伊「…御意」
さっと姿を消す井伊。
暗い部屋で、うっすら微笑む真白。
律が去る直前に涙を流しながら言った「一生恨んでもかまいません」という言葉を思い出す真白。
真白「恨むなんてしないよ。愛しい愛しい僕の律」
真白、うっすらと狂気に満ちた笑みを浮かべる。

○葛葉家~影守家へ向かう道(夜)
封筒を手に、夜闇に紛れるようにして走る律。
彼女の向かう先には、影守家の格式高い正門が見える。
真白M(早くその檻から逃げ出して、僕の元に戻っておいで)

○影守家・広間(夜)
広間に清治郎が腕組みをして座っている。
律はその正面に膝をつき、誓約書の入った封筒を差し出す。
律「任務、遂行いたしました。こちらが妖王結託の証拠です」
清治郎は封筒を手に取り、中身を見る。
律、頭を下げながら、内心安堵を覚える。
律M(これで妖怪が起こそうとしている争いは、八咫機関によって裏から止められるはずだ)
誓約書を見ていた清治郎、にやりと悪意ある笑みを浮かべる。
清治郎「ご苦労だった」「では――死ね」
律「――!?」
ざっと広間の周りの襖が開き、黒装束を着た八咫機関の暗殺部隊が十数人現れる。
彼らはみな、小刀等の暗器や刀、鉄砲などの武器を持っている。
膝立ちから中腰になり、周囲を見て目を見張る律。

【7話に続く】