女を奪われた男装書生は、黒の妖王の執愛に花開く【マンガシナリオ】

第5話 「妖王の会合」

○辰宮家・迎賓館前・応接室(夜)
真ん中に長椅子と、それを挟んでソファが置かれた洋風の部屋。
ソファにはそれぞれ妖王が座っている。
【黒王・葛葉真白】スーツを着て髪を整えた真白。
【紅王・鬼堂和磨】赤い豪華な刺繍が施された着流しを着ている鬼堂。
【黄王・辰宮(たつみや)(れい)】辰宮黎は龍の妖怪で、灰色の長髪に落ち着いた雰囲気のある、着物に羽織を着た四十代後半くらいの男性。
【蒼王・水喰(みずはみ)雅信(まさのぶ)】水喰雅信は螭の妖怪で、暗い紺の短髪に細い目の、スーツを着た三十代後半くらいの男性。やや眠そうな顔。
それぞれの妖王の顔にフォーカスアップしつつ、ナレーションで名前を表示する。
部屋の壁際には、他の妖王たちに付き添ってきた令嬢や子息たちが立ち並んでいる。
スーツを着た律と廉司、隣り合って立っている。
律M(数ヶ月に一度の、妖王たちの会合。妖怪に対する政策や人間との協調について協議されらしい)
律、目の前で話し合っている妖王たちを注視しながら、
律M(彼らの動向――結託を探るには絶好の機会だ)(しかし…)
「西の料亭で政界の裏取引が横行している」「人間側の動きが怪しい」など、活発な話し合いをしている4人の妖王たちを描く。
その後ろで頭に疑問符を浮かべている律。
律M(この会議、一般人の僕らに聞かせてもいいものなのか?)

○辰宮家・迎賓館前・ダンスホール(夜)
広い西洋風のダンスホールで立食式のパーティ。
テーブルクロスを敷かれた長机の上には、大皿の上に載った料理――牛のロースト、うずらのあぶり焼き、鱒の酒蒸し、サンドイッチなどがたくさん並べられている。
律の隣には、目を輝かせる廉司。
廉司「うわー! どれだけ食べてもいいなんて天国っすか!?」
廉司はいそいそと皿に料理を盛っていく。
その姿に呆れてため息をつきながらも、律もすこしずつ料理を取っていく。
律M(結局めぼしい情報はなかったな。中々うまくいかないものだ)
料理を取り終えて食べ始める律と廉司。
廉司「ん~、さすがお金持ちの辰宮家。料理もおいしいっす~」
舌鼓をうつ廉司。
律は料理を口に運びながら周囲を見渡す。
会場には妖王四人を含め、男女会わせて三十人強の妖怪たちが集まっている。
服装はドレス、スーツ、着物など様々。
廉司「会合終わりの宴会は、鬼堂様の提案らしいですよ。会議だけじゃつまらないからって」
律「なるほど。しかし、本当に妖怪ばかりだな。人間は僕たちだけか」
廉司「いいじゃないっすか。こんなに妖怪と交流できる機会、なかなかありませんよ」
料理を食べながら笑顔の廉司。
律「やけに嬉しそうだな」
廉司「もちろんっすよ! 俺、妖怪のこと知りたいんで」
律に向かって満面の笑みを浮かべる廉司。
廉司「俺、実家が商売やってるんっすよ。今のお客さんは人間だけっすが、将来的には妖怪とも取引したくて」「経済学部に入ったのも、葛葉家の書生になったのも、そのためっすよ」
律、廉司の言葉に目を丸くする。
律「…お前、そんな信念があったんだな」
廉司は口を尖らせて、
廉司「ええ~、どういう意味っすか、律にい!」
と言ったあと、妖怪たちを見て穏やかな表情を浮かべる。
廉司「昔はともかく、今は一緒に生きてるわけですし」「人間ばかり相手にしてちゃ、新しい時代はやっていけないっす!」
気合いを入れた後、照れたように頭を掻く廉司。
廉司「…なーんて、親父の受け売りっすけど」
律M(こいつも、妖怪との未来を信じているんだな)(だが…)
律の回想。
任務を受ける前、「妖王が結託して人間を貶めようとしている」と清治郎が語っているときの描写。
律「…怖くはないのか。自分より強い力を持つ妖怪が」
律、会場にいる妖怪たちに目を向ける。
律「彼らが攻撃してくれば、華族ではなく異能を持たないお前は対抗できないのに」
廉司、律の問いに首をかしげる。
廉司「別に怖くないっすよ。そもそも妖怪が攻撃してくるなんて考えてないっす」
律「え?」
廉司は当たり前のように笑いながら、
廉司「妖怪だからって全員が無闇に攻撃してくるわけじゃないっすよ」「人間と同じ。悪い妖怪もいい妖怪も、どっちもいるんっすから」
と言った後、律の顔をのぞき込み、首をかしげる。
廉司「突然どうしたんっすか、律にい」
律「…いや、少し気になっただけだ」
律、廉司から顔をそらし、離れた場所で談笑している四人の妖王たちを横目に睨む。
律M(もしも彼らの計画が本当なら、大きな争いは避けられない)(情報をさぐらなければ。廉司のように妖怪を信じる人のためにも)
そこに二人の女性の妖怪がやってくる。
一人は背が高くキリッとした顔立ちで、赤いドレスを着ている黒髪の少女・辰宮薫。
もう一人は撫子より身長が低く、おっとりした顔立ちで黄色いドレスを着ている茶髪の少女・辰宮灯。
二人とも辰宮黎の娘で、律と廉司の前にやって来て頭を下げる。
薫「今夜は辰宮家へようこそお越しくださいました。私は、辰宮黎の長女、薫。こちらは次女の灯ですわ」
灯「どうぞよろしく。金森律様、富沢廉司様。お二人が真白様の書生であることはお伺いしております」
灯がスカートの裾を持ち上げ挨拶をする。
廉司、薫の名前を聞いて興奮気味に顔を上気させる。
廉司「辰宮薫様っすか!? 帝都での西洋の装飾品の第一人者と言われている、あの!?」
薫「まあ、私のこと、知っていてくださったのですね」
廉司と薫が握手をし、隣で賑やかに話し込んでいる。
その様子を呆れながら眺める律。
律M(相手は妖王の娘なのに…廉司に怖いものはないのか)
灯「あ、あの…」
声をかけられ、灯の方を向く律。
律と目が会うと、かわいらしく頬を染める灯。
律、男性らしい柔らかい笑みを浮かべて、
律「どうかなさいましたか?」
灯「いえ、その…律様とお話したくて」「ご趣味など、ございますか? 演劇などは…」
頬を染めながら、かわいらしく遠慮がちに話す灯。
律M(…かわいらしい方だ)
律は微笑みながら灯の姿を見る。
ふっくらとした体に、美しいドレス。化粧を施した顔に、整えられた長髪。
律M(本来女性とは、彼女のような存在なのだろう)
灯の話に相づちを打ちながら、彼女をうらやんでしまう律。
律M(政略結婚の道具にされることもあるが、それでも凜々しく、美しく、しとやかに生きる)(誰かと家族になり、やがて愛され、子を成すのだろう)(だが、僕はどうだろうか)
夜会に出ている律の絵。サラシで潰した胸に短い髪、スーツを纏った体。
自分の腹を無意識に撫でる律。
律M(嫡男ではあるが、女の僕に種はない。結婚したとして、男として子は作れない)(加えてお父様は、僕を女として嫁がせる気もないらしい)
厳しい父親の顔を思い出す律。
目の前で話す灯に笑顔を向けながら、拳を固く握る。
律M(愛のある結婚どころか、政略結婚すら叶わない。女を奪われた僕には)(でも…)
律、結婚のことを想像。
白無垢を着て、女として結婚に臨む律と、紋付き袴を着た真白の後ろ姿を描写。
律M(もし叶うなら、誰かと幸せな結婚を――)
真白「律」
※画面外から聞こえるイメージです
名を呼ばれ、肩を引き寄せられる律。
相手は片手にワイングラスを持ち、微笑む真白。
突然現れた真白の行動に、隣の廉司は驚き、薫と灯は頬を染めて口を押さえる。
律は真白に抱き寄せられたまま、顔を見上げて頬を染める。
真白「探したよ。本当に君と廉司は仲がいいね」
律「書生仲間ですから」「そ、それより離してください。誤解されます」
律が赤い顔で真白を押しのけようとするも、真白はより強く律の肩を抱く。
真白「あっちにおいしそうなお菓子があったんだ。一緒に行こう」
肩を抱かれたまま、半ば強引に真白に連れて行かれる律。
二人の後ろ姿を見て、呆然とする廉司。
廉司「ほんとに仲良いっすねぇ、あの二人…」

   ×××

皿に載ったショートケーキを壁際に立って食べている律と真白。
真白はケーキをフォークで口に運びながら、無邪気に笑っている。
真白「おいしいね、これ」
律は片手にケーキの乗った皿を、片手にフォークを握ったまま固まっている。
顔には赤みが残り、焦りと戸惑いを隠し切れていない。
律M(さっき僕はなにを考えた?)(幸せ? 結婚? しかも相手は――)
隣で上機嫌にケーキをまた一口食べている真白をチラ見。
その後、顔を赤くして首を横に振る。
律M(駄目だ駄目だ。しっかりしろ影守律)(僕は諜報員だぞ。任務対象に振り回されるな!)
切り替えるようにケーキを大きく切って口に運ぶ。
ほっとひと息つき、深呼吸する律。改めて隣の真白を見つめる。
律の視線に気付き、笑顔で「なに?」と言うように首をかしげる。
律、苦しく切なげな顔。
律M(でも…この人を、裏切りたくない)
鬼堂「よお、書生くんじゃねぇか」「仲よさそうでなによりだな」
後ろから鬼堂の手が伸びてきて、律は頭をガッと掴まれわしゃわしゃ撫でられる。
驚いて混乱する律と、不機嫌になる真白。
真白「…鬼堂さん、律に触らないでください」
鬼堂「おーおー、怖い顔すんなって。せっかく迎えに来てやったのによ」
鬼堂が律の頭から手を離し、親指で後ろを差す。
そこには他の二人の妖王が立っている。
黎はため息をつきながら、雅信は眠そうにしながら。
黎「話に夢中なのはわかるが、しっかりしてくれ」
雅信「そろそろ…『あれ』の時間だろ」
真白「…そうだった」
真白、近くの机に皿とフォークを置き、妖王たちに合流する。
律「なにかあるのですか?」
真白「追加の話し合いがね。それじゃ、君は引き続き楽しんで」
ダンスホールを出て行く四人の妖王。
律M(…会合の場では、重要な話は出てこなかった。僕たちがいたから)(でも話さなければならないことはあるはず…)
律、険しい顔をしながら、妖王たちの消えて行った扉を睨む。
律「……」

○辰宮家・迎賓館・廊下~応接室前(夜)
異能を使い、ダンスホールにいた妖怪たちと妖王たちを繋ぐ縁の糸を見ながら、妖王たちの居場所を探す律。
周囲に警戒しながら、使用人たちに見つからないように進んでいく。
目の前の部屋の扉に、廊下から部屋の中へ十数の糸の束が貫通している。
律M(…あの部屋か)
足音を立てないよう、律がささっと近づく。
扉の側まで来たとき、ぐわん、と頭が大きく揺さぶられるような感覚がする。
周囲の景色が歪んでいるような感覚がする。
(※真白が幻術を仕掛け、実際に話している内容とは別の内容を律に聞かせ、律が誓約書を盗むように誘導している(律を手に入れ妖怪反対派を一掃するための真白の計画)。この点を読者側に開示するのは7話以降。この時点では違和感を与えるくらいの描写で構いません)
律M(なんだ、立ちくらみ…?)
頭を抑えながらも、部屋の扉に耳を近づける律。
部屋の中から声が聞こえてくる。
黎「…反発は次第に激しくなっているしな」
鬼堂「面倒だが、人間が逆らうなら仕方ねぇ」
雅信「俺も同意する」
真白「――ではみなさん、同盟の誓約書に名を」
目を見開く律。
悲しみと苦しみと失望感で、心が冷めていく。
律M(ああ――やっぱり)
律の瞳から光が消える。

○葛葉家・本館前(夜)
真白、律、廉司の三人が玄関の方へ歩いていく。

○葛葉家・本館・玄関ホール(夜)
真白を先頭に、廉司、律の順に屋敷へ入ってくる。
井伊を筆頭に、使用人たちが頭を下げて迎え入れる。
井伊「お帰りなさいませ」
真白、カバンを井伊に手渡す。
真白「中の封筒は金庫に」
井伊「承知いたしました」
井伊と真白のやりとりを見つめる律。
悲しみと失望感と覚悟が混じった、暗く決意の籠もった表情。
律M(…迷いは捨てよう)(誓約書を手に入れ、お父様の元に戻る。それが――影守家嫡男としての役割だ)

○影守家・義母の寝室(夜)
ろうそくの明かりだけに照らされた、広く暗い和室。
布団の上では、義母が出産中。産婆が立ち会っている。
その脇には清治郎が座っている。
部屋の壁際には、使用人たちがずらりと並んでいる。
「おぎゃあ、おぎゃあ」と赤ちゃんの泣く声。
産婆がとりあげた男の赤子にフォーカスアップ。
産婆「おめでとうございます、ご子息です」
清治郎「くく…ようやくだ」「ようやく正しい後継を手に入れた!」
赤子を手にし、歪んだ笑みを浮かべる清治郎。

【6話に続く】