女を奪われた男装書生は、黒の妖王の執愛に花開く【マンガシナリオ】

第3話 「側付きの生活」

○葛葉家・本館・真白の執務室(夜)
真白、執務机で律の経歴が書かれた書類を読んでいる。
そこへ井伊が見合いの釣書を大量に持ってやってきた。
井伊「真白様――」
真白「しないよ、見合いは」
律の書類を眺めたまま即答する真白に、顔をしかめる井伊。
井伊「わがままを言わないでください」「体質のためにも、早く人間と結婚しないといけないのに」
真白「誰でもいい訳じゃない。僕は、あの子がいいんだ」
井伊「…いい加減、夢を見るのをやめては?」「見つかるはずないでしょう。幼い頃に一度会ったきりの名も知らない少女なんて」
真白「いいや? 運は僕に味方してるみたいだよ」
真白はにやりと怪しく笑い、机の上の律の書類を指で「とんとん」と叩く。
井伊「それは…」
真白「金森律を詳しく調べて。彼はきっと、あの子に繋がるはずだ」
真白は幼い頃の律姫の姿を思い浮かべながら、ほのかに狂気が滲む笑みを浮かべる。

○同・本館・廊下~真白の寝室の前(朝)
廊下を一人で歩く律。
律M(まさか側付きに指名されるとは…)(だがこれで、より黒王に近づける)
すれ違う猫又と狸の女中二人に笑顔で頭を下げる。
女中は律の背後で黄色い声を上げているが、律は聞き流し、真白の寝室の扉を叩く。
律「失礼します」

○同・本館・真白の寝室(朝)
広い洋風の寝室。大きな窓にはカーテンが引かれている。
天蓋付きの大きなベッドの上で、白い寝間着姿の真白が上体を起こし、目を擦っている。
律「起きていらっしゃいましたか」
真白「おはよう、律。今日からよろしくね」
ベッドから出てくる真白の元に歩みつつ、ちらりと周囲を見回す律。
律M(広い寝室だな。影守の僕の寝室とは大違いだ)
殺風景な影守の自分の部屋を思い出し、自嘲気味に。
ふとベッドの脇に、鍵式の黒い金庫が置かれているのを発見。
律M(金庫…)
その横で、ベッドから出た真白があくびをしながら箪笥の方へ歩いていく。
真白「律、着替えを手伝ってくれる?」
律、金庫から目線を外し、
律「承知しました」
律(…いずれ、機を見てからだ)
真白の前に立つ律。
真白「着物は藍色ので」
律「承知しました」
律、箪笥の中の藍色の着物を見つけて側の机の上に置く。
律「失礼します」
真白の寝間着に手をかけて前を開いた直後、律の手が止まる。
律「…っ!」
細身だが決して薄くはない真白の胸板が露わになる。
顔を赤くする律。
律M(これが、本物の男性の…僕とは全然違う)
図らずもドキドキしてしまい、手が止まってしまう律。
真白、律の様子がおかしいことに気付いて首をかしげる。
真白「どうしたの、恥ずかしい?」
律「ま、まさか。そんなはずありません」
真白「だよね、男同士だもんね」「じゃ、続きをお願い」
律「は、はい」
律M(そう、僕たちは男同士。男同士なんだ)
無邪気な笑みを浮かべる真白に、羞恥と緊張で固くなりながらも着替えを手伝っていく真白。

   ×××

藍色の着物に着替え終わって笑顔の真白。
真白「うん、いい感じだ。ありがとう、律」
律は少し疲れた笑みを返しながら、着替え中の回想。
真白の胸板や腹筋、しっかりとした肩などの絵を描く。
密かに顔を赤らめる律。
律M(結局、全部見てしまった…。こんな任務、今までなかったから調子が狂う)
律、軽く息をついて気持ちを鎮め、真白に背を向けて扉へ向かう。
律「それでは、食堂へ。朝食の準備は整っております」
だが律の頭の後ろの髪がぴょこんと跳ねている。
それに気付いた真白、律の腕を掴む。
真白「待って」
真白、律を鏡台の前に座らせ、自分はその後ろに立つ。
真白「跳ねてるから、直してあげる」
真白、律の跳ねている髪を指先でつん、と触る。
律、鏡の向こうを見て、
律M(あ…)
自分の髪が跳ねていることに気付き顔を赤くする。
律「そ、そんな。旦那様にさせるわけには」
真白「いいからいいから」
恥ずかしさと申し訳なさから拒否しようとする律だが、真白は櫛を取りだし律の髪を整える。
律は落ち着かないながらも、されるがままになっている。
真白「なんだか弟ができたみたいだ」
律M(うう…変な感じだ)
真白は手を動かしながら柔らかい笑みを浮かべ、
真白「改めて、昨日は助けてくれてありがとう」
律「いえ、旦那様が無事でよかったです」
律M(助けたのは取り入るためだが…)(目の前で誰かが傷つかなくてよかった)
律の答えに真白は微笑み、少しだけ目を鋭くする。
(※求める少女の情報を律から引き出そうとしている)
真白「せっかく側付きになったんだし、君のこと教えてよ」「兄弟姉妹はいる?」
律「…いえ、いません。一人っ子です」
律M(という設定だが)
真白「そっか。じゃあ親戚は? 年の近い子がいたりしない?」
律「どうでしょう。親戚付き合いがないのであまり…」
真白「ふぅん…」
真白、律の髪をとかし続けながら、冷たく目を細める。
だが直後、笑顔に戻り、
真白「そっか、ありがとう。じゃあ他には……」
(※以降の会話は探っていたことを誤魔化すためのカモフラージュ)

   ×××

律と真白、髪をとかしながら二人で好きなものや嫌いなものなど、色々な話をしていく様子をダイジェストで描く。時間が経つにつれ、律の緊張は次第にほぐれていく。
好きな食べ物の話題をしている最中、真白が大きく目を見開く。
真白「え、好きな食べ物ないの?」
律「まあ…食べられないものはないのですが、特別好きな物と言われると思い当たりません」
律M(影守では、体型維持のため食事は完全に管理されていたし)(楽しみを見いだせるものではなかった)
律の回想。影守での、ご飯と味噌汁、漬物が少しずつだけの質素な食事を描く。
回想が終わり、暗い顔をする律。
真白、律の顔から事情がありそうなことを察する。
思い出させるように問い掛ける真白。
真白「…本当になにもないの?」「特においしいと感じたものとか」
律、少し考えて、
律M(そう言えば…)
律「旦那様と茶屋で食べたまんじゅうは、おいしかったですね」
2話で食べた茶屋のまんじゅうの絵を描写。
真白、目を瞬かせてから、やわらかい笑みを浮かべる。
真白「…そう。なら、また行こうね」
律M(…っ)
鏡越しに真白の笑みを見て、言葉を詰まらせてしまう律。
(※自分を大切にしてもらった経験がないので、心が揺らいでいる)
直後、扉が勢いよく開き、苛立った井伊が入ってくる。
井伊「いつまで準備しているのですか、旦那様!」
怒る井伊を見て、顔を見合わせる真白と律。
それから二人で吹き出す。
真白「怒られちゃった」「髪も直ったし。行こうか、律」
律「はい」
笑顔の真白に、柔らかく自然な笑みを返す律。

○同・正門前~本館・玄関前
前シーンから数週間が経過。大学から帰ってきた律と廉司。
二人とも絣にシャツ、袴の書生スタイルで、肩にカバンをかけて話ながら歩いている。
悲しげにため息をつく廉司。
廉司「律にいが旦那様の側付きになってから、全然話せない…。寂しいっすよ」
廉司は律の方に身を乗り出し、
廉司「普段の旦那様ってどんな感じなんっすか?」
廉司「あんなに綺麗でかっこいいんだから、きっと完璧なんでしょうね」
想像しながら目を輝かせている廉司。
律「完璧…」
律、ここ数週間のことを回想する。
服の着替えを手伝ったり、散歩中に服の裾を掴まれたり、朝真白を起こしに行って寝ぼけた彼に抱きしめられたり。かっこいいというより、かわいい・人懐こい姿が思い起こされる。
律「…にはほど遠い気もするが」
律M(というか距離が近いんだ、あの人は。女とばれそうで冷や冷やする)
返答を聞いて、廉司は驚く。
廉司「意外っすね」
その後、うらやましげに律を眺めながら、
廉司「でもいいなぁ、そう言えるくらい、仲良くなってるなんて」「俺とも仲良くしてくださいよ、律にい~!」
廉司が律を抱きしめようと飛びついてくる。
律「うわっ、抱きつくな!」
律(ここのやつは、そろいもそろって!!)
律は抱きついてこようとする廉司を押しのけながら、本館に入る。

○同・本館・玄関ホール
廉司に腕に抱きつかれたまま玄関ホールに入る律。
ホールでは赤い派手な着流しを着、肩に木刀を担いだ鬼・鬼堂和磨が、真白に別れを告げていた。
鬼堂「んじゃ、2週間後。忘れんじゃねぇぞ」
鬼堂はすれ違いざまに律の顔を興味深そうにしげしげ眺める。
鬼堂「へえ、新しい人間の書生か。ま、頑張りな」
鬼道は律の頭を「ぽんぽん」と撫でて、外へ出て行く。
廉司に腕に抱きつかれたまま、撫でられた頭に手を乗せ鬼堂の消えた方を見る律。
律「誰だ?」
真白「紅王。鬼の鬼堂和磨さんだよ」
律、背後から声が聞こえて振り向くと、いつの間にか真白が立っている。
真白「あの人、定期的に遊びにくるんだよね。今日は仕事だったけど」
律「あの人が…」
鬼堂の立ち絵を描きながら、彼の説明。
律M(帝都の南を治める妖王・紅王)(荒っぽい性格だが統率力があり、多くの妖怪に慕われているという)
説明終わり。
考え込む律を描く。
律M(妖王同士が個人的に会うこともあるだろう。が、『仕事』か…)
真白「それより君たち…ずいぶんと仲がいいんだね?」
真白は律とその腕に抱きついた廉司を見比べ、僅かに執着の滲む目を向ける。
(※お気に入りの律を取られた気がして、無意識に独占欲が露わになっている。まだ律=律姫と気付いているわけではない)
律「いえ、そんなことは」
廉司に抱きつかれたままだったことに気づき、慌てて彼をべりっと引き剥がす律。
律「いいかげん離れろ」
廉司「うう、ひどいっす律にい~」
離れた律と廉司を眺め、満足げに笑う真白。
真白「律、荷物を置いたら執務室にお茶をよろしく」
去って行く真白。

○同・本館・真白の執務室(夕)
お盆に湯飲みに淹れた緑茶と、お茶菓子のカステラをお盆に載せて執務室を訪れた律。
律「失礼します」
真白「ありがとう。こっちに」
執務机について書き物をしていた真白は顔をあげる。
机の上には、大量の書類や本が山になっている。
律は机の横から真白の隣に回り込む。
律「お仕事、大変そうですね」
お茶とお茶菓子を置きながら、ちらりと真白の手元を見る。
西の妖王・黄王の辰宮黎への手紙。
宛名と書き出しのみしか書かれておらず、めぼしい情報はない。
律M(黄王への手紙…)
真白は律が探っていることに気付かない様子で、湯飲みを手に取りお茶を飲む。
真白「まあね。妖怪たちをとりまとめるのも大変で」「けれど、妖怪と人間が一緒に生きていくためだから」
律「人間がお好きなのですね」
真白「ふふ、昔は大嫌いだったんだけどね」
律「そうなのですか?」「今は家に書生まで受け入れているのに…」
驚く律に、昔のことを懐かしむような目をしながら語る真白。
真白「妖王の家系に生まれた僕は、昔から妖怪反対派の人間に狙われていてね」
律「…っ」
真白の過去に言葉を失う律。
真白「人間はみんな敵だって…昔は本気でそう思ってた」「でも一人だけ、僕を救ってくれた子がいたんだ」
真白の回想。
幼い頃の律(律姫)が一人でいた真白に手を伸ばし、彼と手を繋いで一緒に刺客から逃れて逃げる絵。
真白「その子のお陰で、僕は人間に希望を持てたんだ」
回想を終え、湯飲みを手にする真白と、お盆を抱えた律を描く。
真白「人間と妖怪の関係はまだ不安定。けれどあの日のあの子と僕のように…いつか本当の意味で手を取る日が来るといい」「その望みのためなら、いくらでも頑張れるよ」
真白は湯飲みを置き、律に向かって微笑む。
真白「人間の書生を受け入れているのもそのためだ」「優秀な人が妖怪のことを知ってくれれば、理想に近づくだろうから」
律M(この人は…)
律、息を詰まらせる。
真白をまぶしく感じながらも、柔らかく微笑む律。
律「…とても素敵な考えだと思います。いつか叶うといいですね」
真白「ありがとう」
真白も満面の笑みを返す。

○葛葉家・書生寮・律の部屋(夜)
書生に与えられた6畳ほどの和室。
中庭に面しており、庭側にはガラス戸がある。
現在は書生が少ないので1人に1室与えられており、律は個室。
立ったまま服を脱ぎ、サラシを取っていく。
律M(本当に黒王は、他の妖王と共に反乱を起こそうとしているのだろうか)
妖王結託の可能性を示唆する回想。
鬼道の姿、辰宮への手紙を描く。
律M(紅王の来訪に黄王への手紙。疑う理由はいくつもある)(だが…)
真白の理想についての回想。
前シーンで真白が「本当の意味で手を取り合える日が来るといい」と言ったときの絵を描く。
律M(少なくともあの目に嘘はない気がする)
律、はっとして首を横に振る。
(※相手に情をかけそうになっていたことに気づき、自分を律する)
律「…馬鹿か、揺れるな。僕は影守家嫡男、影守律だぞ」
律、完全にサラシを取る。
女性としての体をさらしたまま、巻いていたサラシを握りしめる。
律「…あの理想だけは、僕と同じだ」
律M(妖怪と人間の真の平和。女を奪われたあの日から、そのために動くことを拠り所にしていた)(八咫機関として、情報を操り大きな争いを未然に防ぐ。うまくこなせば、自分を殺している意味もある)
真白との会話の回想。
「ありがとう」と言った真白の満面の笑みを描く。
律「だから僕は、やり遂げなければいけないんだ。なにを失っても」
強く布を握りしめ、苦しげに顔をゆがめる。
(※真白を裏切りたくない気持ちが強くなっている)

○同・本館・真白の執務室(夜)
執務机についていた真白、ペンを終えてひと息つく。
真白「ふう…」
書類の山の下にまんじゅうの箱があるのに気付く。
真白M(鬼堂さんからもらったの、忘れてた)(そう言えば、前に律が…)
真白の回想。
前半で「まんじゅうがおいしかった」と話していた律の姿を描く。
回想終わり。
真白、笑みをうかべてまんじゅうの箱を手に取り、
真白M(持っていこう)
執務室を後にする。

○葛葉家・中庭(夜)
まんじゅうの箱を持って、笑みを浮かべながら中庭を歩く真白。
真白「まだ起きてるかな」
真白M(まさか、こんなに律のことを気に入るなんて)
真白の回想。真白の手を引く幼い頃の律(律姫)を描く。
真白M(初めはただの、あの子に繋がる手がかりだった)
真白の回想。2話の最後で律を側付きに指名したシーンを描く。
真白M(だから側付きにして、情報を聞き出そうとした)(でも…)
真白の回想。真白の胸板を見て照れる律、緊張しながら髪を梳かれる律、真白を応援し柔らかい笑みを浮かべる律を描く。
真白M(側にいる中で、思ってしまった。あの固い表情が崩れる瞬間が、かわいらしいと)(もっといろんな表情が見たくて、思わずたくさん関わってしまう)
回想を終え、中庭を歩いて行く真白に戻る。
真白M(なにかを探っているようだから、完全に心を許すことはできないけど)(それを差し引いても、側に置いておきたいと思ってしまう)
真白「あの子が見つかったら、三人で仲良くしたいな」「きっと律はあの子の親族だろうし」
真白、ふと前を見る。視線の先には書生寮。
明かりの付いたガラス戸の向こうに、律が立っている姿が見える。
真白「あ、律だ…」
ガラス戸の向こうに、律の上半身裸の姿が浮かび上がっている。
胸のサラシは外されており、女性らしい線の細さと、胸の膨らみが見える。
真白「――え?」
律の姿を凝視する真白。

【4話に続く】