女を奪われた男装書生は、黒の妖王の執愛に花開く【マンガシナリオ】

第2話 「北の黒王」

○葛葉家・敷地内(夜)
1話ラストの続きから。月の光の下、対峙する律と真白。律の方に歩み寄る。
真白「君、今日来た書生だね」
律M(この人…!)
律、真白の正体に気付く。考えていたことがばれたかと密かに冷や汗を流す。
しかし平静を装いながら、恭しく頭を下げる。
律「はい、金森律と申します。どうぞ律とお呼びください、旦那様――葛葉真白様」
真白は少し目を見張る。
真白「よく気付いたね。どこかで会った?」
律「敷地内で初めて見る者を、不審者と勘違いせず身分を言い当てた」「それができるのは旦那様しかいないと」
真白「なるほど、君はずいぶん頭が切れるようだ」
くつくつと笑う真白。律は慎重に顔をあげ、真白を見る。
真白の姿をフォーカスアップし、ナレーションで彼について説明。
【葛葉真白。病気のため早々に引退した先代の代わりに、その跡を継いだ若き妖王】【24歳の若さにして、他の妖王にもひけを取らない妖力と頭脳を持つという】
※説明終わり
律M(そして僕が探るべき相手)(彼から妖王反乱の証拠を引き出し、持ち帰らなければならない)
表面上は完璧に冷静さを装いながらも、内心では緊張しながら真白に対峙する律。
真白は探るような目で律を見る。
真白「ところで最初の質問だけれど。夜中に、ここでなにをしていたのかな」
律「…湯冷ましに散歩していました。こんな豪邸は初めてですから、早く道を覚えたく」
真白「ふぅん…まあこの敷地内に入れている時点で、危ない人間じゃないことは確かだからいいか…」
目線をそらし独り言のように呟く真白。
(※屋敷には術がかけられており、屋敷内の人間に対して殺意がある者は入れないようになっている)
その後、真白は律に笑顔を向け、
真白「屋敷の案内なら、僕がしてあげようか」
律「いえ、旦那様のお手を煩わせるわけには参りません」「熱も冷めましたし、僕は寮へ。明日、改めてご挨拶へ伺います」
恭しく頭を下げ、真白とすれ違いつつ書生寮の方へ戻っていく律。
真白はその背中をじっと眺めた後、興味深そうに笑う。
真白「ずいぶん面白そうな子が来たみたいだね」

○同・本館・玄関前~玄関ホール
前シーンの翌日。
大学から帰ってきた律は、玄関を開けて本館の中に入り、ため息をつきながら学生帽を脱ぐ。
律M(昨日はまさか、黒王が早く帰っているなんて)(怪しまれていないといいが…)
先に帰っていた廉司が「律にい!」と律の元に寄ってきて、真白の元へ案内する。

○同・本館・真白の執務室
正面に置かれた執務机の向こうの椅子に、真白が座っている。
真白の隣には執事服を着たイズナの妖怪・井伊隆之介が控えている。
部屋の入り口付近に、やや緊張した面持ちの廉司と、冷静を装っている律が並んで立っている。
真白、笑顔で口を開き、
真白「昨夜ぶりだね、律」
律「その節はありがとうございました」
丁寧に頭を下げる律。廉司、驚いて真白と律を見比べる。
廉司「ええっ! 律にい、旦那様に会ってたんすか!?」
廉司を無視し、律は笑顔の真白をじっと見つめる。
その表情に疑いの色は見えず、ほっとした様子の律。
律(ひとまず疑われてはいなさそうだな)(それなら改めて…)
真白を見つめ、瞳をカッと開いて異能を使う。
彼の体に、数十本の黒い糸と、数本の赤い糸が絡んでいるのが見える。
赤い糸のうち2本は、隣の井伊と、廉司に繋がっている。
他にも廉司の体には赤い糸が数本、井伊の体には赤い糸、黒い糸が数本ずつ絡んでいるが、真白の方をフォーカスアップ。
律M(うわ、悪縁まみれ。立場的に無理もないが、この量は初めてだな…)
大量の黒い糸を見た律は、内心引いてしまう。
律M(他人の縁の糸を見る異能。その人間に関わる縁を、糸の形で見ることができる、影守家嫡男に伝わる異能だ)
真白と井伊・廉司が繋がっている糸にフォーカスアップ。
律M(良縁は赤い糸で、悪縁は黒い糸で。裏の繋がりも知れるので、諜報活動には役立つ)(僕が影守家の嫡男に選ばれたのも、この異能を持っていたからだ)
律の回想。幼い頃、まだ女の律姫だった律が、幼い真白を暗殺から守ったところを描く。
(※律は相手が真白と気付いていないため、顔の造形はぼやかす)
律M(小さい頃にはこの力で人を守ったこともある。自分に関わる縁は見えないのが欠点だが、使い方次第だでどうとでもなる)
回想を終え、目の前の真白を見つめる。
律M(書生の雑務に、この異能。すべてを使ってこの男に近づく)
律「住まわせていただく代わり、誠心誠意尽くしますのでよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる律を、真白は探るように眺める。
(※前日、屋敷の庭で不審な行動をしていた律を警戒している)
だがすぐにパッと笑顔に戻る。
真白「真面目で結構。君みたいな子は好きだよ」「今から買い物に行くから、荷物持ちでもしてもらおうかな」
律「…もちろんです」
緊張しながら頭を下げる律。

○帝都・街中
大正時代の銀座風の街並み。
様々な商店が並び、和服・洋服を着た多くの人々が行き交っている。
行き交う人の中には人間もいれば、角や尻尾、獣耳や鱗のある妖怪もいる。

○呉服屋・店内
格式高い、高級呉服店。きらびやかな着物がいくつも並べられている。
真白が先に入り、律がその後ろに控えている。
着物を着た上品な店のおかみが真白の側にやってくる。
おかみ「まあまあ、葛葉のお坊ちゃま」
真白「黒王を継いだので坊ちゃまじゃないですよ」
おかみ「ふふ、すみません、旦那様。お着物はできておりますよ」
おかみと真白は二人で話し合いながら服を受け取っている。
その間、律は店内を物珍しそうに見回す。
(※訓練や任務ばかりで、呉服屋などに行ったことはほとんどないため)
そして、鮮やかな桃色の女物の着物が目に入り、「とくん」と心を疼かせる律。
頬を染め、少女のような表情をしている。
律(綺麗…)
真白「どうしたの?」
いつの間にか真白がそばにやってきていて、律に声をかけてくる。
律、びくっと体を震わせ、いつもの凜々しい表情に戻る。
真白は律と桜の着物を見比べて、
真白「あれは女物だよ。興味あるの?」
律「そ、そういうわけではなく」「きらびやかなものを見るのは初めてですから」
律M(そう…あんな服を見るのは滅多になかった)
桃色の着物をフォーカスアップ。
律M(与えられる着物や服はすべて男物。『嫡男』なんだから当たり前だ)(でも、本当は…)
着物に手を伸ばしかける律。
様子を観察していた真白がからかうように言う。
真白「律なら小柄で華奢だから、着れるかもね」
律、ハッとして手を引っ込め、やや焦り気味に、
律「き、着たいわけではありません。第一僕は、男ですし」
真白「ふふ、わかってるよ。でもあんまり物欲しそうに見ているものだから」
真白は店内にある、赤と金の派手な男物の着流しを指さす。
真白「欲しいなら一つ買ってあげようか? 男物でも派手なのはあるよ」
「ね、どう?」と言うように真白は律に詰め寄る。
律「か、かまいません。書生ごときが旦那様に物を与えていただくなど」
真白「遠慮しなくていいのに」
真白、笑みを浮かべながら興味深そうに律を眺める。(※ただし、女性とは気付いていない)

○帝都・茶屋の前
商店の立ち並ぶ一角にある和菓子茶屋。
店の前には赤い布がかけられた長椅子と、赤い大きな日よけ傘が置かれている。
真白と律は長椅子に座り、まんじゅうを食べている。紙袋が横にいくつも置いてある。
律「…旦那様。早く車に戻らないと井伊さんが心配しますよ」
車の運転席に座り、頬杖をついて待ちぼうけている井伊を描く。
真白「もう少し。いつもは井伊がいて自由にできないから」
無邪気にまんじゅうを頬張る真白。その横顔に呆れ顔の律。
律M(呉服屋を出て、宝石店にミルクホール、雑貨屋…始めは試されているのかと思ったが、この人の性格か)
これまで振り回されたことを思い、ため息をつく律。
律M(妖王なのに自由すぎるだろう。井伊さんの苦労がわかる気がする…)
律、まんじゅうを一口かじり、
律M(でも、このまんじゅうはおいしい…)
不意に、律の背筋にぞくぞく、と嫌な予感が駆け上る。
まんじゅうを食べるのをやめ、周囲を見渡す律。
律M(今、なにか…)
真白「どうしたんだい、律?」
真白の言葉を無視し、縁の糸を見る異能を発動させる。
真白の体を見て、それから1本の黒い糸を辿るように周囲に目線を移動させる。
(※律が異能を使っていることに真白が気付く布石なので、少し強調して書いていただきたいです)
真白の体から伸びる数十の黒い糸のうち、一本が少し離れたところに立って人を待ち合わせしているように見える、ジャケットにパンツの紳士風の格好をした男と繋がっている。
律M(刺客か)(ただの書生が気付けば怪しまれる可能性はある。が…)
律、小声で真白に囁く。
律「旦那様。尾行される心当たりは?」
律M(危険を冒してでも、助けた方が信頼される可能性は上がる)
真白「…いくらでもあるね。特に最近は、妖怪反対派の動きも怪しいし」
律「そこにいる男、あなたを狙っています。3つ数えたら走りますよ」
真白「へえ…了解」
真白、どうして律が気付いたのか気になりながらも、従う。
律と真白はまんじゅうを一口で食べる。
律は荷物を手に取り、真白は財布を取り出しお金をまんじゅうの皿の上に。
律「3、2、1――今です」
真白「おかみさん、会計ここに置いていきますよ!」
真白が大声で叫び、同時に律と真白が全力で走る。
紳士風の男は、舌打ちをして真白と律を追って駆け出す。
茶屋のおかみ「ちょっとー! これ多すぎるよ!」
真白「とっといてくださーい!」
おかみが走り出てくるも、律と真白は止まらない。
人混みをかき分けて走り、路地が見える。
律「あの路地へ。井伊さんの車には遠回りになりますが」
真白「わかった。ならちょっと、細工をしとこうかな」

○帝都・路地
真白は律と共に路地に入りながら、後方に向かって腕を払う。
すると真白と律と全く同じ姿をした人間が現れ、路地に入らず街をまっすぐ走っていくのが見える。
紳士風の男は二人を追いかけ、路地には入って来なかった。
驚く律に、真白はにこりと笑う。
真白「幻術だよ。僕の得意技。さ、行こう」
律と真白、路地を走って行く。

○葛葉家の車の車内
井伊が運転席に座って待っていた車内。
後方の座席に、真白と律が飛び乗ってきて顔をしかめる井伊。
井伊「遅かったじゃないですか。今までなにを――」
真白「お説教は後で。早く出して。追いつかれる」
真白の言葉で状況を察知した井伊、はっと切り替えて頷き、車を発車させる。
真白、動き始めた車の中で、律の方をちらりと見る。
先ほど律が異能を発動させた時の、糸を辿るような目線の動かし方を思い出す真白。
真白M(あの目線の動き…)
真白が探るような視線を向けてくるも、律は前を向いたまま。

○葛葉家・本館・玄関ホール(夕)
帰ってきた律、真白、井伊。
女中や廉司が真白と律の元に駆け寄ってくる。
廉司「遅かったっすね! 大丈夫だったっすか!?」
真白「一騒動あったけど、無事に戻ってこれたよ」
真白の言葉に息を呑む一同と、ほっとする律。
律M(遅くなった方の原因は、旦那様の寄り道のせいだがな。まあ無事でよかった)
一方、真白は律の方を向いて、
真白「お陰で助かったよ。けれどただの書生の君が、どうやって気配を消した刺客に気付けたんだい?」
律M(…やはり来るか)(異能を持つのは華族だけ。田舎の庄屋の息子を偽っている今、正直に言うわけにもいかない)
律は思案した後、柔らかい笑みを浮かべて、
律「僕、昔から少々勘がよくて」
その言葉に、目を見張る真白。
真白の回想。幼い頃の律姫が真白を助け、「私、ちょっとだけ勘がいいんだ」と言っていた姿を描く。
(※この時点では、真白はまだ律姫が律だと気付いていません)
真白の出方をうかがう律。
律M(さあ、どう出る…)
真白「あの子と同じだ…」
律M(え?)
真白、おもむろに手を上げる。そして律の顎に手を当てた。
顎を手で持ち上げ、律の腰を抱いて引き寄せる。
真白「ねえ、君。僕の側付きになってよ」
驚いて目を見開く律。

【3話に続く】