経済学部一の人気者が同じ学部の大人しい女の子に一目惚れした理由│Quiet Strength×Soft Strength

 さて。その話を綾音にしないとならないんだけど。

 え。どうしよう。

 舞は何て言うべきか物凄く考えた。

「上野が綾に会いたいって」

 …これ、滅茶苦茶怪しくない? 怖くない? 何で? って聞かれたら何て答えたらいいの?

「会わせたい人がいるんだけど」

 これだとあたしが押しているみたいだ。綾はきっと断らない。駄目駄目! そんなの駄目ー!!

 あーーーー。どうしようーーーー。と二日も三日も頭を抱えていたら当人がやってきた。

「舞ちゃん? どうしたの? 具合悪いの?」

「はっ!!」

 その声に顔を上げると心配そうな顔をしている綾音がいる。司とごたごたする前からお茶しようよー。と約束していた時間。駅前のカフェで待ち合わせをしていたのだ。

「大丈夫? 帰る?」

「大丈夫!!」

 大きな声でそう言ったら綾音の方が驚いた様に目を丸くした。そしてほっとしたように笑う。

「それなら良いんだけど」

 その表情に司の言葉を思い出す。

 仕草も声もほわほわしていて、すげー可愛かった。

 確かに…うん。可愛い。そのまま見て、ただそう思う。逆に男だの女だの、その中のステータスとか見掛けに意識が逸れてしまったらこの可愛さには気付けないのかもしれない。この可愛さに気付いたのは、本当に綾音の事をそのまま見た結果なのだろう。

 でもさ。何で上野だよ。あいつ、数多の女を見ているだろうが。何でそんなピュアな目で綾を見るんだよ。と、舞はどうしても自分の中で消化しきれない疑問に悶々とした。

 そうは言っても約束をしたし、自分で決める事ではない以上綾音に聞いてみなければ。

 …で、何て聞こう。やっぱり思い付かないや。もう少し脳内会議する? でも、幾ら考えても妙案なんて浮かばなそうだし時間が経ち過ぎてもなぁあーーー!!

「疲れちゃった? 勉強大変なの?」

 大丈夫と言いつつ頭を抱えて唸っている舞に綾音は小さな声で問いかけた。

「いや、あ、うん。大変。大変だけどそうじゃなくてね…」

「?」

 不思議そうに首を傾げた綾音を見て、舞は何の考えもなしにぽつりと呟いた。

「綾は? 勉強大変?」

 二人は学部が違うから大変さを共有することはできない。綾音は経済学部、舞は社会学部だ。大学生ならではの自由もあるけれど、二人の通っている大学はかなりレベルが高く、真面目に取り組まなければすぐについていけなくなってしまう。

「あー…うん。大変だけど楽しさもあるよ」

 そうだよね。と同感の返事に舞も頷く。高校までと違って、大学は自分の希望を学べる場所だ。自分探しや何となくと進学する人間もいるのだろうけれど、自分達は学びたいとこの大学にやってきた。興味や好きだからという選び方だったけれど、それはそれで楽しい。ここで学んで、その強みを活かして就職できたらいいねと話したこともある。

「でも、好きっていうのと個性自体が合っているっていうのは全然違うんだなーって大学に来て良く分かった。どっちが良いとか悪いじゃじゃないけど、もう人間自体がその学問にぴったり合ってる人っているんだなって」

「ん? どういうこと?」

「同じ講義受けてる人達の中に、凄く楽しそうだなーって感じる人がいるの。別ににこにこしてる訳じゃないんだけど、分析とか数字にパズル説いているみたいにのめり込んでて、この人は好きとかいうレベルじゃないんだろうなーって」

「うわぁー…」

 数字が好きな訳ではない舞はげっそりと呟いた。自分に必要な部分の数字なら少しは楽しさもある。それは自分の興味と理解を手助けしてくれるものだから。けれど経済学となれば数字数字数字。理由よりも先に数字だ。関わりたくない。

「そんな宇宙人が同じ大学にいるんだー」

「あはは」

 いつもの様子に戻った舞に安心したのか、綾音がその言葉に笑う。

「そういう人って何になるの? 税理士とか?」

「税理士になる人もいるけど、他にも色々あるよ。例えば…アナリストとか」

「…? アナリスト? 穴掘るの?」

「違うよー。証券アナリスト。証券に拘らないデータアナリストっていう仕事もあるけど。ニュースとかにも出てくるよ。経済の分析結果を出して投資家とかに見て貰うお仕事」

「聞いただけでうんざりなんですけど」

「大変そうだよね。でも、それ目指して学校来てる人もいるよ。二年で試験も合格したんだって」

「え? じゃあもうアナリストなの? 学校来る意味なくない?」

「ううん。その後に二次と実務があってね。二年で一次を合格した場合、二次は四年生にならないと受けられないの。その後、実務経験積まないとなれないんだって。二年で合格するのって大変なんだよ。難しいのは勿論、一年の頃から準備しないといけないんだから」

「過酷…。綾もそれ、目指しているの?」

「あたしはそこまでは…ええと…しないっていうよりもできない…かな…。そういう人達ってもう、数字との向き合い方が違うんだよね。同じ物見てても、多分見えてるものが違うと思う」

「そっか」

「うん。格好良いし憧れるけどね…あ。あれ? 舞ちゃん、その人と知り合いだよ? この前話してた上野さん。上野さんだよ? 二年で試験受かったの。他にも何人かいるらしいけど。興味があるなら聞いてみれば」

「う? え?」

 思わぬところから司の名前が出てきて舞は固まった。そして動揺したまま恐る恐る綾音に問いかける。

「…え? 綾? 上野と知り合いなの?」

「ううん。有名人だから一方的に知ってるだけ」

 有名人。そうね。色んな意味で有名人よね。と、舞は頷く。そうしながら司の情報を再度棚卸した。

 …え? いよいよ、あいつヤバくない? そんなに頭良いの? 頭が良いって言うか、話聞いてると変人だ。しかももてる癖に女に興味が無くて、彼女も作らなかった癖に綾に一目惚れ? どういうキャラ? 絶対ヤバい! 情報が滅茶苦茶過ぎてヤバーーーーーーーーーーーい!!!

 どっかに寄れよ! 頭が良いならがり勉野郎でいろよ! もてるならそれなりに遊んでいろよ! 一目惚れとかするなら免疫のない人生歩いて来いよ!! 何でこうなったんだよーー!!

 もう駄目だ。これ以上情報を仕入れてしまったら更に混乱してしまう。今いくしかない。脳内で叫んだだけで少し息の切れた舞は震える声で呟いた。

「そー…っかー…。じゃあ、今度ちょっとお茶でも一緒にしてみる? 止めとく?」

「え?」

「あたしには理解できない経済の話とかできるかもしれないじゃん? どうする? 止めとく?」

「どうしたの??? 舞ちゃん」

 舞の誘いなのか牽制なのか分からない不思議な言葉に綾音は首を傾げた。