司は元々証券アナリストを目指していた。大学在学中に試験も受けて二次まで合格し、金融系の会社に行くつもりだったし周囲もそうするだろうと思っていた。真面目で数字や分析にずば抜けて強いという一面を持ちながらも、がり勉とか地味という印象は無い。私生活では論理的ですらなく、どこか落ち着きがあるのに子どもっぽい明るさも持っている人気者だった。
綾音は逆に地味な女子だった。大人しく優しい、良くも悪くも目立たない子。司と同じ経済学部にいたけれど、共通の知り合いがいた関係で偶然出会うまで司は綾音の事を知らなかった。綾音は司を一方的に知っていた。そんな二人だった。
大学にまで一軍女子という言い方が通用するのかは分からないけれど、司の周りにいたのはそういう女子ばかりだった。司から近付くことはなかったけれど女子が近付いてくる。好意を持ってという子もいたし、単に知り合いの知り合い程度で繫がった子も沢山いた。
その内の一人、立花舞。性格的にも外見的にも一軍女子の彼女もまた、友達に紹介されて司と知り合った。お互い特にどうということはなく、会えば少し話をする程度の知り合いだった。
そして舞は綾音の友達だった。二人は中学が同じで、性格的には大人しい綾音と元気な舞は、それでも気が合って仲良くしていた。高校は別だったけれど同じ大学の違う学部に入学して今に至る。中学の頃には同じようにすっぴんで髪を結んでいただけの二人は、大学に入学した時点で大分違っていた。綾音はそのまま、綺麗に整えてはいるけれどほぼすっぴんに大人しい格好。舞はお洒落に目覚めて格好もメイクもばっちり。それでも中学の時と同じように仲良く過ごしていた。
さて、そんな状況の中にあって、大分性質の違う二人を会わせようだなんて舞は思っていなかった。その思考すらなかった。
そんな最中、たまたま舞と司が立ち話をしていた時、綾音が舞に声を掛けてきた。そして去った。司に会釈と邪魔をしてしまったお詫びを口にして。ふわりと笑って。それだけの初対面だった。
けれど司はそれだけでは済まなかった。深く息を吸い込んで、それをゆっくりと吐き出す。
「…今の子、友達?」
綾音が去った方を見ながら司が呟く。まさか学部一の人気者が自分の親友に一目惚れしたとは思わない舞はあっけらかんと頷いた。
「え? うん。そう。中学の頃から仲良いんだー。良い子だよ」
「うん。良い子そう」
「…ん?」
その即答に舞は首を傾げた。どうした? 何か様子が変だぞ? おーい? と、こっちを見ない司をまじまじと見て呟く。
「気になるの?」
「めっちゃ気になる。すげー可愛くない?」
「おろ?」
見る目があるじゃん。単純に司を良い奴と思い、親友の事は勿論大好きな舞は大きく頷いた。ここまではただの世間話だと思っていた。
「そうなのよ。あの子、めっちゃ可愛いんだよ。性格も良いし、一緒にいると凄く楽しいし!」
「彼氏いるの?」
「…え?」
そこで舞は我に返った。あれ? これ、もしかしてマジ寄りのマジ?
…嘘ーん。こいつ、その気になればその瞬間に彼女ができるくらいにもてるのに? 急に? しかも綾に? …何で? 何か悪いこと考えてるの? と疑った。当然である。
「どういう意味?」
「え? 付き合っている男がいるか聞いたんだけど」
大分前に綾音はいなくなっていたけれど、ずっとそっちを見ていた司はやっと舞の方を向いた。その司の目を見て舞は顔を顰める。
「何でそんなこと聞くの?」
「いなかったら良いなと思ったから」
「何で?」
「そしたら友達になってくれないかなと思って」
その言葉に舞は軽蔑した! という顔をした。
「うわー。あんたの事、心底見損なったわ。もてても遊び人じゃないと思ってたのに。最低ー!」
「は? 遊んでないし」
「じゃあ、何で綾にまで手を伸ばそうとするのよ! 幾らでも周りに女の子いるでしょうが! どうせ落としやすそうとか思ったんでしょ!? あの子はあんたみたいな遊び人には渡さないわよ!?」
「だから遊んでねーって。俺、女の子と二人きりで遊びに行ったりしないし。自分から声かけたりもしないし。彼女もいない」
「今、この瞬間にいないだけでしょ」
「大学に入っていたことない」
その言葉に舞は固まった。もう二年半ばだ。一年半彼女無し?
「…は? 嘘つかないでよ」
「嘘じゃない」
「あれだけもててて彼女いない訳ないでしょうが」
「付き合ってなければ嘘じゃないだろ」
「全部断ってるってこと?」
「全部断ってる」
「…何で?」
「え? 付き合いたいって思わないから」
そこで舞は混乱した。どうも思っていた人間と違うぞ。こいつ。
「…今まで彼女がいた事ないってこと?」
「高校の時はいたけど、それだけだなー」
「何で別れたの?」
「大学遠くなるから無理って言われて」
「それであっさり別れたの?」
「向こうが無理って言うんだからしょうがないだろ」
「あんたの恋愛ってそういうもんなの!? 凄くさっくり付き合ってさっくり別れるじゃん! やっぱり遊び人!」
「…うーん。その子のこと、人としては好きだったけど、恋愛的な好きかっていうと今でも疑問が残るんだよな。だからそういう付き合いはもうするの止めようと思って。それから付き合ったりしていない」
…成程? 納得はできる。…けれども。
「…何で綾なのよ。っていうか、さっきより前に綾に会ったことあるの?」
「無い。さっきが初めて」
「…さっきもあんたと話した訳じゃないよね。あたしと話しているの見てただけだよね」
「うん」
「それで何が良いと思った訳?」
「すげー可愛かった」
「顔かよ」
「顔もだけど。…えー…。何だろう。仕草も声もほわほわしていてほっとするっていうか…とにかく全体的に凄い可愛かった。見ただけで可愛いなって思った子は芸能人とか含めて初めて」
そこで舞は絶句した。どうしよう。こいつ、悪い奴じゃないみたいだけど絶対変だよーー!!
「…無理なら良いけど」
舞の表情に何かを感じ取ったか、困った表情で司は呟く。その言葉にまた混乱した。
「無理っていうかーー…」
そもそもこれ、自分が決める問題じゃないよね。問題じゃないんだけど、自分がどう動くかで未来が決まるわ。うーーーーん。どうしようーー…。
ううーーーん…。頭を抱えて唸ること三分。舞はそもそもの話に辿り着いた。
「分かった。綾に聞いてみる。会うって言ったら会わせる。嫌って言ったら会わせない」
「わ、分かった」
唐突に真顔でそう言った舞に司もこくんと頷いた。
綾音は逆に地味な女子だった。大人しく優しい、良くも悪くも目立たない子。司と同じ経済学部にいたけれど、共通の知り合いがいた関係で偶然出会うまで司は綾音の事を知らなかった。綾音は司を一方的に知っていた。そんな二人だった。
大学にまで一軍女子という言い方が通用するのかは分からないけれど、司の周りにいたのはそういう女子ばかりだった。司から近付くことはなかったけれど女子が近付いてくる。好意を持ってという子もいたし、単に知り合いの知り合い程度で繫がった子も沢山いた。
その内の一人、立花舞。性格的にも外見的にも一軍女子の彼女もまた、友達に紹介されて司と知り合った。お互い特にどうということはなく、会えば少し話をする程度の知り合いだった。
そして舞は綾音の友達だった。二人は中学が同じで、性格的には大人しい綾音と元気な舞は、それでも気が合って仲良くしていた。高校は別だったけれど同じ大学の違う学部に入学して今に至る。中学の頃には同じようにすっぴんで髪を結んでいただけの二人は、大学に入学した時点で大分違っていた。綾音はそのまま、綺麗に整えてはいるけれどほぼすっぴんに大人しい格好。舞はお洒落に目覚めて格好もメイクもばっちり。それでも中学の時と同じように仲良く過ごしていた。
さて、そんな状況の中にあって、大分性質の違う二人を会わせようだなんて舞は思っていなかった。その思考すらなかった。
そんな最中、たまたま舞と司が立ち話をしていた時、綾音が舞に声を掛けてきた。そして去った。司に会釈と邪魔をしてしまったお詫びを口にして。ふわりと笑って。それだけの初対面だった。
けれど司はそれだけでは済まなかった。深く息を吸い込んで、それをゆっくりと吐き出す。
「…今の子、友達?」
綾音が去った方を見ながら司が呟く。まさか学部一の人気者が自分の親友に一目惚れしたとは思わない舞はあっけらかんと頷いた。
「え? うん。そう。中学の頃から仲良いんだー。良い子だよ」
「うん。良い子そう」
「…ん?」
その即答に舞は首を傾げた。どうした? 何か様子が変だぞ? おーい? と、こっちを見ない司をまじまじと見て呟く。
「気になるの?」
「めっちゃ気になる。すげー可愛くない?」
「おろ?」
見る目があるじゃん。単純に司を良い奴と思い、親友の事は勿論大好きな舞は大きく頷いた。ここまではただの世間話だと思っていた。
「そうなのよ。あの子、めっちゃ可愛いんだよ。性格も良いし、一緒にいると凄く楽しいし!」
「彼氏いるの?」
「…え?」
そこで舞は我に返った。あれ? これ、もしかしてマジ寄りのマジ?
…嘘ーん。こいつ、その気になればその瞬間に彼女ができるくらいにもてるのに? 急に? しかも綾に? …何で? 何か悪いこと考えてるの? と疑った。当然である。
「どういう意味?」
「え? 付き合っている男がいるか聞いたんだけど」
大分前に綾音はいなくなっていたけれど、ずっとそっちを見ていた司はやっと舞の方を向いた。その司の目を見て舞は顔を顰める。
「何でそんなこと聞くの?」
「いなかったら良いなと思ったから」
「何で?」
「そしたら友達になってくれないかなと思って」
その言葉に舞は軽蔑した! という顔をした。
「うわー。あんたの事、心底見損なったわ。もてても遊び人じゃないと思ってたのに。最低ー!」
「は? 遊んでないし」
「じゃあ、何で綾にまで手を伸ばそうとするのよ! 幾らでも周りに女の子いるでしょうが! どうせ落としやすそうとか思ったんでしょ!? あの子はあんたみたいな遊び人には渡さないわよ!?」
「だから遊んでねーって。俺、女の子と二人きりで遊びに行ったりしないし。自分から声かけたりもしないし。彼女もいない」
「今、この瞬間にいないだけでしょ」
「大学に入っていたことない」
その言葉に舞は固まった。もう二年半ばだ。一年半彼女無し?
「…は? 嘘つかないでよ」
「嘘じゃない」
「あれだけもててて彼女いない訳ないでしょうが」
「付き合ってなければ嘘じゃないだろ」
「全部断ってるってこと?」
「全部断ってる」
「…何で?」
「え? 付き合いたいって思わないから」
そこで舞は混乱した。どうも思っていた人間と違うぞ。こいつ。
「…今まで彼女がいた事ないってこと?」
「高校の時はいたけど、それだけだなー」
「何で別れたの?」
「大学遠くなるから無理って言われて」
「それであっさり別れたの?」
「向こうが無理って言うんだからしょうがないだろ」
「あんたの恋愛ってそういうもんなの!? 凄くさっくり付き合ってさっくり別れるじゃん! やっぱり遊び人!」
「…うーん。その子のこと、人としては好きだったけど、恋愛的な好きかっていうと今でも疑問が残るんだよな。だからそういう付き合いはもうするの止めようと思って。それから付き合ったりしていない」
…成程? 納得はできる。…けれども。
「…何で綾なのよ。っていうか、さっきより前に綾に会ったことあるの?」
「無い。さっきが初めて」
「…さっきもあんたと話した訳じゃないよね。あたしと話しているの見てただけだよね」
「うん」
「それで何が良いと思った訳?」
「すげー可愛かった」
「顔かよ」
「顔もだけど。…えー…。何だろう。仕草も声もほわほわしていてほっとするっていうか…とにかく全体的に凄い可愛かった。見ただけで可愛いなって思った子は芸能人とか含めて初めて」
そこで舞は絶句した。どうしよう。こいつ、悪い奴じゃないみたいだけど絶対変だよーー!!
「…無理なら良いけど」
舞の表情に何かを感じ取ったか、困った表情で司は呟く。その言葉にまた混乱した。
「無理っていうかーー…」
そもそもこれ、自分が決める問題じゃないよね。問題じゃないんだけど、自分がどう動くかで未来が決まるわ。うーーーーん。どうしようーー…。
ううーーーん…。頭を抱えて唸ること三分。舞はそもそもの話に辿り着いた。
「分かった。綾に聞いてみる。会うって言ったら会わせる。嫌って言ったら会わせない」
「わ、分かった」
唐突に真顔でそう言った舞に司もこくんと頷いた。
