高校二年の二学期の初めに、席替えをした。
一学期に隣の席で仲良くなった友達とは席が離れて少し寂しい。
でも席が近いのは話すきっかけになるし、友達が増えるチャンスだ、と意気込んで席を移動させた。
場所は窓際の一番後ろ。
ドキドキしながら座っていると、少し遅れて隣に移動してきたのは、九条隆臣くんだった。
九条くんが座り、僕は慌てて「よろしくね」と声をかけた。
九条くんの色素の薄い瞳に僕が映る。
九条くんは気怠そうに「よろしく」と答えると、前に目を向けた。
九条くんは精悍な顔つきで背も高く、同じ歳なのに大人っぽい。クールで落ち着いていて、同じ男でも僕とは正反対。比べるのもおこがましいんだけど。
僕の見た目はパッとしないし、中肉中背でこれといった特徴はない。
朝のホームルームが終わると、九条くん目当ての女子たちが集まってきた。
「中山くん、席貸して」
座っている僕に、女子が話しかけてきた。
普段話しかけられることもないから、目を瞬いていると、別の女子がその子の肩を叩く。
「ちょっと、クラスメイトの名前を間違えるなんて失礼だよ。中内くんだもんね」
僕は曖昧に笑って席を立った。少し離れた、友達である松尾のところに避難する。
中山でも中内でもなく、中村なんだけど、とは言えなかった。この分だと、下の名前が准一であることも知られていないだろう。
九条くんを囲う女子たちは、キラキラした可愛い子ばかり。
九条くんは「うるさい」と大きな息を吐いて、教室を出て行ってしまった。
袖にされた女子たちは落ち込むかと思いきや、「クールなところがいい」だとか「簡単に靡かないのがいい」だとか「そういうところが、好きになったら一途っぽいよね」とはしゃいでいて逞しい。
九条くんを囲んでいた女子たちが散らばっていくのを眺めながら、僕は松尾の机の脇でぼんやりと立ち尽くしていた。
「大変な席になっちゃったな」
松尾の声に意識を引き戻されて「あっ、うん……」と歯切れの悪い返事をした。
僕よりも九条くんのほうが大変なんじゃないだろうか。
女子たちに囲われても、全く嬉しそうじゃないし。
僕が声をかけた時もそっけなかったけれど、「よろしく」と会話をしてくれた。それしか話していないけれど、女子たちのように「うるさい」と一蹴されることはなかった。
騒がれるのが苦手なのかな? と首を傾ける。
授業のチャイムが鳴る前に、九条くんは教室に戻ってきた。
僕は松尾に手を振って席に着く。
英語の教科書やノートを出して、次の授業の準備をする。
九条くんも席に着くと、机の中を漁ったり、スクールバッグの中を覗いたりと慌ただしい。
「もしかして、英語の教科書を忘れちゃったの?」
僕が小声で話しかけると、九条くんは少しの沈黙の後に「ああ」とため息を吐いた。
女子から逃げていたから、教科書がないのも気付かずに、他のクラスに借りに行くこともできなかったのだろう。
僕は教科書を真ん中に置く。
「一緒に使おうよ」
九条くんは眉間に皺を寄せて、警戒しているような表情を見せる。その色素の薄い瞳が翳ったように見えた。
チャイムが鳴って先生が入ってくる。
教科書を開くと、小さな声で「ありがとう」と聞こえた。
僕は「気にしないで」と小声で返し、授業を聞きながら板書に集中した。
授業が終わって机の中にしまっていると「助かった」と九条くんがもう一度お礼を告げる。
「全然気にしないでよ」
教科書を見せただけなのだから。
九条くんは硬い表情で、僕をじっと見下ろす。
目を瞬かせていると、九条くんが俯いた。
「見返りは?」
見返り? 別に何もいらないし、こんなことで求めたりなんてしない。お礼だって二回も言われたんだから。
でも九条くんは借りを作りたくないとでも思っているのかもしれない。
どう言ったら九条くんが気兼ねしないかを考えた。
「えっと、僕が忘れ物をした時に、見せて欲しいな」
そう返せば、九条くんは顔を上げて目を瞬かせた。
なにかおかしなことを言っただろうか?
「なに話してんの? 中山くん、その席座らせて」
「あっ、うん」
僕が立ち上がると、すかさず女子が座って九条くんに話しかける。
僕はまた名前の訂正がでぎず、すごすごと松尾の元に向かった。
昼休みになると、松尾と中庭の端でお弁当を食べる。
「お前、これから毎日席を取られ続けるんじゃないの?」
「あっ、うん、そうかもしれないね」
今日は休み時間の度に女子に席を譲った。
「嫌なら言えよ」
「無理だって。松尾は言えるの?」
「俺も無理」
松尾は肩をすくめて、パンにかぶりついた。
「でも、僕より九条くんの方が大変だよね。毎回囲われてさ。教室を出て行くのは、僕に気を遣っているんじゃないかなって思うよ」
「どうして?」
「九条くんが出て行くと、みんな席から離れて行くでしょ。僕が座れるようにしてくれてるのかなって」
松尾は「はー」と呆けた声を出した。
「それが本当ならイケメンで優しくて、嫉妬すらする気になれねーわ」
「九条くんが言ったわけじゃないけど、そうなのかなって。九条くんは優しいよ。僕が『よろしくね』って言ったら『よろしく』って返してくれたし、教科書を見せた時は二回もお礼を言ってくれたよ」
九条くんは口数は少ないし、クールで表情が乏しいけれど、優しい人だと感じた。
「あっ、でも気になることがあって、教科書を見せた後に『見返りは?』って言われたんだ。お礼を言ってもらえたんだから、それ以上なにかある?」
「中村が九条くんのなにかを欲しがったんじゃないの?」
「えっ!」
頭を必死に捻っても、思いつかなかった。
「まー、中村はそんな奴じゃねーもんな」
冗談だったのか、とホッと胸を撫で下ろす。
しょっぱい卵焼きとご飯を頬張った。
すると僕たちの前に誰かが立ち止まる。
僕と松尾は首をそらした。
九条くんが僕たちを無表情で見下ろす。
九条くんの話をしていたから、気に障ったのかな、と不安になった。
九条くんが僕たちと目線を合わせるようにしゃがむ。
「悪かった」
謝られる意味がわからなくて、僕と松尾は目を瞬かせて顔を見合わせる。
「えっと、なにが?」
首を傾けながら聞けば、九条くんは気まずそうに頭を掻いた。
「俺のことを話していると思ったから立ち去ろうとしたけど、内容が聞こえて……。見返りなんて聞いて、悪かった。俺に近付いてくる男って、女を紹介しろってそんなんばっかだし。女は女で見た目しか見てないうるさいのばかりで、中村の親切を素直に受け取れなかった」
頭を下げるように九条くんは俯いた。
「あ、あの、頭を上げて」
「そうそう、九条くんが悪いわけじゃないし」
僕と松尾が慌てて口を開けば、九条くんがゆっくりと顔を上げる。
眉間を狭め、不安気な表情が見えた。
吸い込まれそうなほど綺麗な瞳が揺れる。
僕の胸はドッと高鳴り、無意識にシャツの胸元をギュッと掴んで皺を刻む。
「謝ってくれて、ありがとう」
やっぱり九条くんは優しい。
「中村は席を立たなくていいから。俺がすぐに出て行くし」
「いや、気にしなくていいよ」
僕は手と首を横に振る。
「……一学期に隣だったやつが、それがすげー嫌だったみたいなんだ。だから中村が気を使わなくてもいい」
「九条くんはいつも教室を出て行って、どこに行ってるの?」
「フラフラしてる。毎回階段に座って時間を潰してたら、学年主任にいじめられてるのかって心配されたから」
休み時間の度にそれはしんどいだろうな。
「じゃあさ、九条くんが教室にいられて、中村が席を立たなくて済む方法を考えようぜ」
松尾の提案に僕と九条くんは目を丸くする。
それができるなら、一番いい。
「そうだね」
僕は松尾の提案に手をパチンと叩く。
九条くんから、少しだけ顔の力が抜けたような気がした。
「俺は九条くんに恋人がいるって諦めさせるのがいいと思う」
「いや、いない」
九条くんがすかさず否定した。
「実際にいなくてもいいんだって。誰か聞かれても、他校の子って言えばいいんだから」
「そうだよ! そうしたらみんな諦めてくれるよ。人の彼氏に言い寄ったりはしないだろうし」
松尾の案がベストのような気がして、僕はうんうんと頷く。
「……わかった、そう言ってみる」
九条くんは立ち上がった。
「どこに行くの? お昼ご飯、誰かと約束してるの?」
「いや、どこっていうか、適当にそこら辺で食うよ」
「じゃあ一緒に食べようよ」
せっかく席が隣になって、九条くんのことを知れば知るほど優しい人なんだと知った。
仲良くなれたらな、と期待する。
「いいのか?」
「もちろん、ね?」
松尾に顔を向けると、モゴモゴと口を動かしていた。咀嚼して飲み込むと「俺の特技は中村の弁当箱からおかずを取ること」と胸を張った。
僕は咄嗟に視線を下げる。ブロッコリーがなくなっているのに気付いた。
「ブロッコリー好きなの?」
「いや、見本を見せて、メインは九条くんに譲ろうと思って」
「うん、美味い」
九条くんは口元を押さえながら頷く。
今度はウインナーがなくなっていた。
九条くんがクリームパンを千切って僕に差し出した。
「勝手に食って悪かった」
初めて見る柔らかい表情に、僕は顔が熱くなった。視線を逸らして「ありがとう」と受け取る。
九条くんが笑ってくれて嬉しいのに、直視できない。
もらったクリームパンは、すごく甘く感じた。
一学期に隣の席で仲良くなった友達とは席が離れて少し寂しい。
でも席が近いのは話すきっかけになるし、友達が増えるチャンスだ、と意気込んで席を移動させた。
場所は窓際の一番後ろ。
ドキドキしながら座っていると、少し遅れて隣に移動してきたのは、九条隆臣くんだった。
九条くんが座り、僕は慌てて「よろしくね」と声をかけた。
九条くんの色素の薄い瞳に僕が映る。
九条くんは気怠そうに「よろしく」と答えると、前に目を向けた。
九条くんは精悍な顔つきで背も高く、同じ歳なのに大人っぽい。クールで落ち着いていて、同じ男でも僕とは正反対。比べるのもおこがましいんだけど。
僕の見た目はパッとしないし、中肉中背でこれといった特徴はない。
朝のホームルームが終わると、九条くん目当ての女子たちが集まってきた。
「中山くん、席貸して」
座っている僕に、女子が話しかけてきた。
普段話しかけられることもないから、目を瞬いていると、別の女子がその子の肩を叩く。
「ちょっと、クラスメイトの名前を間違えるなんて失礼だよ。中内くんだもんね」
僕は曖昧に笑って席を立った。少し離れた、友達である松尾のところに避難する。
中山でも中内でもなく、中村なんだけど、とは言えなかった。この分だと、下の名前が准一であることも知られていないだろう。
九条くんを囲う女子たちは、キラキラした可愛い子ばかり。
九条くんは「うるさい」と大きな息を吐いて、教室を出て行ってしまった。
袖にされた女子たちは落ち込むかと思いきや、「クールなところがいい」だとか「簡単に靡かないのがいい」だとか「そういうところが、好きになったら一途っぽいよね」とはしゃいでいて逞しい。
九条くんを囲んでいた女子たちが散らばっていくのを眺めながら、僕は松尾の机の脇でぼんやりと立ち尽くしていた。
「大変な席になっちゃったな」
松尾の声に意識を引き戻されて「あっ、うん……」と歯切れの悪い返事をした。
僕よりも九条くんのほうが大変なんじゃないだろうか。
女子たちに囲われても、全く嬉しそうじゃないし。
僕が声をかけた時もそっけなかったけれど、「よろしく」と会話をしてくれた。それしか話していないけれど、女子たちのように「うるさい」と一蹴されることはなかった。
騒がれるのが苦手なのかな? と首を傾ける。
授業のチャイムが鳴る前に、九条くんは教室に戻ってきた。
僕は松尾に手を振って席に着く。
英語の教科書やノートを出して、次の授業の準備をする。
九条くんも席に着くと、机の中を漁ったり、スクールバッグの中を覗いたりと慌ただしい。
「もしかして、英語の教科書を忘れちゃったの?」
僕が小声で話しかけると、九条くんは少しの沈黙の後に「ああ」とため息を吐いた。
女子から逃げていたから、教科書がないのも気付かずに、他のクラスに借りに行くこともできなかったのだろう。
僕は教科書を真ん中に置く。
「一緒に使おうよ」
九条くんは眉間に皺を寄せて、警戒しているような表情を見せる。その色素の薄い瞳が翳ったように見えた。
チャイムが鳴って先生が入ってくる。
教科書を開くと、小さな声で「ありがとう」と聞こえた。
僕は「気にしないで」と小声で返し、授業を聞きながら板書に集中した。
授業が終わって机の中にしまっていると「助かった」と九条くんがもう一度お礼を告げる。
「全然気にしないでよ」
教科書を見せただけなのだから。
九条くんは硬い表情で、僕をじっと見下ろす。
目を瞬かせていると、九条くんが俯いた。
「見返りは?」
見返り? 別に何もいらないし、こんなことで求めたりなんてしない。お礼だって二回も言われたんだから。
でも九条くんは借りを作りたくないとでも思っているのかもしれない。
どう言ったら九条くんが気兼ねしないかを考えた。
「えっと、僕が忘れ物をした時に、見せて欲しいな」
そう返せば、九条くんは顔を上げて目を瞬かせた。
なにかおかしなことを言っただろうか?
「なに話してんの? 中山くん、その席座らせて」
「あっ、うん」
僕が立ち上がると、すかさず女子が座って九条くんに話しかける。
僕はまた名前の訂正がでぎず、すごすごと松尾の元に向かった。
昼休みになると、松尾と中庭の端でお弁当を食べる。
「お前、これから毎日席を取られ続けるんじゃないの?」
「あっ、うん、そうかもしれないね」
今日は休み時間の度に女子に席を譲った。
「嫌なら言えよ」
「無理だって。松尾は言えるの?」
「俺も無理」
松尾は肩をすくめて、パンにかぶりついた。
「でも、僕より九条くんの方が大変だよね。毎回囲われてさ。教室を出て行くのは、僕に気を遣っているんじゃないかなって思うよ」
「どうして?」
「九条くんが出て行くと、みんな席から離れて行くでしょ。僕が座れるようにしてくれてるのかなって」
松尾は「はー」と呆けた声を出した。
「それが本当ならイケメンで優しくて、嫉妬すらする気になれねーわ」
「九条くんが言ったわけじゃないけど、そうなのかなって。九条くんは優しいよ。僕が『よろしくね』って言ったら『よろしく』って返してくれたし、教科書を見せた時は二回もお礼を言ってくれたよ」
九条くんは口数は少ないし、クールで表情が乏しいけれど、優しい人だと感じた。
「あっ、でも気になることがあって、教科書を見せた後に『見返りは?』って言われたんだ。お礼を言ってもらえたんだから、それ以上なにかある?」
「中村が九条くんのなにかを欲しがったんじゃないの?」
「えっ!」
頭を必死に捻っても、思いつかなかった。
「まー、中村はそんな奴じゃねーもんな」
冗談だったのか、とホッと胸を撫で下ろす。
しょっぱい卵焼きとご飯を頬張った。
すると僕たちの前に誰かが立ち止まる。
僕と松尾は首をそらした。
九条くんが僕たちを無表情で見下ろす。
九条くんの話をしていたから、気に障ったのかな、と不安になった。
九条くんが僕たちと目線を合わせるようにしゃがむ。
「悪かった」
謝られる意味がわからなくて、僕と松尾は目を瞬かせて顔を見合わせる。
「えっと、なにが?」
首を傾けながら聞けば、九条くんは気まずそうに頭を掻いた。
「俺のことを話していると思ったから立ち去ろうとしたけど、内容が聞こえて……。見返りなんて聞いて、悪かった。俺に近付いてくる男って、女を紹介しろってそんなんばっかだし。女は女で見た目しか見てないうるさいのばかりで、中村の親切を素直に受け取れなかった」
頭を下げるように九条くんは俯いた。
「あ、あの、頭を上げて」
「そうそう、九条くんが悪いわけじゃないし」
僕と松尾が慌てて口を開けば、九条くんがゆっくりと顔を上げる。
眉間を狭め、不安気な表情が見えた。
吸い込まれそうなほど綺麗な瞳が揺れる。
僕の胸はドッと高鳴り、無意識にシャツの胸元をギュッと掴んで皺を刻む。
「謝ってくれて、ありがとう」
やっぱり九条くんは優しい。
「中村は席を立たなくていいから。俺がすぐに出て行くし」
「いや、気にしなくていいよ」
僕は手と首を横に振る。
「……一学期に隣だったやつが、それがすげー嫌だったみたいなんだ。だから中村が気を使わなくてもいい」
「九条くんはいつも教室を出て行って、どこに行ってるの?」
「フラフラしてる。毎回階段に座って時間を潰してたら、学年主任にいじめられてるのかって心配されたから」
休み時間の度にそれはしんどいだろうな。
「じゃあさ、九条くんが教室にいられて、中村が席を立たなくて済む方法を考えようぜ」
松尾の提案に僕と九条くんは目を丸くする。
それができるなら、一番いい。
「そうだね」
僕は松尾の提案に手をパチンと叩く。
九条くんから、少しだけ顔の力が抜けたような気がした。
「俺は九条くんに恋人がいるって諦めさせるのがいいと思う」
「いや、いない」
九条くんがすかさず否定した。
「実際にいなくてもいいんだって。誰か聞かれても、他校の子って言えばいいんだから」
「そうだよ! そうしたらみんな諦めてくれるよ。人の彼氏に言い寄ったりはしないだろうし」
松尾の案がベストのような気がして、僕はうんうんと頷く。
「……わかった、そう言ってみる」
九条くんは立ち上がった。
「どこに行くの? お昼ご飯、誰かと約束してるの?」
「いや、どこっていうか、適当にそこら辺で食うよ」
「じゃあ一緒に食べようよ」
せっかく席が隣になって、九条くんのことを知れば知るほど優しい人なんだと知った。
仲良くなれたらな、と期待する。
「いいのか?」
「もちろん、ね?」
松尾に顔を向けると、モゴモゴと口を動かしていた。咀嚼して飲み込むと「俺の特技は中村の弁当箱からおかずを取ること」と胸を張った。
僕は咄嗟に視線を下げる。ブロッコリーがなくなっているのに気付いた。
「ブロッコリー好きなの?」
「いや、見本を見せて、メインは九条くんに譲ろうと思って」
「うん、美味い」
九条くんは口元を押さえながら頷く。
今度はウインナーがなくなっていた。
九条くんがクリームパンを千切って僕に差し出した。
「勝手に食って悪かった」
初めて見る柔らかい表情に、僕は顔が熱くなった。視線を逸らして「ありがとう」と受け取る。
九条くんが笑ってくれて嬉しいのに、直視できない。
もらったクリームパンは、すごく甘く感じた。

