旦那様と住んで数日たった日のことだった。
「花咲、家裁はできるか?」
旦那様がわたしになにげなくそう聞いた。
「ええ、一通りは出来ますが……」
わたしは、突然の問いに若干とまどいながら答えた。子爵令嬢とはいえ、使用人扱いされていたのだ。一通りのことはできる。
「良い布が入った、花咲の服に使うと良い」
旦那様が、優しく笑った。
「え、そんな……本当にいい布ですわ」
本当に上等な布で、わたしは、使用人心がくすぐられた。わたしの着ているボロボロの着物を見るに見かねてくれたのだろうか。
「俺とわざわざ取引するような変わり者の行商人がくれたんだ」
旦那様は、得意げにそういった。
(あなたの方が変わり者だなんて口が裂けても言えないわね)
「ありがとうございます。さっそく作ってみます」
表情のゆるみで心がおどっていることに気づいた。
