「花咲、頭の痛みはどう?」
旦那様は水浴びを終え、上裸で話しかけてくる。
「おっおかげさまで、痛みはだいぶおちつきましたわ……」
わたしは直視しないように答える。
「そういえば、花咲、人間はみんな花咲のように顔にあざがあるものなのかい?」
旦那様はわたしに問いかける。お父様とお母様が愛してくれたおかげで委縮しないでいられるが、ほかの人にどう思われるかまったく気にしていないわけではない。
「いいえ……そのようなことはないかと……」
わたしは、うつむきがちにこたえた。
「花咲、まだ、元気はある?」
伺うように旦那様はわたしに問いかける。
「え、ええ……」
旦那様はわたしの体力に気を遣ってくれている。
「俺のお気に入りのところに連れてってあげるよ」
旦那様は上着を着ながらそう言った。
「お気に入りのところ……ですか?」
「うん、失礼」
ささやくようにそう言って旦那様はわたしの膝うらと腰を手で支えて持ち上げた。わたしの目の前には旦那様のきれいな顔がある。
「旦那様!?わたし、歩けます……!」
この移動方法は重かったらどうしようとか、そういう考えることがありすぎた。
「そんなこと言ってると、落ちてしまうよ。ちゃんと俺に手を回すように」
そう言うのでわたしはおずおずと旦那様の体に手を回した。そして、旦那様は、軽快に山を飛び回って移動した。
「はい、着いた!」
若干目が回っているわたしの足元に広がっているのは、花畑だった。
「わあ……きれいです。旦那様。キラキバナの群生地なのですね」
「よく知ってるね」
「はい。花は好きですから……」
(お父様とお母様が忌み子であるわたしの象徴の痣を例えてくれたものだもの……)
「花咲の顔はキラキバナが咲いているみたいだなって思ったから、見せたかった」
「え……」
(聞き間違え……?)
「だから、さっき、痣のこと気にしているようだったから……」
旦那様はもじもじとしている。
「きれいだと思うよって言いたかったんだ」
「う……あ……ありがとう……ございます……」
わたしはうつむきがちに感謝を伝えた。
「別に。俺が言いたかっただけだから怒られたってなんだっていいよ」
旦那様はそっけなくそういった。
(わたし……この人になら)
わたしは旦那様に向き直る。
「怒ったりなんてしません。この痣は大事な人が愛してくれた大事なものです。嬉しいですわ」
(裏切られてもいい。信じたい)
わたしはそう思った。
「旦那様はお名前はないのですか?」
わたしは自分が泣きそうになっているのに気付きながら声を出した。
「名前か。……鬼の間では深紫と呼ばれている。髪の色のままだな。華美で、俺の思っている自分と合わないんだ」
旦那様は、照れくさそうに言った。
「そんなことありません。ピッタリの美しい響きです。時々、そう呼ばせてください」
わたしは、照れている旦那様がかわいくて笑顔になっていた。
「ああ、花咲だけには許可しよう」
そういうと、深紫はわたしの手をとり、わたしたちは歩いて帰った。
