わたしは、山の中のひらけた場所で、目を覚ましたことに気づいた。頭にまだ痛みが残っていた。そして、声の主は……長い濃い紫にも見える黒髪と翡翠色の瞳を持つ美しい青年、ではなく角の生えた人外の存在だった。
「この書状によると、お前は俺の”所有物”だそうだな」
(最上級の鬼……なの?本当に?)
威圧感や恐怖といったものを感じさせないひょうひょうとした立ち振る舞いだった。わたしは手を縛られていて身動きが取れなかった。
鬼は、まばたきするたびに美しいまつ毛をきらめかせていた。
(そのまえに……)
「”所有物”……」
(モノ扱いだなんて……望まない花嫁の方がずっといい!)
「俺は人間を飼う趣味はないから、今夜のごちそうにでもさせてもらう」
鬼は書状をみながら、興味なさそうにわたしに言った。
(そんな……!こんな死に方、絶対にお母様とお父様にあの世で会っても悲しまれてしまう。なにか、なにかないのか)
わたしは、意識を失う直前に継母に言われたことを思い出した。
(人間の笛をわざわざ吹く変わり者だもの。きっとお前のこともかわいがってくれるさ。どういうカタチでもね)
その時私に天啓のような、土壇場のひらめきが舞い降りた。
「わたしと本物の夫婦になりませんか!?」
「はあ?」
鬼はわたしの突然の発言に目を見開いた。
「わたしはあなたの嫁になるためにここに来たのです。そして、あなた様は人間の持ち物に興味があるご様子。わたしが人間のことをたくさん夫婦生活を通してお伝えできるかと」
わたしは冷や汗をかきながら必死の提案をする。
「ふうん、なかなか面白いことを言うな。人間の味にも興味があったが、共同生活も面白そうだ」
鬼は興味を宿した目でニヤリと笑う。
(人間を食べたことがないのかしら……じゃなくて……)
「でしたら……!」
わたしはこの機会を逃せないとばかりに声を出す。
「しかし、一つ言っておく」
鬼はほほえみ、わたしの拘束を解きながら、抱擁をした。
「え」
わたしは、両親意外に抱きしめられたことなどなく、甘い花の香に固まってしまった。
「つまらなかったら食う、逃げたら食う」
甘い抱擁と裏腹に鬼はわたしにそういった。
「よろしく、花嫁様」
鬼は少し力を入れて私を抱きしめた。
