その忌み子は最上級の鬼に溺愛される


 騒動があってからしばらく、わたしたちは旅の準備をしていた。
「花咲、もう準備はできたか?」
 旦那様はどこかうきうきとした様子で、小屋から出てきたわたしに問いかける。
「ええ、もちろんですわ」
 わたしもついつられて声がわくわくした調子になる。
「居心地の良いところだったが、人間がうるさくてたまらんな」
(最上級の鬼を放っておくことはないでしょうね)
「ふふ」
 それがわかっていたがわたしはすっかり騒動を乗り越えた旦那様に笑顔になった。
「でも、花咲に会えた」
 そういって、旦那様はほほえんでわたしの額にくちづけした。わたしたちは、笛を吹いて平穏に過ごせる場所を探して、引越しすることになったのだ。
「長く住んだ土地を離れるのは寂しくないのか?」
 旦那様は伏し目がちに、少し気にした様子で聞いてきた。
 わたしは、もじもじとしたが、言うことにした。
「わたしの居場所は旦那様のいる場所ですもの」
 もう、心の中のお父様とお母様を指針にしていたわたしではない。
「そうか……ありがとう、花咲」
 そう言って旦那様はわたしの頭を優しくなでた。
「じゃあ、いこうか」
「はい、行きましょう」
 わたしたちは手をつないで山を後にした。わたしは後ろを振り向いて、一礼した後、また歩き出した。