その忌み子は最上級の鬼に溺愛される


 それからは、拍子抜けしたように穏やかに日々が過ぎた。旦那様に、人間の学問を教わったり、あやかしならではの知識を教えてもらったり。旦那様は変わらずわたしの料理をおいしいとほめてくれた。
 今日は旦那様が笛を吹いているのを隣で聞いていた。
(やっぱり、きれいな音色だわ)
「今日も笛を吹くのは楽し……」
 そう言って言葉を途中でとめ、旦那様は後ろを振り返った。どこか表情は険しい。
「旦那様……どうかされましたか?」
 わたしは、疑問に思ってたずねてみる。
「いーや?なんでもないよ」
 笑顔だけはいつもの旦那様だった。
「そうですか……」
 わたしはぬぐえない違和感があったが、何か考えがあってのことなのかと思い、それ以上問い詰めるのはやめた。
 わたしたちは平穏に暮らしているが、領地の方はおそらく悲惨なことになっているはずだ。
(天候の不順がちっともなおらない……でも、わたしはもう捨てられた身だもの。わたしにできることはないわ)
 そんなわたしの考え事を他所に旦那様は真剣な顔をして私を見つめてきた。
「花咲、俺たちは夫婦としてうまくやって行けてると思うが、最近俺は足りない気がするんだ」
 旦那様の真剣さは色を強めていく。
「足りない……ですか?」
 わたしは、核心をつかれないように目を泳がせた。
「夫婦が(ねや)を共にするというのは毎日のアレであっているのか?」
 旦那様はためらいながらもはっきりとした口調で言った。
「え……!」
(核心をつかれてしまった!)
 わたしは、心臓が止まりそうになった。
 今まで散々”そちら”の方に気がいかないように、添い寝を維持してきたがついに限界が来てしまったようだ。
「そ、それであっていると思いますわ」
 わたしは、むちゃくちゃな答えをすることしかできなかった。
「俺は花咲の子が欲しい。絶対にしあわせにする。今のままで子供は出来るのか?」
 旦那様はそう言って私の手をとった。
「こども……わ、私にも分かりませんわっ!」
 わたしは混乱のままに旦那様から離れてしまった。
「花咲!今俺から離れると……!」
 わたしは旦那様の呼び声にも応えず逃げてしまった。