恋愛リアリティーショーに参加したら男に告白された。

 バナナボートを終えた5人は海の上の近くに併設されているシャワールームに着く。すると、そこは大勢の人でにぎわっていた。

 「すみませーん!現在男子のシャワールームが大変込み合っております!ペアで使える方はお二人で一室使って下さーい!」

 スタッフの掛け声に美帆がにんまりと笑って大我を見る。

 「男子大変そうじゃ~ん!じゃ、お先ぃ!」
 「アタシも先に行ってるね」
 「はあっ!?……ったく、女子はいーよな空いてて!じゃあ千早~組もうぜ」
 「涼星、行くぞ」
 「ん?ああ、良いよ」

 千早は涼星の腕をパシっと掴んでシャワールームに進む。
 2人になれるなら好都合だ。涼星に確認したい事がある。

 「あっ、おい!俺1人かよチクショー!」

 背後で叫ぶ大我には悪いが、今はそれ所ではない。
 千早は涼星を連れ立って、シャワールームの個室に入り込み、青い防水カーテンを閉め切った。
 木目調の個室に木のスノコが敷かれたシャワールームは、男2人で入るにはやや狭い。
 千早は涼星から手を放し、木目調の壁に背を預けた。

 「どうしたの?千早、さっきから表情暗いよ」
 「涼星、その……バナナボートに乗っている時に、ひかるを見てたか?」
 「ひかる?……いや、悪いけど砂浜の方は見ていなかった」
 「そうか。俺の気のせいだったら良いんだが……ひかる、ちょっと変じゃないか?違和感があるっていうか」

 千早の様子が少し違う事を察してか、涼星がからかう事は無かった。
 少し考え込むように人差し指を唇に押し当てると、千早に向き直って口を開く。

 「それって、ひかるが男だからって事?」
 「……は?」

 想像の斜め上の涼星の言葉に、千早はすっとんきょうな声を上げた。

 「な、お、男……?ひかるが!?」
 「あれ?気付いてなかったの?てっきりその事かと思ったんだけど」
 「いや違……!な、なんでお前がそんな事知ってんだよ!?」
 「知ってるっていうか察した感じ?頑なにカーディガン脱ごうとしないのって、薄着になって体型を隠せないのが嫌なんじゃないかなってさ」

 小柄だけど骨格とか分かりやすいじゃん、と続ける涼星の言葉に千早は目を泳がせたまま俯いた。
 そんな事は初耳だ。というか全く分からなかった。
 (いや待てよ、確かに……)
 薄手のカーディガンを脱ごうとしなかった事。
 女子にしては高めの身長に中性的でハスキーな声。
 バナナボートに乗ろうとしなかった……いや、水着になりたがらなかった事。

 「この恋愛リアリティーショーに参加した理由も"クラスメイトがふざけて応募したのが当たった"って言ってたから、引くに引けなかったんじゃない?」

 女として恋愛リアリティーショーに参加させられたのなら、あの遠慮がちな行動も合点がいく。

 「お前、よく分かったな」
 「千早が鈍感なんじゃない?」
 「……悪かったな。お前はその、気づいても何も言わなかったのか?ひかるに」
 「なんで?個人の好みなんて好きにすればいいじゃん。俺からひかるに何か言うつもりは無いよ」

 涼星のその言葉は自然に口から出たもので、そこに偏見の色は微塵もない。
 軽口を言うばかりの奴じゃないんだな、と千早は少しだけ感心した。

 「それじゃなければ、千早はひかるの何が気になったの?」
 「……それ、は」
 「お~~~い!千早ー!涼星ー!まだか~~~~!?俺もう出たぞーーーーー!!」

 シャワールーム全体に轟くような大我の声にハッと顔を上げる。
 (あいつ出るの早いな!?)
 不味い。話す事に集中し過ぎてシャワーなんて1滴も浴びていない。

 「ちょっとうるさすぎるんだけど、あいつ」

 そう言う涼星の口元には笑みが浮かんでいる。
 涼星がシャワーホースに手を伸ばして、シャワーコックをグッと捻った。――シャワーノズルを千早に向けて。

 「うわっ!?」

 その結果、思いっきり顔面にシャワーを浴びた千早は頭を振った。

 「何するんだ馬鹿!」
 「話の途中でごめんね?後がつかえてるっぽいからさっさと済ませちゃおう。ほらぼーっとしないの!」
 「おま……っ、ふざけんな!」

 ガッと涼星の腕を両手で掴んでシャワーホースを涼星に向ける。ばしゃ!と勢い良くシャワーから放たれる水が涼星を直撃する。

 「あっはは!千早結構力強いじゃん!」
 「ああもう!早く済ませるぞ!」

 狭い個室でシャワーホースを取り合いながら、2人の身体に水が跳ねていく。
 結局ドッペルゲンガーの話はうやむやになってしまった。やっぱり考え過ぎなのかもしれない。
 頭のてっぺんから水を滴らせる涼星を見上げる。
 すぐからかってくるしムカつくけど、千早が気を張っていたから宥めようとしてくれたのかもしれない。
 涼星の真意はまだ分からないけど、少しでも長く一緒に居たいと思うのはどうしてだろう。

 そのまま近い距離でじゃれ合いながらシャワーを浴びた2人は、結局大我を待たせ続けるのだった。

 ◇

 side:侑里

 同時刻、海辺。
 混んでいる男子シャワールームとは裏腹に空いていた女子シャワールームで一足先にシャワーを終え、制服を着直して素足にサンダル姿の侑里は1人、浅瀬の砂浜に足を踏み入れていた。
 潮風が侑里の短めの黒髪をくすぐり、新鮮な磯の香りが肺に流れ込んでくる。

 「ふふっ。あー楽しい」

 今回の恋愛リアリティーショーは青嵐島という本島から離れた開催地だったが、思い切って参加した甲斐があった。
 海は綺麗だし、メンバーも居心地が良い。男同士でカップルが成立しそうなのは驚いたが。

 「アタシも頑張らないとね。恋したいし。……ん?」

 ザクザクと砂浜を踏みしめながら海に視線を送ると、海に制服姿の女の子が立っている。膝くらいまで海に浸かるのを気にも留めず侑里をただじっと見つめている。
 黒髪黒目の前下がりぱっつんヘアー。
 青いリボンタイの付いたシャツと短めのプリーツスカート。
 侑里の視線の先には侑里と瓜二つの少女が立って、ただじっと侑里を見つめている。

 「……え?」

 まるで海上に巨大な鏡が浮かんでいる様だ。
 侑里の心臓がどくどくと早まる。頬に拭いきれなかった水滴とは別の汗が流れ落ちる。

 「まさか……アタシの、ドッペルゲンガー……?」

 自分から話しておいて、本当に出るとは思わなかった。
 侑里のドッペルゲンガーは海辺からすっと手を伸ばし、侑里の足元を指さす。

 「……――よ」
 「え?何?……ゴメン!聴こえない!」

 波の音にかき消されて上手く聴きとれない。
 侑里が浅瀬に身を乗り出すと、ずぶ、と足元に鈍い刺激を感じた。
 足に何か細くて(ぬる)ついた物が巻き付く。侑里はハッとして視線を落とす。

 「――え」

 そこには、アカエイが浅瀬でじっとりと泳いでいた。
 その針のように鋭い尾で、侑里のくるぶしの下辺りを突き刺している。
 さあっと顔全体から血の気が引く。

 「危ないよ、そこ」

 自分と同じ声が響く。
 鼓動が警鐘を鳴らす様にドクドクと早まる。首元の皮膚が盛り上がり、急激に赤く染まる。

 「あ、あ”……うぐ……っ!」

 足の力が抜けて浅瀬の砂利に手を付く。
 息が上手く吸えない。視界がグラグラし、見下ろした砂浜が高波の様に揺らいて見える。眩暈に似た症状が加速し、侑里は浅瀬に倒れ伏した。
 ばしゃりと浅瀬の波がしぶきを上げ、それに驚いたアカエイが泳いで波間に消えていった。
 代わるように侑里のドッペルゲンガーが侑里の傍に近づき、無表情のまま侑里の傍に膝を付いた。

 「……そっか君は……メッセンジャー、だったん、だね……」

 全身が心臓になった様に脈打つ。
 (アタシがもう1回アカエイに刺されたら死ぬって、教えてくれようとしたんだ……)
 そう、侑里は過去に1度アカエイに刺された事がある。
 その時も重い症状が出て、医師にもう1度刺されたらアナフィラキシーショックで命を落とすかもしれないと言われた。

 「せっかく伝えてくれたのに……ゴメン、ね……」

 ドッペルゲンガーが侑里に覆いかぶさって腫れあがった顎下に手を差し込んで上を向かせる。そして、哀れむように眉尻を下げて歪な笑みを浮かべた。

 「あーあ、君はもう駄目だ」

 ゆっくりと水分を含んだ頭を撫でられる。侑里は意識が混濁して、ひゅうひゅうと浅い呼吸を繰り返した。
 ドッペルゲンガーに触れられた侑里の身体がびくびくと痙攣し、やがて動かなくなった。

 「死んじゃったならしょうがないね。これからはアタシに任せて。今からアタシが、四之宮 侑里になってあげる」

 侑里の額に手を当てた瞬間、バシュッと閃光が走って侑里の姿が一瞬にして掻き消えた。
 その浅瀬には、倒れた侑里の砂の影すら残っていない。
 光を吸い込んだドッペルゲンガーが、すっと黒髪をかき上げて耳にかける。

 「あっ、居た!侑里ーーー!」

 美帆の明るい声が海辺に響く。
 ()()は振り返り、自分に駆け寄る恋愛リアリティーショーのメンバーと撮影のカメラマン達に、にっこりと笑いかけた。

 「美帆!皆!こっちこっち~!」

 その姿は誰がどう見ても、四之宮 侑里そのものだった。

 To Be Continued……