恋愛リアリティーショーに参加したら男に告白された。

 「あー……」

 千早のマンションの一室。
 明るい茶色のフローリングに白を基調とした必要最低限の家具に囲まれたシンプルな自室のベッドで、千早はシーツの海に沈んでいた。
 エアコンの駆動音だけが微かに響く室内で、千早は浅く上体を起こした。ベッドの真横の締め切られたカーテンの隙間に指を差し込んで、少しだけ開ける。
 夕陽に赤く染まる趣きを感じる家々と、その奥に光る海を見つめた。外がだんだんと暗くなるのに合わせて、窓が鏡の様に千早の姿を反射する。

 汗が張り付いた黒髪はサイドに流れて、おでこが露わになっている。
 タンクトップ1枚しか着ていない身体は、首筋や肩に赤いキスマークがまばらに散らばっている。千早は掠れた声でぼそりと呟いた。

 「ちゃんとヤれるんだな……俺って」

 窓越しに見える鎖骨に残るキスマークをつうっと撫でる。それと同時に、背後から声が降ってきた。

 「千早ってドMだったっけ?」
 「うわっ!?」

 剥き出しの両肩を跳ねさせると、涼星が千早の背後からその肩に顎を乗せた。
 ラフなスラックスを穿いただけの涼星がベッドに乗り上げて、千早のタンクトップ越しの腹部に手を回して後ろから抱きしめる。背中越しに触れる肌が熱い。

 「噛んだり強く掴んでも良いとか言うから」
 「……忘れろ」
 「ヤだねー」

 涼星の方を振り返ると頬にキスが落とされる。
 上半身に何も身に纏っていない涼星が、眉尻を下げて千早を見上げた。

 「ごめんね、調子乗っちゃった。……大丈夫?」
 「……別に、平気だ」
 「水飲む?」
 「ん」

 ベッドサイドから涼星が水の入ったペットボトルを取り出して、そのキャップを捻って開ける。
 涼星がおもむろにペットボトルの水をあおると、喉に流し込まずに千早に口付けた。

 「んん……っ!?」
 今度は涼星と2人で、バランスを崩して再びベットに沈み込んだ。反射で口を開けると千早の口内に温くなった水が流し込まれる。
 千早の口内に涼星の舌が侵入し、ゆっくりと歯列をなぞられる。千早の口から飲み込みきれなかった水が頬を伝って、シーツに透明な染みを作った。
 形の良い唇が離されると、じんわりと赤くなった頬でじろりと涼星を見上げた。千早の上に跨った涼星が、満足げにニッと微笑む。

 「……普通にペットボトル渡せばいいだろ」
 「嫌?」
 「嫌……じゃない」

 目を逸らしながら小さく呟く。
 涼星が千早に顔を寄せ、ちゅっと鼻先に軽くキスを落とした。

 「もう1回する?」
 「……する」
 「え、いいんだ?」
 「……実感、出来るから」

 顔の近くに置かれた涼星の手を取って、それを自分の頬に寄せて控えめにすり寄る。
 ふっと千早が照明の光を遮断する様に目を伏せた。

 「俺は今、ちゃんと人間なんだなって……」
 「千早」

 涼星が千早の頬を撫でながら、その唇を食むように柔らかいキスを送る。

 「お前は夏目 千早だよ」
 「涼星……」

 真剣な表情と千早を真っすぐ見つめる亜麻色の瞳に、千早は目を見開く。
 胸に温かさが灯る。千早は滲むような笑みを浮かべて、青みがかった瞳を細めた。

 『ありがとう』

 発した声が二重に重なった気がした。その、自分と全く同じ声にハッとする。
 ちらりと窓の外に視線を投げると、沈みかける夕日が空を鮮やかなライラック色に染め上げている。窓に反射する自分と同じ顔が満足げに柔らかく微笑んだ様な、そんな気がした。
 それは自分を写した鏡の様で、どこか”千早”のような気がした。

 「千早?」
 「悪い、ぼーっとしてた。……何でも無い」

 千早は身を乗り出して、涼星の唇に自分の唇を重ねた。うっすらと涙の浮かぶ瞳を三日月型に優しく細め、滲むような柔らかい声で愛しい人の名前を呼んだ。

 「好きだよ、涼星」

 END.