恋愛リアリティーショーに参加したら男に告白された。

 朝日が沈み、青嵐島の海が赤く染まる夕暮れ。
 青嵐島唯一の神社は屋台が立ち並び、温かみのあるオレンジ色の電飾が灯っている。祭り会場は浴衣や甚平を纏った人達と、屋台からの活気ある声で華やいでいた。

 浴衣に着替えた千早と涼星、モノクロの甚平を着た大我が青嵐神社の鳥居にほど近い場所で女子達を待っていた。

 「ほ、ほんまにええって。美帆ちゃん……!」
 「大丈夫、大丈夫!超~~似合ってるから!」
 「みんな~、おまたせ!」

 黄色の浴衣の美帆と水色の浴衣の侑里に押されて、ピンク色の浴衣姿の輝が前に押し出される。
 ココアブラウンの髪を結い上げて金色の簪が挿された髪に、色とりどりの花があしらわれたピンク色の浴衣を着た輝が、恥ずかしそうに頬を染めながら大我の前に進んで来た。

 「うおっ!!」

 大我が目を白黒させたまま大きくのけ反って飛び跳ねた。
 そんな大我の反応に、輝がしゅんと肩を落とす。

 「う……、やっぱ、変?」
 「超可愛い!!」

 大我がガッと輝の両肩を掴む。
 そんな大我の勢いに押され、今度は輝が下駄を履いた足を1歩引いた。

 「た、大我くん……。僕が男って、ほんまに分かってる?」
 「お、おう!超分かってるぜ!ひかるちゃ……輝!」
 「……ほんまに?」

 見つめ合う2人の邪魔をしない様に、美帆と侑里が千早と涼星の元へ進んだ。

 「アタシ達も着たよ~!どう?」
 「ああ、似合ってる」
 「はあ~?千早リアクションうっす!」
 「……それ以外なんて言えばいいんだよ」
 「すごく似合ってるよ。美帆も侑里も」
 「涼星くんもカッコいい~!」
 「……同じ事言ってるだけだろ」

 千早がさり気なく視線を落とす。帯には挿さる銀色の簪は、屋台の明かりを反射して静かに反射している。
 カメラのセットが終わってスタッフからの合図を受けた涼星が、明るく通る声を発する。

 「という訳で、2日目の最後は青嵐島のお祭りにお邪魔させてもらってま~す!……もう明日は朝食の後に告白するだけだから、実質これが最後のイベントだよ。皆、悔いのないようにね」

 その言葉を皮切りに撮影が始まる。
 これから大我と輝はひもくじを楽しむだろうし、美帆と侑里は水風船の屋台に行くだろう。
 千早はすっと顔を上げて涼星を視界に入れる。サイドの髪は片方耳にかけて、少しだけセットしてもらった前髪はいつもより少し視界が開けて落ち着かない。

 「涼星。……俺と、2人っきりになってくれないか?」
 「やっと誘ってくれた。喜んで」

 千早が差し出した手に涼星が上から手を重ねる。指先の1本1本がゆっくりと絡むのを、千早ははにかみながら握り返した。1周目では握り返さなかったその手を、今度は握り返せたから。
 千早がドッペルゲンガーだと知っても、涼星は手を繋いでくれる。その事実に、千早の胸は締め付けられるように痛んだ。

 「握り返してくれるんだ」
 「人混みが凄いからな。流されないように」
 「あははっ、何それ。照れ隠し?」
 「……うるさいな」

 一緒に屋台に並んで狐面を購入する涼星の顔は、屋台のオレンジ色の明かりを受けて煌めいてる。
 それが眩しくて、でもずっと見ていたいと思ってしまう。

 「ん?どうしたの?」

 色とりどりの光に照らされた横顔は今まで見たどんな涼星よりも幸せそうで、千早の首から上にだんだんと熱が集まってゆく。
 このまま涼星と居られたらどれだけ良いだろう。でも、それは出来ない。
 (……だって俺は、人間じゃないから)
 涼星に拒絶されなくたって、怪異の存在である自分は涼星の傍に居るべきではない。居ては、いけないんだ。

 千早が顔を上げると、人混みに紛れて背の高い亜麻色の髪の男が見えた。
 亜麻色の髪の、カーキ色の浴衣の青年が狐面を付けてじっと、千早達の方を見つめる。道行く人々の隙間から見えるその光景が、スローモーションのように見えた。
 男がすうっと狐面に手を差し込んで持ち上げる。露わになった亜麻色の瞳が冷たく細められる。露わになった涼星と瓜二つの顔の輪郭が、ジジッと二重にぶれる。
 ――涼星の、ドッペルゲンガーだ。

 「は?あれって……!?」
 「え……?きゃっ!?」

 ひもくじの景品を手に持って戻ってきた大我と輝が、茫然と涼星のドッペルゲンガーを見つめる。
 水風船を持って大我の後ろから顔を出した美帆と侑里が、その表情を強張らせた。

 「あれが……俺の、ドッペルゲンガー……?」

 涼星が身体を強張らせ、僅かに身を引いた。
 ドッペルゲンガーが感情の宿さない瞳で涼星を一瞥し、境内に向かって踵を返した。

 「涼星はここに居てくれ」
 「は?ちょ、千早!?」

 繋がった涼星との手を解こうとしたが、力を込められてグッとその場に縫い止められる。
 千早が声を張り上げる。

 「お前はここに居てくれ!わざわざ危険を侵してまで、お前がドッペルゲンガーと相対する必要は無い!」
 「だからって、お前を1人にさせる訳にはいかないだろ!」
 「駄目だ!お前が会ったら……っ、殺されるかもしれないんだぞ!!」
 「千早が居れば俺は死なない」

 焦燥が入り混じった千早の叫び声をかき消す様に、涼星がはっきりと告げる。祭の喧騒の隙間を縫って、そのよく通る声が千早の耳に届く。
 あまりの明瞭さに、千早がグッと押し黙る。
 2人の様子を見ていた輝が、そっと2人に近づいた。

 「さっきのって、涼星くんのドッペルゲンガーやったよな。……行くん?2人共」

 その声はハスキーで低い、中性的な男のものだった。

 「行く」
 「涼星……っ!」
 「俺のドッペルゲンガーなら俺が行かないと駄目だろ。千早。俺、引かないから」
 「……っ」
 「2人やないとドッペルゲンガー相手に勝機は無いんちゃう?」
 「輝……」
 「行くなら気ぃつけてな。……必ず、帰ってくるんやで」
 「大丈夫。2人で、必ずここに戻ってくる」

 輝の言葉に背中を押され、千早は涼星と並んで踵を返す。
 2人を撮影スタッフとカメラが追おうと動く。輝はパッと空気を切り替えて、大我の腕に自身の腕を絡ませながら声を上げた。

 「あー!僕らも二人っきりになりたいわあ!」
 「エ!!?」
 「僕、もっと大我くんと一緒に居たいんやけど……だめ?」
 「全然!?俺も輝と一緒に居てえしマジで!!」

 少し離れた所で3人の会話を聞いていた侑里が、美帆の腕を掴んで境内とは反対の屋台を指さす。

 「あ~~!アタシも美帆とあっち行きたいなー!」
 「きゅ、急にどうしたの侑里!?」
 「女の子同士気兼ねなく楽しもうよ!男なんて気にしない気にしない!」
 「……まあ、良いけど。ウチもさ、今日はずっと侑里と一緒に回りたいって思ってたから」
 「……本当に?」
 「うん……」

 美帆がじわじわと赤く染まり始める顔を隠す様に侑里をぐっと引き寄せると、カメラと撮影スタッフに向かってびしっと指をさした。

 「千早と涼星くんはいっぱい撮ったからもういいでしょ!なに!?女の子同士じゃ取れ高無いっての!?」
 「そうだ!あいつらどうせ便所に行くだけだぜ!俺らの方が良いぜ!!」
 「せやで~!」
 「皆……」

 スタッフを引き付けてくれる4人に目を丸くする。
 そんな千早に、隣に居た涼星がそっと耳打ちした。

 「千早が頑張ったからだよ」

 今の涼星に1周目の記憶は無いはずなのに、その言葉に目頭が熱くなる。
 ドッペルゲンガーじゃない。誰も死なせずに生身の皆と、ここまで来る事が出来たんだ。
 千早が屋台のオレンジ色の明かりを受けてふっと微笑む。

 「皆、ありがとう」

 4人がちらりと振り返って、それぞれの温かな笑みを浮かべた。

 「俺、この番組に出て良かった。皆と出会えて良かった。……じゃあな」

 4人に軽く手を振って、千早と涼星はドッペルゲンガーを追って境内に駆け出す。
 千早の帯に挿された銀色の簪が、ゆらりと怪しい光を反射した。

 To Be Continued……