「う、うわあああああ!!」
3階の教室にいた男子生徒が空に響くほどの絶叫を上げ、ベランダから一目散に逃走した。
ジワジワと鳴く蝉の声が幾重にも重なって、木々に囲まれた校舎裏に響く。木々を貫通する日差しの眩しさに、オリジナルから完全になり替わったドッペルゲンガー……千早は目を細めた。
「……暑い」
これからどうしようか。
千早は退学届けを出すつもりだったようだが、青春を謳歌して欲しいならそれは避けるべきだ。
生まれたばかりの自分自身も、学校には通ってみたい。
「……ッ」
頭の奥がズキズキと痛む。
成り代わったとはいえ、記憶の定着には少し時間がかかる。生まれた瞬間から16歳の現在に至るまでの千早の記憶と感情が濁流の様に流れ込んでくる。
千早の記憶を整理する様に額に手を当て、影を求めてふらふらと校舎に入り込んだ。
エアコンの効いていない廊下は外と大差ない程暑い。
千早は涼を求めて足を進める。おそらく図書室ならばエアコンも利いていて涼しいはずだ。
図書室まで辿り着いて、金具の古くなった引き戸を開ける。
扉を開けると、奥の長机で誰かが寝ていた。
机に突っ伏して眠る男子生徒に見覚えは無い。ただ、レースカーテン越しの太陽光が亜麻色の髪に反射する様は、どこか神秘的で1枚の絵画の様にも見える。
(……誰だ?千早の記憶には無い)
よく見れば制服のシャツの色も違う。
白い肌の男子生徒は自分の腕を組んで枕代わりにしている。体勢も変えず微動だにしない。
(……死んでる訳じゃ、無いよな)
肌の色が白いからか、少し具合が悪そうにも見える。男子生徒に近づき、亜麻色の髪をそっとずらして額に触れた。
その瞬間伸びて来た手が、千早の手をグッと掴んだ。
「誰?」
透き通った声が響く。
不思議な声質だ。声を張っているわけでは無いのに、すっと耳の奥に馴染む。
男子生徒が目を開けた。髪と揃いの亜麻色の瞳が、じっと千早を見つめた。
「……熱でも、あるのかと」
「んーん、別に。……暑いから休んでただけ」
「……そうか。邪魔して悪かった」
男子生徒が上体を起こす。ちらりと手元の時計を確認して長いまつ毛を伏せると、ふっと軽く微笑んだ。
「ねえ、後15分経ったら起こしてよ」
「は?」
「ちょっとだるいからさ。お前暇そうだし良いでしょ。よろしく」
「お、おい……!」
それだけ言うと、男子生徒がまた腕を枕にして眠り始めた。
(……マジで寝やがった)
こういう場合どうするのが正解なのか分からない。人とのコミュニケーションを避けて来た千早の記憶には、こういう時の対処法が存在しない。
ちらりと眠る男子高校生を見る。
だるいと言っていた通りあまり顔色が良くない。もしかしたら、軽度な熱中症かも知れない。
「……仕方ない」
千早の記憶に無いなら自分で動くしかない。
くるりと踵を返すと、スクールバッグを取りに自分の教室に向かって靴を滑らせた。
◇
図書室に戻った千早は、教室から取ってきたスクールバックをパイプ椅子に掛け、手持無沙汰を紛らわす様に本棚から適当な本を1冊引っこ抜いて男子生徒の向かい側のパイプ椅子に腰掛けた。
パラパラと、生まれて初めて読む本に目を通す。
エアコンの効いた図書室は時計の秒針が響く音と、遠巻きに聴こえる部活に精を出す生徒の声しか聴こえない。
どこか世界から切り離された様な静けさが、今の千早には却って心地良かった。
紙と木造建築独特の古びた木の香りがする図書室で、少しの間文字を追っていた千早は顔を上げた。時計は丁度15分に差し掛かろうとしている。
本を閉じて長机に置く。身を乗り出して、男子生徒の肩を揺さぶった。
「起きろ。15分経った」
千早の呼びかけにピクリと長いまつ毛が震える。
すっと開けられた瞳を見つめていると、千早の腕がグッと引き寄せられた。
千早がバランスを崩して、男子生徒の傍に手を付く。
「……っ、おい……!」
千早の黒髪と男子生徒の亜麻色の髪が擦れて混ざり合う。
額が触れ合いそうな程の至近距離で瞳がかち合う。
吸い込まれそうな亜麻色の瞳が美しくて、千早の心臓がドッと跳ねた。
「ふふっ。本当に起こしてくれるとは思わなかった。ありがとね」
パッと手が放され、千早は長机に突っ伏す形になった。男子生徒がぐぐっと伸びをする。
レースカーテン越しの光を受けて、男子生徒の髪がきらめく。少し青かった顔色も、休んだおかげか血色を取り戻している。
千早も立ち上がると、男子生徒の形の良い唇が緩やかな弧を描く。
「俺、白乃 涼星。バスケ部の部活交流で本島から来たんだ」
自身の胸元に手を当てて微笑む涼星に、レースカーテン越しの柔らかな光が当たって肌を艶めかせる。その様は、まるで青春ドラマのワンシーンだ。
軽く目を見開いて見上げていると、涼星が小首をかしげる。
「お前は?」
「え」
「名前、何?」
「なま、え……?」
「無い訳ないでしょ。ほら、早く教えて」
「……な」
ぎこちなく唇を開く。
自分の胸元に手を当てて、涼星を真っ直ぐ見つめ返した。
「夏目 千早だ」
涼星に名前を名乗った瞬間、カチリとパズルのピースがはまったような感覚がした。
「良い名前してんじゃん。――千早」
涼星に見つめられながら名前を呼ばれて、初めて腑に落ちた。
(ああ本当に、俺が夏目 千早になったんだ)
「じゃあ、俺もう行くから」
柔らかでよく通る声に視線を戻す。
涼星がぽん、と千早の頭を撫でてパイプ椅子に置いていた部活用のエナメルバックを肩にかける。
千早もパイプ椅子から紺色のスクールバッグを手に取り、その中からまだ冷たさの残るペットボトルを取り出して涼星に差し出した。
「白乃、これやる」
「え、何?……スポーツドリンク?」
「顔色悪そうだったから。部活だからって汗の掻き過ぎも良くないだろ」
涼星はペットボトルと千早の顔を交互に見つめ、花が綻ぶように明るく破顔した。
次いで、千早の頭をわしゃわしゃと掻き回す。
「あははっ!なにそれ!お前良い奴過ぎ!」
「……っ、おい。要らないなら返せ」
「嫌だね。ありがたく貰っとく」
確かに具合良くなかったからねー、と言いながら涼星はペットボトルのキャップを外して中身をあおった。
3分の1ほど飲み干した所を見ると、やはり喉は乾いていたようだ。
「わざわざ買ってくれたの?」
「……ああ」
「優しいね、千早。……お前ともっと話していたいけど、そろそろ本当に行かなきゃ」
「ほどほどにしろよ」
「ありがとう。ねえ千早、時間空いてたら体育館覗きに来なよ」
「体育館?」
「これからバスケの合同試合すんの。俺上手いから見てな」
千早の頭から手を放し、千早の身長に合わせるように屈むと、耳元でそっと囁きかけた。
「またね」
その声が耳から脳に直接流れ込んでくるような錯覚を起こし、千早はピクリと肩を震わせた。
そのまま、涼星はひらりと千早から身体を離して図書室を後にした。
「……なんだよ、あいつ」
耳元が熱い。エアコンが効いているなんて嘘のようだ。
耳から広がる様に赤くなる頬を、自身の冷たい手を押し当てて冷ました。
手早く荷物をまとめて昇降口から外に出る。
体育館から賑やかな生徒の声と、キュッキュッとコーティングされたフローリングを滑る靴音が炎天下の校庭にも聴こえてくる。
ちらりと覗くと、遠巻きに亜麻色の髪が見えた。
チームメイトからのパスを受けて涼星が両手を高く上げてボールを放つ。
バスケットゴールの網が揺れ、ボールがネットに吸い込まれていった。
「……上手いんだな」
高身長のイケメンでバスケ部のエースなんて、少女漫画のヒーローみたいだ。そんな物を読んだ記憶は千早の中には無いが。
立ち止まって白いTシャツにゼッケン姿の涼星を遠巻きにぼうっと見つめていると、亜麻色の瞳が千早の方を向いた。
バチッと視線が重なり合うと、涼星はニッと笑って千早に大きく手を振った。
「……ふっ」
千早も片手を上げてぎこちなく手を振り返す。チカ、と木々の木漏れ日の隙間から鋭い日差しが差し込む。
「眩し……」
目元を押さえて呟いたその言葉は、太陽の事か涼星の事なのか。
きっとああいうのが青春なんだ。
友達や仲間と打ち解け合って、1つの事に熱中して学校生活を送る。ああ確かに、そんな風に過ごせたらどれだけ楽しいだろう。
(俺もいつか、あんな風に……)
『ば、化け物……っ!!』
茶髪の男子生徒の声が脳内に反響する。
(……なれると、思ってるのか?)
視線を砂利混じりの地面に落とし、照り付ける太陽光を受けて黒々と地面に伸びる自分の影を見る。
(俺は、人間じゃないのに)
くるりと踵を変えして校舎を後にする。
忘れよう。
涼星みたいな誰からも好かれるような人間は、どうせ千早の事なんてすぐ忘れるものだから。
(出来る。ちゃんとやれる。俺は……青嵐高校に通う1年生の、夏目 千早だから)
千早はふっと自嘲気味に微笑むと、自宅への道を迷いなく進んで行った。その姿は景色に溶け込んで、何の違和感も無い。
ジワジワと蝉時雨が反響する。
太陽光を受けるほど濃くなる千早の影が、実体に追随するように伸びていった――。
To Be Continued……
3階の教室にいた男子生徒が空に響くほどの絶叫を上げ、ベランダから一目散に逃走した。
ジワジワと鳴く蝉の声が幾重にも重なって、木々に囲まれた校舎裏に響く。木々を貫通する日差しの眩しさに、オリジナルから完全になり替わったドッペルゲンガー……千早は目を細めた。
「……暑い」
これからどうしようか。
千早は退学届けを出すつもりだったようだが、青春を謳歌して欲しいならそれは避けるべきだ。
生まれたばかりの自分自身も、学校には通ってみたい。
「……ッ」
頭の奥がズキズキと痛む。
成り代わったとはいえ、記憶の定着には少し時間がかかる。生まれた瞬間から16歳の現在に至るまでの千早の記憶と感情が濁流の様に流れ込んでくる。
千早の記憶を整理する様に額に手を当て、影を求めてふらふらと校舎に入り込んだ。
エアコンの効いていない廊下は外と大差ない程暑い。
千早は涼を求めて足を進める。おそらく図書室ならばエアコンも利いていて涼しいはずだ。
図書室まで辿り着いて、金具の古くなった引き戸を開ける。
扉を開けると、奥の長机で誰かが寝ていた。
机に突っ伏して眠る男子生徒に見覚えは無い。ただ、レースカーテン越しの太陽光が亜麻色の髪に反射する様は、どこか神秘的で1枚の絵画の様にも見える。
(……誰だ?千早の記憶には無い)
よく見れば制服のシャツの色も違う。
白い肌の男子生徒は自分の腕を組んで枕代わりにしている。体勢も変えず微動だにしない。
(……死んでる訳じゃ、無いよな)
肌の色が白いからか、少し具合が悪そうにも見える。男子生徒に近づき、亜麻色の髪をそっとずらして額に触れた。
その瞬間伸びて来た手が、千早の手をグッと掴んだ。
「誰?」
透き通った声が響く。
不思議な声質だ。声を張っているわけでは無いのに、すっと耳の奥に馴染む。
男子生徒が目を開けた。髪と揃いの亜麻色の瞳が、じっと千早を見つめた。
「……熱でも、あるのかと」
「んーん、別に。……暑いから休んでただけ」
「……そうか。邪魔して悪かった」
男子生徒が上体を起こす。ちらりと手元の時計を確認して長いまつ毛を伏せると、ふっと軽く微笑んだ。
「ねえ、後15分経ったら起こしてよ」
「は?」
「ちょっとだるいからさ。お前暇そうだし良いでしょ。よろしく」
「お、おい……!」
それだけ言うと、男子生徒がまた腕を枕にして眠り始めた。
(……マジで寝やがった)
こういう場合どうするのが正解なのか分からない。人とのコミュニケーションを避けて来た千早の記憶には、こういう時の対処法が存在しない。
ちらりと眠る男子高校生を見る。
だるいと言っていた通りあまり顔色が良くない。もしかしたら、軽度な熱中症かも知れない。
「……仕方ない」
千早の記憶に無いなら自分で動くしかない。
くるりと踵を返すと、スクールバッグを取りに自分の教室に向かって靴を滑らせた。
◇
図書室に戻った千早は、教室から取ってきたスクールバックをパイプ椅子に掛け、手持無沙汰を紛らわす様に本棚から適当な本を1冊引っこ抜いて男子生徒の向かい側のパイプ椅子に腰掛けた。
パラパラと、生まれて初めて読む本に目を通す。
エアコンの効いた図書室は時計の秒針が響く音と、遠巻きに聴こえる部活に精を出す生徒の声しか聴こえない。
どこか世界から切り離された様な静けさが、今の千早には却って心地良かった。
紙と木造建築独特の古びた木の香りがする図書室で、少しの間文字を追っていた千早は顔を上げた。時計は丁度15分に差し掛かろうとしている。
本を閉じて長机に置く。身を乗り出して、男子生徒の肩を揺さぶった。
「起きろ。15分経った」
千早の呼びかけにピクリと長いまつ毛が震える。
すっと開けられた瞳を見つめていると、千早の腕がグッと引き寄せられた。
千早がバランスを崩して、男子生徒の傍に手を付く。
「……っ、おい……!」
千早の黒髪と男子生徒の亜麻色の髪が擦れて混ざり合う。
額が触れ合いそうな程の至近距離で瞳がかち合う。
吸い込まれそうな亜麻色の瞳が美しくて、千早の心臓がドッと跳ねた。
「ふふっ。本当に起こしてくれるとは思わなかった。ありがとね」
パッと手が放され、千早は長机に突っ伏す形になった。男子生徒がぐぐっと伸びをする。
レースカーテン越しの光を受けて、男子生徒の髪がきらめく。少し青かった顔色も、休んだおかげか血色を取り戻している。
千早も立ち上がると、男子生徒の形の良い唇が緩やかな弧を描く。
「俺、白乃 涼星。バスケ部の部活交流で本島から来たんだ」
自身の胸元に手を当てて微笑む涼星に、レースカーテン越しの柔らかな光が当たって肌を艶めかせる。その様は、まるで青春ドラマのワンシーンだ。
軽く目を見開いて見上げていると、涼星が小首をかしげる。
「お前は?」
「え」
「名前、何?」
「なま、え……?」
「無い訳ないでしょ。ほら、早く教えて」
「……な」
ぎこちなく唇を開く。
自分の胸元に手を当てて、涼星を真っ直ぐ見つめ返した。
「夏目 千早だ」
涼星に名前を名乗った瞬間、カチリとパズルのピースがはまったような感覚がした。
「良い名前してんじゃん。――千早」
涼星に見つめられながら名前を呼ばれて、初めて腑に落ちた。
(ああ本当に、俺が夏目 千早になったんだ)
「じゃあ、俺もう行くから」
柔らかでよく通る声に視線を戻す。
涼星がぽん、と千早の頭を撫でてパイプ椅子に置いていた部活用のエナメルバックを肩にかける。
千早もパイプ椅子から紺色のスクールバッグを手に取り、その中からまだ冷たさの残るペットボトルを取り出して涼星に差し出した。
「白乃、これやる」
「え、何?……スポーツドリンク?」
「顔色悪そうだったから。部活だからって汗の掻き過ぎも良くないだろ」
涼星はペットボトルと千早の顔を交互に見つめ、花が綻ぶように明るく破顔した。
次いで、千早の頭をわしゃわしゃと掻き回す。
「あははっ!なにそれ!お前良い奴過ぎ!」
「……っ、おい。要らないなら返せ」
「嫌だね。ありがたく貰っとく」
確かに具合良くなかったからねー、と言いながら涼星はペットボトルのキャップを外して中身をあおった。
3分の1ほど飲み干した所を見ると、やはり喉は乾いていたようだ。
「わざわざ買ってくれたの?」
「……ああ」
「優しいね、千早。……お前ともっと話していたいけど、そろそろ本当に行かなきゃ」
「ほどほどにしろよ」
「ありがとう。ねえ千早、時間空いてたら体育館覗きに来なよ」
「体育館?」
「これからバスケの合同試合すんの。俺上手いから見てな」
千早の頭から手を放し、千早の身長に合わせるように屈むと、耳元でそっと囁きかけた。
「またね」
その声が耳から脳に直接流れ込んでくるような錯覚を起こし、千早はピクリと肩を震わせた。
そのまま、涼星はひらりと千早から身体を離して図書室を後にした。
「……なんだよ、あいつ」
耳元が熱い。エアコンが効いているなんて嘘のようだ。
耳から広がる様に赤くなる頬を、自身の冷たい手を押し当てて冷ました。
手早く荷物をまとめて昇降口から外に出る。
体育館から賑やかな生徒の声と、キュッキュッとコーティングされたフローリングを滑る靴音が炎天下の校庭にも聴こえてくる。
ちらりと覗くと、遠巻きに亜麻色の髪が見えた。
チームメイトからのパスを受けて涼星が両手を高く上げてボールを放つ。
バスケットゴールの網が揺れ、ボールがネットに吸い込まれていった。
「……上手いんだな」
高身長のイケメンでバスケ部のエースなんて、少女漫画のヒーローみたいだ。そんな物を読んだ記憶は千早の中には無いが。
立ち止まって白いTシャツにゼッケン姿の涼星を遠巻きにぼうっと見つめていると、亜麻色の瞳が千早の方を向いた。
バチッと視線が重なり合うと、涼星はニッと笑って千早に大きく手を振った。
「……ふっ」
千早も片手を上げてぎこちなく手を振り返す。チカ、と木々の木漏れ日の隙間から鋭い日差しが差し込む。
「眩し……」
目元を押さえて呟いたその言葉は、太陽の事か涼星の事なのか。
きっとああいうのが青春なんだ。
友達や仲間と打ち解け合って、1つの事に熱中して学校生活を送る。ああ確かに、そんな風に過ごせたらどれだけ楽しいだろう。
(俺もいつか、あんな風に……)
『ば、化け物……っ!!』
茶髪の男子生徒の声が脳内に反響する。
(……なれると、思ってるのか?)
視線を砂利混じりの地面に落とし、照り付ける太陽光を受けて黒々と地面に伸びる自分の影を見る。
(俺は、人間じゃないのに)
くるりと踵を変えして校舎を後にする。
忘れよう。
涼星みたいな誰からも好かれるような人間は、どうせ千早の事なんてすぐ忘れるものだから。
(出来る。ちゃんとやれる。俺は……青嵐高校に通う1年生の、夏目 千早だから)
千早はふっと自嘲気味に微笑むと、自宅への道を迷いなく進んで行った。その姿は景色に溶け込んで、何の違和感も無い。
ジワジワと蝉時雨が反響する。
太陽光を受けるほど濃くなる千早の影が、実体に追随するように伸びていった――。
To Be Continued……



