恋愛リアリティーショーに参加したら男に告白された。

 ◇

 それからはドッペルゲンガーに遭遇する事も無く、音楽室で恋愛成就のお守りを手に校舎を後にした。
 輝、侑里、美帆、大我。恋愛リアリティーショーの初日は、誰1人欠ける事無く終了した。

 ◇

 前回同様快晴に恵まれた2日目。恋愛リアリティーショーのメンバーは全員で呉服屋に立ち寄っていた。
 温かみのある照明に照らされたナチュラルな雰囲気の店内は、何回来ても心を落ち着かせてくれる。

 「タダでレンタル出来るなんてさ!凄い太っ腹じゃん!オソロとかしちゃう~?侑里」
 「良いね!」
 「輝も浴衣っしょ?」
 「あはは……。僕は浴衣着ぃひんよ。気にせんといて」

 輝がやんわりと断るが、美帆がむぅっと頬を膨らませた。

 「え~、なんで?一緒に浴衣着ればいいじゃない。……ほら、これとかアンタに似合いそうよ」

 美帆が指さしたのは薄いピンク色の浴衣で、繊細な桜の花柄が裾にあしらわれている。
 丁度、1周目の時に輝が呉服屋に来てからしきりに眺めていたものだ。

 「髪長いんだからレンタルの簪とか刺しちゃえばいいじゃん。輝なら似合うって!」
 「ゆ、侑里ちゃん……。気持ちだけでええよ。僕が浴衣なんて……」

 美帆と侑里が輝の前に、簪や帯飾りを持って来る。
 遠慮がちに俯いた輝の肩を、大我がパシッと叩いた。

 「い、良いんじゃねーの?好きなの着れば」
 「た、大我くん?」
 「着たくねーの?浴衣」
 「き、着てみたいけど……」

 大我もどこかぎこちないながらも、気恥ずかしさを誤魔化す様に頬を掻く。
 輝も薄っすら頬を染める。そんな2人を美帆と侑里がやれやれと肩を竦めて見つめた。

 「……ねえこれ、本格的にウチらでくっつくしか無くない?」
 「あははっ。そーかもね」

 そんな4人を他所に、千早は呉服屋の内部を首を振って見渡す。
 涼星が千早の傍に来て、目線を合わせるように腰をかがめた。

 「どうしたの千早?キョロキョロして」
 「ちょっと……。ここで、会いたい奴が居る」
 「え、何?もう浮気?」
 「……なんでそうなる」

 まだ正式に付き合ってはいないはずだか。
 涼星は少しつまらなそうに髪をいじると、ニヤリと笑みを浮かべた。

 「ところでさあ、千早はいつ俺の事誘ってくれるの?」
 「……は?」
 「昨日誘ってくれるって言ったじゃん。俺待ってるんだけど」
 「あ」

 全員を救う方法を考え過ぎるがあまりにすっかり忘れていた。
 思い返すと2周目では涼星とあまり会話が出来ていない。1周目で涼星と過ごした出来事が無かった事になるのは少し、寂しいと思ってしまう。

 「……誘うよ、今日の祭で」
 「楽しみにしてるよ」

 涼星が千早の頭をポンっと撫でる。
 涼星はたまに千早の頭を撫でるが、1歳しか違わないのに子ども扱いをされている様で落ち着かない。

 「と、とにかく。今は1人で浴衣を見ててくれ。すぐ向かうから」
 「はいはい。待ってるよ」

 涼星が男性用の浴衣のコーナーに進むと、千早は店内にまばらに散る青嵐高校の生徒達に視線を巡らせた。
 千早が探しているのはこの呉服屋で会った茶髪の男子高校生だ。1周目、千早を見るなり青ざめたあの生徒の事がずっと気がかりだった。
 あの時と同じなら、今この時間にここに居るはずだ。

 「あ」

 聞き覚えのある引き攣った声に振り返る。青嵐高校の制服姿の痛んだ茶髪の男子生徒が立っていた。ブルブルと震える指で千早を指さし、その顔色はみるみる青ざめていく。

 「あ、おま、なんで……!?」
 「お前、俺について何か知っているのか?」
 「ちが、わ、悪かった……っ!」

 男子生徒が両手で顔を覆う。やはりどう見ても、彼は正常な状態には見えない。

 「落ち着いてくれ!お前に聞きたい事があるんだ」
 「俺あの時ほんと、そんなつもりじゃなくてぇ……!ご、ごめん!!」

 呂律の回らない舌でそう告げると、男子生徒は千早の制止を振り切って逃げる様に呉服屋から出て行ってしまった。

 「待て!!」

 気付けば身体が動いていた。
 あの男子生徒をこのまま逃がしてはけない。千早の本能がそう警鐘を鳴らす。

 「ちょ、千早!?」
 「どないしたん!?」
 「悪い、ちょっと行ってくる!皆はここに居てくれ!」

 浴衣を吟味していた涼星と輝が驚いて声を上げる。
 2人には目もくれず、千早は呉服屋から飛び出した。

 ◇

 真夏の日差しが容赦なく降り注ぐアスファルトをひた走る。
 茶髪を振り乱しながら走る男子生徒を追い駆けると、青嵐高校の校舎裏に辿り着いた。
 灼熱の空気を吸い込んで、千早は上擦る声で叫んだ。

 「待て!待ってくれ!!」

 男子生徒がつまずいて砂利に仰向けに転がる。
 近づいた千早を見るなり腰を抜かして、両手が傷つくのも構わず砂利を這ってでも逃げようとする。

 「ヒッ……!来るな化け物!!」
 「何を、言ってるんだ……?」

 その異様なまでの千早への恐怖心に、千早自身も戸惑いが隠せない。
 千早の影が男子生徒の顔にかかった瞬間、男子生徒がザアアっと青ざめて茶色の瞳を限界まで見開いた。

 「お、俺の事殺しに来たのか!?もう謝ったじゃねえか!!」
 「な、何の話だ?俺はそんな事しない!」
 「俺はもう退学するんだ!化け物のいる学校なんか通えるか!」
 「な、何を……言って……」

 頭がズキズキと痛みだす。校舎裏の砂利がぐにゃりと歪むような錯覚がして、どくどくと心臓の鼓動が早まる。
 熱中症に似た症状が、千早の全身を駆け巡る。
 千早がふらついて1歩後ずさった瞬間、男子生徒の絶叫が真夏の校舎裏に響いた。

 「お前はここで!この場所で!死んだじゃねえか!!」

 その言葉を聞いた瞬間、世界から音が消えたような感覚になった。

 「あ」

 景色がモノクロになるような錯覚。呼吸が浅くなって、耳の奥から心臓の鼓動の音がする。

 「あ……あ゙あ……ッ!」

 ザザッ、ざあ……っと千早の頭の奥にノイズが走る。去年の夏がフラッシュバックする。炎天下の、青嵐高校の校舎裏の映像が。
 日差しが容赦無く振り注ぐ砂利混じりの土に血溜まりが広がっている。
 青嵐高校の制服を纏った小柄な体躯。艶の無い黒髪が血の海に放射状に広がっている。その体に手を伸ばし、呼吸を失くした――夏目 千早の冷たい顔に触れた。

 『今から俺が、夏目 千早だ』

 "彼"はその瞬間、全てを思い出した。

 To Be Continued……