恋愛リアリティーショーに参加したら男に告白された。

 日が落ち切った夜の晴嵐高校の校門の前、監督の指示でカメラの録画が始まる。
 それと同時に、涼星が笑顔でよく通る声を発する。

 「バーベキュー美味しかったね~!次はこの青嵐高校で肝試しだって。バーベキューの時にペアを決める予定だったけど、今回は特別!全員で夜の校舎に入っていくよ!」
 「も~~本当に本当に!ウチから1歩でも離れたら許さないからね!?」
 「大丈夫大丈夫。皆一緒だよ、美帆!」
 「ぜ、全員俺が守ってやるぜ!マジ任せろし!」
 「もお、自撮り棒ブレブレやん。僕の後ろにおってええよ、大我くん」
 「ひ、輝お前かっけぇな……!?」
 「皆準備はいーい?……じゃあ、行くよ」

 涼星が先頭になって、全員で固まって校舎の正門から中に入って行く。
 千早は1周目と同じく懐中電灯で校舎を照らしながら、唾と共に緊張を飲み込んだ。

 ◇

 コツーン、コツーン……と無人の薄暗い昇降口に6人分のローファーの音が反響する。
 美帆が目を瞑りながら、侑里の腕に縋りついて顔を埋める。

 「やだもうマジで無理~~!ウチ目ぇつぶってるから!何も見られないマジで!」
 「うん、それでいいよ。大丈夫、すぐ終わるからね」

 下足箱を抜けて廊下に差し掛かると、その靴音が更に反響する。千早の前を進む大我が一瞬足を竦ませる。

 「う……っ」

 廊下を進む事に比例して大我の歩調がどんどん鈍くなる。所在なさげにキョロキョロと首を振り、千早が懐中電灯で少し距離の空いた先にある男子トイレの看板を照らした瞬間、大我が大声を上げた。

 「わ、悪い!俺ちょっとトイレ!!」
 「きゃああああああ!!何急に叫んでんのよバカ!!」
 「す、すぐ帰ってくっから!」

 美帆の叫び声を気に留める余裕も無い大我が、一目散に男子トイレまで駆け出した。
 (あ、あのバカ……っ!)
 千早が焦って追いかけようとすると、輝がすっと手で制した。

 「……ほな僕も行っとこうかな。ここで待っとって」
 「待て輝!俺も行……っ!?」

 輝が大我を追って男子に駆け出す。
 千早と涼星も追いかけようとするが、美帆が即座に2人の服を掴んでブンブンと頭を振る。

 「待って待ってマジ無理!!これ以上居なくなんないでマジで!!」
 「ちょ、美帆……っ?」

 ぎゅっと震えながらきつく握られた腕は強引になら振りほどけるが、恐怖に支配された美帆を放っておくのも危険だ。
 もどかしい思いを抱えながら、千早は涼星と共にその場にとどまった。
 (クソッ、大丈夫か!?大我、輝……!)

 ◇

 「あ~~~、やっべえ。舐めてたわ肝試し」

 男子トイレに駆け込んだ大我は、電気を付けることもせずに早々に小便器で用を足した。
 扉近くの洗面台に手を付く。

 「気合い入れろ俺!漢を見せろ俺……!!」

 もしドッペルゲンガーが出たら自分が守る。絶対守る。そう決意を込めて、洗面台の真横の壁に設置されたスイッチを付けた。
 パッと男子トイレが明るく照らされた瞬間、大我の後ろに人影が見えた。

 「…………あ?」

 鏡に映されたその顔は照明を受けてぎらつく金色の短髪に、着崩した制服姿。
 耳に付いた黒のフープピアスすら瓜二つのその姿は、大我のドッペルゲンガーだった。
 後ろで俯いていたドッペルゲンガーがゆっくりと顔を上げ、ニイィと口の端を吊り上げた。

 「う、うわああああああ!!」

 それを見た瞬間内臓が冷えたような気がして、大我はトイレ内に腰を抜かして仰向けに倒れ込んだ。
 反射的に逃げ出そうと背を向けそうになった瞬間、ハスキーな叫び声が鋭く響いた。

 「大我くん!!」

 輝の声にハッとしてその場に留まる。
 躊躇なく男子トイレに入ってきた輝が、大我とドッペルゲンガーの前に割って入った。そして、大我を庇う様に片手で大我を背に押し留める。

 「ひっ、輝!!駄目だ、逃げ――」
 「逃げたらアカン!!千早くんが言ってたやろ!逃げたら襲われるで!」
 「ん、んなこと言ったってよお……!!」

 ドッペルゲンガーはジジッとノイズがかった輪郭を気にも留めず、輝達との距離を詰めてくる。
 すっと大我に手を伸ばす。その手は大我の形をコピーするように二重にぶれながら細かく形を変える。

 「……君、ほんまにドッペルゲンガー?」
 「なんだ知ってんのかよ。つまんねえ奴」
 「大我くんに伝えたい事あるん?」
 「アア?んなモンねえよ。ホラ逃げて良いぜ?和久井 大我よお」

 目の前の大我のドッペルゲンガーはおよそ大我がしないような嗜虐的な笑みを浮かべて輝を見下ろしてくる。
 侑里のドッペルゲンガーとは違い、大我のドッペルゲンガーは明確な悪意を持っている。
 輝の首筋にじっとりと冷や汗が伝い、シャツの襟元の色を濃くする。
 (皆に助けは……呼べへんな。ドッペルゲンガーなんて、美帆ちゃんには会わせられへん)

 『取って代わられる前に意中の人にキスされると、ドッペルゲンガーを払えるんだ』

 昼間に千早が教えてくれた事を思い出す。
 荒唐無稽な方法だと思う。でも、メッセンジャーでは無いドッペルゲンガー相手には、それしか方法が無い。

 「……なあ、大我くん」
 「ヒッ!な、なんだ!?」
 「今日言ってた第一印象は僕が1番好きって、あれ嘘やない……?」
 「あ、ああ!勿論だ!」

 震え交じりに声を張り上げる大我を背中越しに見つめ、ドッペルゲンガーを警戒しながら輝は腰を落として大我に振り返った。

 「じゃあ今だけ……僕の事、1番好きって思って」
 「あ?……おい、待て!!」
 「へ……?っんん!?」

 男子トイレの床にへたり込む大我に跨って、ドッペルゲンガーの制止を振り切って大我の唇を押さえつけるように塞いだ。

 「ふざげ……ッグ、ガぁ……!!」

 ドッペルゲンガーがテレビの砂嵐の様なノイズ交じりの叫び声を上げて苦しみ始める。その輪郭が形を保っていられず黒いノイズに侵食され、血走った瞳が輝を睨みつける。

 「なんで……ッ、なんでその方法を知ってんだクソがぁ!!」

 ドッペルゲンガーは輝に向かって血管の浮き出た腕を振り上げるも、空中で静止する。
 大我本人がドッペルゲンガーから逃げさえしなければ、ドッペルゲンガーはこちらに危害を加えられない。それも千早が言っていた事だ。

 「は、ははっ。……ッああそーかよ。クソッたれ」

 ジジッ、ジジ……ッと体全体が荒いノイズに侵食され、大我のドッペルゲンガーはその場に崩れ落ちた。その体が床に落ちる事は無かった。景色に溶け込むように、あっけなく消え去った。
 大我から唇を離す。上から押さえつけるように密着させていた身体を離すと、大我が目を白黒させて輝とドッペルゲンガーが居た場所を交互に見た。

 「ぷはっ!あ、ええ!?輝!?」
 「ご、ごめんな大我くん。非常事態やったから、堪忍して」
 「い、いいいや別にそれはアレだよ……ッ!不可効力的なヤツだから良いんだけどよ……!?」
 「大丈夫?怪我とか無い?」
 「ね、ねえけど……。なんだよ、俺が守ってやんなきゃって思ってたのに」

 ふてくされた様に唇を尖らせる大我に、輝はふっと柔らかく唇の端を上げた。

 「でも大我くん逃げへんかったやん。カッコよかったで」
 「そ、そうか……?」
 「輝!大我!!無事か!?」
 「うわああああああああ!?」

 血相変えた千早が男子トイレに駆け込んで来た。そのあまりの剣幕に、大我が今日1番の絶叫を上げる。
 輝はプリーツスカートに付いたほこりをパッと払うと、安心させるようににっこりと微笑んだ。

 「心配させてごめんな千早くん。……もう、心配いらへんよ」

 To Be Continued……