手早くシャワーを済ませた千早達が制服に着替えて浜辺に戻ると、女子用のシャワールームから出て来た美帆とばったり会った。
「美帆。侑里は一緒じゃないのか?」
「え?女子は1人でシャワー浴びられたからまだ会って無いよ」
「ねえ、あれ侑里じゃない?」
涼星が浜辺を指さす。
そこには制服に着替えた侑里がサンダル姿で浅瀬に向かっていた。
不味いと思った千早は、浜辺に向かって駆け出していた。
「侑里!!」
千早が鋭い声を上げる。浅瀬に足を付けようとした侑里がその動きを止めて振り返る。
潮風が吹き、侑里のまだ少し水気を含んだ黒髪がふわりと巻き上がる。
「わっ、びっくりした。どうしたの千早?撮影始まる?」
「侑里、その辺りは危ない。アカエイが出る」
「え?」
千早は侑里の腕を素早く掴んで浅瀬から遠ざけた。
2人から少し距離の空いた波打ち際を見る。そこには、ぬらぬらと光るアカエイが浅瀬でじっとりと泳いでいた。びくりと侑里の顔が引きつる。
そのタイミングで、全員が浜辺に駆け寄る。
「侑里ー!勝手にどっか行っちゃ駄目でしょ!」
「……あ、ああ。ごめん美帆。ちょっと海を見たくなっちゃって」
侑里が戸惑いながら美帆の制服の袖を掴む。
サッパリした性格の侑里らしく無い弱々しい言動に、美帆が首を傾げる。侑里が揺れる瞳で千早を映した。
「ち、千早ありがとね。その……アタシちっちゃい頃アカエイに刺された事あって……。もう1回刺されたらアナフィラキシーショック起こすかもしれなかった」
「悪い。俺も最初に言っておくべきだった」
「ううん、アタシなんとも無いからさ。千早のおかげだよ」
「ちょ、ちょっとやばいじゃん!早く戻ろ!ウチ侑里が死ぬ所なんか見たくないよ!」
「美帆――」
美帆が侑里の腕を掴んで砂浜にぐいぐいと引き寄せる。侑里よりも慌てふためく美帆に侑里がふっと微笑み、唇を開いた。
『ありがとね』
その声が、重なって聴こえた。
目の前の侑里が発した声と、海の方から侑里と良く似た声が浜辺に響く。
海に視線を送った美帆がサッと青ざめた。
「え、何あれ……?」
全員で一斉に海を見る。
そこには制服姿でふくらはぎまで海に浸かった、侑里と瓜二つの存在――ドッペルゲンガーが立っていた。
侑里のドッペルゲンガーはふっと優しく微笑んで、蜃気楼の様にその姿を揺らめかせると、波にかき消されるように消えた。
一呼吸置いてから、全員が声を上げ始めた。
「うおおい!なんだアレ!?侑里が2人居たぞ!?」
「あれはドッペルゲンガーだ」
「千早冷静過ぎねえ!?」
「……ほんまに、この島ドッペルゲンガー出るんやな」
「ちょ、ちょっと!アレどうなってるの!?大丈夫なの!?」
「大丈夫だ。あいつらは1回消えたらもう何もしない」
「し、ししし信じるぞ千早!?」
大我にガクガクと両肩を揺さぶられる。
大我を宥める千早の隣に並んだ涼星が、ドッペルゲンガーの居なくなった海をじっと見つめた。
「……ドッペルゲンガーって本当に居るんだ」
「涼星」
「本当に、この島に出る怪異なんだな」
「……そうだ。だから、なるべく俺と離れないでくれ」
「そうだね、確かに離れない方が良い。……まあでも、大丈夫でしょ」
涼星が千早の方に腕を回してグッと引き寄せる。
亜麻色の髪が頬に触れ、涼星の纏う爽やかな香水の香りがすぐ近くで鼻腔をくすぐった。
「仮に俺のドッペルゲンガーが出てもさ、千早が俺にキスしてくれれば一発で除霊じゃん」
「ば……っ!お前何言って……!?」
いや、確かにした。1回はキスしたけどそういう問題では無い。じわじわと頬が赤く染まるのを、俯いて誤魔化す。
「なあ千早くん。侑里のは良い子そうやったけど、そういう存在ばかりとちゃうんやろ?」
「ああ。だから、皆もなるべく1人にならないでくれ」
輝の言葉に千早は顔を上げる。
千早の言葉に、全員が緊張した面持ちで頷いた。
(……これで、輝と侑里は大丈夫だ)
輝が熱中症にならなかったから輝のドッペルゲンガーは出現しなかった。侑里の事故も防ぐ事が出来た。――だが、これで終わりじゃない。
夕陽が波間を血の様な赤に染め上げる。千早はその景色を、睨みつけるように見つめた。
◇
「この恋愛リアリティーショーの出会いに~~かんぱーーーーい!!」
「かんぱ~い!」
全員でジュースの注がれたグラスをガチャリと合わせる。
日が沈んだ海岸からは潮風が吹き、食材の焼ける香ばしい匂いが食欲を刺激する。
海の家の貸し切りスペースに設けられた食事は相変わらず豪華で、2回目の千早も変わらず新鮮なリアクションで食事をする事が出来た。
テーブルの料理をあらかた食べ終わったタイミングで、ウエイターが焼きマシュマロを運んでくる。
「では、コースの最後の焼きマシュマロです」
「ありがとうございます」
ひかるがそれを受け取り、薄茶色の焼き目が付いたマシュマロが刺さった竹串を全員に渡していった。
(来た、このタイミングだ)
1周目はここで肝試しに反対する美帆が、1人で海の家を出て行ってしまったのだ。
『ウチはね~、オリジナルが死んじゃったから乗っ取ったの。しょーがないしょーがない!忠告はしたもん』
美帆のドッペルゲンガーの言い方から察するに、初めから乗っ取ろうとした訳じゃなく、何かしらの不慮の事故で美帆が死んでしまったから成り代わったのだろう。
どうして死んでしまったのかまでは分からないが、前回海の家を飛び出して行った美帆を、今回は食い止めなければ。
千早と同じタイミングで顔を上げた涼星が、遠くのスタッフのカンペを見つけて口を開く。
「そういえばさ、食べ終わったら学校に戻って肝試しだね?この焼きマシュマロの串にマーカーが引いてあるんだって。同じ色の人が――」
「待って!本当に待って!うちマジで肝試しとか無理だから!」
涼星が言葉を言い切るより前に、美帆が食べかけの焼きマシュマロを小皿に置いて立ち上がった。
その顔はみるみる青ざめて、身体も小刻みに震えている。
「あ、昼間も言うとったよね。……えっと、どないする?僕はやりたくないなら美帆ちゃんは不参加でええと思うけど」
「そうだね。無理しない方が良いよ。スタッフさんと待ってるとかさ……」
「それって誰かが1人で行くって事?それは、止めた方が良いんじゃない?」
輝がおずおずと告げると、涼星がマシュマロの竹串を皿に戻す。
輝と侑里の反応が1周目と変わっている。やはりあの時のドッペルゲンガー達は、メンバーを1人になる様に仕向けていたのかもしれない。
「美帆なんとか頑張れねえ?ホラ1人になるのはさ、よくねえじゃん」
「そ、それはそうだけど……!で、でも!無理なものは無理!!」
美帆がブンブンと髪を振り乱しながら頭を振る。
オレンジ色の間接照明に照らされて分かりづらいが、大我も少し青ざめている。言葉にこそ出していないが、無理をしているのは大我もだろう。
千早がすっと手を上げる。全員の視線が、千早に吸い寄せらせた。
「悪い。俺も肝試しは苦手なんだ」
「え!?お前も!?」
「"も"って事は、やっぱり大我くんも無理してたんとちゃう?」
「い、いや、俺は別に……!!」
「だから、俺も"少人数"では行きたくない」
「……ああ、そういう事?」
千早の言葉の意図に気づいた涼星が、ディレクターを見て軽く手を上げた。
「すみませーん!俺達肝試し苦手なのでえ……ペアじゃなくて、全員で行ってもいいですか?」
「え?」
ディレクターが困ったように腕を組む。
涼星がにっこりと人好きするような笑顔を浮かべる。その笑顔は、イタズラを思いついた子供の様な無邪気さが垣間見える。
「俺も肝試し苦手なんですよ~。でも、外で1人で待つのも怖いじゃないですか?それでなんですけど、俺達全員で一緒に行くなら頑張れそうです」
「それなら俺も出来そうです」
涼星の提案に乗る形で千早が頷く。
そう、千早が思いついたのは"全員で肝試しに行く"事だ。
校舎の中だろうが外だろうがメンバーが離れ離れになるのは良くない。極力一緒に居つつ恋愛リアリティーショーも続行させる方法はこれしか無い。
「大我はどうだ?それなら行けそうか?」
「な、舐めんな!!全然行けっし!ヨユーだし!?」
「賛成。アタシ美帆から離れないからさ。……ちょっとだけ、頑張れる?」
「え、ええ……?皆ホントに言ってる?」
美帆がオロオロと大我や侑里を見る。
正直、提案は出来ても実行出来るかは美帆にかかっている。千早も固唾を飲んで美帆を見つめた。
美帆が顔を伏せる。ぎゅっとプリーツスカートを握り締めて少しの間押し黙っていたが、やがて意を決したようにバッと顔を上げた。
「ああもう分かったわよお!!これっきりだからねえ!?」
半ばヤケクソ気味に叫ぶ美帆の声が海の家に響く。周囲の客がびっくりして美帆を見ると、美帆は居心地が悪そうに肩を竦めて座り込んだ。
「美帆、ありがとう」
「べ、別に千早にお礼言われるような事じゃないし……!ひ、1人で外で待ってる方が怖いからあ!!」
「あ~……。まあこっちとしては参加してくれるだけありがたいけど……」
ホッと胸を撫で下ろした千早の後ろでディレクターが頭を掻く。
昼間から振り回してしまって申し訳ない気持ちはあるが、こればかりは千早も譲れない。
(これで美帆は大丈夫だ。残るは……)
ちらりと自分を鼓舞するように拳を握り締める大我を見る。
千早には大我がいつドッペルゲンガーと入れ替わったのかが分からない。タイミング的に肝試しの場だと踏んではいるが、確証は無い。
(もし肝試し中だとしたら、少し厄介だ)
肝試しは1階の音楽室に行くだけの簡単なルートだ。校舎内で命を落とすほどの不慮の事故が起こるとは到底思えない。
という事は、大我のドッペルゲンガーはメッセンジャーでは無く、悪意を持って大我と入れ替わった可能性が高い。
千早は夜空に視線を送る。空には夜の帳が降りきって、月の見えない夜空が広がっている。
頼りなげな星が、怪しげに明滅して空に瞬いていた――。
To Be Continued……
「美帆。侑里は一緒じゃないのか?」
「え?女子は1人でシャワー浴びられたからまだ会って無いよ」
「ねえ、あれ侑里じゃない?」
涼星が浜辺を指さす。
そこには制服に着替えた侑里がサンダル姿で浅瀬に向かっていた。
不味いと思った千早は、浜辺に向かって駆け出していた。
「侑里!!」
千早が鋭い声を上げる。浅瀬に足を付けようとした侑里がその動きを止めて振り返る。
潮風が吹き、侑里のまだ少し水気を含んだ黒髪がふわりと巻き上がる。
「わっ、びっくりした。どうしたの千早?撮影始まる?」
「侑里、その辺りは危ない。アカエイが出る」
「え?」
千早は侑里の腕を素早く掴んで浅瀬から遠ざけた。
2人から少し距離の空いた波打ち際を見る。そこには、ぬらぬらと光るアカエイが浅瀬でじっとりと泳いでいた。びくりと侑里の顔が引きつる。
そのタイミングで、全員が浜辺に駆け寄る。
「侑里ー!勝手にどっか行っちゃ駄目でしょ!」
「……あ、ああ。ごめん美帆。ちょっと海を見たくなっちゃって」
侑里が戸惑いながら美帆の制服の袖を掴む。
サッパリした性格の侑里らしく無い弱々しい言動に、美帆が首を傾げる。侑里が揺れる瞳で千早を映した。
「ち、千早ありがとね。その……アタシちっちゃい頃アカエイに刺された事あって……。もう1回刺されたらアナフィラキシーショック起こすかもしれなかった」
「悪い。俺も最初に言っておくべきだった」
「ううん、アタシなんとも無いからさ。千早のおかげだよ」
「ちょ、ちょっとやばいじゃん!早く戻ろ!ウチ侑里が死ぬ所なんか見たくないよ!」
「美帆――」
美帆が侑里の腕を掴んで砂浜にぐいぐいと引き寄せる。侑里よりも慌てふためく美帆に侑里がふっと微笑み、唇を開いた。
『ありがとね』
その声が、重なって聴こえた。
目の前の侑里が発した声と、海の方から侑里と良く似た声が浜辺に響く。
海に視線を送った美帆がサッと青ざめた。
「え、何あれ……?」
全員で一斉に海を見る。
そこには制服姿でふくらはぎまで海に浸かった、侑里と瓜二つの存在――ドッペルゲンガーが立っていた。
侑里のドッペルゲンガーはふっと優しく微笑んで、蜃気楼の様にその姿を揺らめかせると、波にかき消されるように消えた。
一呼吸置いてから、全員が声を上げ始めた。
「うおおい!なんだアレ!?侑里が2人居たぞ!?」
「あれはドッペルゲンガーだ」
「千早冷静過ぎねえ!?」
「……ほんまに、この島ドッペルゲンガー出るんやな」
「ちょ、ちょっと!アレどうなってるの!?大丈夫なの!?」
「大丈夫だ。あいつらは1回消えたらもう何もしない」
「し、ししし信じるぞ千早!?」
大我にガクガクと両肩を揺さぶられる。
大我を宥める千早の隣に並んだ涼星が、ドッペルゲンガーの居なくなった海をじっと見つめた。
「……ドッペルゲンガーって本当に居るんだ」
「涼星」
「本当に、この島に出る怪異なんだな」
「……そうだ。だから、なるべく俺と離れないでくれ」
「そうだね、確かに離れない方が良い。……まあでも、大丈夫でしょ」
涼星が千早の方に腕を回してグッと引き寄せる。
亜麻色の髪が頬に触れ、涼星の纏う爽やかな香水の香りがすぐ近くで鼻腔をくすぐった。
「仮に俺のドッペルゲンガーが出てもさ、千早が俺にキスしてくれれば一発で除霊じゃん」
「ば……っ!お前何言って……!?」
いや、確かにした。1回はキスしたけどそういう問題では無い。じわじわと頬が赤く染まるのを、俯いて誤魔化す。
「なあ千早くん。侑里のは良い子そうやったけど、そういう存在ばかりとちゃうんやろ?」
「ああ。だから、皆もなるべく1人にならないでくれ」
輝の言葉に千早は顔を上げる。
千早の言葉に、全員が緊張した面持ちで頷いた。
(……これで、輝と侑里は大丈夫だ)
輝が熱中症にならなかったから輝のドッペルゲンガーは出現しなかった。侑里の事故も防ぐ事が出来た。――だが、これで終わりじゃない。
夕陽が波間を血の様な赤に染め上げる。千早はその景色を、睨みつけるように見つめた。
◇
「この恋愛リアリティーショーの出会いに~~かんぱーーーーい!!」
「かんぱ~い!」
全員でジュースの注がれたグラスをガチャリと合わせる。
日が沈んだ海岸からは潮風が吹き、食材の焼ける香ばしい匂いが食欲を刺激する。
海の家の貸し切りスペースに設けられた食事は相変わらず豪華で、2回目の千早も変わらず新鮮なリアクションで食事をする事が出来た。
テーブルの料理をあらかた食べ終わったタイミングで、ウエイターが焼きマシュマロを運んでくる。
「では、コースの最後の焼きマシュマロです」
「ありがとうございます」
ひかるがそれを受け取り、薄茶色の焼き目が付いたマシュマロが刺さった竹串を全員に渡していった。
(来た、このタイミングだ)
1周目はここで肝試しに反対する美帆が、1人で海の家を出て行ってしまったのだ。
『ウチはね~、オリジナルが死んじゃったから乗っ取ったの。しょーがないしょーがない!忠告はしたもん』
美帆のドッペルゲンガーの言い方から察するに、初めから乗っ取ろうとした訳じゃなく、何かしらの不慮の事故で美帆が死んでしまったから成り代わったのだろう。
どうして死んでしまったのかまでは分からないが、前回海の家を飛び出して行った美帆を、今回は食い止めなければ。
千早と同じタイミングで顔を上げた涼星が、遠くのスタッフのカンペを見つけて口を開く。
「そういえばさ、食べ終わったら学校に戻って肝試しだね?この焼きマシュマロの串にマーカーが引いてあるんだって。同じ色の人が――」
「待って!本当に待って!うちマジで肝試しとか無理だから!」
涼星が言葉を言い切るより前に、美帆が食べかけの焼きマシュマロを小皿に置いて立ち上がった。
その顔はみるみる青ざめて、身体も小刻みに震えている。
「あ、昼間も言うとったよね。……えっと、どないする?僕はやりたくないなら美帆ちゃんは不参加でええと思うけど」
「そうだね。無理しない方が良いよ。スタッフさんと待ってるとかさ……」
「それって誰かが1人で行くって事?それは、止めた方が良いんじゃない?」
輝がおずおずと告げると、涼星がマシュマロの竹串を皿に戻す。
輝と侑里の反応が1周目と変わっている。やはりあの時のドッペルゲンガー達は、メンバーを1人になる様に仕向けていたのかもしれない。
「美帆なんとか頑張れねえ?ホラ1人になるのはさ、よくねえじゃん」
「そ、それはそうだけど……!で、でも!無理なものは無理!!」
美帆がブンブンと髪を振り乱しながら頭を振る。
オレンジ色の間接照明に照らされて分かりづらいが、大我も少し青ざめている。言葉にこそ出していないが、無理をしているのは大我もだろう。
千早がすっと手を上げる。全員の視線が、千早に吸い寄せらせた。
「悪い。俺も肝試しは苦手なんだ」
「え!?お前も!?」
「"も"って事は、やっぱり大我くんも無理してたんとちゃう?」
「い、いや、俺は別に……!!」
「だから、俺も"少人数"では行きたくない」
「……ああ、そういう事?」
千早の言葉の意図に気づいた涼星が、ディレクターを見て軽く手を上げた。
「すみませーん!俺達肝試し苦手なのでえ……ペアじゃなくて、全員で行ってもいいですか?」
「え?」
ディレクターが困ったように腕を組む。
涼星がにっこりと人好きするような笑顔を浮かべる。その笑顔は、イタズラを思いついた子供の様な無邪気さが垣間見える。
「俺も肝試し苦手なんですよ~。でも、外で1人で待つのも怖いじゃないですか?それでなんですけど、俺達全員で一緒に行くなら頑張れそうです」
「それなら俺も出来そうです」
涼星の提案に乗る形で千早が頷く。
そう、千早が思いついたのは"全員で肝試しに行く"事だ。
校舎の中だろうが外だろうがメンバーが離れ離れになるのは良くない。極力一緒に居つつ恋愛リアリティーショーも続行させる方法はこれしか無い。
「大我はどうだ?それなら行けそうか?」
「な、舐めんな!!全然行けっし!ヨユーだし!?」
「賛成。アタシ美帆から離れないからさ。……ちょっとだけ、頑張れる?」
「え、ええ……?皆ホントに言ってる?」
美帆がオロオロと大我や侑里を見る。
正直、提案は出来ても実行出来るかは美帆にかかっている。千早も固唾を飲んで美帆を見つめた。
美帆が顔を伏せる。ぎゅっとプリーツスカートを握り締めて少しの間押し黙っていたが、やがて意を決したようにバッと顔を上げた。
「ああもう分かったわよお!!これっきりだからねえ!?」
半ばヤケクソ気味に叫ぶ美帆の声が海の家に響く。周囲の客がびっくりして美帆を見ると、美帆は居心地が悪そうに肩を竦めて座り込んだ。
「美帆、ありがとう」
「べ、別に千早にお礼言われるような事じゃないし……!ひ、1人で外で待ってる方が怖いからあ!!」
「あ~……。まあこっちとしては参加してくれるだけありがたいけど……」
ホッと胸を撫で下ろした千早の後ろでディレクターが頭を掻く。
昼間から振り回してしまって申し訳ない気持ちはあるが、こればかりは千早も譲れない。
(これで美帆は大丈夫だ。残るは……)
ちらりと自分を鼓舞するように拳を握り締める大我を見る。
千早には大我がいつドッペルゲンガーと入れ替わったのかが分からない。タイミング的に肝試しの場だと踏んではいるが、確証は無い。
(もし肝試し中だとしたら、少し厄介だ)
肝試しは1階の音楽室に行くだけの簡単なルートだ。校舎内で命を落とすほどの不慮の事故が起こるとは到底思えない。
という事は、大我のドッペルゲンガーはメッセンジャーでは無く、悪意を持って大我と入れ替わった可能性が高い。
千早は夜空に視線を送る。空には夜の帳が降りきって、月の見えない夜空が広がっている。
頼りなげな星が、怪しげに明滅して空に瞬いていた――。
To Be Continued……



