恋愛リアリティーショーに参加したら男に告白された。

 「僕、藤村 (ひかる)は男なんや。……言わんとって、ごめんなさい」

 図書室に戻った輝は、全員の前頭を下げた。
 長机に座ったままの皆は顔を驚きに染めていたが、涼星がおもむろに立ち上がってさらりと告げた。

 「ああ、やっぱり?」
 「え……?」
 「骨格とかでなんとなくそうかなって思ってたけど。男扱いってか友達扱いで良いならさ、改めてよろしくね」

 涼星が爽やかに笑いかける。千早はそれを見て内心ほっと胸を撫で下ろした。
 (やっぱり、涼星は初対面の時から気付いていたんだな)

 「こ、こんな可愛くて男なの……!?なんか負けた気がする……!」
 「びっくりしたけど、正直に話してくれてありがとね輝。うん、アタシも問題無いよ」
 「皆……」

 美帆と侑里も立ち上がって輝の傍に寄る。
 輝が張りつめていた糸が解けたように胸を撫で下ろすと、それまで黙っていた大我が硬い声を発した。

 「……マジかよ」
 「た、大我くん……」

 掠れた呟きは戸惑いに揺れている。
 大我は初めから輝に気があるようなそぶりを見せていた。その輝に男だと言われれば、当然困惑するだろう。
 肩をびくりと跳ねさせた輝の元に大我が歩み寄る。輝の傍まで来た大我が、頭からつま先までじっと見つめる。

 「ひかるちゃ……。ああいや、ひ、輝」
 「ご、ごめん大我くん。自己紹介の時に言わんとって。もっと早く否定してれば……」
 「……い、いやその、なんつーか」

 大我が短い金髪をがしがしと掻く。そして、頬を薄っすら染めながらぶっきらぼうに呟いた。

 「男だとしても……めっちゃタイプなんだけど」
 「へ……っ!?」

 大我の呟きに、輝がボッと頬を染める。2人向かい合って頬を染める様を見て、侑里が口元に手を当てニヤリと口角を上げた。

 「おやおやぁ……?」
 「おー、いいじゃんいいじゃん。同性同士でくっつく恋愛リアリティーショーとか斬新じゃない?……ねえ、千早」
 「は……っ!?」

 涼星が千早の傍まで来ると、するりと手を繋がれる。あまりの自然な距詰め方に千早の肩が跳ねる。
 涼星がそのまま身を屈めて、千早に耳打ちする。

 「輝と2人っきりになったのって、その話?」
 「そ、そうだ……っ」
 「ふーん。……じゃあ許してあげる」
 「な、何の話だよ」
 「輝と2人っきりになった事。輝みたいな子がタイプだったらどうしようかと思ったけど。……優しいじゃん千早」
 「……そんなんじゃない」

 2周目だから知っているだけだ。
 耳元に当たる吐息が熱くて、涼星の形のいい唇が僅かに千早の耳を掠めるから余計顔が火照ってしまう。
 そんな2人を見てギョっとした美帆が、涼星の元に進んで上目遣いで見つめた。

 「ええー!?ねえ涼星君!ウチは!?ウチに脈は無いの!?」
 「え、うん」
 「ひ……ヒドッ!」

 あまりにもさらりと告げるものだから、美帆がショックでのけ反る。
 そこまでハッキリ言ってやるなとも思うが、最初から明言された方が美帆の為なのかもしれない。
 騒ぎ始める千早達を見て、輝がふっと顔を綻ばせた。

 「あ~、やっぱ暑いわ」

 輝がずっと着ていた紺色の薄手のカーディガンに手を伸ばす。ゆっくりとボタンを外して、ばさりとカーディガンを脱いだ。
 シャツ1枚になった輝の華奢だがしっかりした肩や鎖骨が、窓から差し込む光で少し透けて見えた。

 ◇

 「うおおー!海だー!!」
 「やば!めっちゃきれーじゃん!」

 水着とライフジャケットに着替えた5人は、青嵐島の海辺に集合していた。
 浅瀬に行くに連れてエメラルドグリーンに染まる海が、快晴の日差しを浴びてコバルトブルーにきらめいている。
 あれから打ち解けたメンバーは、全員でバナナボートに乗るべく青嵐島のバナナボート乗り場に集合していた。

 「美帆めっちゃ水着可愛いじゃねえか!」
 「当たり前だしい~」

 1周目同様ピンク色のビスチェタイプの水着の美帆と、水色のワンショルダーワンピースの水着の侑里に目を輝かせた大我が、金髪をぴょんと跳ねさせて喜んでいる。
 それを見た涼星が楽し気に笑う。藍色に白いラインが入ったサーフパンツ風の水着に黒のライフジャケット姿は、相変わらず似合っている。

 「あははっ!大我テンション高すぎだろ」
 「そうだな」
 「皆、おまたせ」

 ざり、とローファーで砂浜を踏んだのは、ココアブラウンの髪を後ろでマンバンにくくって、グレーと紫の入り混じった海パンにライフジャケット姿の輝だった。
 1周目では1人で砂浜に残った輝が今回は一緒に乗ってくれる。1周目との大きな違いに、千早は内心で手応えを感じた。

 「ま、まじで男……」
 「あははっ。もお、さっき言うたやん」
 「じゃあ全員揃ったし、バナナボート行こうか!」

 口を大きく開けて驚愕の表情を浮かべる大我に、輝がハスキーで中性的な声でからからと笑う。
 涼星の声掛けに合わせて、6人はインストラクターの待つバナナボート乗り場に向かって行った。

 「皆さん今日はよろしくお願いします!スピード上げていくので覚悟して下さいね~!」

 マリンスーツ姿のインストラクターに促されるまま、6人は鮮やかな黄色の楕円形のバナナボートの前に着いた。千早が口を開く。

 「前の方が落ちにくいから、女子は前が良いと思うぞ」
 「じゃあ美帆が先頭で、その後ろにアタシが乗ろっかな。……ねえ千早。アタシの後ろは千早が良いな」
 「ああ、分かった」
 「じゃあ千早の後ろは俺~」
 「待て涼星!なんか俺を最後尾に追いやろうとしてねえか!?」
 「え、楽しそうじゃない?大我だけ落ちるの」
 「楽しくねーよ!?」
 「ふふっ。ほな僕が最後尾でええよ」
 「えっ!?」
 「それでは、行きますよ~!」

 全員が乗ったのを確認すると、インストラクターがジェットスキーのエンジンをかける。ごうっと音を立てて、バナナボートが海上に飛び出した。

 「うおお!迫力やべー!」
 「待って待って!これ本当に落ちちゃうって!?」

 最初は緩やかに海上を滑って行ったバナナボートがインストラクターが左右に舵を切り始めた事で左右に揺らぎ始める。
 遠心力がかかって右に落ちそうになる所を、千早は身体の重心を左に偏らせてバランスを取った。

 「あれ?なんか千早操作上手くない?乗った事あるの」
 「……まあな」

 千早の肩に顎が乗りそうな距離で、背後の涼星が目を丸くする。
 (そりゃ2回目だからな)
 1回落ちれば重心をどっちに振れば落ちないかは掴める。まじまじと後ろから千早を眺めていた涼星が、二ッと口の端を吊り上げた。
 そして、悪びれる様子も無くあっけらかんと告げた。

 「へえ~。でもこういうのってさぁ……落ちるのが楽しいんじゃん!」
 「ば、バカやめ……うわっ!?」

 ジェットスキーに合わせてバナナボートの重心がずれた瞬間、涼星が千早を巻き込んで遠心力がかかる方にわざと体重をかけた。ドミノ倒しの様にバランスを崩した全員を支えきれなくなったバナナボートが、海上でぐるりとひっくり返った。
 (け、結局落ちるんじゃねーか!!)
 ばしゃん!と大きな音を立てて、全員がコバルトブルーの海に投げ出された。

 ◇

 「あっはは!楽しかったねー!バナナボート!」
 「涼星てめえ!絶対わざとだろ!?」
 「良いじゃん。輝に引き上げて貰ったんだからさ~」
 「ふふっ。僕は落ちるのもセットで楽しかったで」

 バナナボートを置いて砂浜に上がってきた全員は、シャワー室が完備されている海の家に足を進めた。

 「もーサイアク!髪べっとべと!」
 「海水って本当にしょっぱいよね~。早くシャワー浴びて着替えちゃおうか」

 サイドテールぎゅううっと絞って水を砂浜に落とす美帆に侑里が朗らかに笑う。千早はそんな2人をさり気なく横目で見た。先を行く侑里と、そのすぐ後ろで身支度を整える美帆。
 千早は美帆に近寄ると、その肩に触れた。

 「美帆、ちょっと」
 「わあっ!?何よ千早!」
 「シャワーの間、侑里の事見てやってくれるか?」

 1周目の境内の時、侑里のドッペルゲンガーの言葉を心の中で反芻する。

 『アタシも浜辺だよ。止めたんだけど間に合わなかったね』
 『小さい時に刺されちゃったからさ、エイだけはダメなんだよね〜』

 青嵐島の浅瀬や浜辺には、まれにではあるがアカエイが出没する。
 侑里のドッペルゲンガーの言う事が本当だとしたら、侑里はシャワーを浴びた直後にアカエイに刺された可能性が高い。

 「すみませーん!現在男子のシャワールームが大変込み合っております!ペアで使える方はお2人で1室使って下さーい!」

 海の家のスタッフの掛け声に、美帆の肩に触れていた手を放した。

 「悪いが頼んだ。行くぞ涼星」
 「ん?ああ、良いよ」

 千早は涼星の腕をパシっと掴んで素早くシャワールームに進む。

 「あっ、おい!抜け駆けか地元民!?」
 「大我くんは僕とシャワールーム使おうか?」
 「エ!?」
 「どしたんそんな飛び上がって」
 「い、いや別に!?そーだよな!俺ら男同士だもんな!?」

 今度は輝とペアを組めた大我を尻目に、千早は涼星を連れ立って海の家に入った。
 (今回は手早く済ませよう。美帆1人に任せっきりは良くない)

 To Be Continued……