恋愛リアリティーショーに参加したら男に告白された。

 「ちょ、ちょっと待って肝試しって何!?そんなの聞いてないんだけど!?」
 「あれ?美帆って怖い系ダメ?」
 「美帆、この島に幽霊は出ない。少なくとも、俺は1回も見た事が無い」
 「あ、そうなの……?地元の奴が言うなら、ちょっとは信用出来るかな?」
 「ああ、信じてくれていい」

 千早のはっきりした物言いに少し落ち着いた美帆の話に、すっと侑里が入り込む。

 「でもさあ、幽霊は出ないけどドッペルゲンガーは出るんでしょ?」

 侑里の問いに周囲が静まり返る。千早はそれを受けて静かに告げた。

 「ああそうだ。この島に、ドッペルゲンガーは出る」
 「ちょ、ちょっとやめてよ。マジなの……?」
 「アタシも噂程度なんだけど。ドッペルゲンガーを見たら死ぬって言われてるんでしょ?」
 「正確には、死んだ直後か死ぬ直前に現れる」
 「ねえ千早。俺が知ってるドッペルゲンガーは本人を殺して成り代わろうとするって話なんだけど、この島のドッペルゲンガーもそうなの?」
 「こ、殺しに来るのかよ!?」
 「ちょ、ちょっとやめてよ涼星くんっ!」
 「そういう場合もあるが、霊界からメッセージを伝えに来るだけって場合もある」

 騒ぎ始める大我と美帆に向かって淡々と告げる。千早は全員に釘を刺す様に告げる。

 「だから皆、もしドッペルゲンガーが出たら絶対に逃げたりしないでくれ。逃げさえしなければ、ドッペルゲンガーは本体を襲えない」
 「わ、分かったぜ……!」

 真剣なまなざしの千早にやや気圧されるように大我が頷く。
 それを聴いていた侑里が、机に頬杖をついてからかう様にニッと口の端を上げた。

 「千早、対処法それだけじゃないでしょ~?もっとロマンチックなヤツがあるって、アタシ知ってるよ」
 「な、何よそれ。もったいぶってないで教えなさいよっ!」
 「別にもったいぶっていたわけじゃない。……取って代わられる前に意中の人にキスされると、ドッペルゲンガーを払えるんだ」

 2回目だというのにやっぱり口に出すのは気恥ずかしくて尻すぼみになってしまった。それなのに、千早の声はいやに大きく図書室に反響した。

 「……はあ!?」

 次いで聴こえてきたのは大我の驚きの声だ。ひかるもココアブラウンの髪をふわりと揺らしながら小首をかしげる。

 「へえ、そうなん?ほんまにロマンチックやねえ」
 「自分の身体が自分だけじゃなくて誰かのものだって分かれば、ドッペルゲンガーは存在出来ない。だから極力1人にならないで欲しいんだ。メッセンジャーの場合は、ドッペルゲンガーの話を聞けば帰ってくれる」
 「そうそう!だからさ、ここで恋しちゃえばドッペルゲンガーなんか怖くないって事!」

 明るく告げる侑里に、美帆がボッと頬を染めた。不安がって青ざめていた顔も、血色を取り戻す。

 「じゃあ皆さん。バナナボートの時間まで少し余裕があるので、自由に話していて下さい」
 「あ……」

 撮影スタッフの言葉にひかるが気まずそうに目を伏せる。その顔色はまだあまり良くない。
 千早は立ち上がって、ひかるの傍に寄って肩に触れた。

 「ひかる、ちょっと」
 「え、何?千早くん」
 「俺と2人っきりになってくれないか?ひかると話したい」
 「……え?」

 ひかるがココアブランの目を見開いて呆気に取られる。
 大我が焦った様にガタリと立ち上がった。

 「ちょ、抜け駆けずりいぞ千早!」
 「悪いが俺が先だ。……良いか?ひかる」
 「う、うん……」
 「時間になったら戻ってくる」

 ひかるが立ち上がって千早と並んで歩く。
 1台のカメラを連れ立って2人が教室の外に出ていくのを、涼星が静かな眼差しで見つめていた。

 「……俺と付き合うんじゃなかった訳?」

 ぼそりと呟かれたその言葉は、少しばかりの嫉妬と独占欲が滲んでいた。

 ◇

 撮影係を連れて昇降口まで歩く。
 千早の後を大人しく付いて来たひかるに振り返り、千早は壁際に併設された自動販売機を指さした。

 「何か飲むか?」
 「え?」
 「暑いの苦手だろ。教室でも暑そうにしてたし」
 「……千早くんよく見とるね。じゃあお言葉に甘えて、お水貰おかな」

 ひかるが控えめに微笑んで自販機で1番安い水を指さす。
 別に遠慮しなくても良いが、と思いながら千早は自販機に小銭を入れて水を購入した。
 昇降口近くの階段の日陰に腰掛け、ひかるに水を差し出す。

 「冷たい内に飲んでくれ」
 「……おおきに」

 ひかるはキャップを捻ってごくごくと水を嚥下する。
 その顔色はさっきよりも血色が戻ってきている。少し容態が落ち着いたひかるを見て、千早は口を開いた。

 「ひかる。お前に聞きたい事がある」
 「ああ、うん。千早くんに誘われるとは思っとらんくてびっくりしたわ。……どうしたん?」
 「単刀直入に聞くけど――」

 千早は身を乗り出し、ココアブラウンの瞳をしっかりと見つめた。

 「お前、男だろ?」
 「っ!?」

 ひかるが水の入ったペットボトルを取り落とす。
 その顔がさあっと青ざめる。瞳をぎこちなく彷徨わせていたが、やがて観念したように自嘲気味に微笑んだ。

 「……あ、はは。やっぱバレるよな。そうやで。うち……ううん。()は男や」

 その声はややハスキーで中性的な男のものだ。
 緩く巻かれた髪をばさりとかき上げて耳にかける。露わになった輪郭はしっかりしていて、首元の喉仏が窓から差し込む光を受けて影を作っていた。

 「今日ずっと居心地悪そうにしてたのって、それが原因か?」
 「……うん」

 ひかるが立ち上がって、恋愛リアリティーショーの撮影スタッフに向かって頭を下げた。
 ココアブラウンのロングヘアーが、肩から流れて床を向く。

 「騙して参加してすみません。僕こんな格好やから地元の学校で浮いてて、女って事にしてふざけて応募されて、それが受かってしもたんや」

 1周目の海の家のシャワールームで涼星も言っていた。
 『"クラスメイトがふざけて応募したのが当たった"って言ってたから引くに引けなかったんじゃない?』と。あの時の涼星の考察は当たっていた。
 顔を上げたひかるは、千早に向かって眉尻を下げて微笑んだ。

 「そういう事やから、僕この恋愛リアリティーショー降りるわ」
 「なんでだ」
 「……え?」

 千早の間髪入れずに発した声に、ひかるが目を見開く。
 その揺れるひかるの瞳を、しっかりと捕らえながら告げる。

 「このまま居れば良いだろ」
 「ち、千早くん聴いとった?僕女の子ちゃうし。その……僕にとってはこの格好が普通なだけで、好きになるのも同性やし。……ダメやろ、こんな僕じゃ」
 「そのくらい良いだろ。俺だって涼星が好きなんだから」
 「え……っ!?」

 自分の好意を口に出すのは、本人が居なくても想像以上に恥ずかしかった。頼むから撮影用のカメラは音を拾うな、と千早は横目でカメラを見た。
 スタッフに呼ばれて昇降口に来たディレクターは目を白黒させて頭を抱えていたが、やがてかさついた唇を開いた。

 「……うん。まあこれはこれでアリじゃない?こっち的には脱落されて人数減る方が困るし」
 「ディレクターさん……?」
 「まあ無理強いはしないけどね。君の意志で決めちゃっていいよ」
 「ぼ、僕……」
 「皆に言おう。お前の事、皆ならきっと分かってくれる」
 「なんでそんなん分かるん?だって僕ら、今日が初対面……」

 "初対面"という言葉に小さく唇を噛む。
 そうだ。千早にとっては一緒に過ごしたメンバーだが、目の前のひかるにとってはまだ出会って間もないメンバーだ。
 ひかるの肩に、安心させるように手を置く。

 「ひかる。今だけでいい。俺を信じてくれないか?少なくとも俺は、お前を否定しない」
 「千早くん……」

 ひかるが一度きつく瞼を閉じて口の渇きを潤す様に唾液を嚥下すると、意を決したように顔を上げた。
 ひかるは笑っていた。観念したような安堵したような――そんな複雑な表情で。

 「なんか、カッコええね千早くん」
 「……そんなんじゃない」
 「ううん、そんな事あらへんよ。僕、涼星くんが居らんかったら君の事狙ってたかも」
 「え?」
 「なぁんて、冗談や」

 ひかるが少しおどけるように微笑んで髪をかき上げる。
 そして、皆の待つ図書室に繋がる廊下を見つめた。

 「話してみるよ、僕。確かに、こういうカミングアウトは早い方がええよな」
 「俺が付いてるから」
 「あーもう、ほんまカッコええ」

 そうして、2人は図書室に戻って行った。
 窓から差し込む昼光が、2人の背に温かな光を送っていた。

 To Be Continued……