side:千早
「はあ……っ、は……!」
神社の境内に続く石段を駆け上る。
慣れない浴衣に下駄姿だと上手く体が動かせず、足をもつれさせながら星の無い暗闇をひた走った。
階段を登り切った先には本殿に続く境内が広がっている。
夜の暗がりの中、石畳の左右には置き型の竹行灯が設置され、オレンジ色の怪しい光を放射状に放っている。息を整えようと呼吸するたび、古びた苔の香りが鼻に突いた。
その中央、神の通り道に1人の男が立っている。
亜麻色の髪にカーキの浴衣。狐面をゆっくりと外しながら、"涼星"がふっと口元を怪しく綻ばせる。
「ああ、来てくれた。遅いよ千早」
よく通る涼やかな声も涼星のはずなのに、時折二重にぶれる輪郭がその存在を怪異だと告げる。
境内に進み、涼星のドッペルゲンガーと相対する。
「何が目的だ?」
「も~、つまんないなあ。ちっとも騙されてくれないじゃん」
「お前は涼星じゃない。……涼星に何かを伝える気か?」
「俺はオリジナルに伝える事は何も無い」
涼星のドッペルゲンガー……リョウセイは長いまつ毛を細める。
淡い月明りが、リョウセイの顔に黒い影を落とす。
「ただ、正式に涼星になりたいんだ」
リョウセイが千早との距離をグッと詰め、千早の浴衣の襟元を掴む。
亜麻色の髪が頬をくすぐる距離で見つめられ、リョウセイがにっこりと微笑む。
「俺、お前と恋したくなっちゃった」
その声は蠱惑的で、底知れない怪しさを放っている。
「な……っ!?ふざけるな!何言ってやがる!?」
「いや~、だってこんなに自然なの珍しいんだもん。俺も興味が湧いてきちゃった」
「何の、話だ……っ!?」
「涼星のオリジナルを殺して、俺も人間としてこの世界で過ごしてみたい。なあ、良いだろ?」
「お前に涼星は殺させない!」
リョウセイの腕をグッと掴んで振りほどく。乱れた襟元を整えながらリョウセイの挙動を目で追う。
オリジナルに何かを伝えるメッセンジャーならあるいはと思ったが、目の前のリョウセイはそうではない。
(こいつは、涼星に明確な殺意を抱いている……!)
「ねえ、千早はやっぱり好きなの?俺の事」
「お前の事は好きじゃない」
「つれないなあ。俺はちゃんと白乃 涼星になれるし、お前も俺の方が良いよ」
「お前は涼星には絶対に会わせない!」
「ああ、その為に来たんだ?でも残念だね。……もう手遅れだよ」
「なにが……ッ!?」
不意に、後ろから手が伸びてきてグッと羽交い絞めにされた。
顔にかかる波打つココアブランの髪――ひかるが千早の脇の下から腕を差し込んでグッと両腕を押さえつけられる。
力を込めて掴まれた身体は、身をよじったくらいではびくともしない。
「ひ、ひかる……!?なんでここに!?」
「あははっ、ごめんなあ千早くん」
「みんなお前が羨ましくて霊界から出てくるんだよ。その上で俺達に都合の良い事ばっかりしてくれたらさあ、そりゃ奪っちゃうよね」
「そうそう。僕のオリジナル、無理して炎天下の中浜辺で立ってたから熱中症で死んでもーたし」
ひかるの言葉に1日目の海辺での出来事が頭を過る。
バナナボートに乗った時、倒れたひかるに覆いかぶさるひかるを見た。あれは見間違いじゃなかった。あの瞬間、ひかるはドッペルゲンガーに成り代わったんだ。
「アタシも浜辺だよ。止めたんだけど間に合わなかったね」
「侑里……!?」
「小さい時に刺されちゃったからさ、アカエイだけはダメなんだよね〜」
侑里が千早の腰を掴んで拘束を強めてくる。
そうだ、シャワールームから出た後、浜辺で侑里が1人で立っていた。その直後に、侑里の輪郭が少しぶれて見えたんだ。
(クソッ!なんで何もしなかったんだ俺は……!俺には、見えていたのに!)
その後の侑里があまりにも自然過ぎて気にも留めていなかった。一緒に肝試しに行った時は、既に侑里は侑里じゃなかった。
「ウチもね~、オリジナルが死んじゃったから乗っ取ったの。しょーがないしょーがない!忠告はしたもん」
「あははっ!俺も人間になってみたかったんだよなー!あいつ俺から逃げたし、ちょうどいいっしょ!」
「美帆、たい……ッ、グッ……!」
場違いなほど明るい声に拘束が強まる。必死に首を捩じると、金髪が目に入った。
美帆と大我が千早の右腕と左腕を拘束しながら笑っている。その顔の輪郭がジジッと二重にぶれる。ドッペルゲンガー達に押さえつけられた千早は、立っていられなくなって冷たい石畳に顔を押しつけられた。
「クソッ!放せ!……放してくれ!!」
なんとか振りほどこうともがくが、4人のドッペルゲンガーの拘束は強まるばかりだ。
すっと顎下にしなやかな指を差し込められ、半ば強引に上を向かされる。
リョウセイが、石畳に片膝を立てて千早を見下ろしていた。亜麻色の瞳が三日月型に細められる。
「俺達とこのまま青春おくろーよ千早。絶対楽しいよ?」
「ふざける、な……!俺は、お前達を許さない!皆を殺して成り代わったお前らなんか、心の底から軽蔑する!」
纏わりつく不気味な肌の熱と暗い夜空を切り裂く様に叫ぶ。
リョウセイの顔から笑みが消え、顎を掴む手に力が籠められる。
「へえ……。よくそんな事が言えるね?」
リョウセイが目線でドッペルゲンガー達を制する。
ドッペルゲンガー達が静かになった瞬間、至近距離で感情を映さない亜麻色の瞳に射抜かれる。
「こうなったのは、全部お前のせいなのにさぁ」
ぬるい風が吹く境内の中で、千早の額から一筋の冷や汗が伝い落ちて石畳に吸収されて消えた。
「は……?」
「そんなに驚く?だってお前、俺達がドッペルゲンガーって分かってただろ?」
「なに、言って……」
「他の人間は俺達には気づかなかった。お前だけだよ、俺達がオリジナルじゃないって気づけたのは。それなのに皆に忠告もしないでご丁寧に1人してくれてさあ」
リョウセイが至近距離で千早の顔を覗き込む。
そして、嘲笑と愛しさが入り混じった顔で嗤った。
「ありがとね千早。俺達はお前のおかげで成り代われたんだ」
千早の顔が青ざめてカタカタと震え出す。
確かに千早には時折皆の輪郭や袖がぶれて見てた。でも、涼星や他の皆にはそれが見えているそぶりは無かった。
(俺の、せい……?全部?)
確証が持てなくて言い出せなかった。言える機会は、いくらでもあったはずなのに。
呼吸が浅くなって視界が揺らぐ。その瞬間、空気をビリビリと震わせるような声が夜の境内に響き渡った。
「千早!!」
ハッとして境内の入り口を見る。
そこには、石段を駆け上がって息を弾ませながら千早を見つめる本物の涼星の姿があった。
「涼星……っ!?」
「は……?皆、何してるの?」
「駄目だ!来ちゃ駄目だ……涼星!」
涼星が息を整えながら額の汗を拭う。
涼星がリョウセイに会うのは駄目だ。メッセンジャーでは無いドッペルゲンガーに会ったら、殺される。
リョウセイが千早から手を放して距離を取った隙に、涼星が千早の元に駆け寄った。
「千早のドッペルゲンガーは!?」
「なんの、話だ……?」
「……?千早、自分のドッペルゲンガーを追い駆けて来たんじゃないの?」
「俺はそんなものは見てない!涼星駄目だ!そいつに背を向けるな……っ!!」
「え?」
涼星は自分のドッペルゲンガーと向かい合っていた千早の元に駆け寄った。そう、今涼星は自分のドッペルゲンガーに背を向けた状態になっている。
涼星の額から冷や汗が一筋流れ落ちる。そして、戸惑いに揺れる瞳で千早を羽交い絞めにするひかる達を見上げた。
「……お前達って、まさかドッペルゲンガー?」
「ああ、そうやで。オリジナルはもう居らんから、今は僕がひかるやけど」
「千早を放してくれない?」
「おいおい冗談キツイぜ涼星~!」
「心配しなくても放してあげるよ。――お前が死ねばね」
「っ!?」
涼星の後ろからリョウセイが覆いかぶさるように手を伸ばす。涼星がその手を払いのけて千早を守る様に立ち上がった。
夜の境内で、瓜二つの同じ人間が相対する。
「自分のドッペルゲンガーって気味悪いね、本当」
「そう?俺は今最高に楽しいんだけど」
「俺に何か言いたい事があるってんなら聞く」
「あははっ、残念だね。俺の目的はそっちじゃない。……お前を殺して成り代わる事だ」
大我が千早の首に手をかけ、グッと気道を押さえつけられる。
「一歩でも動いたら千早は殺す」
「……っ」
千早は砂利に顔を押さえつけられながら必死に首を捩じって2人を見る。
心臓の鼓動の音がうるさい。頭で必死に考えるが、この状況を打開出来る方法が見つからない。
(なんでだ。俺は、どこで間違えた……?)
浜辺でひかると侑里を1人にした時?バーベキューの時に美帆を追い駆けなかった時?――涼星を、1人で屋台に行かせた時?
(ああやっぱり、1人にしちゃ……駄目だったんだ)
こんな事、今更気づいたって遅い。
リョウセイが涼星との距離を詰めて浴衣の襟合わせを掴んで急こう配の石段に向かって突き飛ばす。涼星が石段の縁まで追いやられる。
「じゃあね、サヨナラ涼星」
作り物の様に完璧な笑みを浮かべたリョウセイが涼星の首を掴む。
仰け反った涼星が、首を掴む腕を掴んで押し留めようとするが、リョウセイの手は首に爪を立て、ギリギリとさらに強く締め上げてくる。
「が……っ、う、ぐ……っ!」
「涼星!!」
涼星の足が石段ギリギリまで後退する。急こう配の境内から投げ落とされれば、下の石畳に激突して死んでしまう。涼星が無理やり口の端を綻ばせた。
「あーあ、こんな事なら……浴衣を選ぶ時に、千早の告白受けておけばよかった」
千早は涼星に手を伸ばそうともがくが、その度にドッペルゲンガー達の拘束は強まる。
「また会えて……一緒に過ごせて、楽しかったよ」
「いやだ……嫌だ!涼星!!」
涼星が酸素の足りなくなった青ざめた顔でふっと微笑む。リョウセイが掴んでいた首を離して、涼星を境内に放り投げた。千早にはそれが、スローモーションの様に見えた。
「涼星ーーー!!」
夜の境内の外に涼星が投げ出される。
亜麻色の髪が視界から外れた瞬間、ぐしゃ、と骨の砕かれた音が夜の境内に響き渡った――。
To Be Continued……
「はあ……っ、は……!」
神社の境内に続く石段を駆け上る。
慣れない浴衣に下駄姿だと上手く体が動かせず、足をもつれさせながら星の無い暗闇をひた走った。
階段を登り切った先には本殿に続く境内が広がっている。
夜の暗がりの中、石畳の左右には置き型の竹行灯が設置され、オレンジ色の怪しい光を放射状に放っている。息を整えようと呼吸するたび、古びた苔の香りが鼻に突いた。
その中央、神の通り道に1人の男が立っている。
亜麻色の髪にカーキの浴衣。狐面をゆっくりと外しながら、"涼星"がふっと口元を怪しく綻ばせる。
「ああ、来てくれた。遅いよ千早」
よく通る涼やかな声も涼星のはずなのに、時折二重にぶれる輪郭がその存在を怪異だと告げる。
境内に進み、涼星のドッペルゲンガーと相対する。
「何が目的だ?」
「も~、つまんないなあ。ちっとも騙されてくれないじゃん」
「お前は涼星じゃない。……涼星に何かを伝える気か?」
「俺はオリジナルに伝える事は何も無い」
涼星のドッペルゲンガー……リョウセイは長いまつ毛を細める。
淡い月明りが、リョウセイの顔に黒い影を落とす。
「ただ、正式に涼星になりたいんだ」
リョウセイが千早との距離をグッと詰め、千早の浴衣の襟元を掴む。
亜麻色の髪が頬をくすぐる距離で見つめられ、リョウセイがにっこりと微笑む。
「俺、お前と恋したくなっちゃった」
その声は蠱惑的で、底知れない怪しさを放っている。
「な……っ!?ふざけるな!何言ってやがる!?」
「いや~、だってこんなに自然なの珍しいんだもん。俺も興味が湧いてきちゃった」
「何の、話だ……っ!?」
「涼星のオリジナルを殺して、俺も人間としてこの世界で過ごしてみたい。なあ、良いだろ?」
「お前に涼星は殺させない!」
リョウセイの腕をグッと掴んで振りほどく。乱れた襟元を整えながらリョウセイの挙動を目で追う。
オリジナルに何かを伝えるメッセンジャーならあるいはと思ったが、目の前のリョウセイはそうではない。
(こいつは、涼星に明確な殺意を抱いている……!)
「ねえ、千早はやっぱり好きなの?俺の事」
「お前の事は好きじゃない」
「つれないなあ。俺はちゃんと白乃 涼星になれるし、お前も俺の方が良いよ」
「お前は涼星には絶対に会わせない!」
「ああ、その為に来たんだ?でも残念だね。……もう手遅れだよ」
「なにが……ッ!?」
不意に、後ろから手が伸びてきてグッと羽交い絞めにされた。
顔にかかる波打つココアブランの髪――ひかるが千早の脇の下から腕を差し込んでグッと両腕を押さえつけられる。
力を込めて掴まれた身体は、身をよじったくらいではびくともしない。
「ひ、ひかる……!?なんでここに!?」
「あははっ、ごめんなあ千早くん」
「みんなお前が羨ましくて霊界から出てくるんだよ。その上で俺達に都合の良い事ばっかりしてくれたらさあ、そりゃ奪っちゃうよね」
「そうそう。僕のオリジナル、無理して炎天下の中浜辺で立ってたから熱中症で死んでもーたし」
ひかるの言葉に1日目の海辺での出来事が頭を過る。
バナナボートに乗った時、倒れたひかるに覆いかぶさるひかるを見た。あれは見間違いじゃなかった。あの瞬間、ひかるはドッペルゲンガーに成り代わったんだ。
「アタシも浜辺だよ。止めたんだけど間に合わなかったね」
「侑里……!?」
「小さい時に刺されちゃったからさ、アカエイだけはダメなんだよね〜」
侑里が千早の腰を掴んで拘束を強めてくる。
そうだ、シャワールームから出た後、浜辺で侑里が1人で立っていた。その直後に、侑里の輪郭が少しぶれて見えたんだ。
(クソッ!なんで何もしなかったんだ俺は……!俺には、見えていたのに!)
その後の侑里があまりにも自然過ぎて気にも留めていなかった。一緒に肝試しに行った時は、既に侑里は侑里じゃなかった。
「ウチもね~、オリジナルが死んじゃったから乗っ取ったの。しょーがないしょーがない!忠告はしたもん」
「あははっ!俺も人間になってみたかったんだよなー!あいつ俺から逃げたし、ちょうどいいっしょ!」
「美帆、たい……ッ、グッ……!」
場違いなほど明るい声に拘束が強まる。必死に首を捩じると、金髪が目に入った。
美帆と大我が千早の右腕と左腕を拘束しながら笑っている。その顔の輪郭がジジッと二重にぶれる。ドッペルゲンガー達に押さえつけられた千早は、立っていられなくなって冷たい石畳に顔を押しつけられた。
「クソッ!放せ!……放してくれ!!」
なんとか振りほどこうともがくが、4人のドッペルゲンガーの拘束は強まるばかりだ。
すっと顎下にしなやかな指を差し込められ、半ば強引に上を向かされる。
リョウセイが、石畳に片膝を立てて千早を見下ろしていた。亜麻色の瞳が三日月型に細められる。
「俺達とこのまま青春おくろーよ千早。絶対楽しいよ?」
「ふざける、な……!俺は、お前達を許さない!皆を殺して成り代わったお前らなんか、心の底から軽蔑する!」
纏わりつく不気味な肌の熱と暗い夜空を切り裂く様に叫ぶ。
リョウセイの顔から笑みが消え、顎を掴む手に力が籠められる。
「へえ……。よくそんな事が言えるね?」
リョウセイが目線でドッペルゲンガー達を制する。
ドッペルゲンガー達が静かになった瞬間、至近距離で感情を映さない亜麻色の瞳に射抜かれる。
「こうなったのは、全部お前のせいなのにさぁ」
ぬるい風が吹く境内の中で、千早の額から一筋の冷や汗が伝い落ちて石畳に吸収されて消えた。
「は……?」
「そんなに驚く?だってお前、俺達がドッペルゲンガーって分かってただろ?」
「なに、言って……」
「他の人間は俺達には気づかなかった。お前だけだよ、俺達がオリジナルじゃないって気づけたのは。それなのに皆に忠告もしないでご丁寧に1人してくれてさあ」
リョウセイが至近距離で千早の顔を覗き込む。
そして、嘲笑と愛しさが入り混じった顔で嗤った。
「ありがとね千早。俺達はお前のおかげで成り代われたんだ」
千早の顔が青ざめてカタカタと震え出す。
確かに千早には時折皆の輪郭や袖がぶれて見てた。でも、涼星や他の皆にはそれが見えているそぶりは無かった。
(俺の、せい……?全部?)
確証が持てなくて言い出せなかった。言える機会は、いくらでもあったはずなのに。
呼吸が浅くなって視界が揺らぐ。その瞬間、空気をビリビリと震わせるような声が夜の境内に響き渡った。
「千早!!」
ハッとして境内の入り口を見る。
そこには、石段を駆け上がって息を弾ませながら千早を見つめる本物の涼星の姿があった。
「涼星……っ!?」
「は……?皆、何してるの?」
「駄目だ!来ちゃ駄目だ……涼星!」
涼星が息を整えながら額の汗を拭う。
涼星がリョウセイに会うのは駄目だ。メッセンジャーでは無いドッペルゲンガーに会ったら、殺される。
リョウセイが千早から手を放して距離を取った隙に、涼星が千早の元に駆け寄った。
「千早のドッペルゲンガーは!?」
「なんの、話だ……?」
「……?千早、自分のドッペルゲンガーを追い駆けて来たんじゃないの?」
「俺はそんなものは見てない!涼星駄目だ!そいつに背を向けるな……っ!!」
「え?」
涼星は自分のドッペルゲンガーと向かい合っていた千早の元に駆け寄った。そう、今涼星は自分のドッペルゲンガーに背を向けた状態になっている。
涼星の額から冷や汗が一筋流れ落ちる。そして、戸惑いに揺れる瞳で千早を羽交い絞めにするひかる達を見上げた。
「……お前達って、まさかドッペルゲンガー?」
「ああ、そうやで。オリジナルはもう居らんから、今は僕がひかるやけど」
「千早を放してくれない?」
「おいおい冗談キツイぜ涼星~!」
「心配しなくても放してあげるよ。――お前が死ねばね」
「っ!?」
涼星の後ろからリョウセイが覆いかぶさるように手を伸ばす。涼星がその手を払いのけて千早を守る様に立ち上がった。
夜の境内で、瓜二つの同じ人間が相対する。
「自分のドッペルゲンガーって気味悪いね、本当」
「そう?俺は今最高に楽しいんだけど」
「俺に何か言いたい事があるってんなら聞く」
「あははっ、残念だね。俺の目的はそっちじゃない。……お前を殺して成り代わる事だ」
大我が千早の首に手をかけ、グッと気道を押さえつけられる。
「一歩でも動いたら千早は殺す」
「……っ」
千早は砂利に顔を押さえつけられながら必死に首を捩じって2人を見る。
心臓の鼓動の音がうるさい。頭で必死に考えるが、この状況を打開出来る方法が見つからない。
(なんでだ。俺は、どこで間違えた……?)
浜辺でひかると侑里を1人にした時?バーベキューの時に美帆を追い駆けなかった時?――涼星を、1人で屋台に行かせた時?
(ああやっぱり、1人にしちゃ……駄目だったんだ)
こんな事、今更気づいたって遅い。
リョウセイが涼星との距離を詰めて浴衣の襟合わせを掴んで急こう配の石段に向かって突き飛ばす。涼星が石段の縁まで追いやられる。
「じゃあね、サヨナラ涼星」
作り物の様に完璧な笑みを浮かべたリョウセイが涼星の首を掴む。
仰け反った涼星が、首を掴む腕を掴んで押し留めようとするが、リョウセイの手は首に爪を立て、ギリギリとさらに強く締め上げてくる。
「が……っ、う、ぐ……っ!」
「涼星!!」
涼星の足が石段ギリギリまで後退する。急こう配の境内から投げ落とされれば、下の石畳に激突して死んでしまう。涼星が無理やり口の端を綻ばせた。
「あーあ、こんな事なら……浴衣を選ぶ時に、千早の告白受けておけばよかった」
千早は涼星に手を伸ばそうともがくが、その度にドッペルゲンガー達の拘束は強まる。
「また会えて……一緒に過ごせて、楽しかったよ」
「いやだ……嫌だ!涼星!!」
涼星が酸素の足りなくなった青ざめた顔でふっと微笑む。リョウセイが掴んでいた首を離して、涼星を境内に放り投げた。千早にはそれが、スローモーションの様に見えた。
「涼星ーーー!!」
夜の境内の外に涼星が投げ出される。
亜麻色の髪が視界から外れた瞬間、ぐしゃ、と骨の砕かれた音が夜の境内に響き渡った――。
To Be Continued……



