恋愛リアリティーショーに参加したら男に告白された。

 青春をやり直したいと思った事はある?
 もし、もう一度好きな人に告白されたら――……どうする?

 ◇

 「第一印象から決めてました。俺と付き合ってくれない?」

 8月13日。
 夏の空には空を覆う様な入道雲が浮かんでいる。
 教室のペールブルーのカーテンが爽やかな風を受けて揺らめき、2人の顔に涼やかな影を落とす。
 頭1つ分高い亜麻色の髪と揃いの瞳を見上げる。
 強引に繋がれた手は透き通るような綺麗な肌色と、がっしりした男の骨格を持っている。

 「……――は?」

 喉の奥からそんな声を引っ張り出すので精一杯だった。
 それが、夏目(なつめ) 千早(ちはや)白乃(しらの) 涼星(りょうせい)の再会だった。

 ◇

 遡る事1ヶ月前。
 本島の離れ小島に位置する海に囲まれた自然豊かな島、青嵐(せいらん)島。
 青嵐高校の廊下で、夏目千早は担任の教師に呼び止められた。

 「お願い夏目君!この島で開催される恋愛リアリティーショーに参加してくれっ!」
 「嫌です」

 千早は振り向き様にスパっと断りを入れた。
 (なんだ、恋愛リアリティーショーって)

 「町(おこ)しの一環でさ!この青嵐島で恋愛リアリティーショーを開催してくれる事になったんだよ!せっかくロケ地に選ばれたんだからウチの高校からも参加して欲しいんだよ!……頼む夏目君!もう君しか頼めないんだ!」
 「俺よりもカッコいい人とか可愛い人なんて、無限に居ると思います」
 「だってみんな恋人居るって言うんだよ~~!」

 (なんで俺には確認無しなんだよ……!)
 いや別に居ないが恋人なんて。生まれた時から今まで居た事なんて無いが。
 だがそれを言うのは癪に障るので、千早は眉を顰めるだけに留めた。

 「千早君最近明るくなったしさ、本島の人とも仲良くなれるチャンスだよ!」
 「別に仲良くならなくても問題無いです」
 「そんな事言わないで!ひと夏の恋なんて素敵じゃないか!」
 「結構です」
 「本当にお願い!この島の救世主になって!本当にこの企画に賭けてるんだ。……ほらこの島、ちょっと良くない噂があるからさ」
 「……」

 そう、青嵐高校には少しだけ良くない噂がある。夏の間だけ伝わる、よくある都市伝説みたいなものだ。
 何か実害がある訳じゃない。それでも、離れ小島でのよからぬ噂という物は、島の過疎化を少しだけ加速させている。
 千早としても、この島の過疎化が進むのは望ましくない。

 「……そう、ですね」
 「今の君ならきっと大丈夫だ。夏目君、この島で1番の青春を送ってくれないか?」

 青春。
 その言葉を聞いた瞬間、頭の奥で誰かの声が響く。
 自分とよく似た声質の、誰かの声が。

 『俺の代わりに青春を謳歌してくれよ……”千早”』

 (……ああ、そうだな)
 せっかく高校2年生の夏休みなんだ。
 家に籠り続けるような日々は、送ってはいけない気がする。

 「分かりました」

 無意識の内に千早の口が動き、そんな言葉を滑り落としていた。
 頭を下げ続けていた教師が顔を上げて、パッと顔を輝かせた。

 「ありがとう夏目君!本当に助かるよ!じゃあ、エントリーしておくから、8月13日から8月15日の3日間、絶対に空けておいてね!絶対だよ!!」
 「あ、ちょっと……!」

 それだけ言うと、教師は快晴の光が降り注ぐ廊下を足早に去って行った。

 「は、早まったか……?」

 千早の戸惑い混じりの声が、生徒がまばらに歩く廊下に吸い込まれて行った。
 しなやかな黒髪をがしがしと掻き、はあ、とため息を吐く。
 (……まあ、目立たないように過ごせばいいだろ)
 恋愛リアリティーショーなんて、カメラの前で美男美女がキラキラした恋愛を繰り広げるだけだ。
 ちらりと窓に反射した自分を見る。
 短めの黒髪、長めの前髪。平均よりも小柄な身体。
 こんなありふれた容姿の自分なんてどうせカメラも碌に抜かないだろう。そう高をくくって、千早は廊下を進んで行った。

 その考えが甘かったという事は、収録開始直後に青天の霹靂の様に思い知らされるのだった。

 ◇

 「うわ、お前の手冷たいね」

 握られた手の感触と、見下ろされる視線の熱さに我に返った。
 千早は強引に絡ませられた指同士を振り解き、密着した手のひらの熱ごと突き放した。

 「ば、バカ言うな!俺達初対面だろ!?」
 「え、それって照れ隠し?……それとも本気?」

 目の前の男が小首をかしげて亜麻色の瞳で千早をじっと見る。
 180㎝はありそうな長身に、透き通るような白い肌にスッと通った鼻筋。いかにも都会のイケメンと言った風貌の男が、じいっと千早を見つめる。
 (こ、こんなキラキラした奴忘れる訳無いだろ!?)
 じりじりと後ずさる。
 そんな2人を撮影のカメラが追う。
 待て、おかしい。適当にやり過ごしてカメラにも抜かれない算段はどこに行った。

 「はあ!?有り得ない!涼星くん狙ってたのに!」

 教室内に甲高い声が響く。
 振り向くと、ピンクがかった金髪を左サイドにくくった釣り目の女生徒が2人を睨みつけていた。
 そんな女生徒の跳ね上がった肩を、黒髪の女生徒がぽん、と叩いた。

 「まあまあ、まだ始まったばっかじゃん。取り合えず自己紹介しとこっか?」

 黒髪の女生徒がパシッと両手を合わせ、その場は収まった。

 木製のスクールチェア6脚を円形に配置し、夏仕様の制服を身に纏った高校生6人が座る。
 黒髪の女生徒がすっと手を挙げた。

 「じゃあアタシから自己紹介するね。アタシ、四之宮(しのみや) 侑里(ゆうり)。恋愛リアリティーショーの参加は3回目だよ。高校最後の夏に恋愛しに来ました〜。よろしくね!」

 侑里は黒髪に前下がりのぱっつんヘアーをさらりとなびかせる。
 余裕そうにピースして、全員に向かってウインクをした。
 落ち着いた低めの声に明るい口調は、どこか場慣れしている様にも見える。

 「じゃ、時計回りでいいよね」
 「う、ウチ!?」

 侑里に指されたサイドポニーの女生徒がむぅ、と頬を膨らませ、気を取り直す様に軽く頭を振って居住まいを正す。

 「ウチ、2年の市来(いちき) 美帆(みほ)。好みのタイプは背が高くてウチの事守ってくれる王子様みたいな人!……まあ、テキトーによろって事で」

 そう言い切ると、キラキラしたラインストーンで飾られた爪でくるくるに巻かれた自身の髪をいじり始めた。
 その隣に居た女生徒が、おずおずと声を発した。

 「あ、ほなうちの番か。えっと、京都から来ました。藤村(ふじむら)……ひかる、って言います」
 「……え!?それだけ!?」

 美帆が身を乗り出すと、ひかるは緩く巻かれたココアブラウンの髪をそっと摘まんで俯いた。

 「あ、はは……。実は、クラスメイトがふざけて応募したのが当たってもーて。気が付いた時にはキャンセル不可やったんよ。だから、ぼ……うち、恋愛する気あんま無いんよ。うちの事は気にせんといてな」

 ひかるはややハスキーな声で申し訳なさそうに薄手のカーディガンの袖を摘まむ。その仕草はすらりと高い背丈を縮こめるようだ。すると、隣の男子生徒が立ち上がって身を乗り出した。

 「ええ!?もったいねーよひかるちゃん!俺、ひかるちゃんの見た目めっちゃタイプなんだよ!第一印象だと1番好きだぜ!?」
 「あはは、おおきに。……えーっと、君は?」
 「あ、わりぃ自己紹介!俺は和久井(わくい) 大我(たいが)!高校2年生だぜ!彼女作る気満々で来たから、みんなよろしくな!」

 太陽をそのまま溶かした様な彩度の高い金色の短髪姿の快活そうな男子生徒――大我はぐるっと周りを見回してニカッと笑った。
 露わになった耳に付いた黒のフープピアスが微かに揺れた。

 「よし、次はお前だな!」
 「……分かった」

 大我にバシッと背中をはたかれた千早は顔を上げた。
 ノリが陽キャ過ぎる。大我とは多分上手く関われないな、と千早はそっと目を逸らした。

 「夏目 千早。この青嵐高校の2年だ。……せっかく会ったんだから、皆で良い夏を過ごせれば良いと思ってる。よろしく」
 「よろしくね~」
 「よろしゅうな、夏目くん」

 とりあえずこの位で良いだろう。千早は大我や美帆の様に積極的に恋人を探しに来た訳ではないのだから。

 「最後は俺だね。白乃 涼星。高校3年生。この島には前も1回来た事あったけど、自然豊かで良い所だよね。この3日間で恋人を作れたら良いと思ってるよ。……ね、千早?」
 「……は?」

 ニヤついた顔で千早を見下ろす涼星にジトっとした視線を投げる。
 なぜ自分の名前を出すんだこのイケメンは。

 「じゃあ3日間のスケジュール確認しよっか!皆手元にあるよね?」
 「ああ」

 侑里の明るい声に、スクールチェアに置かれていた紙を手に取る。
 『3日であなたにガチ恋します!〜自然豊かな青嵐島で真夏の恋をしませんか?〜』
 手書き文字の様なロゴで書かれた題名の下には、恋愛リアリティーショーの日程が掲載されている。
 そこには

 1日目
 ・青嵐島のコバルトブルーな海でバナナボート
 ・海辺のキャンプ場でバーベキュー
 ・夜の青嵐高校で肝試し

 と記載されていた。
 (いかにも協賛っぽいな……)
 青嵐島は離れ小島で海に囲まれている。そして、その海の透明感やコバルトブルーがかろうじて観光地になっている。
 千早がぱらぱらと日程表を流し読みしていると、前方からガタっと音がして顔を上げた。
 美帆が青ざめた顔で椅子から立ち上がっていた。

 「ちょ、ちょっと待って肝試しって何!?そんなの聞いてないんだけど!?」
 「あれ?美帆って怖い系ダメ?」
 「ダメに決まってんじゃん!ウチ絶対無理!」
 「まあまあ、美帆ちゃん。そんな本格的なもんやあらへんやろ」
 「ひかるは怖い系平気な人?」
 「あ~、そうやね。結構イケるかも」

 美帆の両隣に居るひかると侑里が美帆を宥める。

 「ひ、ひかるちゃん……!幽霊からは俺がま、守ってやるぜ……!!」

 千早の隣でぶるぶると震える拳を握り締める大我の顔も見事に青ざめてる。
 当のひかるが全く怖がっていない事など眼中にも無い様子だ。これは、大我もホラー系は苦手なのかもしれない。

 「大丈夫だろ。この島で幽霊なんか1回も見た事無いぞ」
 「おおマジか!地元の奴がそう言うなら大丈夫だな!」
 「ああ~、そうだね。……幽霊は、ね?」

 千早と大我の話にすっと侑里が入り込む。
 風の様な軽やかな侑里の声に、全員が一斉に侑里に視線を送った。

 「何?侑里は何か知ってるの?」
 「アタシ知ってるんだ。この島のウワサ」

 あ、不味い。千早がそう思った瞬間、侑里が桜色のリップに彩られた唇を開いた。

 「この島さ、幽霊は出ないけどドッペルゲンガーは出るんでしょ?」

 To Be Continued……