家に着いたのはまだ日が沈む前。オレンジ色の西陽が辺りを暖かな色に染めている。
駐車してエンジンを止めた。
吏希はまだ眠っている。小さな頃は泊まったりしていたのに、吏希の寝顔を思い出せない。もう少し見ていたいだなんて、思ったことだってないはずだ。
でも、早く自分の気持ちを伝えたくて、吏希の肩をそっと叩いた。
「着いたよ。起きて」
んっ、と鼻にかかった声を漏らして瞼がゆっくり持ち上がる。
「おはよう」
顔を覗き込んで言えば、吏希は大きく目を見開いて飛び起きる。辺りに視線を走らせて、大きく息を吐き出した。
「悪い。少しだけのつもりだったのに、家まで寝て」
「寝ていいって言ったのは僕だから気にしないで。吏希はこの後は暇? 予定あったりする?」
「ない。暇! ものすごく暇!」
食い気味に言われて呆気に取られる。まだ僕といたいと思ってくれたのかな。そう頭をよぎると口元が緩んでしまったけど、すぐに引き締めた。顔に力を入れて見つめる。
「話があるから聞いてほしい」
「……今日じゃなくても良くないか?」
吏希は顔を下に向けて呟く。
「でもこの後予定はないんだよね? それなら僕の話を聞いてほしい」
吏希は少しの間無言だったけど、大きく息を吐き出して分かった、と頷いた。
吏希の部屋に通される。部屋に入って吏希が薄手のパーカーを脱ごうとしたから、後ろに立って脱がす補助をした。
吏希が勢いよく振り返って困惑したような表情を浮かべる。
「どうしたの?」
パーカーを渡しながら問いかけると、なんでもない、と首を振って受け取ってくれた。パーカーはイスの背もたれに掛けられた。
向き合って座り、緊張で心臓がバクバクと脈打つ。前回こうやって向き合った時とは真逆のことを言うのに、同じくらい緊張している。
何度も口を開きかけて閉じるを繰り返す。最初の一言が発せられない。
吏希の指先が遠慮がちに僕の手に触れた。手を辿るように視線を動かせば、吏希と目が合う。とても優しい表情だった。
「言いたいこと言っていいよ。俺が悲しむと思って言えないんだろ?」
僕は目を瞬かせるばかり。
「吏希が悲しむ?」
「付き合うの無理って言うつもりなんじゃないのか?」
付き合うのが無理? 言われた意味がわからない。吏希はなんでそんな勘違いをしているんだろう。戸惑う僕に、違うのか? と首を傾ける。すぐに否定した。
「違うよ! 僕が言いたいのは……」
吏希と本当の恋人になりたいってこと。僕の好きなことばかりに付き合ってもらっていた。今日は吏希の好きなことをして、これからも楽しい時間を共有したいと思った。僕に合わせてもらうだけじゃなく、対等でいたい。吏希は僕に『付き合ってもらっている』と思っている。『付き合っている』と思ってもらえるようになりたい。
大きな手が宝物を触るように僕の手を包む。
「いつまでも待つから、言える時に言いたいこと言って」
どこまでも優しい。
心が灯り、喉の奥でつっかえていた言葉が自然と出てきた。
「僕は吏希と付き合いたい」
吏希は目を剥く。時間が止まったかのように、その表情のまま固まった。
「軽く考えて付き合ってって言われたけど、そうじゃなくて、ちゃんと付き合いたいんだ」
瞼が震え、吏希の目尻から涙が一筋溢れた。隠すように俯いて袖口で目を擦る。上げられた顔は涙で目元が潤んでいたけど、晴れやかな顔だった。
「今度こそ振られると思った」
「え? 何で? 今日の僕、つまらなさそうだった? すごく楽しかったんだけど」
「いや、楽しそうに見えたよ。でも、だから友達としてしか見れないって言われるのかなって。家に着いたら硬い表情で『話がある』なんて言われたから」
だから吏希は僕が話があると言った時に、聞きたくなさそうにしていたのか。ごめんねと言えば、穏やかな顔で首を振る。
「今日聞けてよかった。嬉しすぎて、嬉しい以外の言葉が出てこない」
この顔を見られて良かった。言えて良かった。腕を伸ばして吏希の首に絡ませた。しがみつく僕に戸惑いつつも、吏希が背中をポンポンと叩く。
「あのさ、そんなに急にひっつかれると困る」
「ごめん、嫌だった?」
慌てて距離を取る。吏希の気持ちを確認しないまま抱きついてしまった。
「嫌なわけないだろ! ……そうじゃなくてさ、付き合いたいって言ってくれただろ? 奏斗に触りたくて仕方がない。だからひっつかれると我慢できなくなりそうだから困るってこと」
吏希の言葉に全身が茹だったように熱い。
触りたいってどこまでするんだろう。キスだってその先だって未知の世界すぎて想像ができない。でも、自分から抱きついてしまうくらいには吏希を求めている。
「あのね、我慢なんてしなくていいよ。だって僕から抱きついたんだよ。僕だって吏希に触りたかったってことでしょ?」
おずおずと腕が伸びてきて、僕の肩に触れる。
「本当にいいの?」
目を合わせて頷くと引き寄せられて腕の中に閉じ込められた。抱きしめられるのは二回目のはずなのに、キツイ抱擁に緊張する。気持ちが伴っているからだろう。
二つ分の心音が同じ速さで大きく鳴り響いていた。
頭に柔らかな感触。リップ音が鳴り、キスをされたのだと気付く。抱きしめられたまま身体に力が入ってしまう。それを感じ取り、嫌なら言って、と吏希の熱を孕んだような囁きが鼓膜を震わす。ゾクリとして身体が跳ねた。身体はますます硬直するけれど、嫌などではない。恥ずかしくて、でもそれ以上の多幸感にこの先を期待してしまっている。
「嫌なわけないよ」
胸に顔を埋めているから声はくぐもっていたけれど、ゼロ距離にいる吏希には届いたみたいだ。
少し身体に隙間があく。顔を見合わせると片手が頬に触れる。大きな手が心地よくて擦り寄り目を細めた。
耳に唇が当たった。ゾクリとして、吏希の服をキュッと握る。少しずれて頬にも優しいキスをくれた。
額をくっつけられて、至近距離で見つめ合う。吏希の熱を帯びた瞳から目が逸らせない。
「嫌なら嫌って言えよ」
嫌って言わせるつもりなんてないほど早く唇を押し付けられた。すぐに離れてまた触れる。じゃれ合うように何度も唇を重ねた。
一際強く押し当てられて少し距離ができる。
「まだしてもいい?」
「うん」
初めてのキスは温かくて柔らかくて、ドキドキするのに心の奥は穏やかで。吏希と心も近付けたような気がした。
もう一度唇が重なる。先ほどとは違い、遠慮がちに舌が
口内に入ってきた。舌先が触れ合う。唾液の絡み合う音が合わさる口内で響いた。
熱い。合わさっている舌だけでなく、顔も身体も心も。
舌を絡められ、吏希の手が僕の後頭部と背中に回る。
「奏斗……」
角度を変えるたび甘い声で名前を呼ばれる。その声に胸の高鳴りを抑えられず、服を掴んでいた手を吏希の背中に回した。応えるように掻き抱かれる。
どんどんキスは激しくなっていき、唇にできる隙間から二人分の熱っぽい息遣いが溢れた。恥ずかしくて頭が沸騰しそう。
背中に回っていた吏希の指先が裾から入って直接肌に触れる。身体をピクリと跳ねさすと、背骨に沿って撫で上げられた。
「んっ、はぁ、あっ……」
くすぐったいのと気持ちいいのが混ざった感覚に喘いだ。今度はゆっくり下がっていき、ズボンと下着の中に指が入って尾骶骨を掠めた時に驚きすぎて腕を突っぱねてしまった。
「ごめん、調子に乗りすぎた」
吏希は眉尻を下げて僕から離れる。唾液で濡れた口元を拭ってくれた。
「僕こそごめん。びっくりしただけだから」
嫌だったのではない。それだけは伝わってほしい。
頭をポンポンとされる。吏希はホッとしたように目を細めた。
「もう何もしないから。この後はどうする? 夕飯食いに行く?」
外は薄暗くなっていた。いつもなら夕飯を食べている時間だ。
「僕はあまりお腹減ってない」
「昼間いっぱい食べたからな。俺もそんなに減ってない」
「ううん、そうじゃなくて。胸がいっぱいで食べられそうにない」
先ほどまでの甘美なキスを思い出して、頬を両手で覆う。
「せっかく止めれたのにそんなこと言うなよ」
吏希が肩を落として大きなため息を吐いた。
「じゃあどこかに行くか、何かしないか? 奏斗はどうしたい?」
吏希としたいこと? 思考を巡らせ、ハッと思い浮かんで口を開いた。
「一緒にレイズの打ち上げ生配信を見たい」
「……いいけど、見たんだろ?」
「でも最初あまり楽しめなかったんだ」
「何で? つまんなかった?」
「違う。吏希のことばかり考えてたから」
吏希は目を丸くする。
「だから全然楽しめなかった。吏希と付き合えて一緒にいる今なら楽しく見れると思うんだ」
「そうか。一緒に見よう。俺は楽しんでる奏斗を見たいし。俺と付き合ってアイドル好きなのを我慢もされたくない」
「ありがとう。でもレイズは推しだから。好きなのは吏希だから」
吏希は目頭を揉む。こちらに向けられた瞳は潤んでいるように見えた。
「奏斗からこんな言葉が聞ける日が来るなんて……。もう一回言って。俺のこと好きってところだけ」
「吏希が好き」
「すげー嬉しい。よし、見るか」
スマホを操作してアーカイブ配信を再生した。
「きっと吏希も楽しめるよ。アズサくんが吏希のこと話してたし」
「俺、アズサと知り合いでもないけど?」
首を傾けて目を瞬かせている。
シンくんとアズサくんとユイトくんが映し出された。
僕は自分から吏希の手を握った。吏希は驚いていたけど、すぐに顔を綻ばせる。
「あのさ、すぐって訳じゃないけど……」
「ん? どうした?」
顔を見合わせる。全身が熱くなるけど、震える口を開いた。
「一緒にグランピングに行きたいね」
少しの間があり、吏希が照れたように頷いた。
駐車してエンジンを止めた。
吏希はまだ眠っている。小さな頃は泊まったりしていたのに、吏希の寝顔を思い出せない。もう少し見ていたいだなんて、思ったことだってないはずだ。
でも、早く自分の気持ちを伝えたくて、吏希の肩をそっと叩いた。
「着いたよ。起きて」
んっ、と鼻にかかった声を漏らして瞼がゆっくり持ち上がる。
「おはよう」
顔を覗き込んで言えば、吏希は大きく目を見開いて飛び起きる。辺りに視線を走らせて、大きく息を吐き出した。
「悪い。少しだけのつもりだったのに、家まで寝て」
「寝ていいって言ったのは僕だから気にしないで。吏希はこの後は暇? 予定あったりする?」
「ない。暇! ものすごく暇!」
食い気味に言われて呆気に取られる。まだ僕といたいと思ってくれたのかな。そう頭をよぎると口元が緩んでしまったけど、すぐに引き締めた。顔に力を入れて見つめる。
「話があるから聞いてほしい」
「……今日じゃなくても良くないか?」
吏希は顔を下に向けて呟く。
「でもこの後予定はないんだよね? それなら僕の話を聞いてほしい」
吏希は少しの間無言だったけど、大きく息を吐き出して分かった、と頷いた。
吏希の部屋に通される。部屋に入って吏希が薄手のパーカーを脱ごうとしたから、後ろに立って脱がす補助をした。
吏希が勢いよく振り返って困惑したような表情を浮かべる。
「どうしたの?」
パーカーを渡しながら問いかけると、なんでもない、と首を振って受け取ってくれた。パーカーはイスの背もたれに掛けられた。
向き合って座り、緊張で心臓がバクバクと脈打つ。前回こうやって向き合った時とは真逆のことを言うのに、同じくらい緊張している。
何度も口を開きかけて閉じるを繰り返す。最初の一言が発せられない。
吏希の指先が遠慮がちに僕の手に触れた。手を辿るように視線を動かせば、吏希と目が合う。とても優しい表情だった。
「言いたいこと言っていいよ。俺が悲しむと思って言えないんだろ?」
僕は目を瞬かせるばかり。
「吏希が悲しむ?」
「付き合うの無理って言うつもりなんじゃないのか?」
付き合うのが無理? 言われた意味がわからない。吏希はなんでそんな勘違いをしているんだろう。戸惑う僕に、違うのか? と首を傾ける。すぐに否定した。
「違うよ! 僕が言いたいのは……」
吏希と本当の恋人になりたいってこと。僕の好きなことばかりに付き合ってもらっていた。今日は吏希の好きなことをして、これからも楽しい時間を共有したいと思った。僕に合わせてもらうだけじゃなく、対等でいたい。吏希は僕に『付き合ってもらっている』と思っている。『付き合っている』と思ってもらえるようになりたい。
大きな手が宝物を触るように僕の手を包む。
「いつまでも待つから、言える時に言いたいこと言って」
どこまでも優しい。
心が灯り、喉の奥でつっかえていた言葉が自然と出てきた。
「僕は吏希と付き合いたい」
吏希は目を剥く。時間が止まったかのように、その表情のまま固まった。
「軽く考えて付き合ってって言われたけど、そうじゃなくて、ちゃんと付き合いたいんだ」
瞼が震え、吏希の目尻から涙が一筋溢れた。隠すように俯いて袖口で目を擦る。上げられた顔は涙で目元が潤んでいたけど、晴れやかな顔だった。
「今度こそ振られると思った」
「え? 何で? 今日の僕、つまらなさそうだった? すごく楽しかったんだけど」
「いや、楽しそうに見えたよ。でも、だから友達としてしか見れないって言われるのかなって。家に着いたら硬い表情で『話がある』なんて言われたから」
だから吏希は僕が話があると言った時に、聞きたくなさそうにしていたのか。ごめんねと言えば、穏やかな顔で首を振る。
「今日聞けてよかった。嬉しすぎて、嬉しい以外の言葉が出てこない」
この顔を見られて良かった。言えて良かった。腕を伸ばして吏希の首に絡ませた。しがみつく僕に戸惑いつつも、吏希が背中をポンポンと叩く。
「あのさ、そんなに急にひっつかれると困る」
「ごめん、嫌だった?」
慌てて距離を取る。吏希の気持ちを確認しないまま抱きついてしまった。
「嫌なわけないだろ! ……そうじゃなくてさ、付き合いたいって言ってくれただろ? 奏斗に触りたくて仕方がない。だからひっつかれると我慢できなくなりそうだから困るってこと」
吏希の言葉に全身が茹だったように熱い。
触りたいってどこまでするんだろう。キスだってその先だって未知の世界すぎて想像ができない。でも、自分から抱きついてしまうくらいには吏希を求めている。
「あのね、我慢なんてしなくていいよ。だって僕から抱きついたんだよ。僕だって吏希に触りたかったってことでしょ?」
おずおずと腕が伸びてきて、僕の肩に触れる。
「本当にいいの?」
目を合わせて頷くと引き寄せられて腕の中に閉じ込められた。抱きしめられるのは二回目のはずなのに、キツイ抱擁に緊張する。気持ちが伴っているからだろう。
二つ分の心音が同じ速さで大きく鳴り響いていた。
頭に柔らかな感触。リップ音が鳴り、キスをされたのだと気付く。抱きしめられたまま身体に力が入ってしまう。それを感じ取り、嫌なら言って、と吏希の熱を孕んだような囁きが鼓膜を震わす。ゾクリとして身体が跳ねた。身体はますます硬直するけれど、嫌などではない。恥ずかしくて、でもそれ以上の多幸感にこの先を期待してしまっている。
「嫌なわけないよ」
胸に顔を埋めているから声はくぐもっていたけれど、ゼロ距離にいる吏希には届いたみたいだ。
少し身体に隙間があく。顔を見合わせると片手が頬に触れる。大きな手が心地よくて擦り寄り目を細めた。
耳に唇が当たった。ゾクリとして、吏希の服をキュッと握る。少しずれて頬にも優しいキスをくれた。
額をくっつけられて、至近距離で見つめ合う。吏希の熱を帯びた瞳から目が逸らせない。
「嫌なら嫌って言えよ」
嫌って言わせるつもりなんてないほど早く唇を押し付けられた。すぐに離れてまた触れる。じゃれ合うように何度も唇を重ねた。
一際強く押し当てられて少し距離ができる。
「まだしてもいい?」
「うん」
初めてのキスは温かくて柔らかくて、ドキドキするのに心の奥は穏やかで。吏希と心も近付けたような気がした。
もう一度唇が重なる。先ほどとは違い、遠慮がちに舌が
口内に入ってきた。舌先が触れ合う。唾液の絡み合う音が合わさる口内で響いた。
熱い。合わさっている舌だけでなく、顔も身体も心も。
舌を絡められ、吏希の手が僕の後頭部と背中に回る。
「奏斗……」
角度を変えるたび甘い声で名前を呼ばれる。その声に胸の高鳴りを抑えられず、服を掴んでいた手を吏希の背中に回した。応えるように掻き抱かれる。
どんどんキスは激しくなっていき、唇にできる隙間から二人分の熱っぽい息遣いが溢れた。恥ずかしくて頭が沸騰しそう。
背中に回っていた吏希の指先が裾から入って直接肌に触れる。身体をピクリと跳ねさすと、背骨に沿って撫で上げられた。
「んっ、はぁ、あっ……」
くすぐったいのと気持ちいいのが混ざった感覚に喘いだ。今度はゆっくり下がっていき、ズボンと下着の中に指が入って尾骶骨を掠めた時に驚きすぎて腕を突っぱねてしまった。
「ごめん、調子に乗りすぎた」
吏希は眉尻を下げて僕から離れる。唾液で濡れた口元を拭ってくれた。
「僕こそごめん。びっくりしただけだから」
嫌だったのではない。それだけは伝わってほしい。
頭をポンポンとされる。吏希はホッとしたように目を細めた。
「もう何もしないから。この後はどうする? 夕飯食いに行く?」
外は薄暗くなっていた。いつもなら夕飯を食べている時間だ。
「僕はあまりお腹減ってない」
「昼間いっぱい食べたからな。俺もそんなに減ってない」
「ううん、そうじゃなくて。胸がいっぱいで食べられそうにない」
先ほどまでの甘美なキスを思い出して、頬を両手で覆う。
「せっかく止めれたのにそんなこと言うなよ」
吏希が肩を落として大きなため息を吐いた。
「じゃあどこかに行くか、何かしないか? 奏斗はどうしたい?」
吏希としたいこと? 思考を巡らせ、ハッと思い浮かんで口を開いた。
「一緒にレイズの打ち上げ生配信を見たい」
「……いいけど、見たんだろ?」
「でも最初あまり楽しめなかったんだ」
「何で? つまんなかった?」
「違う。吏希のことばかり考えてたから」
吏希は目を丸くする。
「だから全然楽しめなかった。吏希と付き合えて一緒にいる今なら楽しく見れると思うんだ」
「そうか。一緒に見よう。俺は楽しんでる奏斗を見たいし。俺と付き合ってアイドル好きなのを我慢もされたくない」
「ありがとう。でもレイズは推しだから。好きなのは吏希だから」
吏希は目頭を揉む。こちらに向けられた瞳は潤んでいるように見えた。
「奏斗からこんな言葉が聞ける日が来るなんて……。もう一回言って。俺のこと好きってところだけ」
「吏希が好き」
「すげー嬉しい。よし、見るか」
スマホを操作してアーカイブ配信を再生した。
「きっと吏希も楽しめるよ。アズサくんが吏希のこと話してたし」
「俺、アズサと知り合いでもないけど?」
首を傾けて目を瞬かせている。
シンくんとアズサくんとユイトくんが映し出された。
僕は自分から吏希の手を握った。吏希は驚いていたけど、すぐに顔を綻ばせる。
「あのさ、すぐって訳じゃないけど……」
「ん? どうした?」
顔を見合わせる。全身が熱くなるけど、震える口を開いた。
「一緒にグランピングに行きたいね」
少しの間があり、吏希が照れたように頷いた。



