朝方に寝ついたせいで、昼過ぎに起きた。コンサートの余韻に浸ることができず、吏希が頭の中をずっと占めていた。
今日が休日でよかった。どんな顔をして会えばいいか分からない。今でも吏希のことばかり考えてしまう。
部屋を出てリビングに行くが誰もいない。作り置きされている昼食を温めて食べる。『奏斗が好きだよ』そう言った吏希の表情が勝手に浮かんできた。頭を振って意識的に消しても、また脳裏に咲く。
インターホンが鳴り、思考の渦にのまれていたが、現実に引き戻される。口に入っているものをお茶で流し込み、玄関の扉を開けて固まった。
「奏斗、今日は暇か? 暇そうだな」
吏希がふっと笑う。昼を過ぎているのによれよれの部屋着にボサボサの寝癖頭。暇であると言っているようなものだ。
「……どうしたの?」
顔に熱が集まっている気がして少し俯く。
「奏斗にライブ映像一緒に見るかって誘われたから今日暇だし見にきた」
昨日の別れ際のことなんてなかったかのように普通に話している。吏希はいつも通りだ。拍子抜けした。断るのも意識していると思われそうで、吏希を招き入れる。
「ちょっと待ってて。お昼ご飯の途中だから」
「分かった、遠慮せずにゆっくり食えよ」
吏希は僕の正面に座ってスマホをいじり始めた。本当にいつもと変わらない。昨日のことは夢だったんだろうかとさえ思えてきた。いや、でも、僕はレイズのコンサートの余韻にすら浸れなかったわけで。
うだうだ考えるのはやめよう。吏希がいつも通りでいるなら、僕もそうしていよう。
ご飯を口いっぱいに頬張ると吏希がこちらに視線を向ける。
「ゆっくり食べていいって言ったろ」
しばらく噛んで飲み込む。
「だって早くライブ映像見たいし」
「それなら食べながら見ればいいだろ」
「食べながらだと応援できないもん」
急いで全部食べ終わると部屋に駆けていき、ブルーレイを掴むとリビングに戻る。
昨日のコンサート後に思い返すことができなかったんだ。コンサートのアフターだと思って、目一杯楽しむことにする。
「リビングで見よう。僕の部屋はテレビがないから」
自室で見る時はポータブルブルーレイプレーヤーになる。せっかく誰もいないのだから、大きな画面で見たい。
ブルーレイをセットして、並んでソファに腰掛ける。いつもの距離が少し居心地悪いのは気のせいって言い聞かせた。
映像が流れる。最初こそ吏希が気になっていたけど、次第にレイズの映像に夢中になる。気付けば立ち上がっていたし、合いの手を叫び、こちらに向かって手を振るリオンくんに振り返した。
姉さんと一緒に見ている感覚になっていたけど、隣にいるのは吏希だとふと思い出した。ひかれていないかな、と恐る恐る吏希に目を向ける。
吏希はとろけそうなほどの甘い微笑みで僕を見ていた。
顔が熱くて咄嗟に視線を逸らす。最初よりも少しだけ距離を取って座った。
「ごめん、一人ではしゃいで」
「いいんじゃないの。他の男を見てテンション上がってるのはちょっと妬けるけどさ、リオンには恋愛感情があるわけじゃないって言ってたし。俺は奏斗が楽しんでいるのを見れるのが嬉しい」
そんなことを言われたらコンサート映像を楽しむどころではなくなる。顔を上に向けられなくて、視線を落として自分のつま先を見ていた。
「おい、アズサが手を振ってるぞ」
肩を叩かれて大袈裟なほど身体が跳ねた。吏希は気にした様子もなく、屈託なく笑う。もう甘い微笑みは引っ込んでいた。
「俺の言ってることは覚えていて欲しいけど、それを奏斗が気にする必要ないからな」
「だって、妬くとか言うし」
「それ以上に、奏斗が楽しんでる姿を見られる方がいいんだって。ほら、リオンだけじゃなくアズサにも手を振り返してやれよ。あっ、もうアズサ映ってないわ」
今はシンくんが器用に片目を閉じて微笑んでいる。
僕に気を使わせないようにか、吏希がシンくんの真似をするけど、ウインクできずに瞬きをしたのがおかしかった。普段だったら絶対にアイドルの真似なんてしないのに。自然と頬が緩む。
「できてないよ」
「初めてなんだから仕方ないだろ」
吏希が照れくさそうに笑う。その後は吏希に合いの手を入れる場所を教えたりしたけど、やってはくれなかった。でも楽しくコンサート映像を見ることができた。
大学から帰って二人ともバイトがない日は、吏希とコンサート映像を見て過ごすことが増えた。
家族がいる日はリビングではなく僕の部屋でカーペットの上に座り、ポータブルブルーレイプレーヤーの小さな画面になってしまうのが残念だけど。
コンサート映像が消える。吏希は帰るために立ち上がってハンガーから上着を取った。
「吏希はレイズのファンになった?」
「なってないな。何で?」
「だってこんなに一緒に見てくれるんだから、ファンになったのかなって思って」
「曲もだいぶ覚えたし、いくつか好きな曲もある。でもファンではない。一緒に見てるのは、楽しんでる奏斗を見たいからだから」
じっと見つめられて視線を下げた。好きだと言われたけど、吏希がどうしたいのか分からなくてモヤモヤする。
大きく深呼吸する。意を決して視線を上げた。
「吏希は僕のこと好き……なんだよね?」
「ああ」
「でも、それでどうしたいのか言ってこないよね。付き合いたいのか、このまま幼馴染でいたいのか」
「付き合えたら嬉しいけど、俺が付き合いたいと思っても、奏斗が思ってなければ付き合えないだろ? ……いや、待てよ。とりあえず付き合うか?」
「……軽いね」
吏希の言葉に脱力する。
「重く捉えなくていいから、軽く考えて。俺は付き合いたいと思ってる。試しに付き合って、無理だと思ったら幼馴染に戻ればいいんじゃないの?」
「そんなんでいいの?」
「ああ、付き合ってくれるっていうなら、すっげー甘やかすけど」
すでに表情が甘ったるい。
「……考えさせて」
「じゃあこの話は一旦保留だな。本当に重く考えなくていいからな」
「うん、分かった」
「じゃあ俺は帰るから」
吏希は上着を羽織ると部屋を出ていった。
今日が休日でよかった。どんな顔をして会えばいいか分からない。今でも吏希のことばかり考えてしまう。
部屋を出てリビングに行くが誰もいない。作り置きされている昼食を温めて食べる。『奏斗が好きだよ』そう言った吏希の表情が勝手に浮かんできた。頭を振って意識的に消しても、また脳裏に咲く。
インターホンが鳴り、思考の渦にのまれていたが、現実に引き戻される。口に入っているものをお茶で流し込み、玄関の扉を開けて固まった。
「奏斗、今日は暇か? 暇そうだな」
吏希がふっと笑う。昼を過ぎているのによれよれの部屋着にボサボサの寝癖頭。暇であると言っているようなものだ。
「……どうしたの?」
顔に熱が集まっている気がして少し俯く。
「奏斗にライブ映像一緒に見るかって誘われたから今日暇だし見にきた」
昨日の別れ際のことなんてなかったかのように普通に話している。吏希はいつも通りだ。拍子抜けした。断るのも意識していると思われそうで、吏希を招き入れる。
「ちょっと待ってて。お昼ご飯の途中だから」
「分かった、遠慮せずにゆっくり食えよ」
吏希は僕の正面に座ってスマホをいじり始めた。本当にいつもと変わらない。昨日のことは夢だったんだろうかとさえ思えてきた。いや、でも、僕はレイズのコンサートの余韻にすら浸れなかったわけで。
うだうだ考えるのはやめよう。吏希がいつも通りでいるなら、僕もそうしていよう。
ご飯を口いっぱいに頬張ると吏希がこちらに視線を向ける。
「ゆっくり食べていいって言ったろ」
しばらく噛んで飲み込む。
「だって早くライブ映像見たいし」
「それなら食べながら見ればいいだろ」
「食べながらだと応援できないもん」
急いで全部食べ終わると部屋に駆けていき、ブルーレイを掴むとリビングに戻る。
昨日のコンサート後に思い返すことができなかったんだ。コンサートのアフターだと思って、目一杯楽しむことにする。
「リビングで見よう。僕の部屋はテレビがないから」
自室で見る時はポータブルブルーレイプレーヤーになる。せっかく誰もいないのだから、大きな画面で見たい。
ブルーレイをセットして、並んでソファに腰掛ける。いつもの距離が少し居心地悪いのは気のせいって言い聞かせた。
映像が流れる。最初こそ吏希が気になっていたけど、次第にレイズの映像に夢中になる。気付けば立ち上がっていたし、合いの手を叫び、こちらに向かって手を振るリオンくんに振り返した。
姉さんと一緒に見ている感覚になっていたけど、隣にいるのは吏希だとふと思い出した。ひかれていないかな、と恐る恐る吏希に目を向ける。
吏希はとろけそうなほどの甘い微笑みで僕を見ていた。
顔が熱くて咄嗟に視線を逸らす。最初よりも少しだけ距離を取って座った。
「ごめん、一人ではしゃいで」
「いいんじゃないの。他の男を見てテンション上がってるのはちょっと妬けるけどさ、リオンには恋愛感情があるわけじゃないって言ってたし。俺は奏斗が楽しんでいるのを見れるのが嬉しい」
そんなことを言われたらコンサート映像を楽しむどころではなくなる。顔を上に向けられなくて、視線を落として自分のつま先を見ていた。
「おい、アズサが手を振ってるぞ」
肩を叩かれて大袈裟なほど身体が跳ねた。吏希は気にした様子もなく、屈託なく笑う。もう甘い微笑みは引っ込んでいた。
「俺の言ってることは覚えていて欲しいけど、それを奏斗が気にする必要ないからな」
「だって、妬くとか言うし」
「それ以上に、奏斗が楽しんでる姿を見られる方がいいんだって。ほら、リオンだけじゃなくアズサにも手を振り返してやれよ。あっ、もうアズサ映ってないわ」
今はシンくんが器用に片目を閉じて微笑んでいる。
僕に気を使わせないようにか、吏希がシンくんの真似をするけど、ウインクできずに瞬きをしたのがおかしかった。普段だったら絶対にアイドルの真似なんてしないのに。自然と頬が緩む。
「できてないよ」
「初めてなんだから仕方ないだろ」
吏希が照れくさそうに笑う。その後は吏希に合いの手を入れる場所を教えたりしたけど、やってはくれなかった。でも楽しくコンサート映像を見ることができた。
大学から帰って二人ともバイトがない日は、吏希とコンサート映像を見て過ごすことが増えた。
家族がいる日はリビングではなく僕の部屋でカーペットの上に座り、ポータブルブルーレイプレーヤーの小さな画面になってしまうのが残念だけど。
コンサート映像が消える。吏希は帰るために立ち上がってハンガーから上着を取った。
「吏希はレイズのファンになった?」
「なってないな。何で?」
「だってこんなに一緒に見てくれるんだから、ファンになったのかなって思って」
「曲もだいぶ覚えたし、いくつか好きな曲もある。でもファンではない。一緒に見てるのは、楽しんでる奏斗を見たいからだから」
じっと見つめられて視線を下げた。好きだと言われたけど、吏希がどうしたいのか分からなくてモヤモヤする。
大きく深呼吸する。意を決して視線を上げた。
「吏希は僕のこと好き……なんだよね?」
「ああ」
「でも、それでどうしたいのか言ってこないよね。付き合いたいのか、このまま幼馴染でいたいのか」
「付き合えたら嬉しいけど、俺が付き合いたいと思っても、奏斗が思ってなければ付き合えないだろ? ……いや、待てよ。とりあえず付き合うか?」
「……軽いね」
吏希の言葉に脱力する。
「重く捉えなくていいから、軽く考えて。俺は付き合いたいと思ってる。試しに付き合って、無理だと思ったら幼馴染に戻ればいいんじゃないの?」
「そんなんでいいの?」
「ああ、付き合ってくれるっていうなら、すっげー甘やかすけど」
すでに表情が甘ったるい。
「……考えさせて」
「じゃあこの話は一旦保留だな。本当に重く考えなくていいからな」
「うん、分かった」
「じゃあ俺は帰るから」
吏希は上着を羽織ると部屋を出ていった。



