「#5」


ひとめぼれ…だったのかな…

運命って…信じてもいいのかな…

バカみたいに…

この心の感覚を…

あの日、あの時、あの場所で…

出逢えたことが…


…………………………………



…思えば、ふたりはどうして出会ったのだろう。


それは…


愛澤学園高等部2年生の1学期、桜まいちる春のとある放課後のことである。



「む~…そうね、とりあえずは…あの人達が納得する理由が必要よね…」


桜色の並木道をぶつぶつと何やら思案している少女が放課後の校庭を校門に向かって歩いていた。



ちょうど黄昏時だ…



世界がとても美しく見える時間…



マジックアワーとも呼ぶのだそう。



そんな…




伸びる影さえ幻想的で…



桜吹雪の舞う、そのなかで…



誰かが地面を軽快に踏みしめる音が風にのって…


そこにサークル活動勧誘のチラシを小脇に抱えた少年が小走りに駆けてくる。



その音の主が彼だった。





凛とした表情で咲き誇る色とりどりの笑顔達…



手入れが行き届いた美しい花壇が並ぶ細いレンガ敷の歩道…




「あぁ…ちょっとー!!」


少年に気付いた様子はなく少女はぼんやり歩いていた。



「……………………ぇ?」




避けられない…



少年が言うや否や、面白いくらい見事にぶつかる。


ふたり揃ってドシンと見事な尻餅をつく…


……………!!!!




「痛って~」「わあっ!!」


その衝撃で目から火花でも出そうなくらい…



少女は尻餅をつく際に制服のスカートがめくれ上がってしまっていた。


本来なら隠されていた淡い白と小さな赤いリボンが可愛らしく挨拶していた。




「ば、バカっ…みるな!!」


少女は慌てふためいて、スカートの裾を強引に手繰り寄せて、挨拶していた…可愛らしいそれを隠してしまう。


少年は残念そうな目で…けれども耳まで真っ赤になり湯気が出そうなくらいであった。


少女に罵声を浴びさせられようとも殴られようとも文句は言えないような場面であった。



少女は…そんなことを考えつく暇もないくらいの赤面、恥ずかしさに瞬間湯沸し器であった。


黄色いレンガの道の辺り一面には勧誘のチラシが散乱していた。


申し訳なさそうな少年と仕方なさげな少女は散らばってしまったチラシをふたりでかき集めた。




少年の拾う手に少女の手が不意に重なる…



「あの…ごめん、ケガ無かった?」



それをきっかけに少年は照れくさそうな顔で少女を気遣った。



「ん、大丈夫…こっちも悪いしね…ビックリしたくらいだけど…」


そんなことよりも…と言いたげな少女は続けて話す。



「あのさ、これ何!?」


少年の持っていたチラシを1枚手に取るとメンバー募集の辺りを指差して少女は尋ねた。



「あぁ…それは今、サークル活動のメンバー募集していてさ…オカルトやホラー、超常現象、宇宙人とか…そんなのを研究していたりするサークル活動…その名も『ミステリーサークル』だ!!」


少年は楽しそうな表情で流暢に語る。


決めポーズらしきものまで披露してである。


ドヤ顔で決めポーズは恥ずかしい…


決めポーズのまま微動だにしない少年。



「ァハハハ…恥ずかしくないの、ハハハ♪」


少女は屈託の無い笑顔で、そう言ってから自己紹介した。


「私…真夜、黒瀬真夜……ハハハ」



「え…黒瀬って、もしかして黒瀬電機とかブラックエナジーの黒瀬だったり…」

何かピンときた…


少年は自分が好きな音楽プレイヤーや家電がブラックエナジーのブランドだった。


あの黒い稲妻のマークにシビれない音楽ファンはいない。


彼がそんなことを口にしたわけ…それはこの学園に黒瀬の一人娘が通っているというのは有名な噂話だったからだ。




「え…私って意外に有名なのかな?」


真夜は苦笑いをした。


「まっさか…黒瀬電機を知らない日本人なんているかよ、この学園の運営をしている愛澤グループくらい有名だろ…」



少年の言葉、真夜には『愛澤』の名に覚えがあった。

「愛澤…そうか、お父さんの…」


真夜は聞こえないくらい小さな声で呟く…



「え…なに、何か言った!?はいはぁ~い!それじゃオレの番ね、オレは海賊王になる男…って、そんなわけないない…なんて言ってたりするヤツが南雲秀一だぁ!!ってことでよろしくね、真夜ちゃん」


そう言ってしゃがみこんだままの真夜の手をとって自分の方へ引き寄せるように力を入れた…


「ありがと…あはは、めちゃくちゃスベってるよ秀一…あんたバカね、でも面白かったわ…うふふ♪」


これが思えば始まりだったのかも知れない。




ふたりに訪れてる様々な試練の…



ねぇ…


ねぇ…秀一…


初恋なんて上手くいかないなんて…


そんなことないよね…


誰かの手の中で逃げられない運命だとしても…




…………………………………




……………………







…………………





「真夜先輩、真夜先輩…」

肩をゆさゆさと揺すられて船を漕いでいた真夜はハタと目をさます。



「うふふ…バイト遅刻しちゃうぞ~先輩♪」


真夜の視界には美優希が可愛らしく微笑んでいた。


真夜のほっぺたをぷにぷにとつまんでいた。



一緒にバイトに行こうと約束しているさびしがりやの美優希と同じシフトの時は待ち合わせていた真夜。


校庭の桜の木のそばのベンチでひと休みしているうちに睡魔に襲われたというわけなのだ。



「ごめんね…ちょっと寝てた、あはは♪」


眠たい目を袖口で擦ると真夜はニコリと笑う。



「ん〜もうすぐ夏休みッ!はりきってバイトしなきゃね!!」


真夜は片腕を天をつくように伸ばすと、そう叫んだ。


「おーーー!!」


美優希も片腕を天をつくように伸ばすと一緒になって叫んだ。


顔を見合せて一緒になって大笑いした。


「あはは〜…先輩…ホントに遅刻しちゃいそうです…」

美優希のその声で駆け出した。


「笑えないって…マスター怒らせたらヤバいよ!!」


真夜は、はぐれそうな美優希の手をとって一緒に駆け出していた。


今日は一足先に『無銘』にアイツがいそうな…


そんな気がしてならなかった。



いつまでも続くのかな…


私が大切なものは…


いつも…


いつも突然に…


流れる景色に目をやりながら、そんなことを思いながら駆けていた。



「秀一…私…」


無意識にアイツの名前を呟いていた。


「え!?秀一先輩がどうかしたんですか?」


ちゃっかり美優希に聞こえてしまっていた。


「な、なんでもないよ…ホントに…あはは」


…………………………………



遠くから、その様子を見つめるブランド物のスーツ姿の男…


「あれが愛澤のせがれの遺したものかね…」




隣の老齢な執事か運転手らしきものに尋ねた。


「左様で御座います、あの望月とかいう下卑た女の血を…」



「そこまでにしろ…思い出したくないものだな、君らしくもない…」



執事は口が過ぎたと頭を下げた。


「申し訳ありません…」




真夜の背中がどんどん遠ざかっていく姿を見つめ続けていた。


「まさか、あいつの言うように…あれが戻って来たりはしまいだろうがな…ははは…あんなのが…」


魔法にかけられていた真夜の美しい時間が崩れていく…


「まもるよ、オレがゼッて~まもっから!!」


どこからかアイツの声が聞こえてきそうだった。


闇の中にポツリと浮かんだ三日月が妙に不吉な気配を醸しだしていた。