「#33」


8月20日…

早朝、黒塗りの公用車は首相官邸の車寄せへ乗り入れる。

SPにエスコートされて父であり、内閣総理大臣の稲村勲男の書斎へ通される。

「すまない、マスコミにつけられているようだな、政界待望論の記事が賑やかしてるらしいからな…」

父の顔を見て…

「かまいませんわ、それでわざわざ呼び出しておいて…

何のお話しですの?」

雪乃は鼻がヒクヒクしている父は何か隠し事がある時だというのを理解していた。

「わかるか…そうだな、親子だものな…

米国からホットラインがあった…

大統領は怒りを露わにしていた。

このままでは日本にも麻薬国家の汚名を着せられ、国際的な視察団も来る事になるだろう…

それ以上の大変憂慮する事態も考えられる。

五百川と弟の清志、RX事業部の暴走を止めて欲しい…

公に出来ない…裏の仕事だ…

すでに試作品のジキル&ハイドが米国でマフィアやギャング達の稼ぎになっている…

暴徒と化した輩で蔓延しつつあるそうだ。

官房長官の伊集院君と外務大臣の赤羽君が雪乃の補佐をする。

後は特務を与えてある南雲夫妻も佐藤君の残した資料を武器に国連で戦える準備中だ。

私が五百川を止めて入れば、それが可能なチャンスはあったのだ…

すまない、取り返しのつかない事態になって娘に泣きつくような情け無い父だ…」

「かまいません、その為の対抗手段としてのノーネームです。

お父様にも助力いただいたからこそ設立出来た特務組織ですわ…

ミスターノーズとシュガーの魂はガーディアンズに受け継がれておりますの…

お父様、弱腰にならず、外交で下手を打つと孫の代まで引きずりますのよ…

気丈に振る舞いなさいな、エレガントに…

この国からは何の痕跡も出させませんので…

うふふ、最新式の装備品に関しては大変助かりますの…」

雪乃は父に微笑み返す。

「あんなので十分なのか?」

勲男は訝しむ。

「誰ひとり殺させません!

敵も味方も…

ただ全ての人々が安心し、安寧に眠りにつける未来のために…

その為の守護る力ですわ‼︎」

雪乃は力強い声色で語った。

「裁くのは司法でということか…

罪状は公に出来る形にしてと…

そうなるな…

法務大臣が厄介か…

やれやれ、私も負けていられないか…」

勲男は両頬をパチンと叩いて気合い入れた。

深々と頭を下げて…

「頼む、雪乃、お前達だけが頼りだ…」

雪乃は父の言葉を背中で感じていた。

振り向かずに歩く。

「任されましたの‼︎」

ツカツカと優雅に歩く…

そしてそのまま喫茶店『無銘』へと向かう…

「正念場ですわね…」

雪乃は溜め息をひとつ。


空には…ひまわりみたいな太陽が力強く輝いていた。

今日も猛暑日の予報だ…

陽炎が街並みを揺らしていた。