「#30」


7月26日、エターナル社長の稲村清志は中東の小国サグジスタンに到着していた。

デュウス教の信徒である国民に盛大に迎えられる。

日本国旗、エターナルの社旗とサグジスタンの国旗、デュウス教のシンボルマークののぼり旗がたなびいて、群衆が海のように広がっていた。

さざなみのように…

メルバルと名乗る青年とサノウと名乗る淑女、威圧感が物凄い…

国王の側近と思われる彼らに会談を行う謁見の間という大広間へ通された。

ムゥト城と呼ばれる宮殿は、地球の文明とはまったく違うように見えた。

古代から現代までの…どの文明とも異質過ぎて、清志は少し怖かった。

同行する通訳はゼロス様が乗船し、地球へいらっしゃった際の宇宙船の船内を模して作らせたとの説明が…

「最近、まともな人間に会ってない気がするぞ…」

その独り言を通訳されそうになり、必死になって止めた。

まず案内されたのはゼロス様という宇宙人と繋がっており、このエターナルという鉱石自体も意思や感情を持っていると通訳は話す。

ゼロス様は恐竜の絶滅した隕石落下と共に地球に飛来された…と通訳。

その隕石こそがエターナル鉱石とゼロス様の宇宙船だと言うのだ…

ここにあるのはゼロス様からいただいた欠片の鉱石だとか…

頭を抱えてしまう清志。

「金魚の言う通り宇宙人と意思の疎通が可能なのかと思わずにはいられない。」


側近達は祭壇の前で、左肘を突き出すように曲げた独特の礼拝を行う。

清志も促されるままに、ぎこちなく礼拝を行う。

すると、玉座にアザーム8世が腰掛けた。

側近のメルバルとサノウは玉座にの下へ素早く移動する。

アザームは清志へ語りかける。

「ジキル&ハイドの量産型と…その工場については了承したと…

江戸川金魚という女性の博士の事も手厚くもてなそう…」

通訳は、そう訳して話した。

清志は疑問だったことを尋ねる。

「どうして工場の打診を受けていただけたのですか?」

通訳はアザームの言葉を…

「まずは穢れた魂の浄化を進める…

その中でも穢れが酷いキリストの教えが蔓延る国々を自滅に導くのに最適な答えとなろう。

そうすることで人類は、さらなる進化を遂げる。

ゼロス様の望む、魂の解放も進む。

だからこそ、魂の穢れをまずは解き放つ。

エターナル鉱石との共鳴者も現れるということになるだろう。」

何の話なのかさっぱりわからないと通訳の言葉に目を丸くする清志。

アザームは話を戻す。

「売り上げは何割をこちらに渡すのだ‼︎」

現実的な話に戻ってきたと清志は安堵した。

「アザーム様が60%で私達が40%でよろしいでしょうか?」

アザームの怒号が響く‼︎

「アザーム様は90%だとお怒りです。」

通訳の言葉に清志は…

「70%ではいかがでしょうか?」

90%なんて持ってかれてはたまったものじゃないと清志も必死だ。

その言葉を通訳がアザームへ伝える。

通訳の言葉が言い終わらぬうちに…


通訳の首が中空を舞って…トルコ石みたいな床に転がる。

玉座から飛び出すアザーム。

その首を清志を目掛けて蹴り飛ばす。

でっぷりとした清志の腹へズドンと首が叩きつけられた。

たまらずに清志は尻餅をつく。

相当な衝撃であった。

大きな木槌で殴られたような衝撃だ。


アザームは、あの刹那で背中から三日月のような大剣を振るって首をはねていた。

清志には背伸びしたような動きが一瞬見えたくらいだ。

アザームはジキル&ハイドで覚醒していた。

尋常じゃない戦闘能力だった。

尻餅をつく清志へ一足飛びで近付いてきたアザーム。

清志の首元へ大剣を突きつける。

清志の首にヒリヒリとした痛みが襲う。

皮膚が少し切り裂かれていたからだ。

血が滲み出る。

アザームは片言の英語を話す。

「ナ、90%、90%‼︎」

清志は両手を上げて命乞いするように…

「OK‼︎…お、OK‼︎」

アザームはニコリと微笑み返す。

大剣はマントを翻して背中におさめられる。

清志は失禁したまま、ガタガタと震えていた。

「どいつもこいつも揃って…」

このアザームという男も誠次や金魚と同じく、どうかしてる人間には変わりないのだと清志は交渉を後悔していた。

しかしながら工場は完成し、金魚のアドバイスで量産化は間近であった。



それから、しばらく経過した…

8月20日…

悪意は世界へ向けて放たれたのであった。

甘い甘いラムネ菓子が世界を阿鼻叫喚の地獄絵図を現実のものとする。

「やば、最高じゃん、ボクって天才でしょ、でしょ…」

工場の生産ラインを眺めて金魚は恍惚な表情だった。

意外だったのはアザームは金魚を大層気に入り、信徒を実験材料に差し出すくらいに彼女に心酔していた。

自分に向けられている感情には気付かず、アザームの与えるモルモットに感激する金魚。

アザームよりゼロス様の祝福として額に口づけされた信徒は涙を流して感謝すると…喜んでモルモットになっていった。

ただ日本で実験出来ない事のみが不満な金魚。

なんだかわからない幸運にワクワクが止まらない金魚をアザームは好意の眼差しでニコニコ眺めていた。

サグジスタンという国家レベルの悪意の暴走はラムネ菓子におさまりきらないのだった。