「#28」



7月25日、江戸川金魚はエターナルから配信されていた殺人配信を思い浮かべつつ。

様々な薬物を試験管で混ぜ合わせたり、クライオ電子顕微鏡、X線結晶構造解析やNMR(核磁気共鳴)など最新の機器を駆使して愛しい毒の研究に勤しんでいる。

「あ、やべ、こぼしちゃった!」

せっかちに動くものだから、薬物をこぼしたり、そんなミスを多発していた。

このミスによる偶然がジキル&ハイドを生み出したのだが。


この特別な研究室を訪れて、入り口の扉をノックする者がいた。

「おい、カナヲ!
いるんだろ、私だ、清志だ!
…開けろ、話がある。」

金魚は扉は施錠したままで答えた。

「何ー、メロンの話かなー!」

「地球儀メロンの話じゃない、サグジスタンの工場についてだ、とりあえず中に入れろ‼︎」

清志は自分か社長ということを一向に理解しようともしない金魚に腹が立っていた。

金魚はいいことを思いついたと施錠していた扉をリモコンで解錠させた。

「んー、ふふふ、どうぞどうぞ…」

「失礼する………おい、死体はすぐに片付ける約束のはずだぞ。

RXの副島君あたりに連絡をとって今日中に掃除してもらいなさい。」

床に転がる死体に驚く清志。

異様な光景に息が詰まる。

怯めば、誠次より手のつけられない存在にしてしまうという危機感を覚えている。

エターナルの社長として修羅場は潜ってきたつもりではあったが金魚と誠次については底がみえない。

人かどうかすらわからないと思っていた。

彼女のもたらす成果が無ければ、とっくに解雇していただろう。

「メロンもっと美味しくなったでしょ、でしょ。

RX事業部からもらった灰とかゴミとかでボクの秘密のコンポストで肥料の改良したの。

だから、本当の本当の赤肉メロンになったし、甘さも糖度が30%超えたの!

すごいでしょ、天才でしょボク‼︎」

清志は話を聞かずに無邪気な金魚にまいっていた。

「じゃ、ジェネリックの件?

あっちも効能を変えないでオリジナルよりも副作用の少ない、薬価も安くできる設計に改良してたはずだよ。」

清志の話す隙を与えずに次からは次へマシンガンのように話し続ける金魚。

「サグジスタンのことだ、私は明日にでもアザーム様と会談してくる。

向こうの工場でも、こちらと品質が変わらずに生産できるようにアドバイザーとして軌道に乗るまでは滞在して欲しい。

研究は戻ってきてから好きなだけやればいいだろう。」

「あんな宇宙人と意思の疎通なんて不可能だって…無理無理無理、ヤダヤダヤダ、行きたくないもんボクー‼︎」

地団駄を踏む金魚。

本当にアラフォーの女なのかと呆れる清志。

清志の話すサグジスタンは中東にある小国である。

新興宗教デュウス教。

サグジスタンは、この信徒しか存在しない国家である。


デュウス星から来たゼロスという宇宙人の広めた教えが由来とされているが一切不明、ゼロスによって我々、地球人は創り出された。

エターナルと呼ばれている謎の鉱石が御神体として祀られていた。

蛍のように明滅し、様々な色の光を放ち輝いていた。

金魚は、それを研究したかった。

国王のアザーム8世ですら祭壇より前に近付くことはなかった。

鉱石には意思があり、こちらの望みを叶えてくれるという言い伝えがあった。

彼らの目的……


魂の真なる解放こそを使命に崇拝されている。


この国は全て、このデュウスの教えのみである。

大きな瞳がひとつ、六芒星とメビウスの輪が重ね合わせられるようにデザインされたバッチが信徒の証である。

妖しく輝いていた。

「何か報酬として欲しいものがあれば用意する、それで良いか?」

清志のその言葉を待ってましたと金魚。

「じゃ、モルモット欲しい、もっともーーっと…たっくさんたくさんちょうだいよ‼︎」

金魚の言葉に肩を落とす清志。

「これ以上は法務大臣でも無理だ、もし、どうしてもというのなら誠次に頼んだらどうだ!」

ロダンの考える人みたいになる金魚。

「セイジ君って、意思の疎通可能?」

「おまえよりは意思の疎通が可能だと私は思っている。」

清志は、そう返した。

「んー、んー、じゃあさ、どくどくクイズしよ、どくどくクイズ楽しいよ‼︎」

無邪気な金魚のマイペースさに呆気に取られる清志。

「は⁉︎⁉︎」

「第1モ〜ン、この画像みて、これは何て毒でしょうか。

ヒントは、お魚の毒だよ。

正確には、ちょっと違うけど説明めんどいんで省略するね。」

「毒の名前など知らん、なんだというのだカナヲ‼︎」

両頬を膨らませて金魚は…

「ブッブー、不正解です、時間切れです。

答えはフグ毒のテトロドトキシンだよ。

ほらほら、テトラポッドみたいで可愛いでしょう、でしょ‼︎」

「だからカナヲ、何がしたいんだ!」

清志を置き去りにして…

「第2モ〜ン、こっちの画像は何の毒でしょうか?

ヒントは川魚だよ、海の生き物でもあるよ。

なんだ、なーんだ、ほらほら答えてよ。」

「カナヲ…」

清志が話し出そうとするもかき消す金魚。

「ブッブー、不正解でーす。

もぅ、なんか答えなよ、つまんない。

ボクつまんない。

正解は、鰻の血に含まれているイクシオトキシンだよ。

ティースプーン1杯で子猫くらいなら死んじゃうんだー。

もちろん人体にも有害だよ、目の中に入ったりしたら失明しちゃうの、すごいよね、すごいでしょ‼︎」

その言葉に清志…

「目に入れた…」

「入れるに決まってるじゃん、当たり前でしょ実験だよ、実験‼︎」

付き合いきれないと立ち去ろうとする清志の背中に…

「ジキル&ハイド、改良しておいたからねー‼︎」

金魚の言葉に振り返る清志。

「改良だと⁉︎」

金魚は清志の股間を指差して答える。

「そつちもギンギンになるよ、ナイトライフも捗るでしょ‼︎」

「効能は変わるのか?」

「動体視力と脊髄反射が倍になって、筋肉のリミッターが外れるよー‼︎

副作用なしって思ってたけど、ちょっと決定的な副作用があったの。

薬効が切れると6時間くらい昏睡しちゃうんだわ、まいったよー‼︎」

テヘペロするアラフォー。

ちょっと厳しい。

清志は、そう思った。

「サグジスタンの件は、よろしく頼むぞ…」

清志は、そそくさと部屋を出ていく。


「んー、モルモットよこせー、殿様カエルめー‼︎」

また地団駄を踏む金魚。

「でもさ、でもさー、これからは世界中のオトコ共がさ、ボクを欲して、ボクに夢中で、ボクを愛して、ボクに魅了されて、そして絶望感で満たされていく…

いい、いい、いい、最高じゃんか、ボク無しじゃ生きられない身体にしてあげる‼︎

ヤダ、ボクったら…妄想してたら…

濡れてきちゃったじゃん。」


金魚は血のような夕陽に照らされて、悪魔みたいな笑顔でケタケタと笑い続けた。