「#27」


7月25日
雪乃が決意表明をしていた、その頃。

同じく夕張にあるエターナルの研究施設内のとある部屋から声が聞こえてくる。

「ヒャハハハ、いいな、いいな、やっぱり毒って最高だなー…」

試験管に入っている液体をくるくる回して恍惚な表情で見つめている女性。

30代後半の女性ではあるが、どこか幼さを感じる雰囲気を持っている。

長身でガリガリな痩せ型の身体つき。

彼女が『江戸川金魚(えどがわ かなを)』であった。

金魚は容姿にトラウマがあった。

彼女の目は人よりも離れていた。

そして少し飛び出したようにギョロギョロした瞳。

さらに斜視であった。



子供とは恐ろしく純粋である。

だからこそ、無慈悲にも、その見た目だけ、容姿のみで排除される対象へと認識される。

故に…小学生の頃は壮絶なイジメを受けていた。

『デメキン』のあだ名をつけられ、直接的な暴力は無かったものの化け物扱いをされ続け…

彼女の触れたものはバイキンだらけだとか…

そばに寄るとデメキン臭いだの。

それくらいは可愛いものであった。

当たり前のように友達も出来なかった。

彼女にとっての友達は数学や物理、化学の数式や分子、原子などが書かれた教科書や参考書だった。

それらの羅列に美しさに惹かれた。

特に『毒』との出会いが人生を変えた。

図書室の本は読み尽くした。

イジメは、次第に広がって…同じ学年だけでなく、学校全てが敵に感じる。

しかし、彼女がいちばんトラウマだったのは…

「お前みたいな化け物は女じゃない、誰もおまえのことなんか好きならない…」


彼女は誰かに好きになって欲しかった。

愛して欲しかった。



両親は仕事が忙しく、中学に上がる頃にはアメリカへ行くことになる。

「水兵リーベ、ボクの船…」

彼女は小学1年生から元素周期表を口ずさむ天才だった。

アメリカに渡ると飛び級に次ぐ、飛び級。

ハーバードメディカルスクールで医学博士号と学術博士号を取得し、スンマ・クム・ラウデ(首席と同意語)が贈られた。

21歳の時のことである。

彼女は『毒』を愛していた。

『毒』に魅力されていた。

『毒』の研究さえ出来れば、他はどうでもよかった。

毒からの創薬の研究でもノーベル賞並みの成果を次々と上げていた。

それは彼女にとっては退屈極まりない。

興味の対象外である。

ワクワクを求めてエターナルへ来た。

寝食を忘れて研究に没頭し続けていた。

「ジキル&ハイドもさ、もっとこう改良出来るはずなんだよねぇ…

んー…ちょっと変えたけど、まだ納得いかないのー。

うーん、うーん、もっとモルモット欲しいなー…

遊びたいなー、モルモットでさ。」

彼女の言うモルモットは横流しされた死刑囚だ。

実験と称して、様々な毒を駆使して反応を楽しみ殺した。

快楽殺人に近い。

彼女は自分の創り出した薬物を求められることに対してエクスタシーを感じていた。

「もっと、もっと、ボクを感じてよ、欲して、メロメロになってよ‼︎」

トロンとした恍惚な表情で阿鼻叫喚の拷問のような実験とやらは続けられる。

「あぁー、もう逝っちゃったの、楽しくないじゃん、ボクをさ、もっと楽しませろ、ヒャハハハ‼︎」

泡を吹いて、血の涙を流している死体を何度も蹴り飛ばした。

「ボクの毒って、本当にアートだからさ、ヒャハハハ‼︎」




………………

……………

…………



彼女がエターナルの研究責任者を受けたのは、ある理由があった。

彼女は愛澤学園で毒からの創薬の研究をしていた。

そこでパソコンの画面に釘付けとなる。

アンダーグラウンドなネットの世界でも特定の人間しかたどり着けない。

そんな場所があるのがネットだ。

殺人する様子を配信するサイト、高額なチケットを買って参加できる。

それを詐欺かもと思いつつ、彼女はキーボードを叩く。

映し出された、ソレは、ありとあらゆる方法で殺害していく光景をモザイク無しで見られる。

さらに高額なチップを出した者のリクエストまで受けている始末だ。

彼女は…

「楽しそう、いいなー、いいなー‼︎」

座っていた椅子から落ちてしまいそうなくらいに足をバタバタさせていた。

何処から配信されているかなんて、厳重なセキュリティをいくつもいくつも乗り越えて配信元にたどり着いた。

彼女にすれば朝飯前のことであった。

「夕張…エターナルの施設」

彼女は、ニンマリとした笑顔を浮かべる。