「#26」


7月25日…

雪乃は精悍な顔つきで決意表明した。

「RX事業部は止めましょう‼︎

否、止めてみせます‼︎

こちらとしても黙って見過ごせない状況になってしまいましたものね…」

誠太郎は目を見開き尋ねた。

「だが、どうやって⁉︎」

雪乃はにこりと微笑み返す。

「あら知りませんでした、私…とっても策士なのですわ。

すでに外務大臣の赤羽様や他にも国連の関係者、亡くなられたジャーナリストの佐藤様の意思を継がれた方、協力者は大勢いますので…

物理的な暴力に対抗する手段も用意してあります。

私、直属の特務組織ノーネームとガーディアンズというレンジャー部隊です‼︎」

「RXに消されるぞ、大丈夫なのか?

ノーネームとガーディアンズ…フィナーレみたいな部隊なのか?」

誠太郎は情報の整理が追いつかないままで話した。

雪乃は微笑みを絶やさない。

「守護る為の手段です、暴力装置みたいな乱暴なものではありませんわ。」

この言葉の後、雪乃は静かに目を閉じて喫茶店…無銘を思い浮かべる。


ふぅ…と一息つくと雪乃は…

「此処は死者を弔う場所です、一緒に少し祈りませんか?」

目の前にある共同墓地の石碑に手を合わせ、黙祷する雪乃。

雪乃の脳裏に浮かび上がる光景……


………………

……………

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……



雪乃は、誠次に見つかると夜逃げするように転々とし、細々と暮らしていた誠一郎を尋ねていた。

真夜が生まれたばかりで物入りになるだろうと生活資金の援助をこっそりとする為ということにしていた。

本音は、ただ、ただ、会いたい。

それだけだった。

誠一郎は雪乃の手をしっかりと握りしめて感謝する。

「雪乃さん、いつも…すみません。

助けられてばかりで…

それにエターナル…あれは一枚岩ではない。

闇も深そうです、くれぐれも無理はなさらないで…」

名残惜し気に握りしめた手を解くと…

「お気になさらないで…

私は…あなたの分まで立派に戦ってみせますから安心して…」

希美が頭を下げる。

「ありがとうございます。

…………………

あ、女の子で真夜って名付けました。

真夜中に生まれたけれど必ず朝は来るからね…って意味で……」

雪乃の視線が何故か痛かった希美は沈黙を埋めるように話した。

雪乃は真夜を見つめる…

……………

「あの…抱っこしてみます?」

雪乃は微笑む。

「良いのかしら?」

ちょっと戸惑う。

希美から、どうぞと…そっと渡された真夜。

ぎこちなく抱き上げる雪乃。

温かい体温とプニプニの身体が生まれたての命を感じさせる。

「………可愛いわね。

あなたに何かあっても私が必ず守ってみせますから心配しないでね。」

そっと抱き寄せて真夜の耳元に囁く雪乃。

「何か言いました?」

希美は耳元で何事か囁く雪乃に訝しげだ。

雪乃は…

「すごく可愛いね、大好きよ…って」

希美はにこやかに…

「嬉しいです‼︎」

雪乃は背後で大きく手を振って見送ってくれる誠一郎と希美。

少し離れたところで溜め息混じりに独り言をポツリと…

「こうして誠一郎様のお顔を見たくて…なんだかんだで理由つけて会いに行くなんて…

私って…とっても…はしたない女ですわね。」


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……………

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雪乃は静かに目を開けた。

誠太郎は、まだ黙祷しているようだった。


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……



「祈る、死者へ………誠一郎……そして幸恵……幸恵……」


エターナル総合病院と名前を変更する前の愛澤総合病院。

その産婦人科の診察室で誠太郎は医師に食らいつく勢いで……

「どちらかを選べ……と、そういうことですか?」

長い不妊治療の末に、ようやく授かった命。

医師は誠太郎に気圧され気味に…

「母体となる幸恵様とお腹の子の…どちらかしか助かりません。

おそらく…ですが、現在の状態での出産はお勧め出来かねます。

ですので、今回は縁が無かったと……」


誠太郎が医師の襟を掴みかかる。

「ふざけるな‼︎
なんとか2人とも無事に……」

その言葉はおさめるように幸恵が…

「産みますよ、なんと言われようと産みます。」

「無理するな、産むつもりなのか……」

葛藤しつつも幸恵の身体を気遣う誠太郎。

「ようやく、ようやく授かった命ですのよ、あなたの世継ぎを産みたかったの…私のわがままを許してください。」


幸恵の手をとって誠太郎は見つめる。

「しかし、私はお前が死んでしまっては何も出来ない…

私の生きる意味は、お前なんだ幸恵‼︎」

「甘えないで‼︎

あんなに立派な大企業の社長なんでしょう、あなたは…

ひとりにはしないわ、ずっとずっと…
こんなにも私は愛しているのですもの。」

「幸恵、幸恵ー‼︎」

誠太郎は幸恵を優しく抱きしめた。

幸恵は小さな子供をあやすように誠太郎の頭を愛おしいと撫でた。

静かに微笑む幸恵がいた。

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……



「幸恵、誠一郎…」

黙祷していた目をそっと開いた誠太郎。

「祈りましたわね…」


誠太郎は申し訳なさそうに話した。

「誠次のことも私がしっかりしてなかったせいだ。

幸恵が亡くなって、どこか幸恵の面影がある明美に惹かれて身体を求めた。

そうして誠次が産まれた。

一緒にはなれないと手切れ金と養育費は毎月支払っていた。

しかし、それが明美のブランド物の衣服やアクセサリーに全て変わっているとは思わなかった。

今更、反省しても遅い。

あれは、もう人であることを捨てたのだと……」

「その為のノーネームとガーディアンズがあります‼︎」

雪乃は力強く言葉をかけた。

誠太郎は、もう一度、深く頭を下げる。


沈み行く、夕日が血のように滲んでいた。

まるで悪意が世界へ広がっていくようにみえた。