「#22」
誠次は、未だ、夢の世界にいた。
そうだ…
福井県の東尋坊に行ったんだ。
資産家のジジイ、松本とかいった金髪の豚みたいなジジイだ。
昼に食べた懐石料理とかで地酒がすすみ、このジジイも…うちのババアもほろ酔いをとうに超えていた。
「ねぇ、せいじ、こんな良いパパが出来てよかったねー…」
千鳥足のまま、ジジイと身体をぴったりとくっつけて振り向いて、オレに話しかけてきたババア。
こんな猫なで声で話すババアは見たことが無かった。
つくづく思う『愛』とかいってる、限りなく面倒くさい感情はクソだと。
醜い姿を振り撒きやがるからだ。
東尋坊は思ったよりも凄かった、地球を感じられた。
こんなとこもあるのかとオレは思わずにはいられなかった。
ふと思う、オレが今…ババアを突き落としたら…どうなる?
断崖絶壁のすれすれを千鳥足で歩くジジイとババア。
ビュウッと強い風が吹いた。
思わず、目をつむるジジイとババア。
…………‼︎
もう考えるや否やオレは動いていた。
足元のゴツゴツした岩肌につまずいたふりをして力いっぱいの体当たりを背後からしてやった。
『いやぁぁー……』
変な叫び声が響くと、それきり…それきりだ。
オレが初めて人を殺した瞬間だった。
13歳の時のことだった。
なんだろう。
なんだ、この高揚感は。
楽しい、楽しいぞ。
そうだ、思い出した。
友達もいない、おもちゃも持っていないオレは…
雑木林のそばの公園で蝶々を捕まえては、羽根をむしりとる。
それをひたすらに繰り返す。
オレの足元にはマッチ棒みたいになった蝶々の残骸が転がっている。
パトロール中のオバさんの警察に、こんなことしちゃダメだよ、かわいそうでしょと怒られた。
かわいそう?
なんだ、かわいそうって…
毎日毎日、ボコボコされていたオレはなんだ…
かわいそうとは、なんだ。
オレにとっての『いい』は『わるい』で誰かにとっての『わるい』は「いい」なのか、戦争は「いい」国と「わるい」国がしているのか?
皆、好きなように欲望のままに生きているじゃないか。
誰かから何かを搾取しているんじゃないのか。
オレは、まだまだ寒い。
そして…腹が減っていた。
そうさ、飢えていた。
飢えているんだ。
食いたい、食いたい、食いたい。
食いたい、食い尽くしたい。
喉もカラカラだ。
飲み干せ、飲み干せ。
オレの欲望を満たせ、もうババアはいない。
何故なら、殺してやったから。
殺してやった、殺したんだ。
いい気味だババア。
高笑いが止まらない。
……………………
オレは沸いては消える知らない感情に戸惑いながら歩いた。
誰かに追われて気がして夢中で歩いた。
歩き続ける。
彷徨うように7時間は歩いた。
こんなに歩いたのも初めてだった。
明るい方に歩くのは虫と変わらないのかもなと思いながら所在なさげに歩く。
いつのまにか…片町という繁華街の居酒屋の排気ダクトの匂いに釣られて、その場に膝を抱えて座り込んでいた。
ゴミ箱や段ボールの間だったが何故だか落ち着いた。
オレのいた部屋みたいだったからかもしれない。
ほろ酔いの男に声をかけられる。
「よう、坊主、家出か…なんかか?
フハハ…行くとこ無いんなら俺のとこ来るか?
俺には、たくさんの子供達がいる仲良くしてくれるぞ、フハハ‼︎」
ワインレッドのダブルのスーツに身を包んでいた男。
還暦くらいのジジイだったが、筋肉隆々で身長は2mを超えていた。
腕一本がオレの身体くらいはあった。
スキンヘッドでフサフサした立派な口髭は白かった、雪のように真っ白な髭だ。
サンタクロースみたいにみえた。
背後から声が聞こえてくる。
「鼻毛の親分、どうしたんで?」
黒スーツのヒョロヒョロ男がサンタクロースを鼻毛とか親分とか呼ぶ。
何者なんだ、こいつ。
それがオレと鼻毛の親父との出会いだった。
オレの育ての親となる『鬼人獄門会(きじんごくもんかい)』の総大将と呼ばれる鼻毛虎吉(はなげとらきち)その人であった。
オレをワインレッドのスーツが汚れることなど、お構い無しに抱きしめるサンタクロース。
「大丈夫、大丈夫だぞ、俺がおまえを愛そう、もう大丈夫だぞ。」
また知らない感情だ、胸の奥がムズムズする。
オレは目の前が見えなくなっていた。
涙が止まらなかった。
頭を優しく撫でられた。
頭って、殴られる以外の感触があるんだと気づいた。
ようやく、オレは寒くなかった。
だが、まだ飢えていた。
大きな大きな手で優しくオレの手を握って包み込んでくれた。
大好きな親父との出会いだった。
福井の夜は潮風で寒かったが、心地良かったのを覚えている。
オレの夢は、まださめない。
親父………………
…………
……
…
誠次は、未だ、夢の世界にいた。
そうだ…
福井県の東尋坊に行ったんだ。
資産家のジジイ、松本とかいった金髪の豚みたいなジジイだ。
昼に食べた懐石料理とかで地酒がすすみ、このジジイも…うちのババアもほろ酔いをとうに超えていた。
「ねぇ、せいじ、こんな良いパパが出来てよかったねー…」
千鳥足のまま、ジジイと身体をぴったりとくっつけて振り向いて、オレに話しかけてきたババア。
こんな猫なで声で話すババアは見たことが無かった。
つくづく思う『愛』とかいってる、限りなく面倒くさい感情はクソだと。
醜い姿を振り撒きやがるからだ。
東尋坊は思ったよりも凄かった、地球を感じられた。
こんなとこもあるのかとオレは思わずにはいられなかった。
ふと思う、オレが今…ババアを突き落としたら…どうなる?
断崖絶壁のすれすれを千鳥足で歩くジジイとババア。
ビュウッと強い風が吹いた。
思わず、目をつむるジジイとババア。
…………‼︎
もう考えるや否やオレは動いていた。
足元のゴツゴツした岩肌につまずいたふりをして力いっぱいの体当たりを背後からしてやった。
『いやぁぁー……』
変な叫び声が響くと、それきり…それきりだ。
オレが初めて人を殺した瞬間だった。
13歳の時のことだった。
なんだろう。
なんだ、この高揚感は。
楽しい、楽しいぞ。
そうだ、思い出した。
友達もいない、おもちゃも持っていないオレは…
雑木林のそばの公園で蝶々を捕まえては、羽根をむしりとる。
それをひたすらに繰り返す。
オレの足元にはマッチ棒みたいになった蝶々の残骸が転がっている。
パトロール中のオバさんの警察に、こんなことしちゃダメだよ、かわいそうでしょと怒られた。
かわいそう?
なんだ、かわいそうって…
毎日毎日、ボコボコされていたオレはなんだ…
かわいそうとは、なんだ。
オレにとっての『いい』は『わるい』で誰かにとっての『わるい』は「いい」なのか、戦争は「いい」国と「わるい」国がしているのか?
皆、好きなように欲望のままに生きているじゃないか。
誰かから何かを搾取しているんじゃないのか。
オレは、まだまだ寒い。
そして…腹が減っていた。
そうさ、飢えていた。
飢えているんだ。
食いたい、食いたい、食いたい。
食いたい、食い尽くしたい。
喉もカラカラだ。
飲み干せ、飲み干せ。
オレの欲望を満たせ、もうババアはいない。
何故なら、殺してやったから。
殺してやった、殺したんだ。
いい気味だババア。
高笑いが止まらない。
……………………
オレは沸いては消える知らない感情に戸惑いながら歩いた。
誰かに追われて気がして夢中で歩いた。
歩き続ける。
彷徨うように7時間は歩いた。
こんなに歩いたのも初めてだった。
明るい方に歩くのは虫と変わらないのかもなと思いながら所在なさげに歩く。
いつのまにか…片町という繁華街の居酒屋の排気ダクトの匂いに釣られて、その場に膝を抱えて座り込んでいた。
ゴミ箱や段ボールの間だったが何故だか落ち着いた。
オレのいた部屋みたいだったからかもしれない。
ほろ酔いの男に声をかけられる。
「よう、坊主、家出か…なんかか?
フハハ…行くとこ無いんなら俺のとこ来るか?
俺には、たくさんの子供達がいる仲良くしてくれるぞ、フハハ‼︎」
ワインレッドのダブルのスーツに身を包んでいた男。
還暦くらいのジジイだったが、筋肉隆々で身長は2mを超えていた。
腕一本がオレの身体くらいはあった。
スキンヘッドでフサフサした立派な口髭は白かった、雪のように真っ白な髭だ。
サンタクロースみたいにみえた。
背後から声が聞こえてくる。
「鼻毛の親分、どうしたんで?」
黒スーツのヒョロヒョロ男がサンタクロースを鼻毛とか親分とか呼ぶ。
何者なんだ、こいつ。
それがオレと鼻毛の親父との出会いだった。
オレの育ての親となる『鬼人獄門会(きじんごくもんかい)』の総大将と呼ばれる鼻毛虎吉(はなげとらきち)その人であった。
オレをワインレッドのスーツが汚れることなど、お構い無しに抱きしめるサンタクロース。
「大丈夫、大丈夫だぞ、俺がおまえを愛そう、もう大丈夫だぞ。」
また知らない感情だ、胸の奥がムズムズする。
オレは目の前が見えなくなっていた。
涙が止まらなかった。
頭を優しく撫でられた。
頭って、殴られる以外の感触があるんだと気づいた。
ようやく、オレは寒くなかった。
だが、まだ飢えていた。
大きな大きな手で優しくオレの手を握って包み込んでくれた。
大好きな親父との出会いだった。
福井の夜は潮風で寒かったが、心地良かったのを覚えている。
オレの夢は、まださめない。
親父………………
…………
……
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